第0話 登場人物紹介――二階堂家の人々
承元二年(1208年)、鎌倉。
二階堂家には、母のちよと五人のきょうだい、それぞれの妻や子どもたちが暮らしている。
父の直成は、京で亡くなった。
ところが、父がいなくなってからも、直成を訪ねて人がやってくる。
土地のことを相談する人。
仕事の話を持ってくる人。
昔の直成を知っている人。
そして、ときには歴史に名を残すような人まで。
この物語は、そんな少し騒がしい二階堂家の話である。
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■ ちよ――五人きょうだいの母
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四十歳前後。
亡き直成の妻で、宗直、光成、まつ、三郎、あやの母。
家族が何かでもめると、まず一人ずつ話を聞く。
ただし、いつでも落ち着いているわけではない。
子どもたちに呆れたり、夫の昔のことを思い出して笑ったり、知らないことを知らないままにしておけなかったりする。
若いころ、直成へ先に声をかけたのは、ちよの方だった。
直成のことを何でも知っているように見えるが、本人はそうは思っていない。
「知らないことは、本人に聞けばいいでしょう」
というのが、ちよらしい考え方である。
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■ 直成――もういない父
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二階堂家の父。
物語が始まる直前、仕事で滞在していた京で亡くなった。
背が高く、声が低い。
理屈っぽく、説明が少し長い。
分からないことは分からないと言い、人の話を途中で決めつけず、まず本人へ確かめようとする人だった。
大江広元のもとで文書に関わる仕事をし、源頼朝からも信頼されていた。
頼家や実朝が若かったころには、読み書きや記録、人の話の聞き方などを教える、先生のような立場でもあった。
ただし、家族が知っている父と、外の人が知っている直成は、少しずつ違う。
なぜ京から鎌倉へ来たのか。
もとは何者だったのか。
なぜあれほど「確かめること」にこだわったのか。
家族にも、まだ分からないことが多い。
そして直成には、家族が知らない秘密がある。
この人は、現代からこの時代へ来た転移者だった。
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■ 宗直――太郎兄。背負いすぎる長兄
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五人きょうだいの一番上。
物語開始時は二十一歳ほど。
弟妹からは「太郎兄」と呼ばれている。
責任感が強く、困っている人を見ると、
「俺がやる」
と言ってしまう。
頼りになる兄だが、自分の仕事が増えていることに本人だけが気づかないこともある。
父の死後は、家を支えなければならないという思いがさらに強くなった。
妹や弟のことも気にしている。
気にしていないふりをしているときほど、よく見ている。
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■ ふみ――宗直の妻
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宗直の妻。
二階堂家の親族筋につながる家の出身で、宗直とは昔からの知り合い。
宗直の性格をよく知っている。
本人が平気な顔をしていても、疲れていることや、何かを心配していることにはだいたい気づく。
だからといって、何でも先回りして世話をするわけではない。
宗直が自分で言うまで待つこともある。
二人の間には、
忠太、
たか、
小次郎
という三人の子どもがいる。
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■ 光成――次郎兄。土地と水を見る次兄
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宗直の次に生まれた兄。
物語開始時は十九歳ほど。
家では「次郎兄」と呼ばれている。
田、川、水路、土地を見るのが好き。
土地の話になると、紙に書かれた説明より先に、
「実際にどうなっている」
と現場を見に行きたがる。
そのため、帰ってくると足が泥だらけということも珍しくない。
人の田や水路のことにはよく気づくのに、自分の家の用事を忘れることがある。
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■ おりん――光成の妻
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光成の妻。
下総方面に縁のある御家人の家から来た。
実家では、田や川、用水などを身近に見て育っている。
光成が「土地や水そのもの」を見るなら、おりんは、
「そこで暮らしている人はどうなるのか」
を見る。
光成が水路のことばかり考えていると、家の用事へ引き戻す役でもある。
夫婦仲はよい。
二人の子どもは、
与一と梅。
与一はまだ幼く、梅は乳児である。
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■ まつ――家族の変化によく気づく姉
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五人きょうだいの真ん中。
物語開始時は十五歳。
宗直と光成の妹で、三郎とあやの姉。
家族の小さな変化によく気づく。
宗直が何かを隠していることも。
光成が話を聞きながら別のことを考えていることも。
三郎が紙に夢中になっていることも。
だいたい分かる。
兄たちが難しい顔で話していると、
「それで、自分の用事は終わったの?」
と普通に聞く。
現在、京の藤原季成という若者との縁談が持ち上がっている。
ただし、まつはまだ季成本人をほとんど知らない。
「自分が夫婦になる人なのだから、まずその人を知りたい」
と考えているところである。
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■ 三郎――紙を持って走る弟
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物語開始時は十二歳。
この物語で、二階堂家を見る中心人物の一人。
人の名前や話を書き留めるのが好き。
何か問題が起こると、
「まず紙に書けば整理できる」
と思う。
ところが、紙の上では筋が通っていても、人の気持ちはそれだけでは片づかない。
兄姉や母に指摘されながら、少しずつそれを覚えている。
父・直成の仕事にも強い関心を持っている。
最近では大人の仕事を手伝う機会も増えてきた。
しかし本人としては、
「仕事はさせるのに、どうして大事な話では子ども扱いされるのだろう」
という不満もある。
まだ三郎である。
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■ あや――物と暮らしを見る末妹
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五人きょうだいの末っ子。
物語開始時は九歳。
大人たちが難しい話をしていても、あやが気になるのは別のことだったりする。
「それ、誰が運ぶの?」
「いくらなの?」
「うちの米は足りるの?」
物の数。
値段。
どこから来たのか。
誰が持ってきたのか。
暮らしに足りるのか。
そういうことが気になる。
本人は鋭いことを言おうとしているわけではない。
分からないと困るから、聞いているだけである。
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■ 二階堂家へやってくる人々
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二階堂家の周りには、鎌倉の政を担う人々もいる。
■ 源実朝
鎌倉幕府の将軍。
まだ若い。
将軍という大きな肩書を持っているが、その中にいるのは一人の若者でもある。
直成を知っていた。
■ 北条政子
源頼朝の妻で、実朝の母。
大きな政治的影響力を持つ女性だが、二階堂家では母親としての顔を見せることもある。
ちよとは、子どもを持つ母親同士として言葉を交わす。
■ 北条義時
鎌倉幕府の中心で政務を担う人物。
役目が重く、簡単には弱音を吐けない。
二階堂家へ来ても、必ず大事件が起こるわけではない。
白湯を飲んで、少し座って帰ることもある。
■ 大江広元
鎌倉幕府の文書や政務を支える文官。
亡き直成をよく知っている人物の一人。
三郎が父のことを尋ねても、全部を一度には話してくれない。
直成の仕事ぶりについては、家族の知らないことをいくつも知っている。
■ 和田義盛
鎌倉の有力御家人。
声が大きく、身体も大きい。
二階堂家へ来ると、いつもの家が少し狭く見える。
豪快な人物だが、それだけではない。
■ 藤原季成
京に暮らす若い公家。
創作人物。
藤原北家・日野流につながる家の出身で、現在は文章生として学んでいる。
まつより五、六歳ほど年上。
北条政子を通じて、まつとの縁談が持ち上がった。
ただし、まつも季成も、まだ互いのことをほとんど知らない。
二人の話は、ここから始まる。
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二階堂家の人々は、同じものを見ていない。
宗直は、人と責任を見る。
光成は、土地と水を見る。
まつは、人と人との間を見る。
三郎は、言葉と記録を見る。
あやは、物と暮らしを見る。
ふみとおりんも、それぞれの家から夫たちを見る。
そして、ちよは皆の話を聞く。
意見がそろうことは、あまりない。
誰かが何かを決めようとすると、別の誰かが口を出す。
仕事の話をしていたはずなのに、いつの間にか夕飯の話になっていることもある。
父の直成はもういない。
それでも父が残したものと、
今を生きている家族の考えが混ざりながら、
二階堂家の毎日は続いている。




