報告と自分たちの変化
部屋に入ると、レオン様、トリス様、ルーシー様が待っていた。
「それでは話を聞こう。イフリートが出たのは聞いたがもう一度詳しく教えてくれないか」
「分かりました」
俺が説明して、皆に補足をお願いして説明する事にした。砂漠を移動中に凄い音がしたと言うところから始まって、なんとか倒しきってダンジョンを出たところまで話す。話終わると、レオン様、トリス様、ルーシー様が深刻な表情をしている。
「砂漠にエドたちがそこまで苦労する魔獣は居ないはずだし、ダンジョンの階段が壊れていたと言うのが、魔獣が下の階層から来たというのを裏付けている」
「随分と不味い事になりましたね」
「そうだな、トリス。ギルドからもダンジョンに異常があるようだと言ってきている」
レオン様たちは深刻な表情で話を進めている。何がそんなに不味い事なのか不思議に思って聞いてみる事にする。
「レオン様、何故そこまで深刻そうに話しているのですか?」
「エド、ダンジョンは溢れないようにと管理者が管理しているのに、魔獣が一体とはいえ、ダンジョンから溢れそうになったのだ。貴族としては放ってはおけない問題なのだ」
「そうか。イフリートはあのまま行けば外に出ていたのか」
「その通りだ。イフリートは外に出ていた可能性が高いな。イフリートのような特殊な魔獣も、ダンジョンの管理者がダンジョンの中に閉じ込めているのだが、出てきてしまったようだ」
少し考えれば分かる事で、俺の頭は緊張が解けた状態から戻っていないか、まだ寝ぼけているのかもしれない。自分で考えるように意識する。
レオン様の説明に続けてトリス様が説明をしてくれる。
「それと貴族にはダンジョンが溢れそうになった場合に、どのような事が起きるか伝わっています。今回のように魔獣が少しずつ溢れて来るか、もしくは管理者が警告をするかです」
「管理者が警告って、管理者が居るのにダンジョンを管理できていないんですか?」
「管理者はダンジョンを管理しようとすると、複数人必要なようです。なので管理者の数が減ると、徐々に魔獣が溢れ出してきます」
一人で管理しきれないから、貴族や王族はダンジョンに挑み管理者になろうとしているのか。
「騎士がダンジョンで演習をするのも、非常時となれば騎士たちが前衛となって他の貴族と共に、ダンジョンを踏破する事になるからです」
「騎士も当主なのだし、ダンジョンの奥には行かないんだと思っていました」
「騎士だけは特殊ですね。なので王家以外でも辺境伯は騎士を任命する事ができます」
ダンジョンを踏破するのに前衛となる可能性があるなら、俺が想像するよりリング王国の騎士の数は多いのかもしれない。
「今回のイフリートがダンジョンの奥から上がってきたのなら、管理者がどうなっているか確認するためにも、奥にまで行かないといけません。ですが簡単に辿り着くものではないのです」
「急ぎダンジョンを踏破して、管理者に事情を聞くしかないんですか」
「そうです。管理者がダンジョンの外にいる場合もありますが、アルバトロスには居ないので、リング王国の王都か、ツヴィ王国に居ないかとルーシーを呼びました」
そうか。ショッツの話だと踏破したからといって、ダンジョンの管理者に絶対になっている訳ではないのだから、ダンジョンの外にいる可能性もあるのか。
「トリス、残念ながら管理者として外に出ている者は居ないと聞いています」
「そうなると踏破するしかないようですね」
「ええ。ですが大変ですよ」
「分かっています。レオン、ギルドから踏破できそうな冒険者は聞けましたか?」
「アルバトロスで踏破できる可能性が高いのは何組か居るようだが、その中でも可能性が高いのがエドたちだそうだ」
「「「「「「え?」」」」」」」
俺たちは驚く、俺たちより先に進んでいる冒険者は居そうなのに、俺たちが一番踏破できそうとはどういう事なのか?
「なんで俺たちが踏破する可能性が一番高いんですか?」
「今、ダンジョンに行っている冒険者で、ワームを無傷で倒せるのはエドたちくらいだそうだ」
「魔法格闘術が無ければ無傷は無理ですよ?」
「魔法格闘術を使えるその差も大きいのだろう」
ここまで魔法使いが揃っているのも珍しいらしく、他の冒険者は魔法使いが居ても一人か二人のようだとレオン様が説明してくれた。レオン様との会話にアンが加わってくる。
「あの、レオン様、エド。私は今回の戦いで限界を感じました。魔法使いでない私にはこれからの戦いは厳しいかもしれません」
「アン…正直俺も今回の戦いで、ダンジョンを進むのをどうしようか迷ったんだ。でもアンが居なかったらイフリートは倒せなかったよ」
「少しは役に立てたとは思っています。ですがイフリート以上に強い魔獣が出てきてしまったら、弓ではどうにもならないと思ってしまったのです」
俺でも進むのをどうするか迷っているのだから、これはアンが抜けるのは止められないかもしれない。
「ならば魔法を覚えれば良いだろう?」
「レオン様? アンは魔法使いじゃありませんよ?」
「ん? もしや気づいていないのか? アンは魔法使いになっているぞ」
「「「「「「え?」」」」」」
俺は慌ててアンを確認すると、確かに魔力がある!
「本当だ!」
「イフリートを倒したことで、魔法使いになったのだろう。ベスが獣人化が進んだようにな」
「それならアンも魔法を覚えれるのか」
「私が魔法使いに?」
アンは戸惑っているようだ。だが魔法使いになるには普通なら三ヶ月はかかるのだし、踏破を優先する場合はどうすれば良いのだろうか。
だがアンが魔法使いになったのなら、他の皆も何かしら変化がありそうだが、見た目ではっきりと変わっているのはベスだけだ。見た目だと火傷を無傷で治したフレッドだが…
「あれ? それだともしかすると、フレッドも獣人化が進んでる?」
「拙者がですかな?」
「フレッド、脱皮するように火傷を治したじゃないか」
「あれは獣人化が進んだといって良いのですかな?」
「どうなんだろ?」
俺はレオン様たちにフレッドに起きた症状を伝えると、ルーシー様が心当たりがあると話してくれる。
「フレッドの話をする前に、ツヴィ王国の紋章がドラゴンだと以前に話したと思いますが、ダンジョンを踏破したのはドラゴンだと言われているのです」
「ドラゴン? ドラゴン族ではなくですか?」
「そうです。ドリーのように人とドラゴンが友人となって、ドラゴンと共にダンジョンを踏破したと言われています。踏破したドラゴンは人の形となって、ドラゴン族になったと言われているのです」
「そんな事が可能なんですか?」
「可能かどうかは分かりませんが、そうツヴィ王国の王家にはそう伝わっています」
人となったドラゴンと、一緒に踏破した人の子供が今のツヴィ王国の源流となっていると、ルーシー様が説明してくれる。
「でもそれがフレッドとなんの関係が?」
「フレッドはドラゴン族です。ドラゴン族は獣人化が進めばドラゴンになれるのです」
「ドラゴンになれる?」
「はい。人の大きさのドラゴンではなく、巨大なドラゴンになれます」
フレッドは獣人化が進めばドラゴンになれるとは驚きだ。というかフレッドが体と同じ量の食事を食べれているのは、獣人化が進んでドラゴンに近くなっているのでは?
「フレッド、異常な量を食べれるのはドラゴンに近付いているからじゃ?」
「エド殿。拙者は、ガーちゃんのように苔を食べれば満腹になれる可能性があるという事ですかな?」
「流石にそれはどうなんだろ?」
ルーシー様にフレッドが食べた量を伝えると、少し考えた様子の後に話し始めた。
「ドラゴンによっては草食と肉食が居ますので、ドリーのお友達のガーちゃんはかなり特殊なドラゴンですから、フレッドが苔を食べたところで満腹になるかは分かりませんね」
「拙者、ガーちゃんに質問してみたいですな」
「それが良いですね。人に聞くよりはドラゴンに直接聞いた方が詳しく教えてくれると思います」
人に相談するのではなく、ドラゴンに相談するとは不思議な話だな。
「拙者の話は理解しましたが、アン殿が魔法使いとして訓練する期間はどうしますかな?」
「アンですか。ダンジョンに行っていればツヴィ王国の魔法なら使えるようになると思いますよ」
「確かにそうですが、拙者はアン殿がベス殿に近いと思っていて、ダンジョンで戦闘をすれば魔法格闘術はすぐに使えるようになると思っていますな。だったらリング王国の魔法を覚えた方が良いのではと考えていましてな」
確かにアンがダンジョンで戦闘をすれば、フレッドの言う通りに魔法格闘術はすぐに覚えられそうだが、リング王国の魔法は覚えられない可能性が高い気がする。
「フレッドは先にリング王国の魔法を覚えた方が良いと思っているって事?」
「逆ならベス殿のように両方覚えられる可能性が高い気がしますな」
「なるほど。でも踏破を早くしないと不味いんですよね?」
俺はアンがリング王国の魔法を覚える時間があるのかレオン様やトリス様に尋ねる。
「踏破に関しては、まずは近隣のダンジョンへの警告と共に、情報を集めたいと思っている。エドたちがダンジョンに向かって、ダンジョンの中に大量のイフリートが居たら死にに行くようなものだ。領民の生活のため、騎士や冒険者でダンジョンの草原までは安全を確認するが、しばらくは草原より奥に行くのは禁止する予定だ」
全てのダンジョンは繋がっているので、他のダンジョンでも同じように魔獣が溢れているなら、貴族、騎士、冒険者を集めて強行突破することになるが、そうでないのなら段階的に魔獣が溢れる量が増えてくると、過去の事例から経験上分かるとレオン様が説明してくれた。
「何事も例外はあるので、一気に魔獣が溢れる危険性を考慮して、周辺のダンジョンがある都市へと連絡を取るのだ」
「過去に経験があるんですね」
「ある。完全に溢れたことは一度だけだが、少量の魔獣が階層を移動したことはある。飛んでいる魔獣や泳げる魔獣は移動してしまう可能性が高い。だが、イフリートほど強い魔獣は珍しいのだ。」
イフリートほど強い魔獣だと死者が大量に出てしまうと、今はダンジョンを閉鎖しているのだと、レオン様が話してくれる。
「なので、ダンジョンに入れない時期はあるのだが、魔法を覚えれるほど長いかと言うと分からないな」
「流石にアンが魔法を覚えるほどの長期間は難しそうですね」
アンを残してダンジョンに挑んだところで意味がないので、どうしようかと悩んでいると、トリス様が話しかけてくる。
「エド、ドリー、リオが気づいていないかもしれないので言いますが、魔力量がかなり増えていますよ」
「え?」
俺は自分の魔力量を確認すると、確かに驚くほど増えている。以前はリオの方が魔力量が多かったのに、今は俺とドリーの方が多くなっている。
「本当だ、でも何でリオより俺とドリーの方が魔力が多くなっているんだ? リオは何か魔法を使った?」
「いえ。起きてから魔法は使っていません」
「だったら何でこんなに差が?」
俺とリオが悩んでいると、ルーシー様が声をかけてくる。
「リオは魔法格闘術を使えませんでしたから、使えるようになったのでは?」
「僕が魔法格闘術を?」
「私の子供なのですから魔法格闘術を使える才能はあると思いますよ」
リオはルーシー様とフレッドに教わって魔法格闘術を後で試してみる事になった。
「エド、ドリー、リオに関しては魔力量が増えすぎているので、魔法の使い勝手が変わっている可能性があります。どちらにしろすぐにはダンジョンに行けませんよ」
「そうかもしれません」
「それにベスに関しても獣人化がそこまで進んだのなら、以前と動きに差が出ていると考えた方が良いでしょう」
「お母様の言うことに心当たりがありますわ。獣人の耳の時に聴力がかなり良くなりますわ」
「それならばアンの事がなくてもダンジョンに行くのは止めた方がいいでしょう。急ぎとは言え万全の状態で行くべきです」
トリス様の言う通りだと思うので、しばらくは変わってしまった魔力や身体能力の確認をする事になりそうだ。俺たちは体の変化をお互いに確認していく。
俺たちの体の状態を聞いたレオン様が考え込んだ後に話し始めた
「それならばダンジョンが溢れている状態だとはっきりと分かった場合には、騎士と共にダンジョンの奥に向かって欲しい。まだ時間があると分かった場合には、ベスは少し遠出をして欲しいのだ」
「私ですの?」
「正確にはベスとリオだな。ツヴィ王国に当事者として説明をしに行って欲しいのだ。早く事情を伝えるために、船で行けば陸路で行くより早くツヴィ王国に行く事ができる」
「分かりましたわ」
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