PLAY.27 ブラックスター家の不思議な武器庫
「武器庫に行こう」と席を立ったレンに連れられて、あたしたちは地下の階段を降りている。
レンが夕べ寝室に向かうために降りて行った階段だ。
それは途中から螺旋階段になっていた。
いくつかのカラフルな木製の扉を通りすぎる。
一行は、先頭からレン、マミヤ、カイン、あたし、ネイキッド、最後にメジェドと続いている。相当な珍道中である。想像していただきたい。先頭から、ローブ男、着流しの鳥頭、軍服のマント野郎、普通のワンピース、白ずくめのマッチョ、白狼である。相当な珍道中である(二度目)。
「まさか、レンの家がある崖の中がこんな風になってるなんて」
あたしは思わず感嘆の声をあげる。
そう、螺旋階段で降りているこの空間は、まさに、あたしたちが毎回死ぬ思いで登る急斜面の崖の中なのだ。
「驚いたろう、 ニケ!
あの不自然な崖の中身の正体はこれさ。
カムフラージュにしてもやりすぎだな!」
あたしのすぐ後ろのネイキッドが馬鹿明るい声で、がっはっは、と笑いながら言う。陽気な貴族だ。
螺旋階段のある壁はレンガでびっしりと覆われており、所々から草が生えている。波の音が土を伝ってこだましていた。
ざぁん、さぁん、さぁん……さぁん
あたしが、空洞に響き渡る細やかな波の音に酔いしれていると、
「チッ、悪趣味なだけだ」
と、カインが嫌味を垂れた。壁から生えている小枝をぼきり、と折ってポイと奈落に投げ捨てる。枝が底に落ちる音はしなかった。
カインはなんだか今朝からずっと機嫌が悪い。まあ、いいけど。
「ほんと、なんだかすごいとこだわね」
いつも死ぬ思いで登っていた崖の中身は、地下深く続くレンの自宅だったということだ。
見た目は崖の上のこじんまりした一軒家なのに、正体はビル10階は軽くある屋敷だったというわけである。
「クスクス、ニケちゃん、僕はね、結構凄腕の錬金術師なんだよ」
先頭のレンがコロコロと笑っている。相変わらず作り物めいているなと思う。
「これ、レンの術で作ったの?!」
「まあね」
ご機嫌な錬金術師は鼻歌を歌いながらトントンと階段を降りて行く。
「ふぁあ、あたし、ちょっとなめていたわ」
「マミヤも、初めてここに連れて来た時は目を丸くしていたからね」
「ちょっと、レンさん、やめてください」
慌てるマミヤがすこし可愛い。
上から彼を見ていると、彼、レン=ブラックスターの非現実ぶりを実感する。
柔らかな物腰、線の細い四肢、透明感のある美しい顔、それらレンを構成するすべてが、言葉で表現し難い儚さと憂いを感じさせた。ビスクドールが歩いているようだ。
「でも、ほんと、カインさんの言葉を借りるようですが、《多少のやんちゃ》どころじゃないですよね」
と、マミヤが苦笑する。マミヤは着流しに下駄をカラカラと鳴らしながら階段をおりていく。彼の周りだけなんだか日本の縁日である。無精髭はそっていただきたい。個人的に。
あたしが、底からの冷気にふるり、と震えると後ろに続くネイキッドが、
「大丈夫かい? ニケ」
と、気遣ってくれた。
「大丈夫。さすがに冷えるのね」
ずず、と鼻をすする。
「フン、心配はいらん、ネイキッド。
馬鹿は風邪を引かない」
「ちょっと、カイン! あんた本当失礼だから!」
「ぴーぴー喚くな。すこしはメジェドを見習え」
指差すカインの先を追えば、ネイキッドの後ろに続くメジェドが尻尾をブンブン振りながらキョロキョロしていた。ああ、無条件に癒されるなぁ、なんなのこいつ。
「さぁて、こちらだよ。
ようこそ、我がブラックスター家の武器庫へ♩」
螺旋階段の一番下に、丸い鉄製の扉があった。南京錠がざっと五つはかけられている。
「わあ、なんというわかりやすい武器庫」
たまらずあたしがツッコミを入れる。
ガチャン
ゴゴゴゴ、ゴウン。
マミヤが手際良く南京錠をあけ、ネイキッドがその鉄製の分厚い扉を開けると、そこは人が十人ほど入れる部屋だった。
六畳ほどの小部屋の壁一面に銃と剣、そして錫杖、斧に弓、魔法の杖のようなものまでかけられている。
「すっごい!! 何これ!?」
あたしは部屋に駆け込んで辺りを見渡す。
見上げれば、天井は5mほどあり、びっしりと武器がかけられている。風を通すための小窓からもれる木漏れ日に、武器の装飾に使われている宝石が照らされてキラキラしていた。
「見事でしょ〜!?」
と、レンは星空をうつしこんだ紺碧のローブをサラサラと揺らしながら微笑む。
「見事だわ! すごい! こんなRPGみたいな空間、感動しちゃうわ!」
「ふふふ、妬ける? カイン?」
「ケッ、なんで俺が……さっさと見繕ってくれ」
バリバリとうなじを掻きながらカインは不貞腐れたような声を出す。
不思議な空間だった。
あたりには土と木の匂いと、鉄の香りに満ちている。
武器たちが放つ独特のオーラは、この世界の魔術や錬金術がわからないあたしでもわかるくらい、異様な気を感じさせた。
時間そのものを忘れてしまいそうな、摩訶不思議な空間だ。
「そうだね、じゃあ僕が呼ぶから、それを持って行っておくれ」
レンは小さな唇の前で人差し指を立てて、軽くウインクをしてみせた。




