村が壊滅した理由
テレサさんはリオの元に行って、ドラゴンと帰るか船で帰るか訊ねに行くかと思ったら、そうではなく、そのままベスに話しかけ始めた。
「エリザベス様。男爵に送る手紙ですが、今回は辺境伯の代理として送るのは見送って頂けませんか?」
「見送るのですか? テレサ、どのような話がされたのか教えて欲しいですわ」
「騎士で話し合いをした結果、この規模の魔獣を移動させるのもあり、辺境伯が魔獣を移動させるのではなく、王家の命令で魔獣を動かすという前提にした方が良いのではと考えました。ただ現在この場で、王家として動けるのがレナード王子、エリザベス様のお二人で判断が難しいと考えております」
「確かに、私は辺境伯代理として来ており、今は王家として判断できかねますわ。幼いリオに負担を掛けるのも問題ですし、男爵には事後承諾になりますが仕方ありませんわ。辺境伯代理として今、手紙を出すよりは良さそうですわ」
テレサさんの言う通り、二人に判断させるにはドラゴンとメガロケロスの移動は、大きすぎる問題だと俺も思う。後になったとしても、レオン様、トリス様、ルーシー様が判断した方が良さそうだ。
「分かりましたわ。男爵に手紙を送るのは止めておきますわ」
「ありがとう御座います。レナード王子にも話をして参ります」
そう言うとテレサさんはリオの元へ向かって移動して行った。テレサさんが移動すると、ベスはメガロケロスが近くに住むことになりそうだと喜ぶ。
「やりましたわ。メガロケロスといつでも会えるかも知れませんわ」
「ベス喜ぶのは良いけど、ドラゴンとメガロケロスが住む場所はどうするの?」
「お父様が侵入禁止にしている森がいくつかあるので、どれかに住まわせると思いますわ」
「そんな場所があるのか」
ドラゴンとメガロケロスが来ても困らないって辺境伯は凄い。
リオに話を聞いたテレサさんが戻ってきて、リオはやはり俺たちと一緒に移動したいようだと教えてくれた。テレサさんは護衛でついて来ていた騎士を分け、船で帰る騎士は急ぎ帰るとのことで、俺は森の外まで案内した。
ドラゴンとメガロケロスの移動は明日からとなり、思った以上の長旅になりそうなので、俺は今日の食料を調達してくる。ターブ村に住んでいた頃に森で狩をする場合、動物がよくいた場所を巡っていく。以前と違い魔法を覚えたのもあり、以前だったら狩るのを躊躇したような動物も狩っていけるので、簡単に獲物が取れた。
狩った獲物と採取した野菜や木の実で調理をして皆に出すと、味が心配になって尋ねる。
「長期間移動する事になりそうだし、森で動物を狩って来たけど味はどう?」
「拙者はちょっと前まで酷い物を食べていたので、気に入らないどころか美味しいですな」
「私も美味しいですわ」
「僕も嫌いじゃない、美味しいよ」
フレッド、ベス、リオの舌が肥えていそうな三人が美味しいと言ってくれるので安心する。
「しかし、凄いですな。拙者も森で採取や狩りをしていましたが、短時間でこれだけの食料が手に入るとは思いませんでしたな」
「動物は魔法を覚えたから簡単に狩れるようになったんだけど。草食動物も多いけど捕食者も多いから、森の中で取れる野菜や木の実は結構あるんだよね。だから魔法を覚えていなかった俺とドリーも飢えずに済んだし」
「なるほど、豊かな土地だから魔獣も多いと言う事ですかな?」
「そうかもね」
そもそも、森の頂点であろうドラゴンの側だから森の中で調理して、ご飯を食べれているが、普通だったらこんな事はしない。木の実をつまむくらいはあっても、調理をするなら村まで戻っていた。
フレッドと話しているとテレサさんがやってくる。
「エド、フレッド、ドラゴンとメガロケロスに驚きすぎて忘れていましたが、ドラゴンに村を破壊した理由を聞いて貰いたいのです」
「そう言えば拙者もすっかり忘れていましたな」
「エドとドリーが居るからドラゴンはおとなしいのかもしれませんが、今のところ怒ったところで村を破壊しきるほどの魔獣には見えません。しかも村人を殺さないという配慮までしていますし」
「言われてみればそうですな」
俺もドラゴンやメガロケロスに久しぶりに出会ったことで、すっかり忘れていた。フレッドが言葉が分かると判明したのだし、ドラゴンが村を破壊した理由をガーちゃんに聞いて貰う。
「ガーちゃん申し訳ないのですが、村を破壊した理由を教えて欲しいのですな」
『ガー』
「ふむ…ふむ…何とも厄介な植物を」
ガーちゃんの話をフレッドが通訳してくれると、どうやら詐欺師と兄が育てた違法な植物が随分と厄介な物だったらしい。ガーちゃんとしては植物本来の危険性以上に、森の周辺だと大繁殖してしまう可能性があったと説明してくれた。
「拙者は完全に言葉が理解できている訳ではないのですが、ガーちゃんが言っているのは随分と危険な植物だったようですな。と言うか拙者も植物に心当たりがありますな。リング王国だとテレサ殿の方が詳しいのですかな?」
「ドラゴンの言っているものが予想通りであれば、リング王国では持っているだけでも罪ですが、育てれば極刑がありえる植物ですね。男爵が即座に処刑をした理由が分かりました」
テレサさんの説明で思い出したが、俺もオジジから習った記憶がある。一応使い方によっては薬草でもあったはずだが、繁殖力が強いので他の草を枯らす勢いで生えるため、テレサさんの言った通りリング王国では持っているだけでも罪になる危険な草だ。
『ガー』
「建物を壊した理由は種子を探していたのですな」
『ガー』
「ただ種子を見つけるのは難しかったのですか、植物が生えてきたら処理をすると言っておりますな」
「つまり建物を建てても、生えてきたらまた壊されるのか」
「そうなると思いますな」
男爵は村の再建は当分無理そうだ。実際、兄と詐欺師は種子を持っていたので、男爵に処刑されたとウォルターさんが言っていたし、種子はまだ村のどこかにありそうだ。
『ガー』
「ガーちゃんが言うには、植物が厄介なものであったので今回は我々がやったが。我々がやらなくても縄張り意識が強い魔獣が森から出てきて、村を壊していただろうと言っておりますな」
ドリーの友達のガーちゃんたちドラゴンだから、村の建物を破壊するだけで村人は全員無事だったが、他の魔獣であれば村人の全滅もあり得ただろう。
「メガロケロスは魔獣と言っても草食だから森の外までは出てこないだろうけど、縄張り意識が強い魔獣だと肉食獣が大半だし村人の全滅もあり得たんじゃ」
「あり得ます。ドラゴンの群れが動いたから他の魔獣が様子見をしたのかもしれません。この森であれば災害級の魔獣はまだ居そうです。それに災害級の魔獣が出て建物が壊されただけなら被害としてはかなり軽いものです」
テレサさんの言っている災害級の魔獣って名前からして凄いが、村が全壊して被害としては軽い物ってどんな魔獣が居るのだろう?
「災害級の魔獣ってそんなに凄いんですか?」
「色々ですね。ドラゴンは災害級の魔獣ですが、こちらから手を出したり縄張りの範囲に入らなければ問題ないドラゴンが大半です。なので男爵もここまで近くに村を作ることが可能だったのでしょう。というか広げている段階でドラゴンの巣があると、縄張りの範囲に入らないように広げるのを諦めた可能性高いですね」
「縄張りの範囲ですか。あの、ガーちゃん以外のドラゴンを知らないのですが、ドラゴンはおとなしい方なんですか?」
「どちらかと言えばそうですね。災害級の魔獣でも人里近くに来ると縄張りなど関係なしに暴れる場合があります。厄介なことに縄張りなど関係なしに暴れる場合は街道を通って村を連続して破壊していくので、かなりの被害が出ることになります」
街道を通って行けばその先には村や町があるので、被害が広がっていくのは当然だ。そんな魔獣が出たら普通の村は簡単に潰れていってしまいそうだが、リング王国はよく無事だな。
「そんな魔獣が出たら大変なことになりませんか?」
「なりますね。そう数がいる訳でもないので事前に巡回したりして見つけています。それと、村に小さいながらも協会の支部があるのは魔獣に対する対策でもあります」
「ターブ村とかウォルターさんしか魔法使いが居ませんでしたが、その場合は災害級とか倒すのは無理では?」
「その通りで災害級の魔獣は魔法使い数人では対応できないので逃げることになります。逃げるだけではなく、災害級の魔獣が出たと伝達するのも魔法使いの役割です」
「逃げるだけじゃなくて、伝えて逃す役割もあるってことですか?」
「そうです。進む街道の方向は運任せになりますが、魔法使いが全力で移動すれば魔獣が追いつく前に次の村へと移動できます」
いつの間にか話を聞いていたウォルターさんが会話に入ってくる。
「私も逃げて他の村に状況を伝えようとしたんだが、ドラゴンに完全に囲まれてしまって逃げられなかったんだよね。横から話を聞いた限りだと種子を探していたから逃がさないようにしていたのか」
「確かに種子なら人間が持っている可能性があるし、その通りかも?」
フレッドも気になったのかガーちゃんに尋ねてくれる。
『ガー』
「その通りで種子を探すのに足止めしていたらしいですな」
「実際にあの村に種子を持っている者がいたのだからやむ得ないか。殺されなかっただけ良かったさ。支部を任されていた魔法使いとしては失敗したけども」
そういえば俺は、魔法使いとして一人前らしいが今聞いた話を知らなかったのが不思議だ。
「ウォルターさん、俺は逃げて伝達するって話を知らなかったんですが」
「あぁ、それは支部を任される時に説明されることなので、普通の魔法使いは知りませんよ。知っているとしたら、災害級の魔獣が出たら自然流派の魔法使いは依頼で派遣されるので、派遣されたことがある人は知っているかもしれません」
俺が納得していると、ガーちゃんが鳴き始めた。
『ガー』
「ガーちゃんが、ところで何故、エド殿とドリー殿が村に居なかったかと聞いていますな」
ガーちゃんに説明して別れの挨拶をする暇もなく、俺とドリーはターブ村を出た。なのでガーちゃんは俺とドリーが村にいないことを知らなかったのか。
「拙者が説明するので間違っていたら教えて欲しいですな」
フレッドが俺とドリーの話をガーちゃんに説明してくれた。
『ガー』
「次は守るから気軽に訪ねてこいと言っておりますな」
『ガー』
「エド殿とドリー殿なら森で暮らすのも許すと言っておりますな」
森で暮らしても良かったとは驚きだ。そんなことは不可能だと思っていたから、どこかに移動する事を考えていた。森で暮らしていいのは、ドリーだけかと思ったら俺も森で暮らしていいのか、俺も結構ガーちゃんと仲良くなれていたようだ。
「ちょっと待ってください」
「ウォルターさん、どうしたんですか?」
「森に住んでいいと言うことは、男爵の目標であった森の開拓が進んだ可能性がありませんか?」
「でも、俺とドリーだけですよ?」
「人間は家無しでは生きていくのは厳しいですし、ある程度は人と交流をしなければ穀物が手に入りません。そうするとドラゴンと多少接点が出てくる人も増えるとは思います」
「俺とドリーだけではなく徐々に進んだ可能性があるって事ですか」
「そうです」
確かにウォルターさんの言う通り、俺とドリーが村で生活していれば、将来的にドラゴンと共存する村になっていた可能性はある。だが俺はもうターブ村に戻ろうと思わないし、ターブ村は廃村状態だ。種子の問題もあるし、男爵の許可を取ってまであそこに住もうとは俺は思えない。
「俺はもうターブ村に戻ろうとは思いません。戻るならアルバトロスに戻ります」
「確かに村はもうありませんし、それが良いのかもしれません」
夜、メガロケロスと一緒に寝ながら考える。
もし俺とドリーが村で普通の暮らしをしながらドラゴンと友達になれば、村は広げられたかもしれない。村が広げられるようになれば男爵は移住してきて、村は街になったかもしれない。街になれば今逃げている村長は、村長としての役割を終えて子爵の家臣にでもなっていたのだろうか?
だがそんな話はもうない。
俺とドリーはアルバトロスで魔法使いになって、色々な人と出会い共に過ごすのが楽しく、更にはベス、フレッド、アン、リオというダンジョンに行く仲間までできた。村での良い思い出の大半であるオジジやケネスおじさんもアルバトロスに居ることで、悪い思い出が多いターブ村への里心はなくなってしまった。
書き忘れた事が有ったため、大幅に書き足しているので違和感あるところがあるかもしれません。
前回の後書きに書こうと思って忘れていました。
メガロケロスはメガロケロス属のグループのシカです。絶滅していますが地球に実在していました。今回参考にしたのはメガロケロス属のギガンテウスオオツノジカで、肩高約2.3m、体長3.1m、体重700kgです。
参考に、馬のサラブレッドがオスで身長(肩高約)1.6m、470kg位で、ばんえい馬が身長(肩高約)1.7m、約1トン位らしいです。
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