ダンジョンに行く許可を取る
今日の訓練を終えれば、魔法使いとして名乗るに十分と言われた指向の訓練も、もう終わりだ。
「ベス、エド、ドリー、魔法使いとして名乗るに十分な技量を手にしましたね」
「エマ、ありがとうございます。お陰で魔法を使えるようになりましたわ」
「エドの説得と協力がなければ、ここまで早く魔法が使えるようにはなりませんでしたよ」
「そうですわね。エドもありがとうございます、助かりましたわ」
「ベスの努力が有ってこその結果だよ」
まだ魔法使いの勉強は続くが、一段落ついたことで、ベスは喜んでいる。
とりあえず、魔法使いと名乗れるくらいにはなったベスに、トリス様も安心することだろう。
魔法使いになると、別のダンジョンという不安がトリス様にはあるだろう。
ベスは、トリス様への説明と説得を、どうするのだろうか。
そんな俺の心配をよそに、ベスはドリーと喜んでいる。
「ドリーも、ベスといっしょに魔法使い!」
「ええ、そうですわ」
そんな様子を見ていると、エマ師匠が、これからは各流派の基礎を教えると言う。
「今後は、各流派の基礎を教えていきます」
「ベスが治癒の魔法を覚える時に一緒に見せて貰った、人体の解体書のような物ですか?」
「はい」
治癒流派が勉強する時に使う人体の解体書は、エマ師匠が持ってきて皆で見てみたが、思った以上に精密に書かれていた。だが皆平気そうな顔で見ていた。
というか、ベスは見るのを躊躇していた割には、しっかり見て人体の弱点などを覚えれば、力の鍛錬に使えそうだと、一番エマ師匠に質問していた。
「ただ、解体書のように手に取って分かるような物は無いので大変です。なので各流派の基礎が終わったら、極めたい流派を決めて覚えるべきですね」
「私は鍛錬のために、治癒は決まりですわ」
「ドリーも!」
「治癒でも、病気を治すのか、怪我を治すのでは、少し違ってきます」
「私は、怪我が優先ですわ」
「ドリーは、病気」
「どちらも順番に教えますね」
「もしかして、エマはどちらも覚えているのですの?」
「そうですね。どちらかと言えば、病気の方が得意ではありますが、怪我も治せますよ」
エマ師匠はベスに勉強を教えているので、治癒の仕事は基本していないが、辺境伯の屋敷から早めに帰ると、魔法協会で呼ばれて魔法を使っていたりする。
「それでエマは、治癒の魔法使いと呼ばれているんですの?」
「私のあだ名ですね。いつからかそう呼ばれ、自分でも名乗る様に成りました」
エマ師匠ほど病気と、怪我を治すのに特化している人は、協会でも珍しいのかもしれない、だからこそ治癒の魔法使いなのだろう。
「エドは、どの魔法を極めたいですか?」
「俺はやりたいことが多すぎて、まだ決めれてません」
「普通はそういうものですね。ベスのように、割り切っている方が珍しいです」
確かにベスは完全に割り切っている、普通は色々試して迷う人も多いのか。
「色々試す人が多いんですか?」
「どの流派も関係のないことは珍しいですから。私もエドたちのポンチョの布は、錬金で作ったりして試していますからね」
そう言えば、エマ師匠から貰った布は魔道具で、筋肉痛が治るだけの布だった。
エマ師匠は製作費が高い割に微妙と言っていたが、俺にはテレサさんの鍛錬があった為に、かなりの効果があった。
「そう言えばそうでした。エマ師匠は筋肉痛が治るだけで微妙って言ってましたが、俺には役に立ってますよ」
「私は役に立たないと思っていましたが、エドのように厳しい鍛錬を続けている人には、良いかもしれませんね」
「作る費用が高いと言っていたので買える人は限られそうなのが残念です」
「そうですね」
エマ師匠との今後の話も終わり、テレサさんとの鍛錬をする。
今日もまた息も絶え絶えとなった俺は、風呂に入って一息ついた後に、部屋へと案内される。
部屋でベスたちと合流すると、ベスは少し興奮した様子で。
「それではエド。魔法使いになったのだから、ダンジョンに入れますわ」
「それはそうだけど、トリス様に許可を貰わないと、流石に無理だよ」
「分かっておりますわ」
「と言うか、許可って貰えるの?」
「エドは、リング王国の貴族がダンジョンに挑む事を推奨する、と言う知識は習いましたか?」
「まだ習ってないけど、そんな危険な事を推奨しているの?」
「習っていませんか。推奨しているのです。詳しくはある程度の爵位がないと、言えませんが」
「爵位が必要な秘密か。推奨されてるから、トリス様が許可を出す可能性が高いって事?」
「その通りですわ」
ベスには、ダンジョンに行く算段があったようだ。
しかし、貴族がなんで危険なダンジョンに、行く事を推奨してるんだろうか?
だが以前にライノから、冒険者ギルドに登録している貴族が、意外と多いと聞いた理由は、今ベスから聞いた推奨されている事にありそうだ。
ダンジョンに推奨しているのはなぜかと考えていると、ベスはトリス様に連絡をするようだ。
「魔法使いになった事と、ダンジョンについてお母様に伺いますわ」
そう言うと手紙を書いて、メイドさんに渡すと、届けるようにいう。
「ところでベス、最初はゆっくり進むけど問題ない?」
「分かっておりますわ。私だって、死にに行くつもりはありませんわ」
「そう言ってくれると、俺も安心できるよ」
「ドリーも行くのであれば、無理はできませんわ」
そう言えば改めてドリーには、ダンジョンに行くか、聞かなければならないだろう。
「ドリーはどうする、エマ師匠やトリス様と待っていても良いんだぞ」
「にーちゃと、いく!」
ドリーは置いていかれると思ったのか、俺に抱きついてくる。
「ドリー、危ない場所だから無理しなくても良いんだぞ。最初は危なくないと聞いているから問題ないと思うが、嫌になったらいつでも言うんだぞ」
「ドリーも、いく!」
ドリーは意地でもついて行く気になってしまったようで、俺の話を聞いていない。
困ってしまうが、最初は危険はそうないと聞いているので、段階的にドリーの気持ちを聞いていけば良いだろう。
意地になってしまったドリーを、ベスが宥めてくれる。
「ドリー、置いて行きはしませんわ」
「ドリーは、ベスとダンジョンいく」
「そうです。私がドリーを守りますわ」
「ドリーは、ベスを守る!」
「あら、エドの仕事が取られてしまいましたわ」
どうやらドリーの方が、ベスの騎士になってしまいそうだ。
「なら俺は、ベスもドリーも守るよ」
「お願いしますわ」
「にーちゃ!」
ドリーの機嫌が治ったところで、メイドさんが丁度戻ってきて、トリス様が話を聞くと言うので部屋を移動する。
「ドリー、エド、ベスよく来ました」
ドリーは、トリス様に抱きついて挨拶をした後、隣に座る。
「お母様、私は魔法使いに相応しいだけの技量を手に入れました。それでお願いが、ありますわ」
「分かっています。ダンジョンの件ですね」
「はい、許可は頂けますの?」
「本人が望んで、魔法使いとしての力があるのですから、仕方ありませんね」
ベスが喜ぶ前に、テレサさんが話に入ってくる。
「ベアトリス様、よろしいでしょうか」
「テレサ、何でしょう」
「私もエリザベス様と共に、ダンジョンに入る許可を頂けますでしょうか」
「残念ながら、それはできません」
「何故ですか!」
俺はベスの護衛騎士であるテレサさんも、一緒にダンジョンに入ることになると思っていたが、違うようだ。
「テレサ・フォン・アッダ、あなたは当家に所属する騎士ではありません。私に命令する権限は無いのです」
「では、私の判断でダンジョンへと向かいます」
「それはテレサが現在受けている命令の範囲を、超えていると判断される可能性が高いです。命令違反となれば、軍所属の騎士を辞めると言うことですよ。テレサ、軽く言って良いことではありません」
「軽く考えている訳ではありません」
「女性で騎士を必死に目指し、騎士となったテレサが、ベスのために騎士を辞めるなどと、私は国王陛下になんとお伝えすれば良いか分かりません」
テレサさんは、辺境伯が任命した騎士ではなかったようだ。
貴族の知識として習ったのだが、リング王国で辺境伯は騎士を任命することができる。だが叙爵することはできない。
叙爵可能なのは国王陛下だけで、フォンが付く場合は、国王陛下から叙爵された者だけだ。
テレサさんが騎士の家系か、軍所属になったことで騎士になったかは分からないが、命令違反となれば騎士の身分を剥奪される可能性もあるだろう。
ベスは、騎士である事を捨てようとするテレサさんを止めている。
「テレサ、私のために騎士を辞めるのはダメですわ」
「私は、エリザベス様の護衛騎士なのです」
「私は、それ以上に感じております。私の我儘を聞き、鍛錬を付けてくれました」
「エリザベス様は、昔の私にそっくりなのです。私は騎士を目指して、周りが止めようとも必死に鍛錬を続けました…」
「確かに似ております。ですが、私の目標は騎士ではありません。必死に鍛錬を続け騎士になったテレサを、騎士から辞めさせるなど、私はしたくはありませんわ」
「エリザベス様」
「死にに行くつもりはありません。鍛錬の続きをしようと思っています。テレサは騎士として、師匠として、私を見守って欲しいですわ」
テレサさんはベスの説得で黙り込み、考えた様子の後にベスに返事をする。
「エリザベス様、分かりました。騎士として、お帰りをお待ちしております」
「頼みますわ」
ベスは、何とかテレサさんの、説得を成功させたようだ。
俺も、テレサさんが騎士を辞めてまで付いてくると言った時は驚いたが、何とか踏み止まったようで良かった。
トリス様も安堵した様子で。
「テレサが騎士のままで居てくれるようで安心しました」
そしてトリス様は、ベスに改めて聞いている。
「それとベスには聞くことがあります」
「お母様なんですの?」
「先ほど死にに行くつもりはないと言いましたが、ダンジョンが危険なことはわかっていますね」
「勿論ですわ」
「エドも一緒でしょうから、止まれと言われたら、止まるんですよ」
「わかっております。それに、ドリーも一緒ですわ」
「ドリーも?」
ベスの話を聞いたトリス様は、慌てた様子でドリーに確認する。
「ドリーも、ダンジョンに行くんですか?」
「うん!」
「ダンジョンは危ないですよ」
「ドリーも、魔法使い」
「そうですが…」
トリス様は困った様子で、俺を見てくる。
「俺とドリーは、元々猟師のような生活をしていたので、浅い場所なら問題はないと聞いています」
「ですが、無理に行かなくても良いのでは?」
「そうなんですが、先ほどドリーに確認したら、絶対に行くと言われてしまって」
「エドと、離れるのが問題ですか」
「おそらくは。浅い場所を超える前に、もう一度確認はしたいと思っています」
「それならば、良いかもしれません」
トリス様は自分の娘の事より、ドリーのことの方が、よっぽど心配してる気がしなくもない。
「ドリー、楽しみなのは分かります。ですがダンジョンが嫌になったら、私でもエドでも良いから言うのですよ」
「にーちゃ、ベス、ドリーで行くダンジョン、たのしみなの!」
話が通じているのか、いないのか、ドリーの返答に、トリス様はあたふたとしている。
そんなトリス様を見たベスが。
「お母様問題ありません。私もエドも、しっかりドリーを守りますわ」
「ベスはともかく、エドなら」
「お母様!」
本当にベスへの対応が、トリス様はおざなりだ。
「お母様、そこまで娘を心配しないのは、どうかと思いますわ」
「心配はしておりますよ、諦めの方が強いだけで」
「諦めって、それは酷くありませんの?」
「ベスは決めたら絶対に諦めませんから、貴族がダンジョンに行く理由も、本来は階位の高いものが気軽に使って良い理由ではありませんよ」
「分かっておりますわ」
「分かっていても強行する所ですよ。私が諦めているのは」
ベスが言っていた。貴族はダンジョンに行く事を推奨すると言うのは、どうやら本来は簡単に許可されるものでは、無いのかもしれない。
ベスについて諦め気味なのは、トリス様が以前、ベスは冒険者に成ると決めたら、屋敷を抜け出してでも、冒険者になってしまうだろうと言っていた。
同じようにダンジョンも、屋敷を抜け出して、行ってしまうと、思っていたのかもしれない。
「ベス、それと貴族の仕事がある時は、ダンジョンに行くことは許しませんからね」
「分かっておりますわ」
「勉強と、エリザベス商会の事をしっかりやっていれば、後はダンジョンに行っても問題ありません」
トリス様からの注意と、しっかりした許可が出たことで、ベスは喜んだ。
今日のトリス様への用事が済んだところで、本日はトリス様との話し合いは解散と成った。
その後、俺は貴族の知識を勉強した後に、協会へと戻った。
協会へ戻ると、エマ師匠から紹介したい人がいると言われる。
「エドとドリーに魔法薬を教えてくれる人を、探していたのですが見つかりました。魔道具の方が得意ですが、魔法薬も教えられます」
「魔道具の方が得意なんですか?」
「そうなのです。ですが魔法薬も腕は良いですし、他の人に比べると教え方が上手いです」
「教え方が上手いって、他の人はダメなんですか」
「錬金流派は、暴走しがちな人が多いので」
そう言えば随分前に、錬金流派は爆発したりすると、言われた気が。
「分かりました、紹介してもらえますか?」
「今から行きましょう」
「はい」
協会を歩いて移動すると、あまり来た事のない場所まで来た。
ある部屋の前でエマ師匠は止まると、部屋をノックする。
「ジョー、いますか」
「なんじゃ、エマか?」
部屋から出てきた、エマ師匠がジョーと呼んだ人物は男性で、身長は普通だが、見た目はドワーフや、バイキングのような人で、髭を編み込んでいる。
「弟子を連れてきました。魔法使いと名乗れるようになったので、錬金で魔法薬を教えて欲しいと、お願いしましたが覚えていますか?」
「エマには世話になっとるからな、覚えとるよ」
「お願いできますか」
「勿論じゃ」
俺たちは部屋に招き入れられ、中に入ると驚く、俺の部屋と違いかなり広く、炉まである。
驚いていると、自己紹介される。
「ワシはジョゼフと言う、呼び捨てでジョーと呼んでくれ。魔法薬よりは、魔道具の方が得意だが、薬師組合には所属しとるから、そこそこ分かるぞ」
「エドワードと言います、エドと呼んでください。ジョー、よろしくお願いします」
「ドリーは、ドロシーって言うの。ジョー、よろしくなの」
「エドにドリー、よろしくな」
「ジョー、魔道具にも興味があるので、良かったら教えてください」
「勿論、魔道具を教えるのは問題ないぞ」
無事に挨拶も済んだ。
ジョーは今日から魔法薬について教えてくれるらしく、勉強していく。
ブックマーク、評価、感想がありましたらお願いします。




