フレッドの事情
アンの説得に成功したような、してないような不思議な感じで終わり。アンは帰る事になり、セオさんがバーバラさんに用事があると送って行った。
俺、ドリー、フレッドは魔法協会へと戻る事にする。
「フレッド、アンのこと助かったよ」
「拙者はエド殿の、誰かが困っていたら同じように助ければ良いと言ったのを、実行したのみですな」
「ああ、早速実行してくれたのか納得したよ」
「拙者にも下心はありましたがな」
フレッドがアンに下心?
「下心?」
「炊き出しで出会ってから毎日会っておりましたからな、下心というよりは友情とかですかな?」
「友情か、フレッドはアンが好きなのか?」
気になったので俺は、フレッドに直接聞いてみた。フレッドは俺の質問に迷った様子で。
「好きとはまた違うのですが、久しぶりに人と話したのがアン殿だったので、人恋しかったのかもしれませんな」
「久しぶりに人と話した?」
「そう言えば、拙者の事情を詳しく話しておりませんでしたな」
フレッドは悩んだ様子の後に、切り出してくる。
「後で、少し時間を頂けませぬか」
「俺は構わないけど」
「何故に拙者がリング王国へと来たか説明致す」
「分かった」
馬車の中で話すことではないのだろう。協会の部屋に戻ってから話す事になった。
協会に戻って部屋に入ると、話を始める前に飲み物を用意した。
フレッドが飲み物を一口飲んだ後に、事情を説明してくれる。
「ツヴィ王国の貴族には強い者が爵位を継ぐのが推奨されていましてな」
「強い者?」
「そうですな。それでツヴィ王国の貴族は、リング王国と同じく殆どが魔法使いで占められておりましてな」
「つまり魔法格闘術が強い人が爵位を継ぐの?」
「推奨なので絶対ではありませんが、多いですな」
「でも、それがフレッドと何の関係が?」
「拙者は爵位を家臣たちに継がされそうになったので、家を出ましてな」
以前トニーさんがツヴィ王国で修行で国外に出るものは、事情があると言っていた。事情とは爵位の事なのか。
「フレッドが継ぐのはダメだったの?」
「拙者、実は養子なので実子の兄に悪いと思いましてな」
「養子なんだ」
「親は獣人ではないとエド殿に説明したであろう? 兄は普通の人でしてな」
「そう言えば親とは違うと言っていたね」
「兄とは魔力はほぼ同じなのだが、獣人としての身体能力を合わせると拙者の方が強くてな」
獣人は普通の人より身体能力が高いので魔力量が同じだと結果は身体能力の差になるのか。
「魔力量が同じだと獣人として勝ってしまうのか」
「その通りでしてな。拙者は兄とも仲が良かったですし、兄や親も拙者が爵位を継ぐことに納得していたのですが、拙者が納得できませんでな…」
フレッドは養子であり、しかも獣人であることで勝ってしまい。
強い者が継ぐ決まりならまだしも、推奨なので迷ってしまったのかなと俺は理解する。
「それで家を出てきたのか」
「そうなのですが、家を出たら出たで色々後悔しましてな」
そういやトニーさんが、修行してるのは破滅願望があると言っていたが、フレッドも同じような状態になったのか。
「自分でも荒んでいた自覚がありましてな、そんな時にアン殿に出会いましてな」
「それでアンを助けたかったのか」
「その通りですな」
フレッドが事情を話してくれたのだから、俺とドリーの事情も話すべきだろう。
フレッドなら秘密を簡単に話すとは思えないし、秘密にしてほしいと頼む。
「フレッド、俺とドリーの秘密も聞いてくれ」
「秘密ですか?」
「ああ、誰かに聞かれても秘密にしておいて欲しい」
「分かり申した」
俺はフレッドに、生まれた村のことや、アルバトロスでの事を話す。
「拙者がちっぽけに見えるほど壮絶ですな」
「悩みや抱えてる事は、小さい大きいの問題ではないと思うけど、フレッドだって大変だったろ」
「そう言われるとそうですな」
俺の言葉にフレッドは納得した様子だ。
「生まれた村のことについては、秘密にしておいて欲しいんだ」
「エド殿が騎士になるなら秘密にした方がいいですな」
「フレッドもやっぱりそういう事情は分かるんだ」
「辺境伯ほど大きい家ではありませんでしたが、貴族ではあったのでな」
フレッドは俺とドリーの秘密を守ってくれるようだ。
しかし、フレッドの言い方だと実家は辺境伯に近い位の貴族なのでは?
フレッドに直接は聞き難いのでツヴィ王国とリング王国の貴族の違いを聞いてみる。
「ツヴィ王国でも俺みたいに騎士になる人はいるの?」
「いますな。リング王国とツヴィ王国は貴族制度と身分制度がほぼ同じですな」
「そうなんだ。魔法使いは魔法使いの地位なの?」
「同じ魔法使いの地位ですな。双子の王国と言われてるだけあってそっくりですな」
「そう言えば双子の王国といわれるのは勉強したよ」
「では、軍事同盟については知っておりますか?」
「軍事同盟?」
まだ軍事同盟については勉強していない。俺が知らないのを察したのかフレッドが説明してくれる。
「ツヴィ王国とリング王国は軍事同盟を結んでいるので、どちらかが戦争になると援軍を出しますな」
「そうなんだ。知らなかったよ」
「両王国は軍事同盟もあって戦争は普通起きませんからな」
「起きない?」
「どちらも侵略は興味がないので、侵略されない限りは戦争は起きないのですな」
「そう言えば、生まれてから戦争って聞いたことないかも」
「他国はツヴィ王国とリング王国に手を出したくないんですな。戦争になればツヴィ王国が前線でリング王国が後方から魔法で一掃しますからな」
なるほど。テレサさんに教わったリング王国の騎士はツヴィ王国の魔法使いを参考にして動いているのか。
しかしリング王国の魔法使いが後方から魔法で一掃したら、ツヴィ王国の魔法使いは死なないか?
「それってツヴィ王国の魔法使いも死なない?」
「魔法を使っていれば死にませんな。大規模魔法をされたら流石に無理ですがな」
「魔法格闘術って魔法に耐えれるのか。そう言えば大規模魔法は魔獣にしか使わないって聞いたね」
「軍の全員が魔法使いではないですが、ツヴィ王国もリング王国も魔法使いが多い国ですからな。ツヴィ王国とリング王国を相手するなら大量の軍人を用意するか、同数の魔法使いを用意できないと勝ち目がないですな」
「なるほど、戦争を仕掛けて来ないわけだ」
フレッドの言う通りなら、相手からするとリング王国とツヴィ王国の同盟は恐ろしい相手だろう。
フレッドと話し込んでいると、だいぶ話が逸れてしまった。そろそろジョーの所へ向かっても良さそうな時間だ。エマ師匠を訪ねると一緒に行くと言うのでジョーの部屋へと向かう。
「ジョーできた?」
「おーできとるぞ」
「本当だ、盾なのに早いね」
「ワシの魔法にかかれば、この位は一日じゃ」
本当に盾が一日でできるとは魔法って凄い。
「後は剣だな、あまり物だったから微妙じゃができとるぞ」
「え! 剣までできてるの?」
「ワシにかかればな、ガハハハ」
ジョーはなんと盾だけでなく、剣まで作っていた。凄すぎだろう。
「と言うのは冗談じゃ。元になる部分は剣も盾も有ったんじゃよ」
「びっくりした」
「それでも早い方だとは思うんじゃがな」
「早い方というか、早いね」
流石に元になる盾と剣は有ったらしい、驚いた。それでも早くて驚きだが。
「ということでフレッド確認してみるんじゃ」
「おお、感謝致す。ジョー殿」
「いいから、確認してみろ」
フレッドはジョーに促されて盾を確認している。
「少し軽いですが十分に使えそうですな」
「元の盾がツヴィ王国の魔法使い用じゃないからな、軽いのはどうしようもないんじゃ」
「軽くても分かっていれば使いこなせますので、問題ありませんな」
「ワシとしては重い物をさっさと作り直しておくべきだとは思うが、金と素材を頑張って集めるんじゃな」
「そうですな、分かり申した」
重そうな盾だが、フレッドには軽いらしい。
元々どんな大きさの盾を使っていたのか。
「後は剣だが、本当に余物だな。魔道具にした時に頑丈にはしてある」
「拙者は、刃がなくても重さがあれば十分ですな」
「それは棍棒でも良さそうだな」
「使えなくはありませんが、拙者は剣で覚えましてな」
「棍棒も使えるんか」
「あまり得意ではありませんな」
「次作る時は参考にしとくんじゃ」
「では素材とお金を貯めないといけませんな」
フレッドの戦闘は聞いている限りは、力でねじ伏せるような戦い方なのだろうか?
「現状だとそんなもんじゃな」
「十分ですな、感謝致す」
「それじゃ受け渡しは終わりじゃ、エドは今日はどうする?」
ジョーに今日はどうするかと言われるが、素材がもう無いんだよな。
「素材がもう無いんだよね」
「ふむ、ダンジョンに行ってないからか」
「今日もう一人誘ったから、明日か明後日には行けると思うんだけど」
「もう一人誘ったのか、それの装備はいいのかの?」
「魔道具は高すぎるって言われて」
「あー、もしかして魔法使いでは無いんか」
「そうなんだよね」
ジョーが納得した様子だ。
「なら仕方ない、魔道具は買うと高いからのう」
「やっぱそうなんだ」
「うむ、物によるが基本は特注じゃからの」
「なるほど」
俺は、シャンプーとトリートメントを自作した時のお金や、エリザベス商会から入ってきているお金も、ほぼ使っていない。なので俺はかなり節約していると思っていたが、実は違ったようだ。
「ちなみに、俺が作った魔道具でも高いの?」
「エドが作っても高いぞ。魔法使いが作っとる時点で高くなるんじゃ」
「なるほど」
ジョーに詳しく値段を聞いていくと、俺が思っていた値段の10倍くらいして驚く。
「そんなに高かったのか、それは拒否される」
「魔法使いからすると自作できるから分からんくなるんじゃ」
「確かに。全然分かってなかった」
もうちょっと魔道具は大事に使うべきだろうかっと考えていると、ジョーが注意してくる。
「だが魔道具を大事にしすぎてはいかんぞ、所詮は消耗品じゃ」
「確かに魔道具で命は買えないし、魔法使いなら作れるか」
「そうじゃ、ダンジョンなんかじゃと特にじゃ」
「分かったよ」
ダンジョンに潜る時の心得として、ジョーの忠告を俺は忘れないようにしようと思う。
「ところで素材がないなら部屋のを使ってもいいぞ」
「どうしようかな」
迷っていると思い出す、実はターブ村から持ってきた素材があるのだ。
「そういや一個だけ素材がある」
「なんじゃ?」
「苔なんだけど」
「苔?」
苔なんて素材は珍しいのでジョーも知らないようだ。
「ダンジョンに苔なんてあったかの?」
「ダンジョンじゃないんだ」
「それなら何処で?」
そういやジョーには俺の出自を言ってなかったことに気づく。
どうしようか迷いエマ師匠に相談しようとすると、ドリーと遊んでいた。
「エマ師匠すみません」
「エドどうしました」
「ジョーに俺とドリーの魔法使いになる前の話をしていないことに気づいて」
「ああ、ジョーなら問題ないでしょう、口が硬い以前に協会からあまり出ませんから」
エマ師匠がジョーに言うことは問題ないと保証してくれた。答えた後、エマ師匠はドリーとの遊びに戻ってしまった。
「ジョー、素材の取ってきた場所なんだけど」
「なんじゃ、ややこしそうじゃな」
「聞いてもらえる?」
「うむ。エドとドリーは弟子じゃからな」
いつの間にか俺とドリーはジョーの弟子だったらしい、嬉しく思いつつ、俺とドリーの出自について話していく。
「それは大変じゃったな」
「大変だったけどアルバトロスで魔法使いになれたから結果的には良かったよ」
「そうか。秘密は守っておくんじゃ」
「お願いします」
ジョーは秘密を守ってくれるようだ。
「で、エドが言っていた苔ってなんじゃ?」
「苔は苔なんだけど」
「うむ?」
「ドリーの、友だちのこけ!」
ドリーは先ほどまでは会話を聞いていなかった様だが、今回は聞いていたようでドリーが反応する。
「そうそう、ドリーの友達から貰った苔だよ」
「うん!」
流石にそれじゃジョーも分からないので説明する。
「村に住んでいた時に、ドリーと仲の良い巨大なトカゲが居て食べていたのが苔なんだ」
「色々と突っ込み所はあるんじゃが、その苔は素材にできるのか?」
「薬にはしたことがあるよ」
「それならば使えるじゃろが」
ジョーも苔は素材として馴染みがないようだ、俺も苔で使うのはトカゲが食べていた苔くらいしか知らない。
「魔道具として何か使えないかな?」
「いや、ワシも使った事がないのは無理じゃな、研究するか?」
「研究するほどは量がないんだよね」
「それなら薬にしたらどうじゃ」
「素材が足りないんだよね、結構珍しいものが必要なんだ」
「なら揃うまで待ちじゃな」
ターブ村でも一度しか作った事がないし、アルバトロスでも素材を見た事がない。なので作るのは当分先になりそうだ。
幸い苔は乾燥させた物で保存が効くので放置するしかないだろう。
「なら仕舞っておくよ」
「そうしておけ」
「でも、そうすると何しようかな」
「ふむ、ならシカでも食いにいくか?」
「そう言えば、ジョーに渡したシカはまだ食べてないの?」
「まだじゃ。そもそもあんな大きいシカは、一人じゃ無理じゃい」
「それなら、一緒に食べようかな」
結局その日は魔道具や魔法薬を作らず、俺たちは皆で食堂に移動して、食堂の料理人に狩ってきたシカを調理してくれないか交渉すると、料理人はシカを料理してくれたので皆で食べることになった。
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