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第1話-3 凶弾

ようやくアクションものっぽい事件が勃発。しかし物語のテンポが悪い為か、緊迫感に欠ける気がする……(涙目)

 一方のクロウとサラは、目的地である彼女の自宅近辺まで到達していた。途中サラの知り合いらしき中年の女性に声をかけられ、サラと雑談を始めた為に時間がかかったとはいえ、ようやく目的を果たせることにクロウは安堵していた。ここでももちろん無表情で。


 「はむ……そういえばまだ訊いてませんでしたね」


 先ほど出会った中年の女性がくれた焼き芋を食べ歩きながら、サラは思い出したように一歩後ろを歩くクロウに顔を向けた。


 「……む……何をだ?」


 また質問攻めか、と呆れ返り気味に聞き返すクロウ。ちなみに彼も女性から焼き芋をもらっており、それにかぶりついている。余談ではあるが、彼が食事を取るのは実に三ヶ月ぶりである。

 閑話休題。サラは若干緊張した面持ちで話を続ける。


 「クロウさんはその……なんで旅をしてるんですか?」


 「……旅をしているつもりはないんだがな」


 「でもなにか目的があるから九州からここまできたんですよね?」


 クロウは話をはぐらかそうしたが、サラの追及は止まらなかった。彼女は立ち止まり、彼の目をじっとみたまま返答を待つ。


 「……俺は――」


 言い逃れはできそうにないな、と彼女の横で歩を止めたクロウが観念して話し出そうとしたその時。前方から怒声罵声が聞こえてきた。


 二人が声の発せられた方に視線を向けると、男達が言い争いをしていた。


 人数は七人。うち五人が残りの男二人に詰め寄り言い争っている。距離があるため、男達が何を言っているのかはよくわからないが、詰め寄っている五人――全員が黒の革ジャケットとジーンズ姿である――の態度からは品性のかけらもない。ようするにガラの悪い連中だというのが見てわかる。対する詰め寄られている側の二人はたじろぎながらも何かを言い返しており、姿はガラの悪い男達が人垣となっているためよく見えないが、どうやら青年と中年の男の二人組みのようである。


 「お父さん? お兄ちゃん?」


 目を凝らし様子を見ていたサラが声をもらす。


 瞬間。


 パンッという乾いた音が町に響いた。続けて三回、同じ音が輪唱のように後に続いた。


 発信源はさっき言い争っていた男達の集団からだ。だが、すでに彼らは言い争ってはおらず、ガラの悪い男達の一人の手に拳銃が握られており、その足元には言い争っていたはずの男二人が倒れていた。


 「お父さん! お兄ちゃん!」


 サラは叫ぶと同時に集団に向かって走り出した。男達の人垣を掻き分け、仰向けで倒れている男二人に近寄る。クロウも後に続いて歩き出した。


 「お父さん! サラだよ! お兄ちゃん! しっかりして!」


 倒れた二人の体を交互に揺するサラ。彼らは大量に出血していた。出血は二人の衣服を滲ませているだけでなく、地面にも血が流れ出していた。ひび割れた黒いアスファルトを血が赤く塗りつぶし、その割れ目に染み込んでいく。


 「お父さん!! いや!! お兄ちゃん!! ねえってば!!」


 涙声になりながらサラは懸命に呼びかける。


 「……ラ……」


 「お父さん!」


 その呼びかけに反応したのはサラがお父さんと呼んだ相手だった。彼は傷のせいか言葉をうまく発することはできないようだった。

 彼は震える手をサラの頭に乗せ、ゆっくりと撫でる。そして、


 「お……か……え……り」


 と搾り出した声で呟くと、彼の手が彼女の頭から崩れ落ち、力尽きた。


 「いや……いやっ! やだ!! 目を開けて! お父さん! お兄ちゃん!」


 サラが先程より強く父親と兄の体を揺するが、二人が反応することはない。


 「やだ……やだよぅ……目を開けてよ……お父さん……お兄ちゃん……」


 少女は大声を上げて泣き崩れた。父と兄、二人の手を握りながら。


 「何? おまえこいつらの身内?」


 そこにまるで関係ないといった口調でサラに話しかけてきたのは、彼女の後ろでやりとりを見ていたガラの悪い男達の一人だ。


 「こいつら、アニキのバイクが直せないとかぬかしやがったんだぜ?」


 「使えないやつは生きてても仕方ねえよなぁ?」


 「アニキの命令を素直に聞かねえからそうなるんだよバカなやつらだぜ」


 他の男達も続けて心無い言葉をサラに浴びせる。


 「まあまあお前ら落ち着け。よく見たらそいつなかなかかわいい顔してんじゃねーか」


 そう言ったのは右手に拳銃を持った、ガラの悪い男達の間で"アニキ"と呼ばれている男だった。泣き崩れているサラを見つめ、蔑むように笑う。

 一方のサラには男達の声など聴こえてはいないようだった。依然として彼女の慟哭が治まることはなく、父兄の傍らから離れようとしない。

 と、ガラの悪い男達の一人がサラに近寄り、右腕を掴んで無理矢理に立ち上がらせ引き離した。


 「お~アニキの言う通りのかわいこちゃんだぜ」


 「いや! 離して!」


 サラが掴まれた腕を振り切ろうとする。だが、到底敵わない抵抗だった。少女の彼女と男の体格は一回りも二回りも違う。力の差は歴然だった。それでもなお彼女は必死に父兄の傍らに戻ろうとした。


 「暴れんなよ子猫ちゃん」


 アニキがサラの至近距離で銃口を向けていた。


 「ひっ」


 サラの顔色が悲愴から恐怖に変わる。その移り変わりを満足そうに確認すると、アニキは銃身をサラの顎の下に当て、そのままくいっと顎を持ち上げ彼女の顔を熟視した。


 「俺の言うこと聞けば悪いようにはしねぇからよ。大人しくしようぜ? 子猫ちゃん。そうしたらこいつらのことも許してやるぜ?」


 アニキは顎で並んで横たわる彼女の父兄たちを指す。


 「あーでももう死んでるんだっけか? なら許すも許さないも関係ねぇな……くははは!」


 楽しげに、されど残忍な笑い声をアニキはあげた。それに呼応するようにその他のガラの悪い男達も笑い出す。

 サラは呆然としていた。顔からは生気がなくなり、全身の力が抜けているようだった。

 無力な彼女はただ、静かに涙を流すことしかできない。


 「おい、お前の家はまだなのか?」


 頭を掻きながら、クロウが男達の集団の後方で止まった。笑い声はやみ、皆いっせいにクロウを見る。対して彼は焼き芋の最後の一口を頬張り、彼を睨むガラの悪い男達、その足元で倒れている二人を順番に見やり、目の辺りを赤くしながら涙を流すサラと目が合った。


 彼女はすがるような目でクロウを見つめていた。助けて、と聴こえざる声で叫んでいるかのようだった。しかし彼にはそんな彼女の真意が伝わることはない。むしろ、彼は自身がめんどくさいことに巻き込まれることを彼女の目から感じ取っていた。なんとなくここはさっきのように事前にかわすことができないように思えたクロウは、ため息をついて続けた。


 「お前の家はまだなのかと訊いてるんだが?」


 「……てめえ誰だ?」


 サラの腕を掴んでいる男がクロウに聞き返した。


 「お前こそ誰だ? その女の知り合いか? ああ……お前がこいつが言ってたお兄ちゃんか。全然似てないな」


 クロウは素直な感想を述べたが、それがガラの悪い男達には愉快だったらしく、それぞれの顔を見合わせて笑い出す。


 「ははは! おもしれー奴だなてめえ。けどはずれだ。こいつはこの子猫ちゃんの兄貴じゃねえよ」


 「でもまあ、なんか用事があるんならあとにしな。子猫ちゃんはアニキにお呼ばれしてるんだ」


 「そういうこった。とっとと失せな」


 痛い目に遭わないうちにな、と付け加えてクロウをあしらおうとする男達だが、彼は引き下がらない。


 「そういうわけにはいかないな。そっちこそこちらの都合がついてからにしてくれ」


 その場に漂う空気が変わる。

 男達の目つきが一気に鋭くなり、自分に対する敵意がむき出しになっていくのをクロウは感じ取っていた。しかし、これでもなお彼の顔に感情による変化は見られない。


 「聞こえねーのか? 失せろっていってんだよ」


 肩で風を切りながらアニキはクロウに歩み寄った。気の弱い人ならばそれだけで震え上がり、逃げ出すほどの怒気を込めてクロウを睨みつけながら。

 対するクロウはたじろぐこともせず、あくまで無表情でアニキを視線を合わせる。


 「聞こえているから答えたんだが? お前こそ言葉を理解しているのか?」


 するとアニキは自身の手に握られた拳銃の銃口をクロウの眉間に押し当てた。


 「だから消えろっつってんだろ……なんならそこに倒れている奴らみたくてめえをこの世から消してやろうか? ああ?」


 「……はあ、だから――」


 クロウの台詞は一発の銃声にかき消される。アニキが引き金を引いたのだ。

 ゼロ距離で撃たれた反動を受けてクロウの体は宙に跳ね上がり、そのまま背中から倒れ落ちる。


 「ウゼぇから黙ってろクソが」


 口元を歪ませ、アニキが吐き捨てるかのように言った。


 「いやああああああああああああああああああ!!」


 サラが絶叫する。そして自分の持てる全ての力を使って、再び男に掴まれたままの右腕を振り解こうとするも、簡単に押さえつけられてしまった。

 アニキは満面の笑みを浮かべながらふり返る。


 「さて、ウザい奴がいなくなったところで、楽しもうぜおま――」


 「おい」


 クロウがゆっくりと立ち上がり、自分を撃った相手を呼び止めた。クロウの眉間から弾丸がこぼれ落ちる。見れば銃創どころか傷一つなく、腫れ上がってもいない。


 「は?」


 撃った相手、アニキはクロウに向き直った。その顔に先程までの笑みはなく、何が起きたのかわからないといった不思議そうな表情でクロウを見ている。


 「お前、俺を殺そうとしたな・・・・・・・


 アニキにクロウは確認する。

 アニキは答えない。答えられなかった。今自分が置かれている状況を把握できていない。


 「なら無理だ。銃で頭を撃つぐらい・・・・・・・・・では俺は殺せない」


 クロウは語る。冷徹に、淡々と。


 「そういやまだ言ってなかったな…… おい、サラ……とかいったか?」


 いきなり自分の名前を呼ばれ驚くサラは返事をしなかったが、クロウはサラに視線を向け、こう言った。


 「俺は死ぬために極東ここを放浪している。極東ここは俺が造られた・・・・場所だからな。俺が死ぬ方法があってもおかしくはないだろう」


 「――え?」


 台詞の意味が理解できないサラは、間の抜けた声を出す。無理もない。

 彼女はクロウが"生きることすらめんどくさいと常日頃から感じている"ことなど知る由もなかったのだから。彼のとてつもないめんどくさがりは、己が命の扱い方にまで影響を及ぼしているのだ。


 「極東ここ造られた・・・・だぁ……? まさかてめえ――」


 「そうだ、人間おまえたちが『殺し過ぎる者オーバーキラー』と呼ぶ者だ」


 アニキが再度拳銃を構えながら言い切る前に、クロウはそう言い放った。


 少女と男達に戦慄が走る。


 「さて……『殺し過ぎる者オーバーキラー』は自身を殺そうとしたものを排除するように教育を受けている。めんどくさいことにな」


 クロウは肩を竦め、拳銃のグリップを小刻みに震えながら握りしめ、こちらに狙いを定めるアニキを見据える。


 「それでは、正当防衛開始だ。頼むから俺が死ぬより先に死ぬなよ」


 そのとき初めてクロウが見せた明確にわかる表情は、狂気に満ちた、背筋が凍るほどの不気味な笑顔だった。

この物語と言えるかどうか微妙な作品はフィクションです。

作品内で登場する国名・組織・出来事・人物などその他諸々は、実在するそれらとは一切関係ありません。




最後までお読みいただきありがとうございました。


以前、第1話-2と合わせたものを投稿していましたが、閲覧のしやすさを考慮した結果、分割させていただきました。


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