薬の製作
リオから薬を作るのを請け負ったのだから、急ぎ薬を作りに一度帰るべきだろう。あの病気は後遺症もあるので、早めに治した方がいい。
俺とドリーに付いていてくれた、屋敷のメイドさんに声をかける。
「すみませんがトリス様に、魔法協会に一度戻ってから、もう一度屋敷に来るとお伝え願えませんか?」
「かしこまりました」
席を離れる前に、リオに今日中には作って持って来れると思うと伝える。
「リオ、今日中には薬を作って持って来れるとは思う。無理そうなら、魔法協会から屋敷に連絡をお願いするから」
「分かりました。よろしくお願いします」
「リオ、ドリーに任せて!」
「はい、ドリー、よろしくお願いします」
俺とドリーは席を離れて、魔法協会へと帰る。薬師組合で足りない一部の素材を買いに行こうとも考えたが、ジョーの部屋に置いてあった筈なので、ジョーに分けてもらう事にする。
協会に帰ると、自室へと向かう。アンがまだ帰っていないと良いのだが、部屋に入るとアンとフレッドが居た。
「エド殿、戻ってくるには早すぎでは無いですかな? 忘れ物ですかな?」
「いや、薬が必要になったんだ」
「薬? 何の薬ですかな?」
「今日、宝箱から見つけた薬草で作る薬だ」
フレッドとアンが驚き、アンが確認してくる。
「それは、内臓と神経系が麻痺する病気ではありませんか」
「その通り、どうやら病気になった人がいるらしい」
「ですが、薬を作るには他の素材が必要です。苔はあると言っていましたが、本当に有るんですか?」
「この部屋に苔が有るから、手に入りにくい物は手持ちがある。後、足りてない普通の素材はジョーの部屋に有った筈だ」
俺が仕舞い込んでいた苔を取り出すと、アンが驚く。
「本当に苔があるとは。しかも結構な量では無いですか」
「ドリーの友達に感謝だね。ジョーの部屋に行こう」
「はい」
俺たちは荷物を持って、慌ててジョーの部屋へと向かう。起きているか心配だが声をかけてみる。
「ジョー、居る?」
「居るぞい」
「作りたい薬が有るから、分けて欲しいものがあるんだ」
「構わんぞ。というか、ワシもエドに聞きたい事があったんじゃ」
今は急いでいるのだが、と思いながらジョーに聞き返す。
「何?」
「前に薬に使う苔が有るとか言っとらんかったか?」
「それなら今持ってるよ」
「おお、本当に持っておったのか」
「ジョーも欲しいの?」
「いや、ワシが欲しいわけじゃ無いんじゃ。その苔を使った薬を作ろうと依頼が来て、皆血眼になって探しておるんじゃ」
もしかして、今から作る物と同じ物を、作ろうとしているのかもしれない。
「と言うことは、後足りないのはこれ?」
俺は宝箱の中身をジョーに見せると、頷かれる。
「そうそう、それ……! 何で持っておるんじゃ!」
「さっきダンジョンで宝箱から手に入れたんだ」
「奇跡じゃな、それならすぐに薬を作るんじゃ」
俺たちは必要な素材を集めて、作業台へと集まる。
「しかし、この薬はワシも作った事がないぞ?」
かなり珍しい素材を使うので、ジョーも作った事がなかったようだ。
「俺とドリーが作った事があるから、後は秘伝書を確認しながら作るよ」
「これを作った事があるんか」
ドリーが中心になって、俺が補助していく。ジョーが少しだけ、心配そうに聞いてくる。
「魔法薬を教えて、ドリーが薬作りが上手なのは知っておるんじゃが、大丈夫か?」
「薬作りは、俺よりドリーの方が才能があるんだ。回数こなせば俺も作れるけど、ドリーは一回目で作ったりするから」
ドリーの薬作りは天才的で、地球の知識が無ければ、俺は確実については行けなかった。
「魔法薬作りでもドリーは凄かったが、そこまでか」
「ドリーは凄いよ。田舎の薬師は、自分の子供にしか技術を教えないのに、ドリーは才能を見込まれて教えられたんだから」
「なるほどの」
ジョーも納得してくれたようだ。
作業を進め、必要な素材を混ぜる前の段階にまで持っていくと、一度に全部やって失敗はできないので、分けてやる事にする。
「一度に全部使わないで、分けてやろう」
「にーちゃ、わかった!」
ドリーが必要量を測り、混ぜ合わせていく。
「後は、につめる!」
ドリーが真剣な表情で薬を煮詰めていくと、出来上がったのか火から下ろす。
「できたけど、んー…」
「失敗したか?」
「ううん、薬になってるよ」
ドリーがジョーに質問する。
「ジョー、魔法薬にできる?」
「この薬を即興でか、流石に難しいと思うんじゃが?」
「お友達が苔を食べるときは、ひかってたの」
「光る?」
ドリーの話で思い出す、そういやトカゲが食べる時は光っているんだよな、この苔って。
「ジョー、この苔はトカゲが食べる時は光ってるんだ」
「食べる時だけ光るじゃと? どうなっとるんじゃ?」
「光らせてから食べているから、何か意味があるとは思うんだけど」
「うーむ。魔獣じゃったら、苔に魔力でも入れとるかもしれんが…」
ドリーが納得したように声を上げる。
「ドリー、魔力入れてみる!」
そう言うと、ドリーは苔に魔力を入れ始める。すると苔は光りだす。
「できた!」
「本当に光ったんじゃが…この苔、何なんじゃ?」
ドリーは、ジョーの質問に答える事なく、薬を作っていく。
俺もジョーに説明できるのは、トカゲの餌だたとしか言えない。
「分からないけど、トカゲの餌?」
「トカゲの餌のう。いや、待て光らせるのが魔力じゃったんじゃ、普通のトカゲじゃないじゃろ」
「そう言われると確かに?」
確かに、あのトカゲは魔力で苔を光らせていたのだから、魔獣では有ったのかもしれない。
「今度、そのトカゲが何者か調べておくんじゃ」
「分かったけど。何処で調べれば?」
「協会に図書館があるんじゃ。今度、時間がある時に案内してやるぞ」
なんと、協会には図書館まであるらしい。知らなかった。
「図書館が有ったんだ、知らなかった」
「二人はまだ、人から教わった方が早いからの。エマも教えておらんかったんじゃろ」
「なるほど」
そんな会話をしながら、ドリーの作業を見ていると完成したようだ。
「できた!」
「一発で魔法薬を成功させるとは凄まじい才能じゃな」
ジョーが出来上がった魔法薬に感心している。俺は、ジョーに魔法薬になっているか聞いてみる。
「ジョー、これは魔法薬になってるの?」
「見た感じは、なっとるとは思うんじゃが。少し分けて貰えるかの」
ジョーは、ドリーに少量の魔法薬を貰って、取り出した道具を使って調べていく。
「これは魔法薬じゃな。後はドリーが何の魔法を入れたかじゃ」
「治癒と病気が良くなるようにって!」
「それなら、問題はなさそうじゃな」
魔法薬を容器に移し替える。しかし、薬を作ったは良いが実は処置をした事がないので、必要量を秘伝書で見てみる。
「以前作った事はあるけど、処置はした事がないんだよね。秘伝書に書いてある量は満たしてると思うけど」
「どれ、ワシにも見せてくれ」
ジョーに、オジジから貰った秘伝書を見せる。
「確かに足りてはおるが、症状次第な所もありそうじゃな」
「だよね」
「魔法薬と、普通の薬を両方持ってたらどうじゃ」
確かにそれなら安心できそうだ。リオが、魔法薬を使いたがらない場合もあるだろうし。
「両方持って行こうと思うよ」
「今回は大仕事じゃからな。慎重に行くんじゃぞ」
俺はリオから薬を作って欲しいと言われただけなので、ジョーが大仕事と言うので俺より詳しく事情を知っていそうだ。
「ジョー実は詳しく話を聞いていないんだけど何か知ってる?」
「ん? エドが薬の製作依頼を受けたのは、ベアトリス様からじゃと思ったが違うのか?」
「トリス様からの依頼じゃないよ、今日はまだ会ってない」
「すると、誰からの依頼なんじゃ?」
「辺境伯の屋敷で、ドリーと同い年くらいのリオって男の子から」
「リオ?」
「リオの母親が、病気ぽいんだけど」
ジョーは驚きの表情をした後に、迷った様子で教えてくれる。
「エド、今回病気になったのは王太子妃殿下じゃ、つまりリオって子供は…」
「王族?」
「多分じゃが」
リオは偽名を名乗ってこちらに気を遣っていてくれたが、王族だったとは。
「ワシも詳しくは知らんのじゃ。アンの採掘道具と弓を作るのにワシも部屋に籠っておったんじゃ。じゃが行き詰まって良い案がないかと、金属に詳しい奴に意見を聞きに行ったんじゃが、それどころじゃないと教えられてな」
ジョーはアンが取ってきた鉱石に舞い上がって、ずっと部屋に籠って研究をしていたので、外の情報がなかったようだ。ジョーの事情は分かったが、薬を使う王太子妃殿下はアルバトロスに居るのだろうか?
「なるほど。と言うか、王太子妃殿下ってアルバトロスに居るの?」
「ワシも人伝にしか聞いておらんから、詳しい事は知らんのじゃ」
「屋敷に行って、聞いてみるしかないか」
「そうじゃな」
皆が手伝ってくれたおかげで、かなり早く薬を作り上げられた。すぐに、辺境伯の屋敷に持っていくべきだろう。
「ジョー、アン、フレッド手伝ってくれてありがとう。それでは行ってきます」
皆に挨拶をした後、俺とドリーは再び馬車に乗って、辺境伯の屋敷へと向かう。屋敷に着くと待っていたのは、ドリーの教育係で、トリス様のメイドさんである、アビゲイルさんだった。
「お待ちしておりました、案内致します」
「お願いします」
アビゲイルさんに案内されたのは、来た事のない一画の部屋だった。
「ベアトリス様、エドワード様とドロシー様をお連れしました」
「すぐに入れて頂戴」
俺たちが中に入るとトリス様や、他にも知らない人が多くいた。
「ドリー、エドよく来ました。それで、薬が作れると聞きましたが本当ですか」
「はい、作ってきました」
「ドリーが作ったの!」
ドリーの発言に周りが騒つくが、トリス様は気にした様子もなく。
「薬を見せて貰っても?」
「これです」
俺が専用の袋に入れた薬を、二つ渡す。
「二つですか?」
「一つは普通の薬で、もう一つはドリーが作り出した魔法薬です」
「この薬には魔法薬があったのですか?」
トリス様が勘違いしているようなので、訂正する。
「ドリーが先ほど考えだした、魔法薬です。魔法使いのジョセフからは、魔法薬になっていると言われました」
「先ほど考えだすとは、そんな事が可能なのですか?」
「ドリーなので…」
俺は何と言えば良いか迷い、ドリーなのでと誤魔化した。使うのが不安であれば調べて貰うべきだろう。
「普通の薬もあるので、使うかは任せます」
「そうですか。一度調べさせます」
そう言うと、トリス様は薬を周囲にいた人たちに渡して確認させるようだ。
「エドとドリーには、治癒の魔法をかけて貰うのに呼んだのですが、まさか薬を作り出せるとは思いませんでした」
「以前に一度作ってはいるので、材料が有れば作れるのです」
「一度作った事がある? もしや以前アルバトロスに流れてきた薬は、エドとドリーが作った物ですか」
「分からないですが、一年か二年前だったと思います」
「時期的にも合ってはいますね」
トリス様はやけに詳しい。今回の薬は珍しい素材が必要なため中々手に入らない薬で、市場に出回ったのを記録してあったのかもしれない。
トリス様は薬に必要な素材を、俺が持っていたのを不思議そうにしている。
「薬の素材はよく持っていましたね」
「今日、ダンジョンで宝箱を見つけて中に入っていました」
「宝箱を見つけて、更に中に入っているとは運がいいですね」
「後、苔は元々持っていたんです。ドリーの友達が餌にしていたので」
「ドリーの友達が餌ですか?」
「大きいトカゲなんです。俺とドリーは、普通のトカゲだと思っていたんですが、ジョーが魔法を使うなら魔獣だろうと」
ドリーの友達がトカゲで驚いているのか、トリス様は固まっている。
「トカゲで魔獣とは、もしやドラゴンではありませんよね?」
「そう言う感じではないですけど。後は食性が雑食ですが、基本的に苔を食べている草食でしたし」
「草食のドラゴンも居ます。ですが簡単に友達になれるような気性ではありませんから、違うと思いたいですね」
ドラゴンと言えば肉食だと思っていたので、草食のドラゴンも居るのかと驚く。ドリーの友達が、ドラゴンだと考えた事はなかったが、四つ足の恐竜ぽさは確かに有ったが、羽が生えてなかったのでドラゴンとは違うと思うのだが。
俺がドリーの友達について考えていると、先ほど薬を調べに行った人が戻ってきて、報告し始める。
「魔法薬にはなっているとの事です。普通の薬についても、王都から連れてきた薬師と、アルバトロスの薬師が、これ以上の物は作れないと」
「分かりました。エド、ドリー、王太子妃殿下の元へ行きますよ」
どうやら病気の王太子妃殿下はアルバトロスへと来ていたようだ。魔法で回復させながら、無理やり連れてきたのだろうか?
トリス様と共に移動していくと、扉の前に騎士が立っている部屋へ着く。
「薬を持ってきました、中に入れるよう手配を。この二人は魔法使いで薬師です」
「はっ!」
騎士が中に入って、確認をしに行ったようだ。
少しすると、騎士は戻ってきて入室の許可を出した。
「どうぞ、お入りください」
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