PLAY.12 告白したんだって? 告白されたんだって? で?
前回のあらすじ!
《叶え屋》の依頼を無事遂行したカインとニケ。
ニケは、リンダの事件を解決したお礼に、ネイキッドから黄色い薔薇を大量にプレゼントされる。
喜ぶニケを横目に、カインは、自分の中にニケに対して特別な感情が生まれていることに気付いてしまう。
「貴様を気に入っている」
昨夜、カインはニケに告げた。
三十路前のおっさんにしては頑張った告白だった。
がしかし。
ニケは、自己防衛本能が働き、それを完全にスルーしてしまう。
前途多難な恋路を前に、がんばれ、カイン!
負けるな、カイン!
明るい明日は来るさ! 多分!
☆ ☆
チュンチュン
ちちちち、ピーピーチュンッ
安定の朝チュンの中、あたしはカインの両腕の中で眠りについていた。
「ん、」
半分目をつむったまま、寝返りを打とうとした時に、
ガッという拘束を感じる。
「うう、重いッ」
あたしは眉を顰めて瞳を開ける。
目の前には、カインの寝顔があった。
「ッッッ!」
びっくぅ! と体が小さく跳ねるが、カインの両腕はビクともしない。
そういえばそうだった。昨晩は、カインから何かよくわからないこと言われて、そのままベッドに連れ込まれて有無も言わさずに寝かされたんだった。
こっちに来て以降、メイクをしてないから良かったものの24歳でメイクしっぱなしで寝るなんて自殺行為だコナクソ、本当イヤだ、このマイペース王様野郎一度馬に蹴られて飛ばされ犯されればいい。
「獣姦は勘弁だ、ニケよ」
「起きていらっしゃったァァァ!?」
ーーこいつ、またあたしの心の声を先読みしやがった。
「起き抜けにキスくらいのサービスしやがれ、気の利かねぇ奴だな」
「何であたしが!」
カインは眠たそうに、あくびをする。
鎖骨のあたりの肌に朝日が当たって、なんだかエロい。
「? 俺は貴様に昨日言っただろ?」
カインはきょとんとしてあたしに問う。
「は?」
コメントに困り、言い返すあたし。
「だから、『貴様が気に入っている』と」
そんな、何言ってんのこいつ、みたいな視線向けられても困る。
「えぇ? ああ、そう?」
ボカロの曲名みたいなセリフを吐いた。
「つまりそういうことだろ?」
のろのろと、カインは体を起こす。
「は? そーゆーことって、どーゆーこと?」
「貴様は俺と付き合うことになったんだろうが」
しらっと言うカイン。
あたしは、しばらく黙り込み、言われた言葉を反芻する。
「へ? そうなの?」
我ながら頭の悪そうな返事だ。
「じゃねぇと、ハナから同衾なんざするか」
目つきの悪い中佐殿は、睨みつけてからガリガリとうなじを掻いた。
「ちょっと待ってよ。相棒とは一緒に寝てたって言ってたじゃない」
そう、確かにそう聞いたし。
歴代の相棒は、みんな一緒に寝てたって。
「相棒かつ恋人とは同衾していたな」
一度カインの瞳が天井を向いてから、一周回ってあたしに向けられる。
その瞳の淀みなさにあたしは一瞬気後れしてしまう。
「ほ、ほら、誰とでも寝てんじゃんっ!」
「なんだその言い草は。貴様の経験なしを俺と一緒にするんじゃねぇよ」
はあ、とため息をつくカイン。
あたしはなんだかイライラしてしまう。
「あんたって、どんな女とも簡単に一緒に寝てるんだと思ってたわ」
「莫迦を言うな。
俺は来るものを拒んでいなかっただけだ。
たまに相棒でないものが含まれていたとしても、簡単に寝ていた訳ではない」
「それ、ドヤ顔で言えることじゃないと思うんですけどね?」
なんだろ、妙に怒りがこみ上げてくる。
せっかく起き抜けはいい夢見てた気分だったのに、台無しだ。
こいつがからかっているんだと思うと、ムカついて仕方なかった。
どうせ、あたしが経験少ないからってバカにしてるんだ。
他人に、気持ちをバカにされるなんて、真っ平御免だ。
「とにかく、あたしはあんたと付き合うつもりないからっ!」
「は?」
鳩が豆鉄砲喰らったような顔をして、カインは間の抜けた声を出した。
「当たり前でしょ? そんなカンタンに付き合う人を決めれないわよ!
まだ日もそんなに経ってないしっ!
それに! あんた、今まで散々あたしを粗雑に扱っておいて、今更虫がよすぎるわよ!」
あたしは声を荒げて、ベッドの端の方ににじり、と後ずさる。
「ぐむむ」
唸るカインに、あたしの怒りはさらに膨れ上がる。
「いい? カイン、あたしはあんたの歴代の相棒みたいに掃いて捨てられるような扱い、受けたくないのよ」
「そこを言われると正直つらい」
「いきなり弱気になるなっ!」
シニョンとの修羅場見てる手前、ぐうの音も出ないのだろう。
「俺が同衾を許したのでは駄目だというのか、ニケよ」
小首を傾げて聞いてくる。あざといおっさんめ。そんな女子騙しに引っかかるか。
「あんたの基準を押し付けないでっ!」
同衾同衾って、ヒール大佐にしてもカインにしても、いちいち言い方が古臭い。
昭和なのか、こっちにそういう言葉のバリエーションがないのか、わからないけど、なんか落ち着かない。
それにしても、心臓がバクバク言ってて敵わない。
「とにかくとにかくっ!
あんたの気まぐれで誰でも彼でもホイホイ恋人に出来ると思ったら大間違いだ! このドS野郎っ!」
あたしはカインをギッと睨みつけた。初恋の総司に顔が瓜二つだからって、流される訳にはいかないっ!ここまで来たら、女のプライドにかけて流されるな、白咲 ニケ!
「…………」
荒い息をつくあたしを前に、カインは暫くぽかんとしていたが、一度ペリドットの瞳をしばたたかせてから、
「チッ」
と舌打ちをし、あたしの腕を強く引いた。
どさっ
「うあ!?」
あたしは、バランスを崩して仰向けになる。
カインはそのゴツゴツの手をあたしの耳元に手を置いてきた。
「ちょっと、カイン!」
筋肉質の腕は宙でL字を作る。
まるで囲いでも作るように。
あたしの抗議の声に何も答えないでだんまりを決めこんでいる。
(さすがに、怒った……?)
恐る恐る見上げると、左斜め上からカインはあたしを俯瞰している。
「ひっ」
なんという凶悪な面構えだろう。
戦争の第一線で敵陣を無双する時のそれだ。
寝起きの乙女に向けられるものではない。けしてない。こいつ、あたしの事気に入ってるとか、絶対嘘だろ。
「ーーいいだろう。
惚れさせてやろうじゃねぇか」
唇を吊り上げて、カインは言いのけた。果たし状でも突きつけられたようだ。何これ、異世界の告白超怖い。
「ど、どういう、意味デスカ?」
しどろもどろで返すあたし。
「貴様を落としてやるっつったんだ、この平地女」
「そういうセクハラやめない限り、そんな奇跡は絶対起きないから!」
「元の世界に帰りたくないと駄々をこねるほど、俺に溺れさせてやろう」
ふん、と鼻で笑うカインは、とても愉快そうに微笑みをたたえている。凶悪な微笑みだ。すこぶる悪い。
「出来るもんならやって見なさいよ! あんたみたいなデリカシーない男に落ちるほど、現代で戦うアラサーは心脆くないのよ!」
「ふふふ、楽しませてもらおうか、白咲 ニケよ。
強がっていられるのも今のうちだぞ」
言うが早いか、カインはあたしの頬にキスを落とした。
「ッッッッ、あんたのその強気、どっから来るんだーー!!」
どっがっしゃぁぁぁぁんっ!!
あたしはサイドテーブルをワッシと掴むと迷いなくカインに向かってぶち投げた。
「くっくっく、愉快だな。
おお、これが恋というものか?」
ふわり、とカインは絨毯に舞い降りると、人の神経を逆撫でするように挑発的に微笑んだ。
ベッドの上にはサイドテーブルだったものがめり込んでいる。
「知るかぁっ!!」
朝一番のあたしたちの喧嘩は、城に駐在する幹部と城中の執事とメイドたちを叩き起こし、
あたしたちは朝食後すぐにヒール大佐にお叱りを受けることになったのだった。




