ダンジョンの奥
ベスがツヴィ王国に行く事が決まったようだが、リオはどうするのだろうか?
「リオはどうするの?」
「僕ですか。お母様が賛成するのなら向かおうと思います」
「これも王族としての勤めでしょう。幼いリオには負担をかけますが、ツヴィ王国に行ってくれますか?」
「はい。分かりましたお母様。」
リオがツヴィ王国に向かうことが決定したことで、レオン様が俺に話しかけてくる。
「と言うことで、エド頼んだぞ」
「え? もしかして、俺も行くんですか?」
「船の船長としてレーヴェをつける予定だが、不安なのでエドにも頼みたい」
「分かりました。でもドリーは連れて行きたいです」
「勿論だ。他の皆もついて行ってくれていいが、フレッドは難しそうだな」
俺はフレッドを見ると、迷った様子でレオン様に返事をしている
「拙者はアルバトロスに残ろうと思いますな。今戻れば戻って来れなくなる可能性が高いですな」
「溢れる可能性が高いとなれば、引き止められる可能性が高いだろうな。分かった。必要な事があれば訪ねてくるといい」
「感謝致す」
ところで俺は気になる事がある。冬に船は危ないのでルーシー様やリオは王都に帰らなかったのに、ツヴィ王国に行くのは問題ないのかと尋ねる。するとレオン様が、王都行きは海が荒れるので危険だが、ツヴィ王国に行くのは遠回りをすれば問題ないと教えてくれた。
「エド、他に話し忘れていることはないか? 無いようならイフリートを確認したい」
「全て話したと思います」
「エド、話し忘れていますよ」
「え? アン何か話すのを忘れてる?」
「エドの記憶です」
「あ!」
イフリートと戦った後の寝ている時に記憶を思い出したので、すっかり忘れていたが確かに話していない。慌てて説明をすると、驚かれるが納得された。
「そうなると、エドが双子では無いのは管理者が転生を失敗したからの可能性が高いのだな」
「それについてもアンが仮説を考えてくれて、ドリーが俺の双子だったんじゃって」
「ドリーの才能を考えればあり得るな。双子だという前提で考えていたので思い付かなかったが、言われてみるとしっくりくるな」
本当のところはショッツにしか分からないが、レオン様も納得した様子だ。ダンジョンの奥に辿り着いたら、ショッツに聞いてみたいな。
「エドはダンジョンのさらに奥がある事を聞いていたのですね」
「聞きましたけど、何かあるんですか?」
「あります。ベスとリオも疲れていたからか説明し忘れたようですね」
俺はダンジョンに奥があると言われても違和感を覚えなかったが、トリス様はダンジョンに奥がある事が重要だという。リオに関しては寝ていたので聞いていないが、言う必要ないかとダンジョンの奥について質問する。
「ダンジョンの奥は何があるんですか?」
「ダンジョンから溢れ出した魔獣はダンジョンの奥から来たと伝わっています。元々ダンジョンに居た魔獣とは違って、奥から出てきた魔獣は攻撃的なのが特徴です」
ダンジョンから溢れた魔獣は凶暴性が違うと以前にベスに教えられたが、元々はダンジョンに居なかった魔獣なのか。
「ダンジョンの奥を閉じておくのが管理者として重要な仕事だと言われています」
「ショッツが奥もあると言ってはいましたが、閉じておくと言うよりは、奥に行くのを勧めていた気もするんですが」
「管理を楽にする目的で、魔獣を討伐に出ることもあるようです。管理者が複数必要なのはダンジョンの奥に討伐に行くのと、ダンジョンを閉じておく、両方の管理者が必要だからと伝わっています」
結局はショッツは俺を管理者にしたかったと言うことなのか。ショッツは何故そこまで直接伝えないで、遠回しに伝えているのだろうか? ショッツの趣味なのかもしれないが、神ぽさは確かにあったので、転生者は騙されそうだった。
だが同時に、ショッツが騙してまで管理者を集めていたのも分かる。ダンジョンで討伐するのと、ダンジョンを閉じておく管理者が別々に必要となるのなら、管理者が足りなくなりそうだ。
「トリス、そこまで話したのなら最後まで話すべきでしょう」
「ルーシー、ですが国王陛下の許可もなく話していいことではないですよ」
「普通にダンジョンの奥を目指すなら許可が必要でしょうが、今回は緊急時なのです話しておくべきでしょう」
「……分かりました」
トリス様とルーシー様の話がよく分からない話をしていると思ったら、トリス様が何かを話す気になったようだ。
「これはベスにも話していない事ですが、ダンジョンの管理者になると寿命が延びます。限界はあるようですが不老に近くなるようです」
「不老?」
「そうです。管理者がリング王国の王にならないのも、不老が理由です」
優秀な不老の王が統治すれば国は繁栄しそうだが、何故王にならないのだろうか?
「逆じゃないんですか? 不老の王の方が国が繁栄しそうですが」
「体は不老にはなりますが、精神が限界を迎えるようです。管理者として忙しいのもありますが、精神が限界に達した時に国を運営できないと、リング王国の初代国王が書き残しています」
「精神が先にですか」
「魔獣が溢れる前には管理者を王とした国があったようです。『不老の王が壊れて、国は崩壊した』そう初代国王が書き残した書物が王家にはあります」
管理者を王にする危険性がトリス様の説明でよく分かった。確かに狂った王が国を動かせば大変な事になりそうだ。しかもダンジョンを踏破していると言うことは、戦闘能力についてはかなりの物だ。しかも体は衰えていないのだから、狂った王を取り押さえようとしても、同じようにダンジョンを踏破した管理者でないと不可能だろう。
「管理者にならなければ寿命はそこまで伸びないとは聞いていますが、エドたちには管理者になってもらう可能性が高いのです」
「管理者にならなければ寿命はそこまで伸びないって、もしかして寿命が伸びるんですか?」
「ダンジョンを深くまで進むと若干ですが寿命が伸びると言われています」
そうするともう俺たちの寿命は伸びているのか。というかドリーとリオの見た目はどうなるのだろうか?
「ドリーとリオは不老になったらどうなるんですか?」
「管理者になっても成長はするようです。不老になるだけなので、一定の年齢で止まるようですね」
普通はダンジョンの管理者も踏破して者に不利益を伝えて、管理者になるか選ばせてくれるらしい。だが、今回のように緊急事態の場合は選ぶ権利すらない場合があるらしく、ルーシー様は選ぶ権利を心配して、トリス様に説明するように言ったと、ルーシー様は教えてくれた。
「でも誰かがダンジョンの奥に辿り着かなければ、ダンジョンから魔獣が溢れて地上は人が住めなくなるんですね」
「そうですね」
誰かが行かなければダンジョンから魔獣が溢れるのなら、ダンジョンで勝てないからと諦めても、地上に溢れてきたら結局は戦う事になる。
「なら俺はダンジョンの奥を目指そうと思います。イフリートと戦ってダンジョンで戦っていけるか不安になりましたけど、ダンジョンから魔獣が溢れる前にダンジョンの奥に辿り着きます」
「エドがダンジョンの奥を目指すなら私も行きますわ。管理者になってもエドとずっと一緒ですわ」
「ドリーも一緒なの!」
「僕も管理者になります」
「拙者も管理者になりますぞ」
「私も諦めかけましたが、魔法使いになれば足手纏いにはならないでしょうから、管理者を目指します」
俺がダンジョンの奥を目指すというと、皆が俺に同意してくれる。俺は不老になっても皆がいるのなら心配はない。
「分かった。皆がダンジョンを踏破できるように支援をしよう」
レオン様が俺たちの支援を約束してくれた。
ベスがトリス様に何故不老について聞いていないのかと尋ねる。トリス様が説明してくれたのは、不老に関しては国王陛下及び、継承権が上位十位以内、貴族家の当主にしか教えない事になっており、何故そうなっているかというと、不老は魅力がありすぎ、無謀な挑戦が増えたために教える数を減らした過去があるようだ。
「何重にもして秘密を守っているんですね」
「いえ。守っている訳ではなく、元々はもっと簡単な秘密しかなかったようです。時代に合わせて秘密が増え過ぎてしまったようですね。リング王国とツヴィ王国はダンジョンの秘密を覚えていますが、忘れてしまっている国も多いですから、秘密が多すぎるのも問題ですね」
ダンジョンの秘密を減らそうと一般に話せる部分を増やそうと会議をするが、中々増えていかないようだと、トリス様が呆れた様子で教えてくれた。
「さて、それではイフリートを取り出してみるか」
「はい」
ギルドの解体場に行くのかと思ったら、アルバトロスの外にある、軍の演習場になっている場所で解体するようで、俺たちは馬車に乗って移動をする。
「イフリートのような大きさの魔獣はアルバトロスでは解体が難しいのだ。エドたちが今後も大型の魔獣を狩ってくるようなら、解体場の拡張も考えるべきだな」
「今の解体場もかなりの大きさですけど、イフリートの解体が無理なんですか?」
「大きさで言えば中に入るとは思うのだが、他が何もできなくなってしまうと言われてしまった。拡張といっても木を切って空き地を増やすだけになるだろうな」
ギルドの解体場を思い出す。確かに解体場に横たわったイフリートを置いたら、他の作業ができなくなりそうだ。
軍の演習場に到着すると、俺はイフリートが入った大きい収納の魔道具を出す。収納の魔道具からイフリートを出した瞬間に押しつぶされそうなのだが、どうやって出せばいいのかと思ったら、距離を取ってから取り出す事が可能にした魔道具があるようだ。
「ジョーも来てるのか」
「解体の手伝いじゃ。エマから話は聞いたぞ、エドは大変じゃったようじゃな」
「ジョーが解体? そういえば、エマ師匠にまともに挨拶しないで昨日は寝てしまったきがする。」
「エマに関しては気にしなくていいと思うぞ。解体は、イフリートなんてアルバトロスでは解体したことがある奴が居ないんじゃ。ワシは知識だけはあるから呼ばれたんじゃ」
「解体した事がある人が居ないのか」
イフリートはダンジョンでも相当深い場所にいる魔獣なのだろうか。それともダンジョンの奥のさらに奥にいる魔獣なのかもしれない。
そんなことを考えていると、イフリートを取り出す準備ができたので、イフリートが取り出されて、巨体が現れる。
「これは凄い…」
「レオン様もイフリートは見た事がないんですか?」
「アルバトロスで見た事がある可能性があるのは、ライノくらいだろうな」
「私も見たことありませんよ」
「ライノ」
「エド、大変だったようだな。しかし、イフリートを倒すとは、冒険者としてすっかり追い越されてしまったようだ。時間の問題だとは思っていたが、こんなに早いとはな」
イフリートを倒せたは倒せたが、勝てたのは運が良かっただけだし、しかも弱っていた可能性があるとライノに伝える。
「弱っていたとしても私には倒せた気がしないな」
「俺たちも魔法で倒せただけだから、近距離ではどうしようもなかったし、そう考えるとライノには相性が悪いかも」
「相性か。確かに近づけないのなら無理そうだな」
レオン様がイフリートとの戦いをもう一度確認しつつ、傷跡を確認していく。
「分かってはいたが、かなり厳しい戦いだったようだな。大規模魔法を使って傷がこの程度か」
「魔法が威力より、炎を消すことを考えて作ったので、傷は小さいかもしれませんが、イフリートには致命傷になる魔法です」
俺が固体化した窒素と窒素についてレオン様に説明していく。
「エド、それは人に対しても有効という事ではないか?」
「はい。気体であれば無色透明なので気づかない可能性が高いですね」
「人には簡単に教えないように」
「はい」
理論を説明するのが大変なので、実際に使おうと思ったらドリーくらいしか無理だとは思うが、炭酸水の生成を皆成功しているし、意外と作れたりするかもしれない。危ないのでレオン様の忠告通りに人には簡単に教えないようにしよう。
「それで大規模魔法を使った後に、最後に火を吹かれて、フレッドが前に出て耐え切ったのか」
「耐え切ったというか、あれは耐えきれていなかった気がします」
「ふむ。ところでフレッドの装備は使い物にならないと置いてきたのか?」
「いえ。無くなってしまいました」
「無くなった?」
「燃え尽きました。盾どころか剣すら無かったです」
「は?」
レオン様もフレッドの装備が燃え尽きて、無くなっているとは思っていなかったようだ。盾や剣も無くなってしまったので、持って帰るものが無かったのだ。正確には溶けて下にあったかもしれないが、俺たちには気にする暇もなかった。
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