鋼鉄の戦士アン
グラディウス王は、俺たちを見渡した。
「では――」
そして、ゆっくりと口を開く。
「雷鳴の勇者一同よ」
「……はい」
俺たちは姿勢を正す。
「どうか我々魔族の――公認冒険者となっていただきたい」
「魔族の公認冒険者……?」
俺が聞き返す。
すると――。
「グラディウス様?」
それまで静かに話を聞いていたオヴェリアが、すぐさま口を挟んだ。
「雷鳴の勇者一同様は、既に王都公認の冒険者様です」
「…………」
グラディウス王が、オヴェリアを見る。
「……ええ、存じております」
「でしたら――」
「ですから」
グラディウス王は穏やかに続けた。
「魔族領においても、公認冒険者となっていただきたいのです」
「ああ……そういうことですか」
俺は納得した。
人族の王都ハルディオで公認されている俺たちを――。
今度は魔族側でも正式に認めたい、ということらしい。
すると――。
「でも!」
突然、カレンが元気よく声を上げた。
全員の視線がカレンへ集まる。
「雷鳴の勇者は――」
カレンは胸を張って言った。
「オヴェリア様のお友達です!」
「…………」
一瞬。
部屋が静まり返った。
俺は思わずカレンを見る。
「カレン……?」
すると、オヴェリアが口元に手を当て――。
「ふふっ」
嬉しそうに笑った。
「そうですね」
そしてカレンの頭を優しく撫でる。
「私にとっても、雷鳴の勇者の皆様は大切なお友達ですよ」
「えへへ!」
カレンは満面の笑みを浮かべる。
グラディウス王はそんな二人を見つめ――。
やがて、小さく笑った。
「……なるほど」
「?」
「それならば――我々魔族も、友として迎え入れなければなりませんな」
そう言って、グラディウス王は立ち上がった。
「改めてお願いします」
そして――。
「雷鳴の勇者一同よ」
「魔族領を、どうか自由に歩いてください」
「そして――」
グラディウス王は、カレンへ視線を向ける。
「英雄王ジーク様の力を宿した、小さき勇者と共に」
「…………」
俺はカレンを見る。
カレンは、肩に乗った妖狐を撫でながら――。
「うん!」
元気よく頷いた。
「いっぱいお友達作る!」
その言葉に――。
俺たちは思わず笑ってしまった。
どうやら魔族領での旅は――。
これまで以上に賑やかなものになりそうだった。
その言葉を聞いたオヴェリアは、嬉しそうに微笑むと――カレンをそっと抱き上げた。
「雷鳴の勇者様。どうか、お怪我をなさらないようにお気をつけくださいね」
そう言って、カレンの頭を優しく撫でる。
「うん!」
カレンは嬉しそうに笑った。
オヴェリアに抱っこされながら、気持ちよさそうに目を細めている。
「……カレン、本当にオヴェリア様が好きなんだな」
俺がそう言うと、アリスも微笑む。
「ええ。オヴェリアもカレンのことを、とても可愛がっているもの」
「雷鳴の勇者は、オヴェリア様のお友達だから!」
カレンはそう言って、胸を張った。
「ふふっ。そうですね」
オヴェリアは笑いながら、もう一度カレンの頭を優しく撫でた。
しばらくして――。
「それでは、私たちはそろそろ控え室へ戻ります」
俺がそう告げると、オヴェリアは名残惜しそうにカレンを俺へ渡した。
「はい。次の試合も、しっかり応援しています」
「ありがとうございます」
俺たちはオヴェリアに見送られながら、その場を後にした。
そして――。
俺たちは控え室へと戻った。
「次はどんな相手かな?」
カレンが楽しそうに尋ねる。
「さあな。さっきの妖狐より強い相手が出てくるかもしれないぞ」
「お友達になれるかな?」
「……たぶん、カレンなら大丈夫だろ」
俺がそう答えると、グリフが苦笑した。
「むしろ相手の方が、カレンと友達になりたくないと思うけどな……」
「グリフお兄ちゃん、どうして?」
「いや……なんでもない」
そんな会話をしながら――。
俺たちは控え室で、二回戦目の開始を待つのだった。
会場の熱気は――時間が経つにつれて、さらに激しくなっていった。
控え室にいても、観客たちの歓声が響いてくる。
「うおおおおおおおおっ!!」
「次は誰だ!?」
「負けるなぁぁぁ!!」
どうやら一回戦だけでも、かなりの数の冒険者パーティーが敗退したらしい。
勝ち上がった者たちは、次の戦いへ。
敗れた者たちは、静かに会場を後にしていく。
そして――。
二回戦が始まった。
俺たちは控え室で待機しながら、順番を待つ。
外から聞こえてくる歓声は、先ほどよりも明らかに大きくなっていた。
「……盛り上がってるな」
グリフが呟く。
「二回戦だからな。残っている連中も、それだけ強いってことだろ」
俺がそう答えた、その時だった。
控え室の扉が開く。
「雷鳴の勇者一同様!」
係の魔族が、少し緊張した様子で頭を下げた。
「お時間です! お願いします!」
「分かりました」
俺たちは立ち上がる。
カレンも元気よく立ち上がった。
「行こう!」
「おう」
俺たちが通路へ出る。
すると――。
会場から、地鳴りのような歓声が響いてきた。
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
俺たちが入場口へ近づくにつれ、その声はどんどん大きくなっていく。
そして――。
司会者の声が会場中に響き渡った。
「さあああああっ!! 皆様、お待たせいたしましたぁぁぁぁ!!」
観客席が一斉に沸き上がる。
「この大会、最大の注目を集める冒険者パーティーが――再び姿を現します!!」
「その名もぉぉぉ――!!」
一瞬、会場が静まり返る。
そして――。
「雷鳴の勇者一同ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
凄まじい歓声が会場を揺らした。
「来たぞぉぉぉ!!」
「雷鳴の勇者だ!!」
「英雄王ジーク様の力を宿した勇者!!」
「カレン様ぁぁぁ!!」
俺は思わず苦笑する。
「……一回戦より凄くなってないか?」
グリフも呆れたように笑った。
「完全に人気者だな」
そして――。
隣を見る。
カレンは満面の笑みを浮かべながら、観客席へ向かって大きく手を振っていた。
「みんなー! こんにちはー!」
「うおおおおおおおおおおっ!!」
その瞬間――。
さらに大きな歓声が会場を包み込んだ。
どうやら二回戦目は――。
一回戦以上に、凄いことになりそうだった。
俺たちが闘技場へ足を踏み入れると――。
向かい側の入場口から、ゆっくりと何かが姿を現した。
ズシン――。
ズシン――。
地面を踏みしめるたび、重たい音が響く。
「……でかいな」
俺は思わず呟いた。
現れたのは――巨大な身体を持つガーゴイルだった。
全身は灰色の硬い石で覆われている。
そして、その手には――。
自分の身体ほどもある巨大な大斧。
ガーゴイルは大斧を肩に担ぎながら、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「……あれはガルディオンだな」
グリフが目を細める。
「知ってるのか?」
「名前ぐらいはな。ガーゴイルの中でも、かなり強い個体だ」
グリフは弓を構えながら、相手を観察する。
「ランクは――Aランクにかなり近い、Bランクってところだ」
「AよりのBランク……」
「ああ。あの身体を見れば分かるだろ。普通の武器じゃ、あの石の身体にまともな傷をつけるのは難しい」
ガルディオンは俺たちを睨みつける。
そして――。
巨大な大斧を、ゆっくりと地面へ下ろした。
ズンッ!!
闘技場の床が震える。
観客席から、一斉に歓声が上がった。
「ガルディオンだぁぁぁ!!」
「Aランク目前のガーゴイルだぞ!!」
「雷鳴の勇者はどうする!?」
会場の熱気が、さらに高まっていく。
そんな中――。
俺の隣にいるカレンは、ガルディオンをじっと見つめていた。
「……大きいね」
「そうだな」
「お友達になれるかな?」
「……」
俺は黙ってガルディオンを見る。
巨大な身体。
巨大な大斧。
Aランクに近いBランク。
どう考えても――。
カレンが「お友達になりたい」と言い出す相手ではない。
だが――。
カレンは嬉しそうに笑っていた。
「カレン、あの子とお友達になりたい!」
……やっぱりか。
俺は小さく息を吐いた。
「じゃあ……頑張ってみるか」
「うん!」
その瞬間――。
司会者の声が、再び闘技場に響き渡った。
「さあああああ!! 二回戦の幕が――今、上がります!!」
そして――。
開幕の合図が響いた、その瞬間だった。
「――ッ!」
ガルディオンが動いた。
巨体からは想像もできないほどの速さだった。
ズガンッ!!
一瞬で間合いを詰める。
その巨体が真っ先に狙ったのは――アンだった。
「アンには――」
俺が声を上げた、その瞬間。
「バァアアアアアーンッ!!」
轟音が闘技場中に響き渡った。
砂煙が一気に舞い上がる。
「アンッ!」
俺たちは思わず叫んだ。
砂煙の向こう。
そこには――。
アンの首を捉えた、大斧。
ガルディオンの巨大な大斧が、アンの首へと叩き込まれていた。
誰もが息を呑む。
……だが。
「へ?」
アンは――。
まるで何が起きたのか分かっていないような顔をしていた。
自分の首に食い込んでいる大斧を見て――。
そして、ガルディオンを見る。
「……え?」
ガルディオンもまた、動きを止めていた。
おそらく――。
斧を振り抜いた感触がおかしかったのだろう。
アンの身体には、傷一つない。
それどころか――。
大斧の刃が、アンの首に触れた場所で止まっている。
「……アン」
俺は思わず呟いた。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
アンは首を触りながら、きょとんとしている。
「なんともないけど……?」
その理由は――。
アンに渡してある、ルーンストーンだった。
あのルーンストーンには――。
アン自身の身体を、鋼鉄のように硬くする力がある。
つまり――。
ガルディオンの大斧を真正面から受けても、アンの身体には傷一つつかなかったのだ。
「……嘘だろ」
グリフが呆然と呟く。
俺も思わずガルディオンを見る。
巨大なガーゴイルは、大斧を握ったまま固まっている。
そして――。
アンが、不思議そうに首を傾げた。
「……これ、どうすればいいの?」
「いや……そのままでいいと思う」
俺はそう答えるしかなかった。
観客席からは――。
先ほどまでとは比べ物にならないほどの歓声が巻き起こっていた。
砂煙が晴れていく。
アンの首元には――傷一つない。
その光景を見た司会者が、驚愕の声を上げた。
「な、なんということでしょうぉぉぉ!!」
司会者の声が、会場中に響き渡る。
「雷鳴の勇者一同様には――強靭な肉体を持った女戦士がいるようです!!」
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
その瞬間――。
会場中が大盛り上がりとなった。
「すげぇぞ、女戦士!!」
「ガルディオンの大斧を受け止めたぞ!!」
「なんて頑丈な身体なんだ!!」
観客たちから、次々と歓声が飛んでくる。
「……いやいや」
アンは困ったような顔をする。
「私、戦士でもないし……」
そして、自分の身体を見ながら――。
「強靭な肉体とかじゃないから……!!」
必死に否定する。
「アン姉ちゃん、すごーい!」
カレンが嬉しそうに声を上げる。
「カレンまで!?」
アンが振り返る。
グリフは肩を震わせながら笑っていた。
「いや、でも実際すごいだろ。あの大斧を首で受けて平然としてるんだから」
「だから! これはルーンストーンの力なの!」
「観客には、そこまで分からないだろうな」
俺が苦笑すると――。
アンは頭を抱えた。
「……もう、絶対変な二つ名つくじゃん……」
その隣では――。
ガルディオンが、いまだに信じられないものを見るような目でアンを見つめていた。
そして俺たちは気づく。
どうやら――。
二回戦は、まだ始まったばかりだ。
そして――。
ガルディオンが次に視線を向けたのは――アリスだった。
「……次は私を狙うのね」
アリスはそう呟くと、少し楽しそうに微笑んだ。
ガルディオンが大斧を構える。
次の瞬間――。
ドンッ!!
巨体が一気に地面を蹴った。
「速い――!」
グリフが声を上げる。
ガルディオンは一瞬でアリスとの間合いを詰めた。
「――ッ!」
そして――。
巨大な大斧を振り上げる。
狙いは、アリスの身体。
そのまま両断するつもりだ。
ガルディオンが大斧を振り下ろした。
――ガァンッ!!
凄まじい轟音が響き渡る。
だが――。
アリスの目の前には、透明な障壁が展開されていた。
大斧の刃は、その障壁に食い込むことすらできない。
「……?」
ガルディオンが力を込める。
両手で大斧を握り直し――。
さらに押し込む。
ギギギギギ――。
だが。
障壁は――。
微動だにしなかった。
「……残念ね」
アリスが微笑む。
「私には、その攻撃は届かないわ」
ガルディオンは必死に大斧を振り抜こうとする。
しかし――。
まるで歯が立たない。
俺は思わず苦笑した。
「……ガルディオン、相手が悪かったな」
グリフも呆れたように呟く。
「Aランクに近いBランクでも、アリスの障壁には傷一つつけられないのか……」
アリスは障壁の向こうから、楽しそうにガルディオンを見つめていた。
「さて――」
そして、静かに杖を構える。
「次は、どうするのかしら?」
アリスは、ガルディオンが大斧を構えたまま動けないのを見ると――。
「それじゃあ、少し大人しくしていてね」
そう言って、杖を軽く振った。
すると――。
地面から無数の光が伸びる。
次の瞬間。
魔法で作られた鎖が、ガルディオンの巨体へ一気に巻きついた。
腕。
脚。
胴体。
そして、大斧を握る両腕まで。
完全に拘束される。
「……!」
ガルディオンは身体を激しく動かし、鎖を引きちぎろうとする。
ギギギギッ――。
鎖が大きく軋む。
だが――。
びくともしない。
ガルディオンは身動きが取れなくなっていた。
その時だった。
「カレン!」
俺が声を掛ける。
「うん!」
カレンは元気よく返事をすると――。
「大きいクマさん!」
巨大なジャイアントグリズリーの背中へと飛び乗った。
「クマさん、お願い!」
「グオオオオオッ!」
ジャイアントグリズリーが、ゆっくりと歩き出す。
そして――。
ガルディオンの目の前までやって来た。
巨大な腕が、ゆっくりと持ち上がる。
ガルディオンは必死に身体を動かそうとする。
だが、魔法の鎖によって完全に拘束されている。
そして――。
ジャイアントグリズリーの大きな手が、ゆっくりとガルディオンの身体へ触れた。
その瞬間。
「ドゴォォォォォンッ!!」
凄まじい衝撃音が闘技場に響き渡った。
ガルディオンの巨体が――。
大きく吹き飛んだ。
地面を何度も跳ねながら、闘技場の端まで転がっていく。
ドォンッ!!
最後は壁へと激突した。
会場が、一瞬だけ静まり返る。
そして――。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
割れんばかりの歓声が闘技場を包み込んだ。
ジャイアントグリズリーの背中で、カレンは嬉しそうに笑っている。
「大きいクマさん、すごーい!」
……ガルディオンは、まだ立ち上がろうとしている。
どうやら――。
これでも、まだ戦えるらしい。
そして――。
俺はガルディオンの様子を見ながら、グリフへ視線を向けた。
「……そろそろ、俺たちの出番か」
「そうだな」
グリフが弓を構える。
俺もショートスピアを手に取った。
ルーンによって強化された身体。
その力を――。
今度は、投擲にすべて乗せる。
「――いくぞ」
俺は身体を大きく捻り、全力でショートスピアを投げ放った。
――ヒュンッ!!
次の瞬間。
ショートスピアは凄まじい速度で飛んでいく。
「ドシュッ!!」
ガルディオンの腹部へ突き刺さり――。
そのまま身体を貫通した。
さらに勢いは止まらない。
ショートスピアはガルディオンの身体を突き抜け――。
ドガンッ!!
そのまま闘技場の壁へと突き刺さった。
俺は静かに息を吐く。
「……よし」
その光景を見た瞬間――。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
会場中から、凄まじい歓声が巻き起こった。
「すげえええええ!!」
「槍がガルディオンを貫いたぞ!!」
「なんて威力だ!!」
観客たちは大興奮だ。
そして――。
会場にいるのは観客だけではない。
今回の大会に参加している、他の冒険者たちも――。
「おい……今の見たか!?」
「ガルディオンを一撃で貫いたぞ……!」
「あの円型の盾の戦士って、あんな攻撃までできるのかよ!」
控え室で試合を待つ冒険者たちも、大いに盛り上がっていた。
どうやら――。
俺たちは、この大会でますます注目を集めてしまったようだった。
そして――。
ガルディオンは、その場に倒れ込んだ。
審判役の魔族が確認すると、大きく手を上げる。
「勝者――雷鳴の勇者一同!!」
会場中から、大歓声が巻き起こった。
俺たちは無事に二回戦を突破した。
そして――。
三回戦目は、明日開催されることになった。
俺たちは控え室を出る。
すると、会場の案内をしていた魔族が俺たちのところへやって来た。
「皆様、お疲れ様でした。既にお食事の準備が整っております」
「食事?」
「はい。大会参加者の皆様には、こちらで食事をご用意しております」
そう言って、案内された先には――。
大きな食堂があった。
扉を開けた瞬間――。
「おー!」
俺は思わず声を上げた。
食堂には、たくさんの料理が並んでいた。
肉料理に魚料理。
焼きたてのパンに、色とりどりの野菜。
さらに、見たことのない魔族料理まで並んでいる。
しかも――。
すべてバイキング形式だ。
「うまそうだ!」
グリフも目を輝かせる。
「これは……好きなだけ食べていいってことか?」
「はい。皆様、ご自由にお召し上がりください」
「最高じゃないか!」
グリフが嬉しそうに料理を眺める。
俺も思わず笑ってしまった。
激しい戦いの後だからこそ――。
目の前に並ぶ豪華な料理が、いつも以上に魅力的に見える。
「カレン、何食べる?」
「お肉!」
カレンは迷うことなく答えた。
「やっぱりか」
俺たちは笑いながら、それぞれ料理を取り始めた。
どうやら――。
二回戦を勝ち抜いた俺たちを待っていたのは、豪華な食事だった。
食堂では――。
俺たちだけではなく、多くの名だたる冒険者たちや騎士団の者たちも、美味しい料理や酒を楽しんでいた。
あちらこちらから笑い声が聞こえてくる。
大会の緊張感から解放されたこともあり、皆それぞれに宴を楽しんでいるようだった。
そんな中――。
「……な……!?」
俺は、見覚えのある顔を見つけた。
「ライール!!」
「おおおおおおお!!」
グリフも同時に気づいた。
「ライール!!」
俺たちは料理を置くと、そのままライールへと駆け寄った。
「うおおおおおっ!!」
「お前ら!?」
俺とグリフは、勢いのままライールに飛びついた。
「久しぶりだな!!」
「生きてたか、ライール!!」
「おいおい! いきなり何だよ!」
ライールは驚きながらも、すぐに笑い出した。
「懐かしいな……!」
そう――。
ライールは、俺たちが冒険者訓練所にいた頃、一緒に訓練を受けていた仲間だった。
あの頃は、まだ何も分からない冒険者だった。
同じ場所で汗を流し、時には笑い、時には厳しい訓練に耐えた。
そんなライールと――。
まさか、こんな場所で再会するとは思っていなかった。
「本当に久しぶりだな」
「ああ。まさかお前たちが、こんなに有名になってるとは思わなかったぞ」
ライールが笑う。
俺たちは肩を叩き合いながら、久しぶりの再会を喜んだ。
そして――。
俺はライールの姿を改めて見る。
立派な鎧。
そして、その胸には帝国騎士団の紋章。
「そういえば、お前……帝国騎士団に入ったんだったな」
「ああ」
ライールは少し照れたように笑った。
「今じゃ――副団長までやってる」
「……副団長!?」
俺とグリフは、思わず顔を見合わせた。
「おおおおおおっ!!」
「すげえじゃねえか、ライール!!」
かつて同じ訓練所で汗を流した仲間が――。
今では帝国騎士団の副団長。
俺たちは、まるで自分たちのことのように嬉しくなった。
「お前らも……本当に変わったな」
ライールが俺たちを見ながら笑う。
「ああ」
俺も笑って答えた。
「でも、こうして会えば――あの頃と何も変わらないな」
懐かしい再会。
その夜、俺たちは昔話に花を咲かせながら――。
再び出会えた喜びを、皆で分かち合った。
すると――。
ライールが、隣に立っていた男へと視線を向けた。
「そうだ。せっかくだから紹介しておくよ」
そう言って、ライールが一歩横へ移動する。
「こちらが帝国騎士団長であり、将軍でもある――ゾディアック将軍だ」
「よろしくな!」
そう言って、豪快に笑ったのは――。
とても大柄な男だった。
黒っぽい甲冑に身を包み、その背中には巨大な大剣を背負っている。
その姿だけを見れば、いかにも近寄りがたい人物に見える。
だが――。
「お前たちが、あの雷鳴の勇者一同か!」
その声と笑顔は、とても豪快で明るかった。
「ライールから話は聞いているぞ!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺は手を差し出す。
「おう!」
ゾディアック将軍は大きな手で俺の手を握った。
ギュッ!
「……!」
思った以上に力が強い。
「はっはっは! さすが雷鳴の勇者一同だな!」
「いえ、こちらこそ……」
続いてグリフやアリスたちとも握手を交わす。
そして――。
「お嬢ちゃんも、よろしくな!」
ゾディアック将軍がカレンへ手を差し出した。
カレンは少しだけ首を傾げると――。
「よろしくお願いします!」
小さな手を差し出した。
ゾディアック将軍の大きな手と、カレンの小さな手が重なる。
「おおおお……!」
将軍は目を輝かせた。
「なんと可愛らしい雷鳴の勇者だ!」
「カレンだよ!」
「そうか、カレンか!」
ゾディアック将軍は嬉しそうに笑う。
そして――。
「会えて本当に嬉しいぞ!」
どうやら、将軍もカレンのことをかなり気に入ったらしい。
ライールがそんな将軍を見て、苦笑する。
「将軍、昔から子供には弱いんですよ」
「何を言う! 可愛いものは可愛いだろう!」
「ははは……」
俺たちも思わず笑ってしまう。
こうして――。
帝国騎士団長にして将軍、ゾディアックとの出会いを果たした。
そしてこの豪快な将軍との出会いが――。
後に俺たちの冒険に、大きく関わってくることになる。
アンもライールの姿を見つめると、嬉しそうに駆け寄った。
「ライール! 久しぶり!」
「アンも久しぶりだな!」
二人も笑顔で再会を喜び合う。
俺たちはしばらく昔話に花を咲かせた。
そして――。
「そうだ。ライールには、まだ紹介してなかったな」
俺は家族を紹介することにした。
「こちらが妻のアリス。そして――娘のカレンだ」
「よろしくお願いします」
アリスが微笑む。
「カレンだよ!」
カレンも元気よく挨拶した。
「おお……!」
ライールは驚いたように目を見開く。
「レオン、お前……結婚してたのか!」
「ああ」
「しかも娘まで!」
「そうなんだ」
俺が笑うと、ライールも嬉しそうに笑った。
「そうか……。あの頃のお前からは想像できないな!」
「俺だって、あの頃はこんな未来になるなんて思ってなかったよ」
そんな話をしながら――。
俺たちはライールやゾディアック将軍たちと一緒に食事を楽しんだ。
美味しい料理を食べ、酒を飲みながら昔話をする。
訓練所にいた頃の話。
冒険者になった頃の話。
そして、お互いが歩んできた道の話。
時間はあっという間に過ぎていった。
やがて――。
「今日は楽しかったな」
「ああ。またゆっくり話そうぜ」
ライールと別れ、俺たちは食堂を後にした。
そして、そのまま宿屋へ戻る。
「今日は色々あったね」
アリスが微笑む。
「ああ。二回戦も勝てたし、ライールとも再会できた」
俺は今日一日を思い返す。
そして――。
「明日は三回戦か……」
まだ大会は終わっていない。
俺たちは明日の戦いに備え、宿屋へと戻ったのだった。
その夜――。
宿へ戻った俺たちは、それぞれ部屋でゆっくりと身体を休めていた。
そして、風呂場では――。
大きな桶にたっぷりと張られたお湯。
市場で売られていた、とても質の良い石鹸からは、ふんわりといい香りが漂っている。
「気持ちいいねー!」
カレンはお湯に浸かりながら、隣にいる妖狐を嬉しそうに眺めていた。
「ほら、こっちも綺麗にしようね!」
カレンは妖狐の身体を優しく洗っている。
一方、アリスはカレンの髪を丁寧に洗っていた。
「カレン、目を閉じてね」
「はーい!」
アリスに髪を洗ってもらいながら、カレンは気持ちよさそうにしている。
そして――。
妖狐もまた、カレンに身体を洗ってもらいながら、すっかりリラックスしていた。
「気持ちいいの?」
カレンが尋ねると――。
妖狐は嬉しそうに尻尾を振る。
「ふふっ。よかったね!」
九本の尻尾が、ゆらゆらと揺れる。
どうやら妖狐も――。
すっかりカレンとの生活を気に入ったようだった。
そんな二人を見ながら、アリスが優しく微笑む。
「本当に仲良しね」
「うん! お友達だから!」
カレンは満面の笑みで答えた。
こうして――。
大会の激しい戦いから一転。
その夜は、親子と一匹の妖狐による、穏やかな時間が流れていった。
風呂から上がると――。
アリスが手をかざした。
「じゃあ、乾かしましょうか」
ふわっ――。
アリスの魔法によって、暖かく優しい風がカレンと妖狐を包み込む。
「わぁ……あったかい!」
濡れていたカレンの髪が、みるみるうちに乾いていく。
妖狐の毛も、暖かな風に揺られながら少しずつ乾いていった。
「ほら、もうすぐ乾くわよ」
「うん!」
しばらくすると――。
カレンの金色の髪もすっかり乾き、ふわふわになった。
妖狐の毛並みも綺麗に整い、先ほどまでより一段と艶やかになっている。
「綺麗になったね!」
カレンが妖狐の頭を撫でる。
妖狐は気持ちよさそうに目を細め、尻尾をゆっくりと揺らした。
そして――。
ふわふわのベッドへ向かう。
「一緒に寝よう!」
カレンがベッドへ横になると、妖狐もその隣へ丸くなった。
ふかふかの毛並みと、柔らかな布団。
カレンは妖狐を抱き寄せる。
「あったかーい……」
妖狐も嬉しそうに尻尾を揺らす。
すっかり仲良くなった二人は、そのままふわふわのベッドに並んで寝そべっていた。
その様子を見たアリスは、優しく微笑む。
妖狐のふわふわの毛に顔を埋めながら、幸せそうに目を閉じた。
しばらくすると――。
カレンと妖狐は、すっかり眠りについていた。
「……すぅ……」
カレンは妖狐に抱きついたまま、気持ちよさそうに眠っている。
妖狐も丸くなり、カレンのすぐ隣で静かな寝息を立てていた。
俺とアリスは、そんな二人を少し離れた場所から眺めていた。
「……可愛いわね」
「ああ」
しばらく二人の寝顔を見つめていると――。
「なあ、アリス」
「なに?」
「俺、カレンを王都にある魔法学校に通わせたいと思っている」
俺がそう伝えると、アリスは少し考えるように黙った。
「……魔法学校?」
「ああ」
アリスはカレンへ視線を向ける。
「魔法のことなら、私が教えられるわ」
「そうだな」
俺も頷く。
アリスほど魔法に詳しい人間なんて、そうはいない。
「でも――」
俺はアリスを優しく抱きしめた。
「アリスの言う通り、魔法だけならアリスが教えればいいと思う」
そして、眠っているカレンを見る。
「俺が学校に通わせたいと思ったのは――同い年くらいの子供たちと、一緒に過ごす時間も大切だと思うからだ」
「……」
「一緒に勉強して、一緒に遊んで、時には喧嘩したり……そういう時間は、俺たち親だけじゃ与えてあげられない」
アリスは黙ってカレンを見つめている。
「カレンには、俺たちとは違う世界も知ってほしいんだ」
「……そうね」
しばらく考えた後――。
アリスは小さく微笑んだ。
「あなたの言う通りかもしれないわね」
「本当か?」
「ええ。私が教えられることには限界があるもの」
アリスはそう言って、俺の胸にそっと身体を預けた。
「それに……カレンが同じくらいの子供たちと過ごす姿も、見てみたいわ」
「俺もだ」
俺たちはもう一度、眠っているカレンへ視線を向ける。
妖狐に抱きつきながら、幸せそうに眠るカレン。
「……明日から、また大会ね」
「ああ。でも大会が終わったら――」
俺は眠るカレンを見ながら、静かに笑った。
「カレンの新しい毎日を、考えていこう」
アリスも頷いた。
「ええ」
その夜――。
俺たちは眠る娘の姿を眺めながら、カレンのこれからについて静かに話し続けた。




