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PLAY.21 疲れたおっさんが見せた本音のそこんとこ

「カインのお父さんが、先代の《叶え屋》?!」


あたしは自分の声が予想外に大きく出たことに自分で驚く。

ヒール大佐に小さく詫びて、乗り出した体を元に戻した。


隣のカインは軽く俯いていて、表情を伺うことはできない。

ヒール大佐は、カインをチラリと見てから、


「ええ、そうなの」

と、どこか淋しそうに微笑んだ。


その微笑みの理由は、その時のあたしには分からなかった。


「すごいね、カイン。

あんた、親子で《叶え屋》やってたんだ」

あたしの言葉にカインの耳がぴくりと反応する。

訝しそうにあたしの方を見て、

「あ?」

と凄む。

あたしは彼の怖い顔など慣れたもので怯みもしない。


「だって、カインのお父さんも中佐だったってことでしょ?

親子で軍人のお偉いさんでさ。

しかもお父さんは、結構大変な仕事をしてたってことじゃん?

前に聞いたよ。ファンちゃんから、《叶え屋》は裏稼業やってたって。

危ないこと沢山されてたんでしょ?」 

あたしは彼の知らない一面を知れて嬉しかったのかもしんない。無駄に饒舌になってしまう。


「まぁ、そうねぇ……。

表には言えないようなトンデモナイコト、沢山していらしたわ」

と、ヒール大佐が口を挟む。


「いらんことを……」


と、カインはヒール大佐を睨みつける。


「あら、心外ねェ」

「おい、ヒール大佐殿。どこまで喋るつもりだ?」

「ふふん、あたしはどこまででも良くってよ? カイン中佐殿?」


ヒール大佐は挑発するように口元に右手の人差し指を添える。眉根を寄せてから歪んだ微笑みを作った。


「クソ、性格が悪ィな……」


カインは小さく舌打ちをしてから、どっかりとソファに深く沈み込んで、ふてくされたようにうつむいた。


「あの、あたしお茶でも淹れてきましょうか?」


気まずい雰囲気を一掃したくて、あたしは少し腰を浮かせつつ提案する。


「いーの、いーの。

どうせ貴女に話そうと思っていた事だったのよ。

次のミッションにも関わることだから」

「え?」


ーー次のミッションに関わる? カインのお父さんがってこと?

疑問が頭をよぎるが、言葉にうまくできなかった。


「貴女がね、今回のミッションで怖じ気づいたら、《叶え屋》をやめてもいいのよって、言おうとしてたんだけど、やっぱやめるわ」

「おいっっ!」


大佐の言葉を遮り、勢い良く立ち上がるカインに、

「お黙りなさい」

と、間髪入れず制するヒール大佐。

あたしは目の前の会話についていけずに、目を泳がせることしかできない。

「ッ」

カインはクリアブルーの瞳に俯瞰されて、言葉を飲み込んだ。

カインの取り乱しようが気になる。


「ねぇ、ニケ。あなたはどうしたい?

先のミッションを受けてまだ、このまま、《叶え屋》を続けられる?」


「あ、……」

フラッシュバックする裏路地の事件に、あたしは寒気を覚えてぶるりと震える。

「大丈夫か、ニケ」

カインがあたしの様子を気遣って、肩を抱いてくる。

「平気よ。バカにしないでよね」

あたしは笑い飛ばして、右手をぱたぱたと振ってみせた。


「まあ、続けないって言っても、続けてもらうけど」


ヒール大佐は、ずい、とあたしの前に体を乗り出す。だからその胸がバスローブからポロリってしちゃいそうなんだってばさ、誰かツッコミいれてよ。


「ねぇ、ニケ?」


情婦が上客を寝床に誘うような色香に当てられて、あたしは胸がドキドキする。


「は、はい……なんでしょう?」

「《叶え屋》をやり続ける気概はあるかしら?」

「……正直、わかりません」

素直な言葉だった。

「そう」

つまらなそうに、大佐はすっと身を引いた。


「覚えてないんです。

人を殴ったのもはじめてだった筈だし、実際に自分がアレをしたのかと思うと怖い、です。

…………でも」

あたしは前を向いた。

「でも?」

クリアブルーの大佐殿は、どこか楽しそうにあたしを見ている。上から目線を決め込んで。


彼女から目を離さずに、あたしはもう一度息をゆっくり吸い込んで、


「売人を捕獲できたのは事実です。何か役に立てるなら、続けたい、です」


緊張して、うまく呂律ろれつが回らない。

「そう」

ヒール大佐は、満足そうに真っ赤な唇を弓形に吊り上げた。


「……どういうつもりだ? ヒール大佐ッ、話が違うッ」

カインはこれでもかという位の目力でもって大佐にガンをつけている。


「だって、使えそうなんだもん♥️」


にっこり笑ってから大佐は、ばさり、とブロンドをかきあげる。


「説明を寄越せッ」

珍しく、カインが怒っているのに、あたしは戸惑ってしまう。

《叶え屋》の現場以外でここまで感情をあらわにすることはなかった。


「手段なんて、選んでられなくなったのよ。カイン」


ぱら……


かきあげた長いブロンドの最後の一房が彼女の肩に落ちた時、フェロモン大佐はあたしたちを見据えた。


その瞳は半分伏せられていたが、静かに燃えているようだった。


そして、


「サウザンドアイズが、動き出したわ」


と、やたらゆっくりしたスピードで告げた。


「サウザンド、アイズ……?」

あたしは訳がわからずに鸚鵡返しにする。

「…………やっとか。あれから五年……」

ぽそり、とカインが呟く。抑揚のない声だった。


「長かったわ。でも、もう逃がさなくてよ」


ヒール大佐は豊満な胸の下で腕組みをしている手に力を込める。


「あの?」

置いてきぼり感に耐えきれずあたしは声をあげた。


異邦人エトランジェのニケ?」

絶対的な制圧力を持つ大佐の声に、あたしは心臓を鷲掴みにされた気持ちがした。

「はい」

なんとか返事をする。


「《叶え屋》の本当の存在意義を教えてあげるわ」

「本当の、存在意義?」


じりり、と迫る緊迫感に、あたしは無意識に拳を握りこむ。ようやく分かった。今のあたしに決定権はないらしい。


「26代目以降の《叶え屋》には、絶対に遂行すべきミッションがあるのよ」


「26代目以降、ってことは」

「俺の代だ」

カインを振り向くより早くテノールが頭上から降ってきた。

小さく短い声に、あたしは違和感を覚える。

カインに構わず、ヒール大佐は続ける。


「5年前に起きた、25代目《叶え屋》暗殺事件。

この首謀者の滅殺と、関係する組織の全滅のため、よ」


あたしの思考回路が綺麗にフリーズする。


「暗殺事件?」


「……」

カインはしばらく黙ってから、立ち上がり、


「俺は、反対だ。ニケには危険すぎる。

今すぐに《叶え屋》の剥奪を……」


と訴えた。

あたしはカインと大佐を交互に見やる。

全く動じることはない大佐は、悠々と足を組み直してから、


「命令よ、カイン中佐。

白咲 ニケを連れて、ミノタウロス島に行きなさい。


ーーあいつらの、……サウザンドアイズの情報を、何としてでも掴むのよ」


と言って、


「ニケをどう扱うかは、あなたの自由にさせてあげるわ」


と付け加えた。そして、漫画みたいに美しく微笑んでみせたのだった。


その顔を見た時のカインの表情は、眉間の中心から集中線を引きまくったようにシワだらけだった。


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