第1話-2 廃墟の町にて
ヒロイン登場。しかし、その娘の描写をうまくできてるか自信はありません(滝汗)
荒野を走るスクーターには一組の男女乗っている。ハンドルを握るのは自身をサラと名乗った少女、そしてシートの後部には自身をクロウと名乗った青年だ。背中合わせの状態で二人乗りしている様はバランスが悪そうに見えるが、二人は……というか後部に座るクロウは器用にバランスをとっているようだった。
「へえ~九州からここまできたんですか?」
町に向けて出発したときからクロウはサラからの質問攻めにあっていた。時間にして一時間は経過しているだろう。最初はしかたなく答えていたクロウではあったが、三つ目の質問辺りからうんざりしていた。しかし、案内してもらっている手前、邪険にするわけにもいかずクロウは適当に返事をすることにしていた。彼女からしてみれば初対面であるクロウとコミュニケーションをとるためにやっていることなのだろうが、
(まったくもってめんどくせぇ……)
クロウは空を見上げ、大きく息を吐く。
「クロウさん?」
「……いや、なんでもない。で?」
「九州から歩いてくるなんてすごいですね」
「別に」
サラの感心を無感心で返すクロウ。彼としては無駄口を叩かずに運転に集中して欲しいというのが本音ではあるが、サラがクロウのそんな内心を読みとることはなく、質疑応答は続いた。
「でもすごいですよ? 九州は今、連合政府が危険地域にしている土地だってお兄ちゃんが言ってました」
「そういえばそうだったな」
現在の九州はサラの言ったように世界統一連合政府(以後、連合政府)により第一種危険地域に指定されている。第一種というのは危険度を三段階で表したもので、その中でも最も危険ということを示している。これは危険度が下がるに連れて第二、第三と数字が増えていくようになっている。かつて『ブルー・スフィア』が落下し、そして消失した地であり『ワールドエンド』の中心地であるこの地域は、土壌汚染や二次災害の危険性から最高位の"第一種"の危険地域となっているのである。
「実際のところ危険でもなんでもないがな。おそらく土地の調査の邪魔になる民間人を遠ざけるために政府が勝手に危険地域と言ってるだけだろう」
謙遜するでもなく、自慢するでもない淡白な口調でクロウは実際にその地を放浪していた際の見解を述べた。実際クロウの見解は当たっていて、第一種危険地域というのは公に発表している建前である。本当の目的は『ワールドエンド』の原因解明であり、それを行う上で九州は連合政府が最優先で確保しておきたかった土地であった。そんなところに無関係な民間人が居ては精密な調査ができないと判断した政府は、九州を最高位の危険地域と発表することで不用意に民間人を近づけさせないようにした、というのが真相だ。
「そっか、あれがあったところですもんね……」
クロウの意見にサラはうんうんと頷く。そんなに合点のいくものだったのか? とクロウは訊こうとしたが、それでは質問攻撃が余計に強まるのではなかろうかと思い直し、発言を控えることにした。
「でもわたしは九州は危なそうな感じがします。それにあそこは怖いです……何が怖いのかはうまく言えないんですけど……」
「荒野のど真ん中で寝てる男に声かける方が怖いと思うが?」
もっともな意見にサラは苦笑をもらす。が、ついさっき発言を控えると自身の制約をさっそく破ってしまったことに、クロウは表情には出てはいないものの驚いているようだった。彼には思いもよらない、自然にこぼれ出た一言だったらしい。
「クロウさんはなんていうか……最初は怖かったんですけど、それでも危ない感じはしなかったんですよ。むしろ困ってるような感じがしたんです。なんとなくなんですけどね」
「よくわからないな」
「はい、自分でもよくわかりません。でも、そんなふうに思ったからほっとけなくなったんです」
「……変な女だなお前」
ほめ言葉を言ったつもりはないクロウではあるが、ふふふ、と微笑するサラは背中越しでもわかる嬉しそうな様子だった。
「あ、見えてきましたよ」
サラは前方を指差す。クロウは振り返り、彼女の肩越しにその方向を見ると、建物らしきシルエットが小さいながら見えた。
「あれか?」
「はい、わたしの住んでいる町です」
*******************
町に到着した二人は、スクーターから降り、歩いてサラの住まいに向かっていた。
(町というか廃墟だな)
クロウの所感である。
町のほとんどの家屋は半壊し、コンクリートの壁からは鉄骨がむき出しになっていた。それらに並んで、全壊したと思われる建物の残骸がそのまま放置されており、コンクリートの塊や折れた木材などが積み重なって廃材の山が出来上がっている。二人が歩いている縦横にひび割れたアスファルトには建物が崩れた際に割れたガラスの破片が散らばっていて、歩を進めていくたびにパキリパキリとガラス特有の破砕音が鳴り、一定のリズムを刻む。
「ここをまっすぐ進むとわたし達の家に着きます」
「そうか」
そんなオンロードであったはずがオフロードと化している一本道をサラはスクーターを押しながらクロウの一歩前を歩いて先導している。適当な相槌を返したクロウはというと、すれ違う町の人々を観察していた。
走り回る子供達。廃材の山から使えそうな材料を掘り出し、それを使って半壊した家屋に補強を施す男達。その家屋の近くの空き地では、女達が男達の為に昼食の準備をしているようだった。――皆、人が生活するにはお世辞にも良いとはいえない環境下であるにも関わらず、笑顔にあふれている。
クロウの様子に気づいたサラは語りだす。
「この町にわたし達が来たときは大変でした。毎日喧嘩や泥棒が絶えなくて……みんな誰も信じれなくなってたんです。でもそれじゃいけないってわたしのお父さんがみんなに呼びかけたんです。みんなで協力していこうって。助け合おうって……時間はかかりましたけど、みんなそれをわかってくれました。それから争いごともなくなっていって、今ではこの町のみんなが笑顔で生活できるようになってます。わたしは今のこの町が大好きです。そしてそんな町にしてくれたお父さんをとても尊敬しているんです」
町人達に向けた視線をサラの背中に戻してクロウは彼女の話に耳を傾けていた。
彼女の中では父親はどうやら英雄のような存在になっているらしい。どうりで父親自慢が多いわけだ、とクロウは勝手に度々感じていた疑問の答えをそう解釈した。父親の偉業を多くの人に知ってもらいたい、賞賛してもらいたいという願望の現れなのだろう。が、クロウは微塵もそのような心持ちにはならなかった。
(自分の手柄でもないことをなぜそんなに他人を誇れるんだか……)
話を聞いていたクロウが抱いた感想は冷めたものだった。口に出そうかとも思ったが、彼に働いた後々めんどくさいことになりそうという直感がそうはさせなかった。
彼はとてつもなくめんどくさがりやなのである。
実のところ、彼はサラのスクーターに乗せてもらわなくても、その半分以下の時間でこの町に到着することができたし、そもそもこの町の所在も彼女に案内してもらわなくともおおよそではあれど知っていたのだ。
ではなぜそれらを自身で行動しなかったのか?
それは彼がめんどくさがったからに他ならない。クロウは自発的に行動を起こさないのである。
だが例外はある。それはめんどくさい状況に巻き込まれそうに、もしくは巻き込まれた場合、彼は己が思考に基づいて行動する。先のサラに抱いた感想をを発言しなかったのは、これに基づいた回避行動だった。
しかしこれだけでは"とてつもなく"というのは大袈裟である。だが、これだけにとどまらない。その証拠に、彼は人としての根本的なものすらも煩わしく感じているのだ。それは――
*******************
クロウとサラの両名がサラの自宅に向かっている最中、二人が先ほど通過した町の入り口に軍用トラックが二台停車した。それらに遅れて白いビックオフローダータイプのバイクが一台、二台のトラックの間に停車する。
トラックから降りてきたのは迷彩服に身を包んだ男達。バイクに乗車している人物は、メーター部分に設置されているタッチパネルで何かのコンソール画面を開き操作している。(『ワールドエンド』以前の時代のバイクには、ハンドルのメーター部分に速度計やタコメーターだけでなく、現在地を表示する地図や、自動操縦、故障箇所のチェックなどの管制システムが一体となって取り付けられており、それらをタッチパネル等で表示・操作することができるのが主流だった。)
バイクに乗っている人物の服装はトラックから降りてきた男達とは違い、肩から腰辺りまでの長さの黒いマントを羽織り、その内側からは白い軍服のようなジャケットが見え隠れしている。腰から下の格好は白いスラックスに靴は黒のロングブーツ。顔には赤いフルフェイスのヘルメットを被っており、性別はマントとヘルメットで上半身が全て覆い隠れていることもあってか、窺い知ることができない。だが、スラックス越しからでもわかる細く長い脚からブーツを履かずとも身長はそれなりにあることが想像できる。
「リューネベルク中尉」
トラックの荷台付近でなにかの作業していた迷彩服の男達の一人がバイクに駆け寄り、敬礼をした後に声をかける。それに気づくと自身のヘルメットを脱ぎ、バイクの人物は素顔をさらした。
現れたのは女性だ。漆黒でありながらも日の光を浴びて淡く艶やかな輝きをみせる長い髪を一つに束ねており、大きな瞳は蒼く、細く通った鼻筋や、小さいながらもそれでいてぷっくりと弾力のありそうな唇。ガラス細工のようにきめ細やかさと儚さを感じさせる白い肌は、もはや芸術的と言えるほどの美しさがある。ヘルメットを脱ぐ、というありふれた動作をしただけの彼女であったが、バイクに駆け寄った男はその何の変哲もない動きを見ていただけで息を呑み、緩んだ顔のまま固まっていた。
「ごめんなさい、ブレーキに違和感があったから確認してたのよ。それで? 準備はできたの?」
リューネベルクと呼ばれた彼女は、バイクから降り、依然として惚けている男に敬礼を返し問いかけた。一瞬間遅れて男がそれに気づき、姿勢を正し再び敬礼をし直す。しかし目線は彼女ではなく、彼女の頭上に広がる空に向けていた。
「とっ……整ったのであります! 自分はその報告と住民への呼びかけを開始する許可を頂きたく……」
「そんなに緊張しなくてもいいわよ?」
「はっ! ご不快でしたか!?」
「そうじゃないけど……ああ、許可ならいちいち取りに来なくていいわよ? 早く配給を行いましょう。ここに住んでる人達もそれを望んでるわ」
「イッ…イエスマム! 失礼しました!」
男は回れ右をして、逃げるかのように元居たトラックの荷台付近で作業する集団の中に戻っていった。それを苦笑しつつ見届けた彼女は、ふと、トラックの車体に白く大きく書かれた文字を見つめた。
"UPF"と書かれたこのアルファベットが意味するものは"統一平和維持軍(Union Peacekeeping Force)"の略称である。
大戦時にアメリカ軍を中心として日本を除く国々によって組織された連合軍が、『ワールドエンド』の後に名称を変えて再度組織化した軍であり、現在は主に食料の配給や危険地域の監視、駐屯地域の治安維持などを行っている。迷彩服の男達はそれに所属する兵士であり、今まさにこの町で物資の配給を行おうとしているのだ。
彼女もUPFに属する人間ではあるが、しかし、彼女の今回の任務は配給ではなく別にある。
「何事も起きなければいいんだけどね……」
その任務が徒労に終わるように――と願いながら、彼女、リエ・S・リューネベルク中尉は自分と瞳と同じ澄み切った蒼い空を見上げ、祈るように呟いた。
この物語と言えるかどうか微妙な作品はフィクションです。
作品内で登場する国名・組織・出来事・人物などその他諸々は、実在するそれらとは一切関係ありません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
以前、第1話-3と合わせたものを投稿していましたが、閲覧のしやすさを考慮した結果、分割させていただきました。




