PLAY.26 作戦会議
テーブルの上に置かれた山盛りのフレンチトーストがあらかた平らげられたあたりで、
口元をナプキンで拭いながらネイキッドは口を開いた。
「それはそうと、だ。カイン」
「なんだ?」
「『ニケが使える駒』ってのは、どういう意味なんだい?
そこが俺にはサッパリ分からないのだよ」
カインは一度眉をひそめてから、忌々しそうにレンを睨みつけて、
「いらねぇ事を言いやがって、クソ錬金術師が」
「口が悪いな、カイン中佐殿」
「チッ」
あたしも、自分のことながら、サッパリ分かってないので居心地は悪いが席を立つことも出来ずにモゴモゴするしかない。
横目に見たメジェドは、ご機嫌そうに十枚目のフレンチトーストを頬張っている。なんだろう、この生き物(白狼)可愛すぎんだろ。
不機嫌MAXなカインに、レンが口を開き、
「まあ、でもさ。僕らは知っておくべきだと思うよ?
君が『ニケを守る』って豪語してたとしても、サウザンドアイズ(あいつら)との戦いの中で何が起こるか分かったもんじゃない。
そもそも、君だって彼らと戦うのは初めてなんだから」
とニコニコしながら一息で言うと、「ね?」と小首を傾げて見せた。
カインは「ぐむ」と小さく唸ると、しばらく黙り込んでしまう。
「カイン?」
たまらず、あたしはカインを小突いた。
「……、仕方ねぇ」
カインはボヤいたあとで、長いため息をつき、
「ニケは、キレるととんでもない怪力を見せる。ようは、狂暴化するんだ」
「「「狂暴化?」」」
あたしとレン以外、つまり、ネイキッド、メジェドにマミヤが声を揃えて復唱した。
「ソレは、今までで二度あった。
一度目は、ネイキッドの妹であるリンダが起こした『運命の金の糸少女行方不明事件』の時。
リンダに罵詈雑言を吐かれたニケは、地下の鉄格子を曲げてみせた。手前にぐねり、とな」
ボディランゲージをしながら、カインは言う。
「あの、地下の鉄格子か?!
あそこの鉄格子は赤子の腕ほどある。女性の腕力じゃ、まず無理だろう?!」
ネイキッドが驚愕して声をあげた。
メジェドはそのクリクリした瞳をぱちくりさせてあたしを見た。
んな、バケモンみたいに見ないでよね……。って、
「ってか、あんた見てたの?」
「ああ」
「助けなさいよ!?」
「結果、助けただろうが」
「確かに、そうだけど……」
ふん、と鼻であしらわれる。
あたしとカインのあいだにマミヤが入り、
「それで、カインさん。
二度、とおっしゃいましたけど、二度目というのは?」
と尋ねる。
「昨日な、《叶え屋》の仕事でカーナンのバー『時計屋の暇つぶし』に行ってきたんだ。
巷で出回りはじめた《シャイン》の密売人の始末のためだったんだが」
カインは、ちらりとあたしを見てから、
「いいか?」
と聞いた。
あのことを言うつもりなのだろう。
あたしは、背筋にゾッとしたものを感じて、息をのむ。
具体的に思い出したわけではないのに、この嫌悪感。
「あ……、う」
俯いてだまりこむあたしに、みんなが気を遣ってくれるのが空気で分かる。うまく呼吸ができない。
「ニケ? 大丈夫かい?」
ネイキッドが心配そうに言うと、
「よかったら」
と、マミヤが水を差し出してくれた。ここで、彼らにこたえなくてどうするんだ、とあたしは太ももの上に置いた両手の拳をにぎりこんだ。
カインはあたしを見守っている。待ってくれているんだと思うと、その視線はあたしにその時を語る力をくれた。
「……、二度目の暴走のとき、記憶がないの」
あたしは、ゆっくりと語る。
「思い出せないままなの。
密売人のジャミル=キンダーに逆襲されたあと、気づいたら、キンダーは血まみれで倒れてた。
あたしの服は返り血まみれで。たぶん、あたしが瀕死にしたんだと、思う」
一同が、静まり返る。
どうしよう、嫌われたかもしれない。無根拠な恐怖があたしを襲う。
ひゅ、と息を吸い込むと、背中にあたたかい熱を感じた。
固い感触に、キュ、という音が続く。
革が擦れる、カインの黒革手袋だ。泣きそうになるのを、ぐっとこられた。
「……それを聞いたヒール大佐が今回のミッション同行を命令したということですね」
声は、マミヤからだった。ボサボサの鳥頭をぼり、と掻きため息をつく。
「うん」
あたしが頷くと、レンが、
「カインのことだから、ヒール大佐がそう出るってのは分かってたんだろうけど」
と言いつつ背伸びをした。
「ああ、あの女はマリオが絡むと見境がなくなる。まあ、そのおかげで俺もやりやすくはあるんだが」
「そうだねぇ。
君のおかげで僕もマミヤも多少やんちゃをしても咎めナシだ。
それもこれも、《叶え屋》の目的のため。
こういう時に、かり出されるのは当たり前のことさ。彼女はこの時のために僕らに目をつぶってきたんだから」
レンは、何もかも知っているような話しぶりをする。あたしは話してる内容の意味がわからなかった。
正体の見えない男だ。
「今のヒール大佐は藁にもすがりたい状況だ。
ニケの力は未知であるが、利用できるならしたいというところだろう」
とのカインの言葉に、マミヤが、
「ですが、カインさん。
それがあなたたちの世界に害を及ぼすと知れたら、ニケさんは」
と言いかけてやめた。
「そこは、貴様と一緒だろ」
それだけ言って、カインはフンと鼻で笑い、タバコに火をつけた。
「なるほどな。
じゃ、カインが言う通り、ニケをあまり戦わせないように我々が頑張ろうじゃないか」
ネイキッドは白く輝く歯を見せてニッカリ笑った。




