第1話-1 荒野で目覚める青年
物語の本筋に突入です。読みづらく、わかりにくい文章も相変わらずです……(血涙)
「めんどくせぇ……」
砂とわずかな草、大小様々な岩が転がっている荒野――そんな殺風景が延々と広がる場所に青年が大の字で寝そべっていた。閉じていた瞼をゆっくりと開け、視界に広がる青空を見ながら、心底うんざりだと言わんばかりに、ため息のように呟いた。
(朝――いや、もう少しで昼間というところか)
目線を太陽に向け、その位置と高度を見て現在の時刻を大雑把に割り出すと、降り注ぐ陽射しに目を細めながらゆっくりを青年は上体を起こした。そして、彼が眠っている時からずっと視線を投げつけてくる背後の人物に質問した。
「で?お前はなんで俺なんかを見てんだ?」
しゃがみこんで彼の様子を伺っていた人物が驚いた表情を浮かべた。まさか自分に声をかけてくるとは思わなかったのだろう。慌てて立ち上がり、動揺した声で話し出す。
「あの……その……わたしここから東にある町に住んでるんですけど! えっと……昨日隣町に行ってて! あっ、隣って言っても遠いんですけど……」
「あー……もういい」
やたら遠回り、かつたどたどしい返答に青年は聞く気が失せた。声を聞く限りでは女――少女といってもいいぐらいの年齢だろう。彼は顔を横に小さく振って発言を中止させると、地面から腰を上げ、渋々その人物に顔を向けた。
予想通り、そこにいたのは少女だった。
彼女はうつむいていたが青年が立ったのに一拍子遅れて気づき、勢いよく顔を上げて青年と目が合った。
綺麗というよりは可愛らしいといった雰囲気の少女、歳は15,16ぐらいだろうか。胡桃色の肩の辺りまで伸びた髪、ベージュのロングTシャツに白黒のチェックのロングスカートといった装いで顔をほのかに赤く染めていた。
(隙だらけだな。武器らしいものも持ってないようだし――)
どうやら自分に敵意があるわけではないらしい。と、青年は少女を観察しながら思う。
あの『ワールドエンド』から3年経ち、争乱が続いた世界も現在"世界統一連合"により徐々にではあるが沈静化しつつはある。
しかし、それは表面上のことであり、食料不足や水不足による略奪、それに伴う暴動や殺人の横行、大戦で使用された兵器による人命被害など、それ以外にも多く発生している問題は、絶えることはなく世界の各地で起こっている。
連合もそんな状況を立て直すべく尽力しているようだが、まだ設立して年月が浅いこともあり、対策が追いつかずどこもかしこも未だ無法地帯と化しているのは否めない。ここ極東地域――かつて日本と呼ばれた地域は最もそれに当てはまるであろう。
人々は怯えていた。明日、いや数時間後――あるいは数分後数秒後には己の命が奪われてしまうかもしれない日常に。今、青年と相対している少女もその一人のはずなのだ。自分が生き残るために他者を犠牲にする。例え、その他者がどんなことになろうとも――。
もし仮に、少女が生きるために青年に略奪を行うつもりがあったのなら、青年が寝ている間に済ませてしまえばいいだけのことだ。金品を奪う――といっても彼は無一文なのだが――、身包みを剥ぐぐらいのことはできたはずだ。
しかしそれらを一切行動に移さない彼女に、青年は違和感を眠っている時から覚えていた。いや、正確には眠っている振りをしていた時からといえる。彼は少女に見つける前から、狸寝入りしていたのだ。
それはなぜか?なぜなら、そもそも彼にとって睡眠は"必要不可欠なものでない"からである。
話が逸れてしまったが、それはさておいて、青年は彼女からあきらかな敵意や殺気じみたものを一切感じなかった。むしろ彼の身を案じていうような不安げな表情を見せている。
そんな彼女を、青年は表情を変えるでもなく、ただ見つめていた。
「えっと……こんなところで何をしてたんですか?」
少し落ち着いてきたのか、スカートに付いた砂を掃いながら今度は少女が問いかけた。
「見ていたならわかると思うが?」
「じゃあ、ほんとに寝ていただけなんですね……」
厳密に言えば寝ていたとは言えないのだが、青年はさもそれが事実かのように問い返す。
「それ以外になにがある?」
「いえ、てっきり行き倒れてるのかなって思ったんです。ここ、目印も何もないからよくいるんです。そういう人が……」
確かにこの荒野は、彼女の言うとおり町の存在を示すものなどなにもない。そんなところでで倒れている人間がいれば行き倒れだと思われてもおかしくはないし、最悪の場合、死体かもしれない。青年を見つけた少女は、そのどちらなのかを確認したかったのだろう。
当事者である青年の態度は当たり前なことを訊かれたような素っ気無いものだったが、彼女はそれを気にする素振りもなく――安堵の笑みを浮かべていた。
よかった。と小さく呟き、胸を撫で下ろしていた。どうやらお人好しな性格のようだ。
青年は相も変わらず無表情であるが――。
(こちらに害はないだろう)
ここでようやく青年は自身の警戒のレベルを落とすことにした。例えそれが誤った判断だったとしてもなるようになる……と青年はそう思うことにした。
「そういえば町から来たと言ったな。お前」
「あっ、はい。ここから東にある町から来ました」
青年の声に彼女の表情にまた緊張が走る。
「その町からここまでは距離があるようだが、そのスクーターでここまできたのか?」
青年は少女の背後に隠れるように停めてあったスクーターに視線を向けた。長方形のソーラーパネルがフロントライトの真上の辺りに埋め込まれているところを見ると、太陽電池による電動スクーターのようだ。赤い車体は少々錆び付いており、砂埃も付着している所為か、故障したためにその場に放置されている様に見え、動かせるかどうかも怪しく感じる。
「そうです……あっ! こんなに砂が……帰ったら洗わないと」
「珍しいな。そんな古いものがまだあったのか」
「町に住み始めのころに拾ったんです。そのときは壊れてたんですけど、わたしのお父さんが直してくれて……お父さん、町で機械の修理工をやってるんですよ。いつもはお兄ちゃんが乗ってるんですけど、今は借りてるんです」
少女はスクーターに駆け寄り、シートに付いた砂を掃いながら嬉しそうに応えた。まるで自分の宝物を自慢するかのように――事実、そうなのであろう。青年がスクーターに興味を示した時、無意識であるだろうが彼女の表情は、さっきまでの強張ったものが無くなり、完全に柔らかいものになっていた。
「そうだ! あの、おなか空いてません?」
唐突に少女が青年に訊いてきた。
「別に」
だが、警戒のレベルを落としたとはいえど、青年の素っ気無さは変わらずである。
「喉も渇いてないですか? 疲れてたりも……」
「別に」
「そうですか……よろしかったらご馳走しようかと思ったんですけど……」
「む、水と食料をくれるのか?」
少女の問いかけの意味を青年はようやく理解した。彼の中では彼女の発言は思いもよらないものだったらしい。それまではなんの変化も見せなかった彼の顔に一瞬驚きが見えた。
「えっ……あ、はい……といってもご馳走って呼べるほどのものではないとは思いますけど……?」
「構わない、炭水化物と水さえあればな。あればたんぱく質を摂取できればいいが……」
青年は腕を組み、何かを悩む姿勢を見せたのものの「まあ別にいいか」と自分だけで結論を出してしまったようだ。
「た……たんすいかぶつ? 確かお米やパンなんかに含まれてる栄養素でしたっけ?」
普段あまり聞かない単語ではあったが、少女は記憶の片隅にあった情報を青年に確認してもらう。
「まあそんなところだ」
「……やっぱりおなか空いてたんですか?」
申し訳なさそうな少女の問いかけ。
「空いてはいない。というか、食事自体そんなに必要ない。ただ食事の有無で、自身のエネルギー効率が若干ではあるが変化する。だから食事が可能であれば食べるぐらいだ」
「は……はぁ……?」
青年の言動がよくわからなくなった少女は、頼りない相槌を打つしかなかった。あきらかに今までとは違う反応に戸惑っているようだ。しかしすぐに気持ちを切り替え、青年に提案する。
「ともかく、町にご案内しますよ。ここじゃなんだし」
少女はスクーターに跨ると、シートの後部座席というにはわずかに狭いスペースを手でポンポンと叩いた。ここに乗ってください、という催促らしい。
「……動くのか? 俺が乗って?」
人一人が乗る分には問題なさそうだが、二人で、しかも大の男を乗せて走行できるような馬力があるようには、このスクーターには見えない。そう思わざるを得ない程にあまりにも頼りない外観をしている。
「大丈夫ですよ? いつもわたしとお兄ちゃん二人で乗ってますし、壊れたことなんてないです。さすがはお父さんです」
誇らしげに胸を張る少女を、訝しげな目で青年が見ていた。なぜそこまで父親自慢するのか、青年にはわからなかったが、ここは余計な発言をせずに少女の提案を受け入れた方が妥当と判断し、スクーターに歩み寄る。ここは彼女の愛車の頑丈さに期待しよう――彼はそう自分を納得させた。
(一応体重は軽くしておくか……あのスクーターが故障したらめんどくせぇだろうし)
青年がそう頭の中で呟いた瞬間、彼の歩みが速くなったように見えたが、少女は気づかなかった。
「そういえば自己紹介してませんでしたね。わたし、サラっていいます。よろしくお願いします」
「俺は……クロウでいい」
この物語と言えるかどうか微妙な作品はフィクションです。
作品内で登場する国名・組織・出来事・人物などその他諸々は、実在するそれらとは一切関係ありません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
以前、第0話と合わせたものを投稿していましたが、閲覧のしやすさを考慮した結果、分割させていただきました。




