ガーちゃんとシカ
ベスが俺の兄の墓と、詐欺師の墓をまた殴りたくなる前に、急いで移動することにする。村を出て草原へ移動して、更に森の方へと草原を移動していると、フレッドに話しかけられる。
「エド殿、この草原は畑では無いのですかな?」
「そうだね。村の畑はもっと手前までだ」
「普通なら開拓できる場所ですが、開拓していないのは魔獣が問題ですかな?」
フレッドに言われて気づくが、木など生えていない草原で掘り返して畑にしようと思えば、簡単に開拓できた筈だ。
「そうかも。村に住んでた時は気づかなかったよ」
「領地を治める観点の差からくるものかもしれませぬな」
貴族として勉強してきたフレッドと俺では、見えているものが違うと改めて認識する。俺も騎士になるのだから、多少はフレッドのような思考を勉強して覚えていかないのだろうか?
草原を抜けて森に入ると途端に歩きにくくなる。俺とドリーは慣れているので早く歩けるが、今回は慣れていない人が多いのでゆっくりと進む。
「凄い森ですな」
「草原までは村人も何か食べれる実が生っていないか探すけど、森に村人は絶対に入らなかったから」
「それでまともな道もないのですな」
「獣道位しかないね」
今俺たちが歩いているのも獣道だ。歩いた先に動物が居る可能性はあるが、この大人数が音を立てて移動しているのだから、動物の方が逃げ出すだろう。
「もう少しだ。リオ大丈夫か?」
「はい」
「リオ殿、辛いようなら拙者が運びますぞ」
「いえ、まだ大丈夫です。辛くなったらお願いするかもしれません」
リオは魔法格闘術が使えないし、年齢もあって一番気を使っている。今のところは問題なさそうだが、帰りはフレッドか護衛の騎士にお願いした方がいいかもしれない。
「地面がぬかるんで来たのでもう少しです。滑りやすいので足元に注意してください」
森が開けるとそこには大量のドラゴンが居る。ドリーがドラゴンに向かって走り出す。
「ガーちゃん!」
一頭のドラゴンがドリーに気づいて甘え始める。エマ師匠に訊ねられる。
「エド、ドリーは危なくないのですか?」
「え? 楽しそうですけど?」
「そうですか…私にはドラゴンに襲われているようにしか見えませんが」
確かに、知らないとドラゴンに襲われているように見えるかも? テレサさんも驚いているようで、俺に訊ねてくる。
「エド、ドラゴンは群れと聞いていましたが、これはかなりの数では?」
「そうですね。五十頭は居るんじゃないですか?」
「十頭前後だと思っていました。規模が予想と大きく違います」
そう言えばドラゴンの数を言っていなかったか? フレッドがドリーとドラゴンに近づいていく。
「拙者、ドラゴン族であることを疑っておりましたが、ドラゴンの言うことが少しだけ分かりますな……拙者、本当にドラゴン族であったんですな」
「フレッドは、ガーちゃんが何言ってるかわかるの?」
「ドリー殿、少しですが分かりますな。獣人のドラゴン族はドラゴンの言葉が分かるという伝承があるのですが、本当だったんですな。拙者は伝承を嘘だと思っておりましたな」
「すごーい」
驚いたことにフレッドはドラゴンの言葉が分かるらしい。ガーちゃんとドリーの会話を通訳している。
俺がドラゴンの言葉がわかるフレッドに感心していると、ベスが触ってみたいと言う。
「獣人のドラゴン族って凄いな」
「私も言葉が分かるなんて初めて知りましたわ。ところでエド、ドラゴンに触っても問題ないんですの?」
「ガーちゃんなら安全だと思う。他のドラゴンは慣れてからかな」
ドリーに間に入って貰ってベスはガーちゃんに触る。
「凄いですわ!」
「ドラゴンだって考えると凄いかも。以前は知らなかったからな」
「エドとドリーは逆に凄いですわ。この大きさのトカゲなど居るわけありませんわ」
「今だったらそう思うけど、以前はトカゲだと思ったんだ」
前世の知識から恐竜ぽいトカゲかと思ったんだよ。とは言えない。ドリーがリオを誘う
「リオも!」
「僕もガーちゃんを触るの?」
「うん!」
「分かった」
リオもガーちゃんに触ると感動しているようだ。
「凄い」
「リオ、ガーちゃんに乗ってみる?」
「乗れるの?」
「うん」
ドリーはガーちゃんにしゃがんで貰うと、ドリーはリオとガーちゃんを登り始める。以前村に住んでいる時、ドリーは登ってガーちゃんの上で昼寝をしていた。ガーちゃんの上が森の中で一番安全な場所だから、昼寝なんてできるのだ。
「凄いっ」
「うん! でも走るなら、にーちゃの友達」
ドリーの言葉に皆が俺をみる。ベスが代表して聞いてくる。
「エド、まだ何か居るのですの?」
「友達というか助けたら仲良くなったんだ。でも、あれも魔獣かも?」
「見てみたいですわ」
「そうは言っても移動してたりするからな。フレッド、ガーちゃんに聞けたりしないかな?」
フレッドがガーちゃんに、俺の友達の場所を聞くと、ガーちゃんは方向を示してくれる。
「そっちか、探してくるよ。用心深いから俺だけで行ってくる」
「分かりましたわ」
皆と別れた俺は森の中を歩いていく、遠くにいる場合もあるので辿り着けるといいが。探しているとその姿を見つける。予想通り魔力を持っているので魔獣だ。
「元気そうだ。良かった」
大きな角を持ったシカに俺は挨拶をする。背中に乗せて貰って俺は皆の元へと戻る。
「連れてきたよ」
「メガロケロスですわ!」
「え? メガロケロス?」
「そのシカはメガロケロスですわ。図鑑でしかみた事がありませんが、図鑑で見たものと同一ですわ」
驚いた事に、俺の友達の、シカがメガロケロスらしい。
「よく背中になんて乗れますわね。メガロケロスは攻撃的で普通は近づけませんわ」
「昔、角が木に引っかかってた時に助けたら、背中に乗せてくれるようになったんだ」
「よく助けるのに近づけましたわね」
「なんか表情がとても悲しそうだったから、つい」
俺だとメガロケロスは獲物にするには大きすぎたし、そもそも持って帰れない。シカなのに余りにも情けない表情をしているのが分かり、思わず助けてしまったのだ。
「そうだ、ベスも乗ってみる?」
「良いんですの?」
「こんなに人がいるのに何故か、落ち着いてるし問題ないよ」
「では乗ってみますわ」
結構身長が高いので上がるのが大変かと思ったが、ベスは俺が手伝うと簡単にメガロケロスの背中に上がってきた。俺はベスを前に座らせる。
「立派な角ですわ」
「そうなんだよね。これが引っかかってもいたんだけど」
「あまり言っては可哀想ですわ」
「確かに」
「ところで、今気づきましたがメガロケロスも群れですわね」
「うん」
俺が助けたメガロケロスはオスで、群れの中でも大きい角を持っている。ガーちゃんたちドラゴンと、メガロケロスを合わせると凄い数の魔獣がこの場所にいる。
テレサさんが顔を青くしながら、ベスに注意を促している。
「エリザベス様、絶対にメガロケロスとドラゴンを怒らせないでください」
「分かっておりますわ」
「何て魔境ですか、こんな場所は王家でも手出しできませんよ」
王家でも無理なのか。そんな場所の近くに男爵は村を作って、良く頑張って村を維持していたな。
「そう考えると男爵はすごいですね。ところでこの後はどうします?」
「エリザベス様どうされますか?」
「村に男爵が居れば挨拶をしたところですが居ないですし、ドラゴンの調査もほぼ終わりですわ」
「男爵に挨拶に参りますか?」
「本来は挨拶すべきでしょうが、男爵の住んでいる町まで遠いですし、手紙でも送っておきますわ」
男爵に会いに行く事はなくなったようだ。フレッドがガーちゃんと何やら話をし始めた。
「拙者、そこまで細かくは理解できかねますぞ。」
『ガー』
「うむ」
『ガー』
「うむ」
ガーちゃんが、ガーガー言っているだけなのにフレッドは理解しているようで。何やらガーちゃんの話を聞いている。
「了解致した。エド殿」
「フレッドどうかした?」
「ガーちゃんがドリー殿に付いて行きたいと言っておりますな」
「え?」
ガーちゃん付いてくるの? アルバトロスに移動しても雑食性だから生きてはいけるのか? と言うか連れて行っていいのか?
「流石にそれは、俺が判断できないんだけど」
「その通りですな。しかもガーちゃんだけではなく、群れが大きくなりすぎたので、群を分けたいと言っておりますな」
「ガーちゃんだけじゃないのか」
俺は困ってベスを見ると、ベスも困った様子だが連れては行けるという。
「メガロケロス領は広いので余っている森などはありますわ。なので連れては行けますが、移動しているだけで大騒動になりそうですわ」
「それは確かに。ドラゴンの大移動だもんね」
ベスと話をしていると、ガーちゃんがメガロケロスに鳴きはじめて、メガロケロスも鳴いている。暫くするとフレッドが話を聞いていたのか何を話していたのか教えてくれる。
「拙者はガーちゃんの言葉しか分かりませぬが、メガロケロスも付いていくとガーちゃんが言っておりますな」
「メガロケロスも?」
ドラゴンとメガロケロスは会話できるの? と言うか増えたどうしよう? 俺は困っていたが、ベスは違ったようで連れて行けるかも知れないと言う。
「メガロケロスが一緒なら行けるかも知れませんわ!」
「一緒なら行けるの?」
「メガロケロス地方でメガロケロスは有名ですわ。堂々と街道を走ったら不味いですが、少し離れれば見つかっても問題ない気がしますわ」
「それって問題ないのかな?」
俺はテレサさんを見ると絶望した顔をしていた。
「テレサさん大丈夫ですか?」
「ええ、ええ、大丈夫です。メガロケロスはレオン辺境伯なら喜びそうですが、移動をどうするか」
「レオン様は喜ぶんですか?」
「有名な逸話で、辺境伯の紋章をレオン辺境伯のお姿と同じように、ライオンに変えようという話があったらしいのです。ですがレオン辺境伯が断固とし拒否したらしいと聞きます。それ以来、レオン辺境伯のメガロケロス好きは有名です」
レオン様はメガロケロス好きらしい。俺はライオンの紋章の方が格好良い気がするが、レオン様は違うらしい。
「と言うことは、頑張って連れて行くって事ですか?」
「そうなりますね。少し皆で相談するので待っていて貰っても?」
「分かりました。やる事はないのでゆっくりで大丈夫ですよ」
テレサさんたちは集まってどうするか相談し始めた。遠目にドラゴンを見ている人が多い中、ウォルターさんはドラゴンを観察している。
「ウォルターさんはドラゴン平気そうですね。襲われたから怖がるかと思いましたが」
「一度見たことで慣れもあるかも知れません。ただ村を破壊していた時とは全然雰囲気が違うので、変な事をしなければ問題なさそうだなっと感じて安心感が」
俺はガーちゃんたちが怒っている状態を知らないので雰囲気は分からないが、本来は雑食だが普段は草食獣ぽくのんびりと苔を食べているので、前世の知識で言えばパンダみたいな生態をしている。
皆と違いアンの興味は苔にあるらしく、採取して良いか聞いてくる。
「エド、この苔は採取したら不味いですよね?」
「アン、流石に聞いてからじゃないと俺もどうなるか分からない。フレッドに通訳して貰ったら?」
「そうですね、頼んでみます」
アンはフレッドにお願いしに行ったようだ。
のんびりしていると、テレサさんが方針を決めたようだ。
「エリザベス様、エド、騎士で相談した結果、方針が決まりました」
「どうするんですか?」
「ドラゴンが群を分けて何処に行かれるか分からないよりは、メガロケロス領に場所を指定して移動して貰った方が良いと判断しました。どの程度の群れになるかは分かりませんが、群れとなれば災害級に指定される可能性がある規模ですので」
実際ガーちゃんたちは村一つを廃村にしてしまったのだし、災害級と言っても過言ではないだろうが、普通は大人しいのだがな。
「ドラゴンを連れて行く方法はなるべく森の中を通ってメガロケロス領に入ります。その後、メガロケロス領も同じように森の中を行動して、アルバトロスへと向かう事にします」
「やはり人目につかないように行動する事になりますか」
「はい、それでメガロケロスとドラゴンと一緒に行動する者と、先に船に乗ってアルバトロスへと帰還し報告する者に分けます」
アルバトロスに急にドラゴンが現れたら、アルバトロスで混乱が起きるだろうし、先に報告に走って貰った方が良いだろう。
「どうやって分けるんですか?」
「申し訳ないですが、こちらで振り分けさせて貰います」
「それは良いですけど、ドリーとフレッドはドラゴンと一緒に居ないと移動が難しくなりますよ」
「分かっています。エドさんたちは基本的にはドラゴンと一緒に移動して貰います。レナード王子がどちらにするか悩んでいるのですが…」
リオだけ仲間外れにするのも悪いし、今もリオはドリーと一緒に、ガーちゃんの背中に楽しそうに乗っている。
「リオだけ仲間外れは可哀想ですね」
「やはり連れて行くべきでしょうか」
「リオに聞いてみるしかないんじゃないですか? 本人がやる気なら、魔法使いがこれだけ居るのですし、そこまで酷い旅にはならないのでは?」
「そうですね。後でレナード王子に訊ねてみます」
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