PLAY.20 《叶え屋》の歴史とドS中佐の秘密
皇国軍つき《叶え屋》は、日夜、皇国民のために彼らの願いを叶えている。
メンバーは、あたし、白咲 ニケとカイン=リーアガイツだ。
ミッション中、あたしたちは歴代の《叶え屋》に受け継がれている仮面を被っている。
表向き、《叶え屋》は正体不明の正義の味方って感じ……ん、んー、んんん、便利屋っぽい立ち位置の匂いがプンプンするけど、そこは見ない振りして欲しい。
私書箱5963号に届く依頼書の中にしたためられた願いを叶えるのが、あたしたちの仕事。
昼間の任務は、主に皇国民に貢献する内容のものが多い。庭の手入れや、馬小屋掃除、ベビーシッターに老人の話し相手など、多岐に渡る。
夜は夜で、隠密行動を強いられるようなミッションをこなす。
それは、元々《叶え屋》が皇国の汚い仕事を一手におっていた名残だといわれている。裏社会では、《始末屋》だの《公式の死刑執行人》だの《皇帝の犬》だのとボロクソである。
不正を働く貴族たちの不祥事を暴いたり、皇国民の混乱を避けるために公表できない行方不明事件なんかの解決のために暗躍したりする。
勧善懲悪をポリシーに皇国民のために家畜のように働く、それが《叶え屋》。
ーー異世界に来て、トントン拍子で《叶え屋》になったあたしは、相棒のカインと依頼に追われている。
ディグニティエ城 駐在軍人用浴室
「ニケよ、準備はまだか?」
脱衣所のドアの外からカインは不機嫌そうな声を寄越した。
「ちょっと待ってよ! ほんとせっかちなんだから」
下着姿のあたしは急いで濡れ髪をタオルドライする。
わしゃわしゃわしゃっ
勢いに任せて乾かして、櫛を通す。
「手伝ってやろうか?」
ドアのすぐそばにいるのか、声がよく聞こえる。
にたり、と意地悪そうに笑っている様子が目に浮かぶ。
「巨大なお世話だ!」
ドアに向かって言い返す。
「ならば、さっさと出てこい。
あと十秒で来なければ突入する」
「ねぇココ、女子の脱衣所だから!戦場じゃないから!」
ターゲットであるシャブ《シャイン》の売人であるジャミル=キンダーを捕獲したあたしとカインは、これからヒール大佐の執務室に帰還報告しに行くことになっている。
ジャミルの身柄は、カインが衛兵の駐在舎の地下にある牢獄に収容してきたそうだ。
あたしが涙でずびずびになった顔を洗って、湯浴みをしている間に、あらかたの処理は終わったのだとカインは言った。
「さっきまでの優しさはどこに行ったってぇのよ」
あたしはぽつりと呟く。
「あ?」
殺気を滲ませるドスのきいた声は、今にもドアを破壊してしまいそうだ。
「なんでもないっ! 」
「女の身支度は好かん。じゅう、きゅう、はち」
「うわああ、すみません、今行くからカウントはやめて!」
あたしは用意された新品のアンミラのワンピースをかぶり、大急ぎでボタンを止める。不意に石鹸の香りがした。
その香りのおかげで少し心が落ち着くと、
カインに抱きしめられていた感覚が思い出されて、あたしは恥ずかしさで死にそうになる。
「…………ふー、」
ぱたぱた、と赤面した顔を手で扇いでから、あたしは天井に向かって腕を伸ばす。
手に出来た痣の青をながめた。
ランプに照らされた腕は、身に覚えのない痛みにズキリと痛む。
伸ばした腕をそのままに、拳を握り込んで、ぱっと広げる。
「……」
唇をきゅっと結んでから、深呼吸をした。
がちゃ
ドアを開けると、カインが入り口を出たところすぐの壁に凭れて立っていた。
あたしと目を合わすと、すっと視線を外し、軍帽を被る。
そのまま視線の先に歩み出した。
ばさ
カインの漆黒のマントが翻る。
あたしは彼の後に続いて大佐の執務室を目指した。
☆ ☆
大佐の部屋に着いた時、時計の短針はてっぺんをとうに過ぎていた。
ヒール大佐は、深い紫のバスローブ姿であたしたちを出迎えた。
大佐の執務室の中央には、高価そうな応接用のソファとローテーブルがある。
ヒール大佐は三人掛けのソファに座り、筋肉で引き締まっているものの程よくムチムチした太ももを横に流し、くつろげている。
きゅっと締まった足首は、色香をもっていてただの凶器に成り下がっている。
あたしとカインは彼女の前にあるソファに腰掛けた。
ヒール大佐のこの格好に慣れているのか、単に興味がないのか、カインはなんの反応もせずに、ソファにどっかりと腰掛けて、股を無駄に大きくひろげて聞こえよがしに息を吐いた。
あたしはカインの隣にいそいそと座る。
今回の一連の流れを説明した後で、
「それで、何も覚えていないのね」
と、ヒール大佐は確認してきた。
「ーーはい」
あたしはこくりと頷く。
「それで、懲りたかしら?」
「え?」
顔を上げると、夜もメイクばっちりのヒール大佐の真紅の唇はあたしに向かって笑みの形を刻んでいる。
「《叶え屋》はこりごりかしらって? ーーやめたい?」
言って、小首を傾げる。
バスローブから豊満なバストがもれそうで怖い。
「あ……」
あたしは咄嗟にカインを見た。
カインはあたしと視線を合わさずにヒール大佐をじっと見つめている。
「そもそもね、ニケ。
実質の《叶え屋》は女性が襲名したことがないのよ」
「そ、そうなんですか?」
驚いて、あたしの声は上ずった。
「カインの相棒は、ただの彼の恋人の称号だったし?
現場で動いていた女の《叶え屋》は存在しなかったの」
うふふ、とヒール大佐は微笑む。
ふわふわとしたブロンドの前髪の奥でクリアブルーの瞳がきらりと閃く。
「あの、先代の《叶え屋》って、どんな人だったんですか?」
あたしはヒール大佐にたずねた。
あたしたちは、《叶え屋》の38代になる。
相棒が変わるごとに代はかわっているそうだ。
最初にカインが任命された時は、カインは26代目だったという。
単純に計算して、カインは13人相棒を変えている。とんだスケコマシか。12人目がシニョンというわけだろう。あたしは13人目だ。
そして、25代目までは他の人がやっていたということになる。
ヒール大佐は、ちらりとカインの方を見た。
そして、視線をあたしに戻すと、
「ーー25代目《叶え屋》は、
ミカエル=リーアガイツ。
ーーカインの父君よ」
「は?」
あたしは思わずローテーブルに乗り出した。




