ターブ村へ
トリス様が、ウォルターさんの魔境という言葉に反応したのか、護衛を増やすという。
「護衛の数を増やすべきかも知れませね。ところでエド、ルーシーの病状ですが注意することはありますか?」
「お付きの薬師や魔法使いが居るので問題ないかと、強いて言うならエマ師匠が作った布を送っておくべきかも知れません」
エマ師匠が俺に確認してくる。
「私が作った布ですか?」
「服に使った、筋肉痛程度ですが回復する布です」
「魔道具の布ですか。確かに今のルーシー様になら役に立つかも知れません。ですが、私もエドの生まれた村に行くとなると、作る暇がありませんね」
「ジョーに作り方を教えられませんか? フレッド、アン、リオにも服を作りたいんですが布が足りなくて」
「そうなると結構な量が要りますね。分かりました。ジョーに作り方を教えて作って貰いましょう」
魔道具の布は確保できそうだ、これで皆の分服を作れる。
「エド、それなら私が布を貰って服を仕立てておきましょう」
「トリス様良いんですか?」
「報酬の一部です。ルーシーに処方した薬の報酬も遠征するとなると当分を決められそうに無いですし、今回のターブ村への調査でまた報酬が増えてしまいますから」
「そう言えば今回の調査も報酬が出るんですか?」
「ええ。皆に報酬を出すので心配しないでください」
俺はターブ村を見に行くだけのつもりだったが、報酬がしっかり払われるらしい。
「エマ、元となる布は何でも良いのですか?」
「はい。使用する素材の色が移るので色は変わりますが」
「それならば色々布を用意して作ってもらいましょう」
「数を作るとなると、魔道具を作るのにジョーの魔力だけでは足りないかも知れません」
「それならば魔法協会に正式に依頼を出します」
「分かりました。ジョーに説明しておきます」
ジョーには色々魔道具の制作依頼をしているので、ジョーの負担が増えそうだったが、協会への依頼になるならジョーへの負担は減りそうだ。
「できるだけ早く出発した方がいいですが、ウォルターが昨日アルバトロスに着いたばかりなので二日程、間を空けようと思っています」
「助かります。船に乗って来たとは言え流石に疲れました」
「すぐに戻ることになって申し訳ないですが、頼みます」
「必要な事だと分かっていますので」
俺はその間にフレッド、アン、リオに事情を説明しないと。
「トリス様、リオはどうしていますか? 説明をしたいんですが」
「護衛の問題もありますから、リオの説明は私とベスで致します。」
「分かりました。なら俺はフレッドとアンへの説明をします」
「はい。それでは、各自準備が必要なので今日は解散とします」
トリス様の解散を受けて。俺、ドリー、エマ師匠は帰る途中にアンを拾って協会に戻ってきた。フレッドも誘ってジョーの部屋へと向かう。
「ジョー、悪い起きてる?」
「おう、今起きたとこじゃ」
昼前だがジョーは起きていたようだ。
「どうしたんじゃ?」
俺はジョー、フレッド、アンにトリス様に説明されたターブ村で起きた事を話す。
「それは大変なことになったんじゃな」
「拙者はいつでも旅に出れますが、アン殿は問題ありませんかな?」
「私は事情を説明すれば行けると思うわ」
今回の事は話しても問題ない筈だ。
「俺とドリーの事は秘密にして欲しいけど、辺境伯からの依頼だとバーバラさんに話しても問題ないよ」
「そうするわ」
アンはどうにかなりそうだ。そしてジョーには色々頼まなければならない。
「ジョー、魔道具の制作をお願いしたいんだけど」
「いや、ワシはアンとリオの装備を作っておるからもう無理じゃぞ?」
「それはトリス様が協会に依頼を出してくれるって言ったから、ジョーが作らなくても良いと思うんだけど、作り方をジョーに教えておこうと思って」
「何の作り方じゃ?」
「以前言ったエマ師匠が作った魔道具の布なんだけど」
「あぁ! 以前言っておったやつじゃな」
どうやらジョーは俺が以前質問したのを覚えていてくれたようだ。
「魔道具の布をエマ師匠から作り方を聞いて作ってほしんだ」
「ワシが聞くより作って貰うのに聞いて貰った方がいい、ワシが暇そうなのを探してくるので待ってるんじゃ」
そういうとジョーは部屋から出ていってしまった。
「エマ師匠、この時間って錬金流派の人起きてるんですか?」
「どうでしょうか? 錬金流派でなくても良いですし、後の説明はやっておきます。エドは他の準備をしてください」
「分かりました」
俺、ドリー、フレッド、アンは旅に必要な物を買い出しに行く。
二日後、船着場に集合するようにと言われて来たが、川は上りになるのに船で行けるのか?
「エド、来たか」
「レオン様、どうして此処に?」
「ベスは私の代理で男爵領に向かうことになる、代理を命じるついでに見送りだ」
「なるほど、ところで船で向かうんですか?」
「ああ。人数が多いし時間も掛けられないから魔法で無理やり進むことにした」
どうやって進むのかと思ったら魔法で船を進めるらしい。船への荷物の積み込みが終わると、レオン様がベスに声をかける。
「さて、そろそろ始めるか。ベス!」
「はい」
「辺境伯代理として男爵領での被害の確認と、メガロケロス領への脅威がないか確認を命じる」
「レオン辺境伯、謹んでお受け致しますわ」
「ベス、気をつけて行って来るんだぞ」
「分かっておりますわ」
順番を待って俺は船に乗り込むと、想像以上に船が大きいことに驚く。ターブ村から乗ってきた船は小さかったので、外見から船が大きいのは分かっていたが思った以上に大きい。
「大きな船だな」
「これは川を航行できる中では最大級ですわ。形は違いますが同じ大きさの貨物船で、川下り用の小さい船を乗せて上流に持って帰りますわ」
「川を下って来た後、船はどうするのかと思ってた、そうやって上流に持って帰るのか」
「ええ。毎回船を作る訳にはいきませんし、魔法で上流に上るのには小型船を一艇運ぶより、大型船に小型船を積み込んだ方が効率が良いのですわ」
辺境伯の娘なだけあってベスは詳しい、ところで魔法で上流に上ると言うがどうやってするのだろうか?
「ベス、船は魔法を使ってどうやって川を上るんだ?」
「帆を張って風で進むらしいですわ。風向きによっては魔法なしでも進む事も有るらしいですが、急ぎなので魔法の使用を前提にするらしいですわ」
「風で。なるほど」
皆乗ったのか船の帆が張られる。
「おお」
「エドも船が好きですの?」
「俺も? 他に誰か好きな人がいるの?」
「弟ですわ。王都帰りの強行軍で船を指揮していたのは弟ですわ」
「それで疲れて倒れてるのか」
「ええ。もう起き上がれますが、エドと会うには間に合いませんでしたわ。帰ってから紹介しますわ」
「うん」
船はゆっくり進み始めた。
「それではエド、魔法を使いにいきますわ」
「え? 俺たちも魔法を使うのか」
「急ぎますので効率重視ですわ。私たちは最初の方に魔法を使って後は待機しつつ昼寝などして魔力を回復ですわ」
「分かった。それじゃ魔法を使って船を進めよう」
交代で魔法を使って船を進め続ける。魔法を使って船を進めているが、川を下る方がやはり早い。ターブ村からアルバトロスに来た時より時間がかかったが、ターブ村に一番近い村まで船で辿り着く。
「此処から結構歩くんでしたわね」
「そうだね、ドリーが居て五日だっけな?」
「遠いですわね」
「田舎も田舎だからね」
全員分の馬や馬車は用意できないので、リオとドリー優先で馬や馬車に乗せてベスは基本歩いて移動していく。
「魔法格闘術が便利ですわ」
「ベスは上手に使うよね」
「そうですな。ベス殿が使う魔法格闘術は上級者ですな」
「理由を考えると少し複雑ですわ。もう少しで魔法格闘術を先に覚え、王妃になりそうでしたわ。ですが、便利なのは事実ですわ」
まだベスは王妃になりそうだった事を気にしているようだ。
「トリス様が、ベスはもうツヴィ王国に嫁ぐ必要はないって言っていたし良いじゃないか」
「そうですわね。それに失礼な魔法使いは居なくなってしまいましたし、気にしていても仕方ありませんわね」
フレッドもベスの王妃が嫌に同意する。
「拙者も爵位から逃げた身。故に、ベス殿が王妃が嫌だったことは分かりますな」
「貴族としてのつとめははたしますが、王妃は流石に私の人生計画にはありませんわ」
「そうですな。拙者も家臣として兄上を支えるつもりでしたからな。爵位は要りませぬ」
二人の意見は必要以上に高い地位は要らないと言う事だろうか。地位には当然責任も付いてくるので、ベスやフレッドの言うように急にやれと言われて嫌がるのも分かる。
「ところでエド殿は、兄を亡くしましたが問題ありませんかな?」
「兄とは仲が悪かったから実感が薄いんだよね」
「拙者とは兄弟の感覚が全然違うようですな」
「俺と一緒に居たのはドリーだから、フレッドと似た感情はドリーに対してかな」
「拙者は兄上と仲が良かった為、少し寂しく感じますな」
「そうかもしれない。だけど仕方ないさ」
兄は俺とドリーに配慮する事はなかったし、気にかける様子もなかった。俺も兄のことをアルバトロスに移り住んでから気にかけた事はなかった。なのでフレッドに説明した通り、死んだと聞いた時から本当に兄が死んだのか実感が薄い。俺と兄が、フレッドとフレッドの兄のような間柄であれば直ぐに悲しんだろう。
歩き続ける事、五日目にしてターブ村らしき物が見えてきた。
「これは酷い」
「そうですな」
大半の建物は薙ぎ倒されており、火事にでもなったのか一部の建物は炭化している。俺はウォルターさんに訊ねる。
「よくこれで死者が出ませんでしたね」
「ドラゴンが配慮してくれなければ死んでいたでしょう。そう言えば伝え忘れていました、薬師のオジジにドラゴンに追いかけられた事情を聞きました。薬師のオジジは敢えてドリーがよく作っていた薬をばら撒いたらしいです」
「オジジは薬の匂いでドラゴンの注意を惹きつけようとしてたのか」
「そのようです。皆が逃げる時間ができるかと思ってばら撒いたが意味がなかった、と言っていました」
ドラゴンが最初から人を殺さない気でいるかは分からない、オジジが撒いた薬でドリーを思い出した可能性もある。
「エド、興味はないかもしれませんが、墓参りに行きませんか」
「もしかして兄の墓ですか?」
「ええ。正式な墓ではありませんが、灰を埋めてあります」
「分かりました」
俺はウォルターさんに案内されて、村の外れまで移動する。前までは無かった石を粗雑に組んである場所に案内される。
「これが墓です」
「そうですか」
死者に手を合わせるなどの作法はないため、俺は近くにあった花を取ると墓に添える。
「ウォルター、詐欺師の墓はありますの?」
「無しもどうかと思って作りはしました。ただ、流石に近くはどうかと思って離れています。案内しますか?」
「お願いしますわ」
俺は兄の墓に長時間いる気も無かったので、ベスに付いていく。離れた所に兄の墓と同じような墓がある。
「これですの?」
「そうです」
「では、少し離れていて欲しいですわ」
俺は嫌な予感がするので皆を下がらせる。
「嫌な予感がします。ウォルターさん大きく下がりましょう」
「分かりました」
ベスは俺たちが離れたのを確認すると、魔法格闘術を使ったと思ったら、気合を入れて墓に向かって殴りかかる。魔法格闘術を使ったことで墓が爆散して砂煙が立つ。砂煙の中からベスの声が聞こえる。
「ふう。気が済みましたわ」
俺は魔法格闘術を使ったとは言えベスが素手で殴ったのが見えたので心配になる。
「ベス! 手とか大丈夫?」
「問題ありませんわ」
砂煙の中からベスが出てきて手を見せてくれる。
「本当に問題なさそうだ」
「流石の私も石を殴るのですから、厳重に魔法を使っていますわ」
厳重に魔法格闘術を使えば素手で石を殴って、石を爆散させることは可能なのか? というかそんな事をして手は普通、無事なのか?
「ベス殿、普通は石を殴れば手は傷つきますからな」
「フレッド、私の手は無事でしたわ」
「ベス殿は拙者と同じように獣人なので体は頑丈かもしれませんが、無理はしない方がいいですな」
「普通は武器を使いますわ。一発殴るつもりだったので代わりに墓を殴っただけですわ」
一発殴るつもりで墓を爆散させるとは、詐欺師の魔法使いが生身だったらどうなっていたんだろう。
「詐欺師の墓が無くなってしまいましたわ」
ベスに言われて墓があった場所を見ると、砂煙が晴れており墓らしいものは無くなっている。
「もう一度殴りたくなった時に墓が欲しいですわ」
「え? まだ殴るの?」
「今日は気はすみましたが、明日は分かりませんわ」
明日なのか、アルバトロスに早く帰った方がいい気がしてきた。ベスは飛び散った石を集めると、石を積み上げる。
「小さくなりましたが、良いでしょう」
新しく出来上がった墓にベスは満足したようだ。
「エドも兄の墓を殴りませんの?」
「いや、俺はそこまで兄を恨んではないから」
「そうですか。私が代わりに殴っても良いですわ」
「必要になったら頼むよ。それに兄に追い出されたからベスにも会えたしさ」
「エドの兄が居なければエドと会えなかったんですね、そう考えると私は許せる気がしますわ」
どうやらベスは俺の兄にも怒っていたようだ、兄の墓はどうでもいいが、ベスの手が心配なので何とか宥める。
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