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冒険の書  作者: siva5880


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偉大なる存在

今回、俺たちは冒険者ギルドの依頼を受け、首都ギースから少し離れた山脈のふもとへとやって来ていた。


 依頼内容は――山中に巣を作ったワイバーンの討伐。


 山脈のふもとには深い森が広がっており、その奥には険しい岩山がそびえ立っている。


「ワイバーンの巣は、この先だったな」


「ああ。目撃情報では、山の中腹付近にあるらしい」


 グリフが手にした地図を確認する。


 俺たちは周囲を警戒しながら、山道を進んでいた。


 ワイバーンがいつ襲ってきてもおかしくない。


 そんな緊張感の中――。


「……ん?」


 ふと、俺は前方にある崖へ目を向けた。


 その瞬間だった。


 ――何かが、崖の上から転がってきた。


「おいおい……嘘だろ……⁉︎」


 俺は思わず足を止めた。


 最初は一匹。


 丸く膨らんだ、何か。


 それが――。


「……二匹……三匹……」


 数える間にも、次々と増えていく。


「おい、ちょっと待て!」


 崖の上から、ぽよん、ぽよん、と音を立てながら転がってくる丸い魔物。


 そして、その正体がはっきり見えた瞬間――。


「……バルーンマウスだ」


 グリフが呟いた。


 名前の通り、風船のように丸々と膨らんだ身体。


 小さな耳。


 短い手足。


 そして、つぶらな瞳。


 なんとも愛嬌のある姿をしている。


 だが――。


「いやいやいや! 可愛いとか言ってる場合じゃないだろ!」


 数が多すぎる。


 崖の上から、まるで雪崩のようにバルーンマウスが転がってくる。


「レオン!」


「任せろ!」


 俺は盾を構えた。


 そして――。


 ドンッ!


「……え?」


 盾にぶつかったバルーンマウスが、大きく跳ね返った。


 ぽよんぽよんと地面を転がり、少し離れたところで止まる。


「……痛くない?」


 俺は思わず鎧を見下ろした。


 何匹かは俺の身体にもぶつかってきている。


 だが――。


「全然痛くないな……」


 むしろ、柔らかい何かにぶつかられたような感触だった。


「なら……」


 アンが目を輝かせる。


「触ってみてもいいかな?」


「え?」


 アンは転がってきたバルーンマウスを、そっと両手で抱き上げた。


「わぁ……!」


 その瞬間、アンの顔がぱっと明るくなる。


 バルーンマウスは逃げようともせず、アンの腕の中で大人しくしている。


「すごく柔らかい……!」


 アンが頭を撫でると――。


 バルーンマウスは気持ちよさそうに目を細めた。


「可愛い……!」


 その様子を見たカレンも――。


「カレンも!」


 すぐに別のバルーンマウスへ駆け寄った。


「おい、カレン。転ばないようにな」


「うん!」


 カレンは両手でバルーンマウスを抱き上げる。


「わぁ……まんまる!」


 小さな手で、ぽんぽんと優しく撫でる。


 するとバルーンマウスは――。


「……きゅ?」


 小さく鳴いた。


「ふふっ」


 カレンは嬉しそうに笑った。


「可愛いねぇ……」


 撫でられているバルーンマウスも、すっかり大人しい。


 どうやら、この魔物。


 見た目に反して――かなり温厚らしい。


「……さっきまであんな勢いで転がってきたのにな」


 グリフが呆れたように呟く。


「もしかして、ただ崖を転がっていただけなんじゃないか?」


「……それはそれで怖いな」


 俺は苦笑した。


 そんな俺たちの周囲では、次々とバルーンマウスが転がってくる。


 しかし、盾で受ければ簡単に弾き返せる。


 鎧に直接ぶつかってきても、まったく痛くない。


 そして地面に転がったバルーンマウスたちは――。


「きゅ~……」


「きゅ?」


「きゅきゅ……」


 何事もなかったかのように、ぽよぽよと動き回っている。


「……なんだか、戦ってるって感じがしないな」


 俺がそう呟くと――。


「だって、こんなに可愛いんだもん!」


 カレンはバルーンマウスを抱きしめながら、満面の笑みを浮かべていた。


「ねえ、レオン。もう少し撫でててもいい?」


「ああ。怪我もないみたいだしな」


「やった!」


 カレンは嬉しそうに、バルーンマウスの頭を撫で続ける。


 アンも隣で同じように撫でていた。


 どうやら――。


 今回の出会いは、冒険というより。


 可愛い魔物との触れ合いになりそうだった。


しばらくの間――。


 俺たちはバルーンマウスたちと戯れていた。


 カレンとアンはすっかり気に入ったらしく、何匹ものバルーンマウスを抱き上げては、優しく撫でている。


「またねー!」


 カレンが手を振ると――。


「きゅー!」


 バルーンマウスたちも鳴きながら、ぽよぽよと跳ねていく。


 俺たちはそんな彼らを見送ると、再び山道を登り始めた。


 目的は――ワイバーンの討伐だ。


 山道は次第に険しくなっていく。


 木々が減り、剥き出しになった岩肌が増えていく。


 そして――。


「……見えてきたな」


 俺は前方を見上げた。


 そこには、いくつもの巨大な巣があった。


 岩場の窪みや崖の上。


 その至るところに、ワイバーンの巣が作られている。


「……多いな」


 グリフが目を細める。


 巣の周囲には――。


 翼を休めるワイバーン。


 岩場を歩き回るワイバーン。


 空を旋回するワイバーン。


 その数は、ざっと見ただけでも十数体。


「これ全部が討伐対象か……」


 アンが驚いたように呟く。


「ああ。ギルドの話では、最近になって数が急激に増えたらしい」


 俺は剣と盾を構えた。


「……では、討伐していきますか」


「そうだな」


 グリフが静かに頷く。


 そして――。


 グリフはゆっくりと弓を構えた。


 弦を引き絞る。


 狙いを定める先には――。


 一匹のワイバーン。


 まだ、俺たちの存在には気づいていない。


「……今だ」


 グリフの指が弦から離れた。


 ヒュンッ!


 一本の矢が空を切る。


 その瞬間――。


 矢から次々と魔法の矢が生み出される。


 一本。


 二本。


 そして――三本。


 それぞれの矢が別々のワイバーンへ向かって飛んでいく。


「ギャアッ!」


 一匹のワイバーンに矢が突き刺さった。


 次の瞬間――。


 ドンッ!!


 爆発。


 さらに――。


 ドォン!!


 別の場所でも爆発が起こる。


 そして――。


 ドドドドドッ!!


 岩場に並ぶワイバーンたちの周囲で、次々と爆発が巻き起こった。


「ギャアアアアッ!」


「ギャッ!」


「グギャアッ!」


 突然の襲撃に、ワイバーンたちが一斉に翼を広げる。


 だが――。


 逃げる暇すら与えない。


 グリフはすでに次の矢を番えていた。


「……まだ終わってないぞ」


 再び弦が引き絞られる。


 そして――。


 放たれた矢が、再び三本へと分かれる。


 それぞれが別々のワイバーンへ向かって飛翔する。


 直後――。


 山脈に爆発音が響き渡った。


 ドォンッ!!


 ドンッ!!


 ドォォン!!


 煙が晴れる。


 そこには――。


 地面へ倒れ込むワイバーンたちの姿があった。


「……すごい」


 アンが思わず呟く。


 カレンも目を輝かせながらグリフを見る。


「グリフお兄ちゃん、すごーい!」


「ははっ。まだまだこれからだぞ、カレン」


 グリフは笑いながら、再び矢を番える。


 俺は剣と盾を構え直した。


「よし……残りも片付けるぞ!」


 俺たちは――。


 ワイバーンの群れへと向かって走り出した。


グリフの奇襲によって、地上にいたワイバーンたちは次々と倒れていった。


 だが――。


「まだ空にいるぞ!」


 見上げると、山の上空を大量のワイバーンが旋回している。


 奇襲を逃れたワイバーンたちは、翼を大きく広げながら空を飛び回っていた。


「この数を一匹ずつ相手にするのは面倒だな……」


 俺がそう呟いた、その時だった。


「なら、まとめて落とそう!」


 アンが何かを取り出した。


「カラの実よ」


「……あれを使うのか?」


「うん!」


 アンはカラの実を大きく振りかぶると――。


「えいっ!」


 空へ向かって思い切り投げた。


 カラの実は高く、高く舞い上がっていく。


 そして――。


 旋回するワイバーンたちの中心へと飛び込んだ。


「グリフ!」


「任せろ!」


 アンの合図と同時に、グリフが弓を構える。


 狙いは――。


 空中に浮かぶカラの実。


「……そこだ!」


 ヒュンッ!


 放たれた矢が一直線に飛んでいく。


 そして――。


 ズドンッ!!


 カラの実を正確に射抜いた。


 その瞬間だった。


 ――ドォォォォンッ!!


「ギャアアアアアッ!!」


 凄まじい爆音が山中に響き渡る。


 爆風が空へと吹き上がり、その周囲を旋回していたワイバーンたちが一斉に巻き込まれた。


「ギャッ!」


「グギャアッ!」


「ギャアアアッ!」


 翼を広げていたワイバーンたちが、次々とバランスを崩していく。


 そして――。


 ドサッ!


 ドサッ!


 ドドドドッ!


 大量のワイバーンが、まるで雨のように空から落ちてきた。


「今だ!」


 俺たちは一斉に走り出した。


 地面へ落ちてきたワイバーンへ向かって、俺は剣を振るう。


 アンも大きな肉切り包丁を構え、次々とワイバーンを仕留めていく。


 だが――。


「飛び立とうとしてる!」


 倒しきれていないワイバーンが、再び翼を広げる。


 その瞬間――。


「逃がさないわ」


 アリスが静かに手を伸ばした。


「――絡みつけ」


 地面から大量のツタが伸び上がる。


 シュルシュルシュルッ!


 ツタはワイバーンの脚や翼へと絡みつき、強く締め上げていく。


「ギャアッ!」


 翼を広げても――。


 飛べない。


 もがいても――。


 ツタはびくともしない。


「カレン」


「うん!」


 カレンが元気よく頷いた。


 その小さな手に――。


 バチッ!


 青白い雷が走る。


「いっくよー!」


 カレンが手を掲げる。


「――雷よ!」


 次の瞬間。


 ズガァァン!!


 雷がワイバーンたちへと降り注いだ。


「ギャアアアアアッ!!」


 さらに――。


 ズガンッ!


 ズガァンッ!


 次々と雷が落ちていく。


 ツタに絡め取られ、逃げ場を失ったワイバーンたちは、カレンの雷をまともに受ける。


「すごい……」


 俺は思わず呟いた。


 グリフの弓。


 アンのカラの実。


 アリスの拘束魔法。


 そしてカレンの雷魔法。


 それぞれの力が完璧に噛み合っている。


 こうして――。


 山脈に巣を作っていたワイバーンたちは、俺たちによって一網打尽にされた。


「……終わったな」


 俺は周囲を見渡す。


 あれだけいたワイバーンの姿は、もうどこにもない。


「さて……巣の中も確認しておくか」


 俺たちはワイバーンの巣へと向かった。


 そして――。


「……卵?」


 巣の中には、いくつもの大きな卵が並んでいた。


 その数はかなり多い。


「わぁ……!」


 カレンの目が輝く。


 そして――。


「育てる!」


「……」


 俺は思わずカレンを見る。


「え?」


「カレン……」


「だって、卵だよ!」


 カレンは両手を広げながら、嬉しそうに言う。


「育てたらワイバーンさんになるんだよ!」


「……まあ、そうだけどな」


 俺が困ったように答えると――。


 アリスが静かに口を開いた。


「カレン」


「なに?」


「あなたには、もう育てる卵があるでしょう?」


「……?」


 カレンが首を傾げる。


 アリスはにっこりと微笑んだ。


「ホーリードラゴンの卵」


「…………」


 カレンはしょんぼりと肩を落とす。


「ホーリードラゴンさんも、まだ生まれてない……」


「そうでしょう?」


「うん……」


 アリスは優しくカレンの頭を撫でる。


「だから、まずは今いる卵を大切にしましょうね」


「……はーい」


 カレンは渋々頷いた。


 俺たちはそんなカレンを見て、思わず笑ってしまった。


 こうして――。


 ワイバーン討伐の依頼は、無事に終わったのだった。

 

カレンは普段から、ホーリードラゴンの卵を大切に持ち歩いていた。


 時には両手で抱えて温めてみたり、卵に耳を当ててみたり。


 けれど――。


 いつまで経っても、卵が孵る気配はない。


「まだかなぁ……」


 カレンは卵を見つめながら、首を傾げる。


 そして――。


「じゃあ、ポーチさんお願いね!」


「え?」


 俺が声を上げるより早く、カレンはホーリードラゴンの卵をポーチさんの口の中へ入れてしまった。


 ぱくっ。


「…………」


 俺は固まった。


「……大丈夫なのか?」


「平気だよ!」


 カレンは満面の笑みで答える。


「カレンの言うこと、ポーチさんは聞いてくれるから!」


「……そうなのか?」


「うん!」


 カレンが腰のポーチさんを撫でる。


 すると、ポーチさんから生えている二本の黒い腕が、ふるふると揺れた。


 どうやら――。


 本当に大丈夫らしい。


 ……たぶん。


 そんな時だった。


「……ん?」


 ふと、俺はカレンの腰回りに違和感を覚えた。


 よく見ると――。


「……あれ?」


 ポーチさんが――。


「増えてないか?」


「え?」


 カレンが自分の腰を見る。


 そこには、いつものポーチさん。


 その隣に――。


 もう一つ。


 さらにその隣にも――。


「……三つあるぞ」


 全部で三つ。


 どのポーチにも、黒い腕のようなものがぶら下がっている。


「ポーチさん……?」


 カレンが不思議そうに三つのポーチを見る。


 すると――。


 ぶらぶら。


 三つのポーチから、それぞれ黒い腕が揺れた。


「……本当に増えてるな」


 グリフも驚いたように呟く。


 俺がカレンに尋ねる。


「カレン、これ……どういうことなんだ?」


「うーん?」


 カレンは少し考えたあと――。


「あっ!」


 何かに気づいたように笑った。


「ポーチさん、進化したみたい!」


「進化?」


「うん!」


 カレンは嬉しそうに頷く。


「ポーチさんね、今までたくさんの魔物を食べたでしょ?」


「……まあ、そうだな」


「それに――」


 カレンは三つのポーチを順番に撫でる。


「カレンの魔力もいっぱい食べたから!」


「……俺たちが気づかないうちに?」


「うん!」


 カレンは楽しそうに笑った。


 どうやら、ポーチさんはこれまでに多くの魔物を食べてきた。


 そして――。


 カレンが普段からポーチさんをカード化せず、常に身につけていることで、自然とカレンの魔力がポーチさんへ流れ続けていたらしい。


 その積み重ねが――。


 今回、進化という形で現れたようだ。


「じゃあ……今までずっとカレンの魔力を?」


「そうだよ!」


 カレンは当たり前のことのように答える。


「だからポーチさん、元気いっぱいなんだよ!」


 すると――。


 ぶんっ!


 三つのポーチから伸びた黒い腕が、一斉に揺れた。


「……元気いっぱい、か」


 俺は苦笑する。


 しかし――。


 三つに増えたポーチさん。


 そのうち一つの中には、今やホーリードラゴンの卵まで入っている。


「……どこまで進化するんだ、ポーチさん」


 俺が呟くと――。


「もっと増えるかも!」


 カレンが嬉しそうに笑った。


「……増えるのか?」


 俺は思わず三つのポーチを見つめる。


 黒い腕が――。


 ぶらぶら。


 ぶらぶら。


 ぶらぶら。


 ……なんだか、少しだけ不安になってきた。


「さーてと!」


 ワイバーンの討伐が終わると――。


 アンが嬉しそうに腕まくりをした。


「解体するわよ!」


「……本当に嬉しそうだな」


 俺が苦笑すると、アンは楽しそうに笑った。


「だってワイバーンよ!」


 アンはさっそく大きな肉切り包丁を手に取り、倒したワイバーンの解体を始めていく。


 翼。


 爪。


 牙。


 皮。


 そして――肉。


 ワイバーンの肉は、魔族領でもかなり高額で取引されているらしい。


 しかも――。


「ワイバーンのお肉って、すごく美味しいんだって!」


 アンが嬉しそうに言う。


「この前食べたボボの尻尾の肉よりも高い値段で取引されるらしいわよ」


「……あれより高いのか」


 俺は思わず驚いた。


 以前、ギースの街で食べたボボの尻尾。


 あの肉もかなり美味しかった。


 それよりも高級となれば――。


「これは期待できそうだな」


「でしょう?」


 アンは満面の笑みを浮かべながら、手際よく解体を進めていく。


 すると――。


「……ん?」


 少し離れた場所から、何かがこちらへ近づいてきた。


 ずるずる。


 ずるずる。


 よく見ると――。


「……ワイバーン?」


 倒したワイバーンの身体を、黒い腕が引っ張っている。


 その先には――。


 三つのポーチ。


 そう。


 カレンのポーチさんたちだった。


「ポーチさん、お手伝いしてるの?」


「うん!」


 カレンが嬉しそうに頷く。


「アン姉ちゃんのところまで運んでるの!」


 三つのポーチから伸びた黒い腕が、器用にワイバーンの身体を掴んでいる。


 一本で脚を。


 もう一本で翼を。


 そして別のポーチの腕が、身体を引っ張る。


 よいしょ。


 よいしょ。


 ずるずる。


 ずるずる。


 かなり大きなワイバーンを、何匹も運んでくる。


「……便利だな」


 俺は思わず呟いた。


「でしょう?」


 カレンは得意げだ。


「ポーチさん、お手伝い上手なんだよ!」


 アンの前までワイバーンを運び終えると――。


 ぽいっ。


 黒い腕がワイバーンを地面に置く。


 そしてすぐに――。


 次のワイバーンへ向かっていく。


「本当に働き者ね……」


 アンも苦笑しながら、運ばれてきたワイバーンの解体を続ける。


「これなら、かなり早く終わりそう!」


「きゅ!」


 三つのポーチから伸びた黒い腕が、まるで返事をするように揺れた。


 こうして――。


 俺たちは討伐だけではなく、ワイバーンの素材もしっかりと回収していくのだった。


 ……さて。


 この高級なワイバーンの肉。


 一体どんな味がするのだろう。


 俺は少しだけ、楽しみになっていた。


ワイバーンの解体と素材の回収を進めていると――。


 ふと、俺は巣の中に残された大量の卵へ目を向けた。


「……それで、この多くの卵はどうするんだ?」


 俺がアンに尋ねる。


 すると――。


「もちろん、持って帰るわ!」


 アンは即答した。


「え?」


「この卵も美味しいのよ!」


 アンは嬉しそうに卵を眺める。


「しかも――かなり高く取引されるの!」


「……卵まで高いのか」


「そうよ!」


 アンは次々と卵を確認していく。


「これだけあれば、かなりの金額になるわね!」


 その顔は――。


 完全に宝物を見つけた時の顔だった。


「……アン、本当に嬉しそうだな」


「だって、こんなにたくさんあるんだもの!」


 アンは満面の笑みを浮かべる。


 その隣では――。


「アン姉ちゃん、卵いっぱいだね!」


 カレンも興味津々で卵を覗き込んでいる。


「ええ。これは大切に持って帰りましょう」


「食べるの?」


「もちろん!」


 アンが即答すると――。


「……」


 カレンは少しだけ卵を見つめた。


 どうやら先ほどの「育てる!」を思い出したらしい。


「……ホーリードラゴンさんもいるからね」


「そうね」


 アリスが微笑む。


「まずはそちらを大切にしましょう」


「うん!」


 カレンは素直に頷いた。


 こうして俺たちは――。


 ワイバーンの素材だけでなく、大量の卵まで持ち帰ることになった。


 討伐依頼だったはずなのに――。


 帰りの荷物は、行きよりも遥かに多くなっていた。


ワイバーンの巣を片付け、回収した素材をまとめ終えると――。


 俺たちは次のギルド依頼へ向かうことにした。


 次の目的地は、山脈の麓にある小さな村。


 そこでは最近――。


 巨大なクマの魔物が目撃されているらしい。


 ギルドで聞いた名前は――。


 ――ジャイアントグリズリー。


 Aランクに指定されている、非常に危険な魔物だ。


「クマさんみたいなの?」


 カレンが首を傾げる。


「ああ。見た目は似ているらしいけど……」


 俺は苦笑する。


「どうやら、クマさんとは比べ物にならない大きさらしいぞ」


「……?」


 カレンには、いまひとつ想像がつかないようだった。


 そして――。


 山道を進み、俺たちは麓の村へと辿り着いた。


「こんにちは」


 村の中へ入ると、何人かの魔族が俺たちへ駆け寄ってきた。


 俺たちが冒険者ギルドから依頼を受けて来たことを伝えると、村人たちはすぐにジャイアントグリズリーについて話してくれた。


「とにかく……でかいんです」


「どのくらいだ?」


 グリフが尋ねる。


 すると村人は両手を大きく広げた。


「普通のワイルドベアの……二倍か、三倍くらいはあります」


「二倍……三倍?」


 俺は思わず聞き返した。


「ええ。それくらいです」


 別の村人が続ける。


「立ち上がった姿なんて……まるで民家みたいな大きさですよ」


「民家……?」


 アンも驚いたように目を見開く。


「そんなに大きいクマがいるの?」


「はい……」


 村人たちは不安そうに頷いた。


「村の近くまで来ることもあります。幸い、今のところ襲われた者はいませんが……」


「それは怖いな」


 俺たちは村人から話を聞きながら、ジャイアントグリズリーの目撃場所へ向かった。


 そして――。


「……これか」


 地面に残された巨大な足跡。


 俺はその横に立ってみる。


 大きい。


 明らかに普通のクマのものではない。


 グリフがしゃがみ込み、足跡をじっくりと確認する。


「……村人たちの話は本当だな」


「やっぱり?」


「ああ。この足跡の大きさなら、相当な巨体だ」


 グリフが立ち上がる。


「Aランクというのも納得できる」


 その時――。


「……あれ?」


 カレンが少し離れた場所にある木を指差した。


「お父さん、あれ見て」


「ん?」


 俺たちはカレンが指差した木へ近づく。


 すると――。


 木の幹が、大きくえぐれていた。


 まるで巨大な爪で何度も引っ掻いたかのように、深い傷跡が残っている。


「……これは」


 グリフが木へ近づく。


「縄張りの印……か?」


 幹に刻まれた傷はかなり高い位置まで続いている。


 俺はその高さを見上げた。


「……こんなところまで届くのか」


「ジャイアントグリズリーが立ち上がって、爪を立てたんだろうな」


 グリフが傷跡を見ながら呟く。


 その言葉を聞いて――。


 カレンが木を見上げた。


「……クマさん、大きいね」


「ああ」


 俺は頷く。


「今回は、本当に大きなクマみたいだな」


 山の奥。


 そこには、俺たちがまだ見たことのない巨大な魔物が潜んでいる。


 そして――。


 その縄張りは、すぐそこまで迫っていた。


俺たちは村人たちの厚意で、その日は村に泊めてもらうことになった。


 久しぶりにゆっくりと身体を休め――。


 翌朝。


 まだ空が薄暗い時間から、俺たちは支度を始めた。


「それじゃあ、行くか」


「うん!」


 カレンも元気よく頷く。


 そして――。


 村人から教えてもらった場所を目指し、山道を進んでいく。


 しばらくすると、木々の間に大きな洞窟が見えてきた。


「……ここか」


 俺は足を止める。


 洞窟の入口はかなり大きい。


 まるで巨大な魔物が出入りするために作られたかのようだった。


「この中にいるんだろうな」


 グリフが洞窟を見ながら呟く。


「ああ」


 俺も頷いた。


「でも……」


 洞窟の奥へ視線を向ける。


「流石に洞窟の中では戦いたくないな」


「同感だ」


 グリフも即座に頷いた。


「ジャイアントグリズリーがどれだけ大きいか分からない。狭い場所で戦うのは危険すぎる」


「それに、逃げ道も限られるしね」


 アンも洞窟を見ながら言った。


「じゃあ、どうする?」


 カレンが首を傾げる。


 俺たちは顔を見合わせる。


 そして――。


「外へ誘き出そう」


 俺がそう言うと、アンがすぐに荷物から肉を取り出した。


「それなら、これを使えばいいわね」


 取り出されたのは――。


 昨日倒したワイバーンの肉だった。


「ワイバーンのお肉!」


 カレンの目が輝く。


「食べるの?」


「食べないわよ」


 アンが苦笑する。


「今回は餌にするの」


「……そっか」


 少し残念そうなカレン。


 アンはそのまま洞窟の入口から少し離れた場所に肉を置き――。


 火を起こした。


「……焼くのか?」


「ええ」


 アンは慣れた手つきでワイバーンの肉を焼き始める。


 じゅうじゅうと音を立てながら、肉から香ばしい匂いが立ち上っていく。


 その匂いは、山の中へと広がっていった。


「これなら、出てくるかもね」


 グリフが鼻を動かす。


「ワイバーンの肉だもんな」


 だが――。


 今回の肉には、普通とは違う仕掛けがある。


 強力な麻痺毒。


 あらかじめ肉には、ジャイアントグリズリーを動けなくするための麻痺毒が塗られている。


「これで本当に効くの?」


 カレンが肉を見ながら尋ねる。


「かなり強力な毒だからな」


 俺は頷く。


「上手く食べてくれれば、動きを止められるはずだ」


「じゃあ、食べてくれるまで待つんだね」


「ああ」


 俺たちは洞窟から十分に距離を取った。


 アンが焼いたワイバーンの肉は、洞窟の入口付近に置かれている。


 そして俺たちは――。


 木々の陰に身を隠しながら、じっと洞窟を見つめた。


「……出てくるかな」


 カレンが小さな声で呟く。


「匂いはかなり強いからな」


 グリフが弓を手にしながら答える。


「焦らず待とう」


 風が山の中を吹き抜ける。


 焼いたワイバーンの肉から漂う匂いが、洞窟の中へと流れていく。


 しばらくして――。


「…………」


 俺たちは誰も喋らなくなった。


 洞窟の奥。


 暗闇の中で――。


 何かが動いた気がした。


 俺は剣の柄へ手を添える。


「……来るぞ」


 その直後。


 洞窟の奥から――。


 ズシン。


 地面が、僅かに揺れた。


 ズシン。


 また一歩。


 巨大な何かが、ゆっくりと洞窟の入口へ近づいてくる。


 そして――。


 洞窟の暗闇から、巨大な影が姿を現した。


そして――。


 洞窟の奥から姿を現した、その巨体を見た瞬間。


「…………」


 俺たちは、言葉を失った。


 ――あまりにも、デカい。


 聞いていた話では、ワイルドベアの二倍から三倍。


 だが――。


 実際に目の前にすると、その想像を遥かに超えていた。


「……なんだ、あれ」


 グリフが思わず呟く。


 立ち上がれば、まるで小さな民家ほどもありそうな巨体。


 太い四肢。


 分厚い毛皮。


 そして、一歩踏み出すだけで地面が揺れる。


 その姿は、もはや普通の魔物とは思えない。


 この山に長く生き続けてきた――。


 そんな雰囲気すら感じる。


「……ヌシって呼んでもいいくらいだな」


 俺は思わず呟いた。


 すると――。


「グルル……」


 ジャイアントグリズリーが鼻を動かした。


 そして、その視線が洞窟の前へ向けられる。


 そこにあるのは――。


 焼いたワイバーンの肉。


「……見つけたな」


 ジャイアントグリズリーは、俺たちには目もくれず――。


 ズシン、ズシンと地面を揺らしながら肉へ近づいていく。


 そして――。


 いきなり肉へ食らいついた。


「ガブッ!」


 巨大な口が大きく開き、ワイバーンの肉を一気に噛みちぎる。


「……!」


 俺たちは身構えながら、その様子を見守る。


 だが――。


「グルル……!」


 ジャイアントグリズリーは、まるで警戒する様子もなく肉を食べ続けている。


 しかも――。


「……美味しそうに食べてるね」


 アンが呟く。


「ああ……」


 俺も思わず頷いた。


 夢中だった。


 まるで何日も何も食べていなかったかのように、ワイバーンの肉を次々と口へ運んでいく。


「……あれ、本当に毒が入ってるんだよな?」


 グリフが少し不安そうに尋ねる。


「もちろん」


 アンが答える。


「かなり強力な麻痺毒を塗ってあるわ」


 そして――。


 しばらくすると。


「……?」


 ジャイアントグリズリーの動きが、少しずつ鈍くなった。


 巨大な身体が、ぐらりと揺れる。


「グル……」


 もう一度、肉を食べようと前足を動かす。


 だが――。


 ピタリ。


 その動きが止まった。


 巨体が、その場で固まる。


「…………」


 俺たちは黙って見つめる。


 やがて――。


 ジャイアントグリズリーは、完全に動かなくなった。


「……効いた」


 俺が呟く。


 グリフが目を見開く。


「……なんて強力な麻痺毒なんだ」


 その巨体を見上げながら、グリフは驚きを隠せない。


「これだけの身体を、一瞬で止めるなんて……」


「私も驚いたわ」


 アリスも目を丸くしている。


「こんなに大きな魔物に、ここまで効くなんて……」


 俺たちが驚いている、その横で――。


「…………」


 カレンだけは、まったく違う反応をしていた。


 その瞳は――。


 キラキラと輝いている。


「……お父さん」


「ん?」


 カレンが俺の服を引っ張る。


「カレン……あの子とお友達になりたい!」


「……え?」


 俺は思わずジャイアントグリズリーを見る。


 巨大な身体。


 鋭い爪。


 分厚い牙。


 そして――。


 今は麻痺して動けないとはいえ、Aランクの魔物。


「……友達?」


「うん!」


 カレンは満面の笑みで頷いた。


「だって、あんなに大きいんだよ!」


 どうやらカレンにとっては――。


 危険なAランク魔物というよりも。


 ただの――。


 ものすごく大きなクマさんにしか見えていないらしい。


「……お母さん」


「ふふっ」


 アリスは困ったように笑った。


「カレンらしいわね」


「でも……」


 俺はもう一度、ジャイアントグリズリーを見る。


「仲良くなれるのか……?」


 するとカレンは――。


 キラキラと目を輝かせたまま。


 ゆっくりと巨大なジャイアントグリズリーへ近づいていった。


巨大なジャイアントグリズリーの前に――。


 カレンとアンが立っていた。


 その光景だけを見れば、なんとも不思議な組み合わせだ。


 片方は――。


 金髪の小さな少女。


 そしてもう片方は――。


「……」


 大型の、禍々しい肉切り包丁を握ったアン。


 ジャイアントグリズリーは身体を動かすことができない。


 だが、意識はあるらしい。


 その巨大な瞳だけが、目の前にいる二人をじっと見つめていた。


 そんなジャイアントグリズリーを見上げながら――。


 アンが肉切り包丁を肩に担ぐ。


「解体して、毛皮を取って……」


 ニヤリ。


「今日はグリズリー鍋かしらね」


「…………」


 ジャイアントグリズリーの目が、僅かに見開かれたような気がした。


 その隣で――。


 カレンが一歩前へ出る。


「ねえ……」


 カレンは巨大な顔を見上げる。


「カレンのお友達になって……」


「…………」


 ジャイアントグリズリーは動けない。


 ただ、その目だけがカレンを見ている。


 カレンは少し考えてから――。


 小さな声で続けた。


「でも……」


 ちらり。


 アンの持つ巨大な肉切り包丁を見る。


 そして――。


「お友達になってくれなかったら……」


 にこっ。


「鍋の材料にされちゃう……よ?」


「…………」


 ジャイアントグリズリーの目が、再び大きく見開かれた。


 少し離れた場所で見ていた俺は――。


「……カレン」


「なに? お父さん」


「それ、友達の誘い方として正しいのか……?」


「うん!」


 カレンは元気よく頷いた。


「お友達になったら、鍋にしないんだよ!」


「……そういう問題なのか?」


 グリフが隣で肩を震わせている。


「……確かに、これ以上ないくらい分かりやすい条件ではあるな」


俺がそう言うと――。


 アリスも困ったように笑った。


「ふふっ……カレンなりに、一生懸命考えたんでしょうね」


 カレンは再びジャイアントグリズリーへ向き直る。


「ね?」


「…………」


「カレンとお友達になろう?」


 巨大な魔物と、小さな少女。


 その間には――。


 なんとも奇妙な沈黙が流れていた。


カレンは、しばらくジャイアントグリズリーの瞳を見つめていた。


 そして――。


「……うん」


 小さく頷く。


 次の瞬間。


 カレンの身体から、淡い魔力が溢れ始めた。


「……?」


 俺は思わず目を細める。


 カレンの首元に刻まれた――ルーン。


 そこへ、ゆっくりと魔力が集まっていく。


「カレン……?」


 アリスも、その変化に気づいた。


 カレンは何も言わない。


 ただ――。


 目の前のジャイアントグリズリーをじっと見つめている。


 そして。


「怖くないよ」


 そう呟くと――。


 カレンは巨大な身体へ近づいた。


 そっと手を伸ばす。


 そして――。


 大きな頭を、優しく撫でた。


「よしよし……」


 巨大な毛皮を、小さな手がゆっくりと撫でていく。


 ジャイアントグリズリーは動けない。


 それでも、その瞳はカレンを見つめていた。


 やがて――。


 カレンのルーンから溢れた魔力が、ジャイアントグリズリーの身体へと流れ込んでいく。


 淡い光が、巨大な身体を包み込む。


「……!」


 グリフが息を呑む。


 そして――。


 光が消えた。


「……終わった?」


 俺が呟く。


 カレンはジャイアントグリズリーの頭を撫でながら――。


「今日からお友達だよ」


 嬉しそうに笑った。


 その直後。


 ジャイアントグリズリーの身体が、ゆっくりと動き始める。


 麻痺が解けたのだ。


 だが――。


 巨大な魔物はカレンへ襲いかかることはなかった。


 ただ静かに立ち上がり――。


 カレンのすぐそばで佇んでいる。


「……本当に使役できたのか」


 俺は驚きながら呟く。


「すごいわ……」


 アリスも目を丸くしていた。


 そんな中――。


「はぁ……」


 アンだけが、肩を落としていた。


「せっかく……」


 手に持った禍々しい肉切り包丁を見る。


「美味しいお鍋が食べられると思ったのに……」


「アン……」


「だって、あんなに大きいのよ?」


 アンは名残惜しそうにジャイアントグリズリーを見上げる。


「どれだけお肉が取れたか……」


「……アン姉ちゃん、お鍋はまた今度ね!」


 カレンが笑顔で言う。


「うん……」


 アンは残念そうに頷いた。


 そして――。


 ジャイアントグリズリーの巨大な身体を見上げながら、小さく呟く。


「……でも、毛皮は欲しかったなぁ」


「アン……」


 俺は思わずため息をついた。


そして――。


「わぁー!」


 カレンは嬉しそうな声を上げながら、ジャイアントグリズリーの背中へよじ登った。


 巨大な毛皮に小さな身体を埋めるようにして座る。


「高い!」


 カレンは楽しそうに笑っていた。


 ジャイアントグリズリーも嫌がる様子はなく、ゆっくりと立ち上がる。


 その背中に乗ったカレンは――。


 まるで大きなクマさんの背中に乗って遊んでいるようだった。


「カレン、落ちないようにな」


「大丈夫だよ、お父さん!」


 カレンは満面の笑みで手を振る。


 俺たちはそんなカレンを見ながら、村へ戻ることにした。


 村へ到着すると――。


「……あれは……」


 村人たちが一斉にこちらを見る。


 そして、その視線がジャイアントグリズリーへ向いた瞬間。


「ジャイアントグリズリー……!」


「まさか……」


 村人たちの間にざわめきが広がる。


 俺は一歩前へ出た。


「安心してください」


 村人たちへ告げる。


「ジャイアントグリズリーの脅威は、もうありません」


「……え?」


「この子は、カレンが使役しました」


 俺がそう言うと――。


 村人たちは、しばらく言葉を失っていた。


 そして。


「……使役?」


「この巨大な魔物を……?」


 村人たちは恐る恐るジャイアントグリズリーへ近づいていく。


 だが――。


 巨大な魔物は襲いかかることもなく、ただ静かにカレンを乗せて佇んでいる。


「…………」


 村人たちが顔を見合わせる。


 やがて――。


 一人の魔族が、ゆっくりとその場に跪いた。


「……なんという……」


 そして両手を組み――。


 カレンへ向かって祈り始めた。


「え?」


 カレンが首を傾げる。


 すると、それを見た別の村人も――。


「偉大なる御方よ……」


「我らをお救いくださった……」


 次々と跪いていく。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 俺が慌てて声を上げる。


「カレンはただ、この子と友達になっただけですよ!」


 だが――。


 村人たちの反応は変わらなかった。


 どうやら魔族領では――。


 魔物を使役する者そのものが、かなり特別な存在らしい。


 しかも、Aランクに指定されているジャイアントグリズリーを従えている。


 村人たちからすれば、とんでもない光景なのだろう。


「……お父さん」


 カレンが俺を見る。


「なに?」


「カレン、すごい?」


 その顔は――。


 とても満足そうだった。


「……ああ」


 俺は苦笑しながら頷く。


「すごいと思うぞ」


「えへへ……」


 カレンは嬉しそうに笑う。


 そして――。


 大きなクマさんの背中の上で胸を張った。


 その姿を見た村人たちは、さらに深く頭を下げる。


「……カレン」


 アリスが苦笑する。


「どうやら、あなたは魔族領でとんでもない評判になりそうね」


「えへへ!」


 カレンは嬉しそうに笑った。


 どうやら――。


 今日一日で、カレンの中の「お友達」が一匹増えただけではなく。


 魔族領におけるカレンの知名度まで、一気に上がってしまったようだった。

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