PLAY.18 かんわきゅーだい。 本日は3カメからお届け致します
ディグニティエ城内
キャロライナ=ヒール大佐執務室
「ネェ、カイン中佐殿?」
ガラス張りの執務室は、セレーネ海の光を受けている。
天井には、光のまだら模様が揺らめいていた。
壁一面のガラス窓に体を預けているのは、ボンテージに迷彩柄のダボダボのミリタリーパンツをサスペンダーで吊るした格好のヒール大佐だ。
ぷるりとした唇は、赤く口紅が引かれていて色っぽい。
呼びかけられたカインは、部屋に入ったすぐのところで両手を後ろに組んで佇んでいる。軍帽を深く被っている。
「ヒール大佐、あなたがその呼び方をする時は、決まって悪巧みをしているんだが」
ドアの向こうに気配がないことを確認して、カインは後ろ手で扉の鍵を閉めた。
「察しがいいわねェ」
「何ですか」
面倒くさそうにカインは軍帽をとると、うなじをバリバリと掻く。
奥の執務机まで移動して、腰を預けて足を組んだ。
「聞こえてたわよ、舌打ち」
「ちっ」
「ふふふ、可愛いあたしの部下、カイン。
ーー白咲 ニケについての報告を」
声のトーンを落としたヒール大佐の様子は、いつものからからとした軽い雰囲気ではない。ピリリと張り詰めている。
カインは、やはりか、という顔をしてから、眉根を寄せた。
ヒール大佐はわざとらしいくらい美しく笑みを作り、
「異世界から来た女を、あんたが直々に面倒見るっていうから不問にしているのよ。
どうなの? 彼女は」
と問うた。
ハスキーで張りのある、絶対的な拘束力を孕む大佐の声色に、カインは一度拳を握り込んだ。
革手袋が、ぎゅり、と鳴る。
ヒール大佐は艶やかなブロンドのロングヘアーの毛先を弄りながら上目遣いでカインを見ながらニヤニヤしている。
「一度、異常な怪力を見せた。それだけだ」
「それはこの前の報告書で見たわ?
リンダの事件でしょ。
牢獄の鉄格子を折り曲げたらしいじゃない?」
片目だけ大きく開けて、眉をあげて見せる眉目秀麗な上官に、カインは、
「それ以外は、対人戦でも使い物にならない」
と、短く切り捨てるように答える。
「それ、あなたが戦わせてないだけでしょう?」
首を竦めてヒール大佐は両手の掌を天井に向けてから、くい、と少しだけあげてみせた。
なんとも人をバカにしている態度だ。
「ふん」
カインは不機嫌を丸出しにして顔を背けた。
「異世界から来た人間は、何故か超人的な力を持っているわ。
あなたたちが匿っている星霜 マミヤしかり」
「マミヤはッ……元々、あちらの世界で天才と言われていた。そう報告書にも書いたが」
カインは胸元からタバコを取り出して、マッチで火をつける。
「ーー彼女は違うの?」
「向こうの世界での話は詳しく聞いていないから、分からない」
答えて、タバコを口に付け、息を深く吸い込む。
「それを調べるのがあなたの仕事でしょう?
何をチンタラやっているの。
童貞の新兵でもないでしょうに」
語気を強めたヒール大佐は、豊満な胸の下で腕を組む。
黒紫のボンテージに包まれたそれがぷるん、と揺れた。
「だから、中間管理職は好かない」
カインは、苦虫を噛み潰したような顔する。
「あぁら、いいのよ? 今すぐに大佐になっても。
あなたなら、皇帝だって一つ返事で大佐に昇格させるでしょうねぇ?」
「チッ」
「まぁ、“あなたにそれができれば”だけどね?」
嗜虐的な視線で、ヒール大佐はカインを見下す。
「性悪女め」
カインはタバコの煙を吐き、まだ大分のこっているそれを灰皿にグリ、と押し付けた。
「聞こえてるわよ?」
「聞こえるように言ったからな」
「あなたが昇進を望めば、《叶え屋》は他の誰かがすることになるわねぇ」
言いながら、横目でカインを伺う。
「…………」
カインはヒール大佐を睨みつけて、黙り込んだ。
ヒール大佐は恍惚した表情で、金色の眉で八の字を作る。
カインに向かって正面を切ると、
「可愛いあたしのカイン。
はやくあなたの望みが叶う事を心から祈っているわ?」
言ってから、クリアブルーの瞳を細めて官能的に微笑んで、小首を傾げた。
「いらぬ善意は、ただのお節介だ」
カインは吐き捨てると執務机から体を離し、扉に向かって歩き出す。
「覚えていなさい。
白咲 ニケに何かしらの変化があった時は必ずあたしに報告すること」
ぴたり、とカインは立ち止まる。
カインの瞳に、セレーネ海の光が移り、ペリドットは眩い光を放つ。
「分かっている」
「もしも何か、我が皇国の害になるようであれば」
「俺が白咲 ニケを殺す。
ーーーー二度と言わせるな」
殺気に満ち満ちた表情で言ってから、カインはマントを翻し、軍帽を深く被る。
ばたんっ
敬礼もせずに、派手な音を立てて部屋を後にした。
「ふふ、過保護なオトコは嫌われるわよ?」
ヒール大佐は、猫のようにコロコロと一人笑う。
そして、ぱちん、と指を鳴らした。
執務机の横にある扉がゆっくりと開き、人影が一つ部屋に入ってくる。
「じゃあ、そーゆーことで。頼んだわね?」
人影は、敬礼をしてから、背中を向けずに後退し、無言のまま部屋を後にした。




