過去の罪
ライノが部屋に戻ってくると謝ってくる。
「すまんな、時間が掛かった。普段ギルド証を担当している職員が忙しくてな」
「拙者の為に、忙しい時にすみませぬ」
「いや。これも仕事だ、気にするな」
フレッドはライノからギルド証を受け取ると、協会の鍵と一緒に首に下げる。
「よし、以上だな」
「助かり申した」
「そう言えば。エド、組む予定の前衛はどうした?」
ライノに仲間を探していると相談したことを思い出す。
「フレッドと組む事になったよ」
「フレッドと組んでなかったら勧めようと思ったが、既に組んでいたか」
「協会で魔法を見せてもらったけど、凄かったからね」
「全盛期の私も、力では勝てる気がしなかったからな」
「獣人のライノでも無理なんだ」
「流石にな」
ライノならもしかしたらと思ったが無理なようだ。だが力ではと言うので技でどうにかしていたのかもしれない。
「そう言えば、俺とドリーも魔法格闘術が使えたよ」
「魔法格闘術?」
「ツヴィ王国の魔法を、リング王国ではそう呼ぶらしいんだけど」
「そうなのか。俺はツヴィ王国の魔法使いと言っていたな」
「魔法格闘術って呼び方を聞いた人からも、魔法格闘術は有名じゃないとは言ってたから」
「そうか」
ライノは名称に納得したと様子だ。少しすると驚かれる。
「ん? エドがツヴィ王国の魔法を使えるのか!」
「ドリーもだけど使えるみたい」
「そうなのか。私はツヴィ王国の魔法使いしか近距離での戦闘をしないから、リング王国の魔法使いは使えないのかと思ってたぞ」
リング王国の魔法使いなら誰でも魔法格闘術を使えると、ライノにどうも勘違いさせてしまった気がする。
「普通の魔法使いはどちらかしか使えなくて、例外が俺とドリー、後フレッドも両方の魔法を使えるんだ」
「そうなのか。ならエド、近距離での戦闘で困ったら聞きに来い」
「分かった。その時はライノに聞きに来るよ」
「ああ」
今度、ライノに色々教えてもらおう。
ギルドが忙しそうなので今日は雑談をせずに出ていくことにする。ドリーはライノにギルドを出るまで運んでもらい満足そうだった。
俺たちはギルドを出るとフレッドに必要な物を買いに行く。一箇所で全部は買えないので馬車に乗せながら買っていく、大体買えたので一度協会に戻って荷物を下ろす。
「エド殿、お金を出して頂き申し訳ありませぬ」
「気にしないで、俺もエマ師匠に似たようなことされてるから」
「うむ…」
エマ師匠は俺とドリーに色々買ってくれるが、返そうとしても受け取ってくれない。なので俺と似たような境遇のフレッドにエマ師匠と同じことをした。
「誰かが困っていたら同じように助けてくれれば良いから」
「そういう事ならば了解致した」
しかし買い物が終わって協会に戻ってきたが、ジョーの部屋に行くには時間が微妙だ。
「時間が微妙だな」
「ふむ、ではアン殿のところに行きませぬか?」
「それは良いかも。セオさんにも行くか聞いてみよう」
そう決まったらまずはエリザベス商会へと向かう。
「セオさん、今日も炊き出しを見に行きませんか?」
「構いませんよ」
「それなら一緒に行きましょう」
「準備するので少し待ってください」
セオさんが準備をしている間に俺たちは待っていて、アンの戦えるかもと言うことを事を思い出す。
「そう言えばアンが戦えるかもってセオさんなら知ってるのかな」
「拙者にも分かりませぬな」
「後で聞いてみるかな」
「そうですな」
準備が終わったセオさんと馬車に乗って貧民街へと向かう、馬車の中で先ほど疑問に思ったことをセオさんに聞くことに。
「セオさん、アンって戦えるかどうかって知ってます?」
「アンですか?」
「はい」
「知りませんが、彼女は薬師ですよね?」
「フレッドが、動きが戦える人の動きだって」
「そうなんですか?」
やはりセオさんも知らなかったようで、セオさんはフレッドに聞いている。
「拙者は、そう思っただけなのですが、間違っているかもしれませぬ」
「ふむ、分からないのでアンに聞いてみますか」
セオさんも俺と同じで直接聞くことにしたようだ。
「やっぱり直接聞くしかないですか」
「ですね」
その後は他の会話をしたり外を見ていたのだが、セオさんが思い出したように。
「そう言えば、アンですが獣人だと聞きました」
「獣人なんですか、そうは見えませんが」
「あまり見た目に出る獣人ではないようです」
「なるほど」
もしかしたら、アンは獣人だから動きが良く見えたのかもしれない。
そんな話をしながら馬車が進むと、炊き出し場所に着くと既に炊き出しは始まっていた。
忙しそうなので俺たちは手伝い、終わった後にアンに尋ねる。
「アン、聞きたい事があるんですが」
「エド、何でしょう?」
「アンって戦えるの?」
アンの顔が固まる、絞り出すように聞き返される。
「どこでそれを?」
「フレッドが戦える人の動きだって言うから気になったんだ」
アンは失敗したと言う顔をした。
「ここでは話しにくいので別の場所に移動しませんか」
「それじゃ遠いけどエリザベス商会に行く?」
「構いません」
どうやらアンには事情があるようだ、五人乗ると少し狭いが馬車に乗って移動する。
エリザベス商会の執務室でアンの話を聞く事にする。
「アン、無理に聞くつもりはなかったんだ。答えられることだけでいいよ」
「いえ、話しておきたいです」
「それなら聞くよ」
アンは少し考えた様子の後に話し始めた。
「私は元々貧民街の犯罪組織で盗みをやらされていました」
「犯罪組織で盗み?」
「はい。私はトカゲのヤモリに近い特徴を持った獣人なのですが、その特徴を利用して盗ってくるようにと言われていました」
「獣人の身体能力を利用していたのか」
「そうです。私は逃げ出したところでバーバラさんに拾われました。それからは薬師として生きています」
「そうなのか」
アンの髪の色は灰色の斑らで、ヤモリに似ていると言われれば似ている色だ。
俺がアンの話に納得していると、セオさんが慌てている。
「アン、貧民街に入って問題ないのですか?」
「セオドアさん問題なくなりました」
「なくなった?」
「犯罪組織は潰されましたから」
「もしかして…」
「セオドアさんが考えている通りです」
セオさんが、協会の馬車は攻撃されないと言っていた理由を思い出す、魔法使いに攻撃してくるバカな組織は滅多にないと言っていた。
そしてアンは犯罪組織が潰れたと言った、つまりアンが居た犯罪組織はエマ師匠とエレンさんに潰された?
何故かセオさんが隠しているので、俺は言葉にしないが予想は間違っていないと思う。
俺が予想している間にも、アンとセオさんの会話は続いている。
「私も実は少しくらい組織に復讐をしたかった。でも組織が消えてくれるならそれでいい」
「そうですか」
「だからエリザベス商会には感謝しているのです」
「そうだったんですね」
「貧民街で炊き出しや水車を率先して受けているのは、バーバラさんの弟子で私くらいしか戦える人がいないからです」
「分かりました」
アンは話を一度区切って、改めてセオさんに聞いている。
「私は商会をクビでしょうか?」
「利用されていただけと言っていますし気にしません、それに過去にやっていたことは本当か分かりませんからね」
「良いんですか?」
「正直に言うとアンを雇うのを辞めたらエリザベス商会が立ち行きません」
「それは…」
セオさんが完全に嘘ではないが、嘘を混ぜて言っているのは分かる。
そもそも今のエリザベス商会の目的は貧民街の援助であり救済だ、貧民街で犯罪に関わっていない人の方が少ないかもしれないのだ。
俺と同い年のアンが過去に犯罪を犯していたかもしれないからと、見捨てていたら話が進まなくなってしまう。
俺はそれをアンに伝える事にする。
「アン、君が過去に犯罪をしていたと言うのは、薬師になっている年齢からするとかなり幼い頃じゃないか?」
「そうです。今のドリーより幼かったと思います」
「エリザベス商会の貧民街への対策は、アンのような人を助け出すためだと思っている」
「ですが私は…」
「予想しかできないが、アンは犯した罪を償いたいのでは?」
「そうかもしれません」
「なら、今の活動を続けて子供達を救って行ってくれ」
「…はい」
何とかアンを説得できたようだ。
黙って聞いていた、フレッドがアンに申し訳なさそうに謝っている。
「拙者が余計な事を言ってしまったようですな」
「いえ、いつかは言うべきだと思っていましたから」
「ふむ、では拙者たちとダンジョンに行きませぬか?」
「「「「え?」」」」
フレッドは、フレッド以外の皆が混乱する事を言い始めた。
「いや、贖罪は良いが、いつまでも続けられる物ではないであろう?」
「ですが私は」
「そう言うところが危ういと思うのだ、なのでダンジョンで稼いで違う方法も知っておくのも良いと思うのですな」
俺はフレッドの言いたい事が理解できた、確かに終わりが見えない事をやり続けるのは難しいだろう。
ならばフレッドの言う通り、アンをダンジョンに誘うべきだろう。
「アン、良かったらダンジョンに行ってみないか」
「エド、ですが…」
「とりあえずは試しだ、嫌なら辞めていい」
「…分かりました」
「決まりだ」
「はい」
アンが迷った様子を見せたので、強引にダンジョンに誘う事に成功した。
「ところでアン、装備とかはある?」
「捨ててしまいました」
「そうか、なら作ってもらうか、あまり物がないか聞いてみようか」
「あまり物ですか?」
「そう、知り合いの魔法使いが作ったものを放置してるんだ」
「魔法使いが放置?」
「そう」
「魔法使いが作った物、つまり魔道具では?」
「大体そうかな?」
余っているものが魔道具だと言うと、アンが慌てる。
「流石に魔道具はダメです」
「好きにして良いって言われてるし、気になるなら俺が作るよ。簡単なものしかまだ無理だけど」
「どちらもダメです」
「ダメ?」
「ダメです」
アンが魔道具を受け取ってくれそうにない。ジョーも余らせてるし俺が作るのなら価値はないんだが。
俺とアンの会話にセオさんが参加してくる。
「エドさん、魔道具は高いものですから、アンが断るのも分かりますよ」
「高いと言ってもダンジョンで素材を取ってきて、俺が作ればお金かかりませんから」
「その時点で十分高いのです」
「そうなんですか?」
「そうなんです。エドさんが作った物でも十分に売れるものになりますよ」
「腕輪については作ってもらいましたが、後は余物だったので実感がないんですよね」
俺の説明にセオさんは若干呆れたように、話を続けてくれる。
「魔法使いはエドさんのようになりがちとは聞きましたが、実際見ると商人として何とも言えませんね」
「実際ジョーが作ったのとか部屋に転がってますからね」
「魔道具が転がって」
「はい、埃かぶってます」
「商人からすると頭を抱える状態ですね」
確かに酷いと言えば酷いのかもしれないが、地球の知識で言うとちょっと高い量産品の電気製品くらいのつもりだった。
「そんなに高いんですか魔道具って」
「高いですね、素材も特殊ですし注文して作るものなので」
「そう言われるとそうなのかな?」
素材の素材を魔力で変化させ、そこから更に作るので魔力は必要だが大変だという認識がなかった。
「魔力を使うだけだと認識していたので常識からズレたのかも?」
「魔法使いは自分で作れますから、仕方のないことではありますが」
フレッドが俺とセオさんの話に補足してくれる。
「エド殿は拙者と同じくらい魔力が多いので、魔道具を作るのに使う魔力が気にならぬのでは?」
「そう言えば、魔力は多いって聞いてたけど、魔道具作ったくらいじゃ減った気がしないのかも?」
「拙者は滅多に魔道具を作りませんが、似たような経験がありますな」
「なるほど」
話が噛み合わないのは魔力量の問題もあったようだ。
魔道具が高いのは分かったが、アンがダンジョンに一緒に潜るのであれば、魔道具を遠慮されても困るのは事実だ。
「アン、高いのは分かったけど必要な魔道具だけは持ってよ」
「私は普通の道具で十分ですが」
アンは中々持ってくれようとしない、とりあえず武器を聞くことに。
「それじゃアンの武器は何を使うんだい?」
「武器というか鍵開けが得意でした、武器は弓か短剣ですかね」
「鍵開けはギルドで買ったのがあるな、お守りみたいなもんだって言われて買ったんだけど」
「ダンジョンの宝箱用ですか」
「そうだね。後は弓は俺とドリーも使うから弓は予備があるよ」
「予備ですか」
弓はジョーと練習で何張か作っており余ってはいる、ジョーとの練習なので魔道具だが。
「魔道具だから嫌なら普通の買っても良いけど、矢は魔道具の矢を持ってて欲しいかな」
「矢って消耗品ですよね?」
「無くせばそうだね、結構丈夫に作ってるから回収できれば何回か使えるよ」
「そうなんですか」
「今のところは、毎回魔道具の矢を使うわけじゃないから」
「普通の矢も使うんですね」
「流石に効率悪いしね」
アンは多少は納得してくれただろうか、後は短剣だが。
「短剣が問題かな」
「短剣がですか?」
「俺が魔道具を教わってる人が、短剣とかで効果調べるから一杯転がってるんだよね」
「全部魔道具なんですか?」
「うん」
アンは絶句している、ついでにセオさんを見ると欲しそうな顔をしている。
「嫌じゃなければ適当に貰ってくるよ?」
「いえ、とりあえず普通ので良いです」
「分かった」
短剣は魔獣や動物相手だと近すぎて、解体する時くらいしか使わないだろうし良いだろう。
「後は試したい武器があったら言ってくれれば用意できるから」
「分かりました」
「そのくらいかな、ダンジョンに行く時はまた声をかけるよ」
「はい」
アンの過去は書くか迷いました。普段は補足を後書きでしないのですが補足します。
貧民街の児童に対する公的な支援はほぼ無い状態で、バーバラのような個人が支援しているだけです。
その状態も含めて貧民街をどうにかするためエリザベス商会はできました。
過去の罪は消える事ないですが、判断能力の乏しい子供の頃に命令をされて犯罪をした場合などは、どこかに更生の余地は必要だと考えています。
なるべく不快にならないようにしたつもりですが、作者の力量不足で不快に感じたら申し訳ないです。
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