16話
アイスを食べ終え、妙な雰囲気になっている。月美の耳が真っ赤なのが良い証拠だ。空のアイスの容器を注視したまま固まっている。
「......」「......」
無言!な、何かいわねば......えーと、あ、そーだ!ゲームしよーぜ!せっかく人の姿でゲームパッド持てるようになったんだから。
「月美」
「ひゃ、ひゃい!?」
ひゃいって......。
「ゲームするか」
「え、あ......はい。って、手を繋いでるので出来ませんけど」
「あ、そっか」
手を離すという選択肢は無いのか......!これずっとこのまま?寝るときも?つーか、俺まだ風呂入ってないんだけど。風呂も?いや、風呂は違うよなさっき月美も一人で入ってたし。
飯は?飯も「あーん」するのか?けど料理中は危ないから手を離してほしいな。あ、そういえば飯の用意しないと。
「あー、えっと。今日、何食べたい?」
俺は月美に問いかける。
「んー......カレー?」
「カレーか。ふむ」
材料あったかな。と、冷蔵庫を確認するために立ち上がる。すると彼女も一緒に立ち上がり後をついてきた。
「......あの、月美さん」
「はい」
「思ったんだが、そこまで徹底する必要ないんじゃないか?」
「あー......ですかね」
「気持ちはわかるけど、くっついて回るのは月美も大変だろ」
「んー、すみません。ちょっと張り切りすぎました」
手を離す月美。そんな残念そうな顔するなよ......罪悪感が野梅だろ。っと、冷蔵庫の中確認せねば。
そうしてカレーの材料で必要なものを確認し、足りないものが判明した。とりあえずカレールーが無い。あと人参。
「月美、カレールーと人参無いからちょっと買ってくる」
「あ、そーですか」
「近場のスーパーに行くからすぐ帰ってくるよ」
「はい!」
はい!といいつつ俺の後に続く月美さん。
「え、月美も行くの?」
「だ、だめですか?」
「いや、いいけど......車じゃなく歩いてくぞ?」
「?、はい」
なんか......すげー側に居たがらない?この子。今も手を離したばかりだというのにまた繋ごうと絡めてきてる。もしかして元が猫だからこれほどまでにスキンシップが激しいのか?
「わかった。それじゃ行くか......俺の上着適当に羽織ってってくれ。風邪ひいたらあれだし」
「はい!りょーかいです!」
にんまりと笑う月美。
準備完了。外へ出るとまたもや自然に手を繋いでくる月美。これ、知り合いに見られたらどう言い訳すりゃ良いんだ?職場の奴に絡まれたらかなり面倒くさい事になるだろ。
ちらり月美の横顔を見る。
こんな田舎に似つかわしく無いアイドルのような美貌。どこかのご令嬢といって紹介されても違和感のない、どことなく上品に見える歩き方。
ナンパとかされそうだ......一人で歩かせたら。
「あの......ちょっと、バレているかもしれませんが」
「ん?」
「私、ちょっと緊張してます」
「お、おう」
「......理由、わかります?」
「いや、そりゃ異性と手を繋げば誰だって緊張するさ。現に俺だって緊張している」
「......緊張してるんですか?」
「まあ、うん。だから気にするなよ」
「は、はい......」
理由、わかります?って言われたとき。俺は少し怖くなった。その理由がどちらであれ、後に引けないところへ進んでしまうような気がして。
だから先手を打つ。これからも......この猫とずっと一緒に居るために。俺はもう一人になりたくない。
こいつが現れる以前には、あの先の見えない孤独には戻りたくない。だから、現状を維持し続ける。
「ありがとうございます」
「......うん」
俺は彼女に身勝手なエゴを押し付けてる。けど、彼女だって俺がいなければ行くところは無い。なら、お互い様だろ。
胸が僅かに痛むが、その分......彼女の為に生きる。
「ん?あれ......」
「?、どした?」
月美は何かを考えているのだろう。口元に拳をあて、眉間にシワを寄せていた。んー、と唸るような声が聞こえる。
「......そう言えば、あなたのお名前......私、聞きましたっけ?」
......あ。
「そういえば、教えた記憶無いな.......名乗って無かったか。スマン」
「あ、いえ。聞くきかいありませんでしたし......あはは、は」
「俺の名前は、若菜 道定だ」
「若菜、道定......カッコいい名前ですね」
「......そうかな」
「私はカッコいいと思いましたよ!」
「お、おう。ありがとう」
「ではでは、改めて。よろしくお願いしますね、み.......道定」
不意の呼び捨て、しかも下の名前呼びにドキリとしてしまう。......しかし、最初に月美を呼び捨てにしてる手前文句は言えない。別に嫌な訳じゃ無い。無いんだが......ちょっとそういう経験のない俺には恥ずかしい。
「ああ......よろしく、月美」
平静を保ちながらなんとか絞り出した返事。
ぷらんぷらんと、あいている方の月美の手が振らさっている。まるで機嫌が良い猫の尻尾のようだな、と思いながら自分の口元も緩んでいる事に気がついた。
(......こいつが来てから、俺の毎日に笑顔が増えた)
月美がぼそりと言った。
「若菜、道定......だったら、私は若菜月美ですねぇ」
「......」
俺は聞こえなかったふりをしながら歩く。彼女の赤い耳を見下ろしながら。
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