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冒険の書  作者: siva5880


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貿易都市ザイル

翌朝――。


 これほどまでに身体を休めたのは、久しぶりな気がした。


 目を覚ました時には、身体に残っていた疲れがすっかり抜けている。


 どうやら王宮は、客人である俺たちのために朝食まで用意してくれていたらしい。


 案内された食堂のテーブルには、朝から豪華な料理が並んでいた。


 焼きたての、ふわふわなパン。


 ふんわりと焼かれたスクランブルエッグ。


 色鮮やかな新鮮なサラダ。


 そして、湯気を立てる濃厚なコーンスープ。


「わぁ……!」


 料理を目にしたカレンの顔が、一瞬で明るくなる。


「パン、ふわふわ!」


 嬉しそうにパンを手に取るカレン。


 そのまま一口かじると――。


「おいしい!」


 頬を緩ませながら、幸せそうにパンを頬張っている。


 そんなカレンを微笑ましく眺めながら、俺も朝食を口に運んだ。


 王宮の料理というだけあって、どれも驚くほど美味しい。


 しばらく食事を楽しんでいると――。


 ふと、カレンの様子がおかしいことに気づいた。


 さっきまで楽しそうにパンを食べていたはずなのに、なぜかテーブルの下を気にしている。


「……?」


 俺が視線を向けると、カレンは慌てたように顔を背けた。


 どうやら俺たちに見つからないよう、こっそり何かをしているらしい。


 少し離れたところから見ていると――。


 カレンは小さくちぎったふわふわのパンを、自分のポーチへそっと差し入れていた。


「……ポーチさんも、食べたいよね」


 小さな声で呟きながら、辺りをキョロキョロと見回す。


 そして、誰にも見つかっていないことを確認すると、もう一切れ。


 どうやらカレンは、自分だけで食べるのではなく――ポーチさんにも朝食を分けてあげているようだった。


 その姿があまりにも微笑ましくて、俺は思わず笑みを浮かべた。


 ……どうやら、王宮の豪華な朝食を楽しんでいるのは、カレンだけではないらしい。


朝食を終えると、俺たちはオヴェリアに挨拶をするため、王宮へと向かった。


「オヴェリア様、色々とありがとうございました」


「こちらこそ。ゆっくり休めたようで何よりです」


 オヴェリアは穏やかな笑みを浮かべる。


「ザイルまでは少し距離があります。道中、気をつけてくださいね」


「はい。また何かあれば、いつでも声をかけてください」


 俺たちはオヴェリアに礼を告げ、王宮を後にした。


 王都を出ると、俺たちは貿易都市ザイルへ向かう乗り合い馬車に乗り込んだ。


 今回は急ぐ旅でもない。


 せっかく王都で身体を休めたのだから、ザイルまではのんびりと向かうことにした。


 馬車の中には、俺たち以外にも数人の乗客がいた。


 その中には、カレンと同じくらいの年頃の子供たちもいる。


 最初は少し離れたところから、ちらちらと子供たちの様子を眺めていたカレンだったが――。


 それから、ほんの少しもしないうちに。


「ねぇ、何してるの?」


 すっかり仲良くなっていた。


「一緒に遊ぼ!」


 子供たちに誘われると、カレンは嬉しそうに頷く。


「うん!」


 馬車の中で、子供たちと楽しそうに笑い声を上げるカレン。


「カレン、仲良くするのが早いな……」


 思わず俺が呟くと、隣にいたアリスも微笑む。


「ふふっ。カレンは昔から人懐っこいもの」


「アン姉ちゃんやグリフお兄ちゃんとも、すぐ仲良くなったしね」


 アンも楽しそうにカレンを眺めている。


 馬車はゆっくりと街道を進んでいく。


 窓の外には、王都の街並みが少しずつ遠ざかり、やがて広い草原と街道が見えてきた。


 カレンはそんな景色には目もくれず、今はすっかり友達になった子供たちと楽しそうに遊んでいる。


「ねぇねぇ、カレンはどこから来たの?」


「えっとね……」


 そんな会話が聞こえてくる。


 俺はその様子を眺めながら、静かに笑った。


 急ぐ必要はない。


 今はただ――。


 こうして皆でのんびりと旅をする時間を楽しめばいい。


 目的地は、貿易都市ザイル。


 そこでは一体、どんな出会いが待っているのだろうか。


 俺たちを乗せた馬車は、穏やかな風の吹く街道をゆっくりと進んでいった。


ザイルまでは、乗り合い馬車で丸一日ほどかかる。


 そのため、夜になれば街道沿いの安全な場所で馬車を止め、乗客たち全員で野営をすることになった。


 馬車を降りると、皆で手分けしてキャンプの準備を始める。


 テントを張る者。


 薪を集める者。


 火を起こす者。


 それぞれが自然と役割を分担していく。


「俺たちも手伝おう」


「ああ、助かるよ」


 俺たちも荷物を降ろし、野営の準備を手伝った。


 食事も、皆で持ち寄った食材を使って作る。


 野菜や肉、パンなど、それぞれが持っているものを出し合い、大きな鍋で煮込んでいく。


 やがて、辺りに美味しそうな匂いが漂い始めた。


「いい匂い!」


 その匂いにつられるように、カレンが駆け寄ってくる。


「もうすぐできるぞ」


「うん!」


 カレンは嬉しそうに返事をすると、料理を手伝っている大人たちの周りを行ったり来たりしている。


 そして――。


「カレン、こっち!」


「今行く!」


 同世代の子供たちに呼ばれ、すぐにそちらへ走っていった。


 どうやら今日のカレンにとっては、旅そのものよりも――この野営の時間のほうが楽しみらしい。


 夕食が完成すると、皆で焚き火を囲んで食卓を囲む。


 大勢の人に囲まれながら食べる食事は、いつものものとは少し違っていた。


 カレンも子供たちと並んで座り、楽しそうに料理を頬張っている。


「おいしいね!」


「うん!」


 子供たちと笑い合うカレン。


 食事が終わった後も、子供たちは焚き火の周りで遊んでいた。


 星空の下。


 揺れる焚き火。


 そして、時折聞こえてくる子供たちの楽しそうな笑い声。


 そんな光景を、俺は少し離れたところから眺めていた。


「……楽しそうだな」


 俺が呟くと、アリスが隣で微笑んだ。


「ええ。きっとカレンにとって、素敵な思い出になるわ」


 大勢の人たちと一緒にキャンプをして、同じくらいの年頃の子供たちと遊ぶ。


 カレンにとっては、何気ない一夜なのかもしれない。


 けれど――。


 こういう何気ない時間こそ、きっと大切なのだろう。


 夜空には、無数の星が輝いていた。


 俺たちは焚き火の暖かさを感じながら、ザイルへの旅の一夜をゆっくりと過ごした。


翌日――。


 朝早くに野営を片付け、俺たちは再び乗り合い馬車に揺られていた。


 そして昼近くになった頃――。


「見えてきたぞ!」


 御者の声が響いた。


 馬車の前方に、大きな街並みが見えてくる。


 ここが――貿易都市ザイル。


 様々な国から商人や冒険者が集まり、多くの物資が行き交う大きな都市だ。


 やがて馬車が停車すると、乗客たちは次々と荷物を降ろし始めた。


 俺たちも荷物をまとめ、馬車を降りる。


「カレン、またね!」


「うん……またね」


 昨日から一緒に遊んでいた子供たちも、それぞれの家族と一緒に馬車を降りていく。


 カレンは手を振りながら、その姿をじっと見つめていた。


 やがて子供たちの姿が人混みの中へ消えていくと――。


「……もう、会えないのかな」


 カレンが少し寂しそうに呟いた。


 アリスはそんなカレンの隣にしゃがみ込み、優しく頭を撫でる。


「また旅をしていれば、きっとどこかで会えるわ」


「……うん」


 アリスに撫でられながら、カレンは小さく頷いた。


 そんな二人を眺めていると――。


「あっ!」


 突然、アンが声を上げた。


「そうだ! ここにはネネちゃんのお店があるよ!」


「……え?」


 俺は思わずアンを見る。


「ネネの店が?」


 グリフも驚いたように目を見開いた。


「そうそう! 前に聞いたんだけど、ネネちゃん、このザイルでお店をやってるんだって!」


「それは知らなかったな……」


 俺も驚きを隠せなかった。


 まさか、こんなところでネネの名前を聞くとは思わなかった。


「せっかくだ。ネネを訪ねてみよう」


「賛成!」


 グリフも頷く。


 するとアンは――。


「こっちこっち!」


 いつも以上に楽しそうな様子で、俺たちの先頭に立った。


「ネネちゃんのお店、結構いいところなんだよ!」


「アン、随分詳しいな」


「ふふっ、任せて!」


 アンは嬉しそうに笑いながら、ザイルの大通りを歩いていく。


 どうやら――。


 俺たちが思っていた以上に、アンはネネの店へ行くことを楽しみにしているらしい。


「早く行こう!」


 そう言って先を歩くアンの背中を見ながら、俺たちは顔を見合わせた。


 こうして俺たちは、アンに案内されながら――。


 ザイルにある、ネネの店へと向かうのだった。


アンに案内され、俺たちはザイルの商店街を歩いていた。


 大通りには、大小様々な店が立ち並んでいる。


 大きな建物を構えた商店もあれば、露店のような小さな店もある。


 武器や防具を扱う店。


 魔法道具を並べる店。


 食料品を売る店。


 珍しい装飾品を扱う店まである。


 貿易都市というだけあって、様々な国から集まってきた品々が店先に並べられていた。


「すごいな……」


 俺は思わず周囲を見回す。


 王都とはまた違う活気がある。


 商人たちの呼び声や、客と店員のやり取りがあちこちから聞こえてくる。


 そんな商店街をしばらく歩いていると――。


「着いたよ!」


 アンが足を止めた。


 俺たちの目の前には、なかなか大きな店が建っていた。


 店先には、冒険者が使う武器や防具、様々な道具が並べられている。


 店内にも多くの商品が並んでいるのが、外からでも分かる。


「ここが……ネネの店?」


「ああ」


 グリフも店を見上げながら、驚いたように呟く。


「思っていたより大きいな」


「でしょ?」


 アンは嬉しそうに胸を張った。


「ネネちゃん、頑張ってるんだよ」


 看板を見上げる。


 そこには、冒険者向けの装備や道具を扱っていることが一目で分かる文字が刻まれていた。


 剣や盾、防具。


 冒険に必要な様々な道具。


 そして、見たことのない珍しい品まで並んでいる。


 俺たちは顔を見合わせる。


 まさか、ネネがこんなに立派な店を構えているとは思わなかった。


「……それじゃあ、入ってみよう」


「うん!」


 アンは待ちきれない様子で、店の扉へ向かって歩き出す。


 俺たちもその後を追い――。


 久しぶりのネネとの再会を求めて、店の中へと足を踏み入れた。


店の扉を開けると、店内には冒険者向けの様々な商品が所狭しと並べられていた。


 武器や防具だけではない。


 薬品や旅に必要な道具、魔法道具まで扱っているようだ。


 俺たちは店内を見回しながら、受付へと向かった。


 そこには、一人の女性店員が立っていた。


「こんにちは、アルマさん!」


 アンが明るい声で声をかける。


「……え?」


 女性店員――アルマは、一瞬きょとんとした顔をした。


 そしてアンの顔をじっと見つめる。


「えーっ!?」


 次の瞬間、驚いたように声を上げた。


「アンちゃん!? お久しぶり!」


「久しぶり!」


 二人は嬉しそうに笑い合っている。


 どうやらアンとアルマは、以前から知り合いだったらしい。


「元気だった?」


「うん! アルマさんも元気そうだね!」


 そんな二人のやり取りを見ていると、アンがふと思い出したように尋ねた。


「そうだ! アルマさん、ネネちゃんいる?」


「ネネちゃん? ええ、いるわよ」


 アルマはそう答えると、店の奥へ視線を向けた。


「二階の部屋にいると思うわ。案内するね」


「ありがとう!」


 アンは嬉しそうに返事をする。


 アルマに案内され、俺たちは店の奥にある階段を上っていく。


 二階へ上がると、いくつかの部屋が並んでいた。


「ここよ」


 アルマが一つの扉の前で足を止める。


「ネネちゃーん! お客さんだよ!」


 そう声をかけながら、アルマが扉をノックする。


 俺たちは顔を見合わせた。


 久しぶりに会うネネが、どんな顔をするのか。


 少しだけ緊張しながら、俺たちは扉が開くのを待った。


扉の前で待っていると、俺はふと隣にいるグリフへ声をかけた。


「そういえば……ネネと会うのは、数十年ぶりになるのか」


「ああ。鉱山の街ラッカムで会った時以来だな」


 グリフも懐かしそうに頷く。


 あの頃のネネは、まだ幼さの残る少女だった。


 それが――。


 今では、このザイルで自分の店を構えている。


 そんなことを考えていると、扉の向こうから足音が聞こえてきた。


 そして――。


 ゆっくりと扉が開く。


「……はい?」


 そこに立っていたのは、一人の女性だった。


 俺は思わず目を見開いた。


 間違いない。


 ネネだ。


 初めて出会った時は、まだ少女と呼べるほど幼さが残っていた。


 けれど今、目の前にいるネネは――。


 すっかり大人の女性になっていた。


 長い年月を重ねたその姿には、かつての少女とは違う落ち着きがある。


「……ネネ」


 俺が名前を呼ぶと、ネネも俺たちの顔を見つめた。


「……え?」


 そして、その目が大きく見開かれる。


「まさか……」


 その瞬間――。


「ネネちゃん!」


 アンが嬉しそうに声を上げた。


「久しぶりー!」


 アンはそのままネネへ駆け寄り、ぎゅっと抱きしめる。


「アン……!」


 ネネも驚きながら、すぐに笑顔になった。


「久しぶり! 本当に久しぶりね、アン!」


 二人は抱き合ったまま、嬉しそうに笑っている。


「元気だった?」


「うん! ネネちゃんも元気そうでよかった!」


「もちろんよ!」


 久しぶりの再会を喜ぶ二人。


 その光景を眺めながら、俺は自然と笑みを浮かべていた。


 あの頃、ラッカムで出会った小さな少女が――。


 今では立派な店を構え、一人の女性としてここに立っている。


 長い年月が流れたことを、改めて実感する。


「レオンも……グリフも」


 ネネがこちらへ振り向く。


「本当に久しぶりね」


「ああ。元気そうで何よりだ」


 グリフが笑う。


「まさかザイルで会えるとは思わなかったよ」


「私もよ」


 ネネは嬉しそうに笑った。


 こうして俺たちは――。


 数十年ぶりに、懐かしい仲間との再会を果たした。


俺たちはネネに案内され、二階にある部屋へ入った。


 久しぶりの再会を喜びながら、しばらくの間、互いの近況について話をする。


「それで、ネネは今、この店を?」


「ええ。冒険者向けの装備やアイテムを中心に扱っているの」


 ネネは嬉しそうに店のことを話してくれた。


 武器や防具。


 冒険に必要な道具。


 魔法が付与されたアイテム。


 様々な商品を取り扱っているらしい。


「結構、繁盛してるんですよ」


 アルマが笑顔で教えてくれる。


「そうなのか。それなら安心した」


 グリフも嬉しそうに頷いた。


 ネネがこうして自分の店を持ち、商売を成功させている。


 それだけでも、俺たちにとっては嬉しいことだった。


「じゃあ……今度はこっちの話だな」


 俺がそう言うと、ネネが首を傾げる。


「?」


 俺たちは持っていた荷物を一つずつ部屋へ運び込んだ。


 そして――。


「これを見てほしい」


 袋を開く。


 中から現れたのは、ドワーフの古城で見つけた武具やマジックアイテム。


 さらに、そこで手に入れた大量の魔物の素材。


 そして――。


 潮喰らいの迷宮で手に入れた素材まで。


 次々と机の上へ並べていく。


「……え?」


 ネネの表情が固まった。


 一つ。


 また一つ。


 部屋の中に、貴重な品々が並んでいく。


「ちょ、ちょっと待って……」


 ネネは一つの素材を手に取り、じっくりと確認する。


「これ……かなり品質が高いわよ」


 別の素材を確認する。


「こっちも……」


 そして、さらに奥から出てくる品々を見て――。


「……まだあるの?」


「ああ」


「……」


 ネネは言葉を失った。


 その量もさることながら、一つ一つの質が尋常ではない。


 普通の冒険者が持ち込む素材とは、明らかに桁が違う。


「……これだけの数を捌くのは、かなり時間がかかりますよ」


 ネネは困ったように笑った。


「もちろん、できる限り高く売れるように手配するけど……一度に市場へ出したら、価格にも影響が出るでしょうし」


「そうだな」


 俺は頷く。


 だからこそ――。


「全部、ネネに任せる」


「……え?」


 ネネが驚いた顔で俺を見る。


「俺たちには商売の知識がない。ネネなら、ここで一番いい方法を考えてくれるだろう」


「でも……これだけの量を?」


「頼む」


 俺がそう言うと、ネネはしばらく黙って品々を眺めていた。


 やがて――。


「……分かったわ」


 ネネは小さく笑った。


「任せて。せっかくレオンたちが持ってきた品だもの。できるだけ良い条件で売ってみせる」


「ああ。頼んだ」


 こうして、俺たちは持ち込んだ武具や素材、マジックアイテムの売却を、ネネに任せることにした。


 そして――。


「もう一つ、ネネに頼みたいことがある」


「何?」


「このアダマンタイトを、剣と盾に加工できる鍛冶屋を紹介してほしい」


 俺はアダマンタイトを取り出し、ネネへ見せた。


「……アダマンタイト?」


 ネネの目が再び大きく見開かれる。


「ええ。これだけの量があれば、剣と盾を作れるはずだ」


 ネネはアダマンタイトを手に取り、しばらくの間じっと眺めていた。


「……分かった。ザイルなら、心当たりがあるわ」


「本当か?」


「ええ。腕のいい鍛冶師を知ってる。アダマンタイトを扱えるか、私から話をしてみるわ」


「助かる」


 こうして――。


 俺たちはネネの店を拠点に、ザイルで新たな装備を作ることになった。


 そして、長い旅を共にしてきた剣と盾も――。


 新たな姿へ生まれ変わろうとしていた。


俺たちがネネの店を出る頃――。


 店の中は、すっかり慌ただしくなっていた。


「この武具は倉庫へ!」


「これは鑑定を頼んで!」


「魔法道具は別に分けておいて!」


 店員たちが忙しそうに行き交い、その間を何人もの職人たちが駆け回っている。


 どうやら、俺たちが持ち込んだ大量の武具やアイテム、魔物の素材のせいらしい。


「……なんだか、大変なことになってるな」


 店を出る直前、俺が振り返る。


「ふふっ。ネネちゃん、頑張ってるね」


 アンはどこか嬉しそうだった。


「まあ……あれだけの量だからな」


 グリフも苦笑する。


 俺たちはネネから一通の紹介状を受け取っていた。


「この紹介状を持っていけば、話は通るはずよ」


 ネネがそう言って渡してくれたものだ。


 紹介された鍛冶師の名は――。


 ロー。


 ザイルで一番の腕を持つと言われている鍛冶師らしい。


 俺たちは紹介状を大切にしまい、鍛冶屋へ向かって歩き出した。


 ザイルの大通りを抜け、少し外れた場所へ進んでいく。


 しばらく歩くと――。


「ここだな」


 目の前に、大きな鍛冶場が見えてきた。


 建物の中からは、金属を叩く音が響いている。


 ――カンッ! カンッ! カンッ!


 入口からでも、その熱気が伝わってくる。


 俺は紹介状を握り直した。


「アダマンタイトを扱えるほどの鍛冶師か……」


 グリフが鍛冶場を見上げる。


「ザイル一の鍛冶屋っていうくらいだから、相当な腕なんだろうな」


 アンも興味深そうに建物を眺めている。


「どんな人なんだろうね」


 俺たちは顔を見合わせる。


 そして――。


 ザイル一の鍛冶師、ロー。


 その人物に会うため、俺たちは鍛冶場の扉を開いた。


鍛冶場の扉を開けると――。


 熱気が一気に押し寄せてきた。


 炉では真っ赤に焼けた鉄が燃え、あちこちから金属を叩く音が響いている。


 ――カンッ! カンッ! カンッ!


 俺たちが中へ入ると、その音の一つが止まった。


 振り返ると――。


 そこには、大柄な男が立っていた。


 鍛え上げられた分厚い身体。


 腕には太い筋肉が付き、顔には長年の鍛冶仕事で刻まれた皺がある。


 男は俺たちを一瞥すると――。


 ふと、俺の姿に目を止めた。


 特に視線が向けられているのは、俺が身につけている鎧だった。


 男はゆっくりと近づいてくる。


 そして、鎧をじっくりと眺めると――。


「おー!」


 突然、豪快な声を上げた。


「こいつは見事な作りじゃねえか!」


 俺は思わず目を瞬かせる。


 男は鎧の表面を眺めながら、まるで宝物でも見るような目をしている。


「この鎧……ただの魔法具じゃねえな。素材も加工も、かなりのもんだ」


「……分かるのか?」


 俺が尋ねると、男はニヤリと笑った。


「俺が分からなくてどうする」


 そして、豪快に胸を張る。


「俺がローだ!」


 その声が鍛冶場いっぱいに響き渡った。


 ――ザイル一の鍛冶師。


 その名に相応しい、豪快な男との出会いだった。


俺は懐から、ネネから預かった紹介状を取り出した。


「これをネネから」


「おう」


 ローは紹介状を受け取り、ざっと目を通す。


「なるほどな」


 そして俺たちを見回す。


「それで、何を作って欲しいんだ?」


「これを使ってほしい」


 俺はそう言って、持っていた袋を取り出した。


 中から取り出したのは――。


 巨大なアダマンタイトの塊。


「……」


 ローの表情が固まった。


「おい……」


 ローはアダマンタイトを両手で持ち上げ、しばらくの間じっと眺める。


「こんなでけえアダマンタイト……俺も見たことねえぞ」


 職人としての目が、一気に真剣なものへと変わった。


「どこでこんなもんを手に入れた?」


「ドワーフの古城で見つけたんだ」


「……ドワーフの古城?」


 ローは驚いたように眉を上げたが、すぐにアダマンタイトへ視線を戻した。


「まあいい。これだけの大きさなら、かなりのもんが作れるぞ」


 俺は少し考えてから口を開く。


「まずは剣と、円形の盾を作ってほしい」


「剣と盾か」


 ローはアダマンタイトを見ながら頷く。


「それでも、まだかなり余るな」


「他にも何か作れるのか?」


「ああ。これだけありゃ、武器だけじゃねえ。防具や装具だって作れる」


 ローの言葉に、俺たちは顔を見合わせた。


 しばらく話し合った結果――。


「だったら、みんなで使えるものを作ってもらおう」


 俺がそう提案すると、全員が頷いた。


「五人分、お揃いの手甲を作ってもらうのはどうだ?」


「いいね!」


 アンが嬉しそうに笑う。


「お揃いか。悪くないな」


 グリフも頷く。


 アリスも微笑みながら賛成してくれた。


「みんなで同じものを身につけるのって、素敵ね」


 そして――。


「よし!」


 ローが豪快に笑った。


「剣に円形の盾、それから五人分の手甲だな!」


「ああ。頼む」


「任せろ!」


 ローはアダマンタイトの塊を眺めながら、楽しそうに笑っていた。


「こいつをどう料理するか……腕が鳴るぜ」


 こうして俺たちは――。


 ザイル一の鍛冶師、ローに新たな武具の製作を依頼することになった。


ローに武具の製作を依頼したものの――。


「こいつを仕上げるには、かなり時間がかかるぞ」


 ローはアダマンタイトの塊を眺めながら、そう告げた。


 これだけの大きさのアダマンタイトを加工するのだから、当然と言えば当然だ。


「分かった。急がなくていい。最高のものを作ってくれ」


「おう。任せとけ!」


 俺たちはローに武具の製作を任せ、鍛冶場を後にした。


 それから俺たちは、ザイルでしばらく滞在することにした。


 ネネに紹介してもらった宿は、この街でもかなり評判のいい宿だった。


 部屋も広く、なんと風呂まで付いている。


「お風呂がある!」


 カレンは大喜びだった。


 長旅の疲れを癒やすには、これ以上ない場所だ。


 俺たちは宿を拠点にしながら、ザイルの街で情報収集を始めることにした。


 貿易都市だけあって、ここには様々な人間が集まっている。


 酒場では、冒険者たちが酒を片手に様々な噂話をしていた。


「最近、東の街道で妙な魔物を見たらしいぞ」


「南の方じゃ、新しい遺跡が見つかったって話だ」


 そんな話に耳を傾ける。


 商店街では、遠くの国からやって来た商人たちが忙しそうに行き交っていた。


 商人からは、各地の町や国の情勢。


 珍しい品物の話。


 最近の交易事情。


 様々な情報を聞くことができた。


 そして、冒険者ギルドにも足を運ぶ。


 そこでは最近発見されたダンジョンや、危険な魔物の情報。


 各地で発生している依頼や、冒険者たちの噂話まで――。


 ザイルには、本当に様々な情報が集まっていた。


「ここなら、色々と調べられそうだな」


 俺がそう呟くと、グリフが頷く。


「ああ。次にどこへ向かうか決めるにも、情報は多いほうがいい」


「それに、ザイルには珍しいものがいっぱいあるからね!」


 アンも楽しそうに周囲を見回している。


 アリスはそんな二人を眺めながら、穏やかに微笑んでいた。


 そしてカレンは――。


「ねぇ、お風呂まだ?」


「……カレンは情報収集より、お風呂のほうが楽しみみたいだな」


「だって、お風呂あるんだもん!」


 そう言って、カレンは嬉しそうに笑った。


 こうして俺たちは、ローが武具を仕上げてくれるまでの間――。


 ザイルの街を歩き回り、様々な人から情報を集めていった。


 この街で得られる情報が、やがて俺たちの次の冒険へと繋がっていくことになる。


ザイルでの滞在中、俺たちは商店街を歩きながら情報収集を続けていた。


 ただ、ずっと真面目に話を聞いているわけではない。


 せっかくの貿易都市だ。


 並んでいる店を覗きながら、気になったものを買って食べ歩く。


「これ、おいしい!」


 カレンは串焼きを頬張りながら、次の店を探している。


「カレン、食べすぎるなよ」


「大丈夫!」


 そう言いながら、すでに次の店へ向かっている。


 俺たちも笑いながら、その後を追った。


 そんな中――。


 ある露店の前を通りかかった時だった。


「そういや聞いたか? 今年の闘技大会の話」


 近くにいた商人と冒険者らしき男が話をしているのが聞こえてきた。


「魔族領で開かれるっていう、あの大会か?」


「ああ。どうやら今年の優勝賞品は、かなりの代物らしいぞ」


「何でも――ルーンストーンが贈られるらしい」


「……ルーンストーン?」


 その言葉を聞いた瞬間――。


 俺は思わず足を止めた。


「レオン?」


 アリスが不思議そうに俺を見る。


 俺は商人たちの会話へ意識を集中させた。


「本当なのか?」


「ああ。優勝者には、魔族領に伝わる貴重なルーンストーンが与えられるって話だ」


「へえ……。そんなものを賞品にするなんて、ずいぶん豪勢だな」


「それだけじゃない。あの大会は、人間族と魔族の間で結ばれた盟約に関係してるらしいぞ」


 俺は黙って話を聞いていた。


 ――ルーンストーン。


 それは俺の魂に刻まれたルーンと反応する、不思議な石。


 これまでにも何度か目にしてきた。


 そして、そのたびに俺の中のルーンが反応していた。


「……魔族領か」


 俺は小さく呟く。


 これまで俺たちは、ルーンストーンについてほとんど何も分かっていなかった。


 だが――。


 もし本当に魔族領の闘技大会でルーンストーンが手に入るのなら。


 それは、俺のルーンの謎を知るための大きな手掛かりになるかもしれない。


「レオン……」


 アリスも、俺が何を考えているのか察したようだった。


「行ってみる?」


 俺は少し考え――。


「ああ」


 静かに頷いた。


「その闘技大会……詳しく調べてみよう」


 ザイルでの何気ない情報収集。


 その中で偶然耳にした一つの噂が――。


 俺たちを、魔族領へと導く新たなきっかけになろうとしていた。


その日の夕方――。


 俺たちは宿へ戻った。


 それぞれ風呂で旅の疲れを癒やし、風呂上がりに宿の談話室へ集まる。


 俺は皆が揃ったところで、昼間に聞いた話を切り出した。


「みんなに話しておきたいことがある」


「何?」


 アリスが俺を見る。


「今日、商店街で聞いたんだ。魔族領で今年、闘技大会が開かれるらしい」


「闘技大会?」


 グリフが興味深そうに聞き返す。


「ああ。そして――」


 俺は一度言葉を切った。


「優勝者には、ルーンストーンが贈られるらしい」


「……ルーンストーン?」


 アリスの表情が変わる。


 アンも驚いたように俺を見る。


「それって、レオンのルーンと反応する、あの石?」


「ああ」


 俺は頷いた。


「間違いなく、俺たちが探していたものだ」


 談話室に静かな空気が流れる。


 するとグリフが腕を組みながら尋ねた。


「だが、なぜ魔族領でそんな大会を?」


「それについても聞いてきた」


 俺は昼間に集めた情報を皆に伝える。


「この闘技大会は、ただの大会じゃないらしい」


 魔族領で開催されるこの大会は――。


 百年に一度行われる、人類と魔族の交流会。


 長い間続いてきた、人類と魔族の盟約に基づいて開催される特別な催しだという。


「ルールは、魔族側が用意した魔物を、人類側のパーティーが討伐して勝ち進んでいく形式らしい」


「なるほど……」


 グリフが頷く。


「つまり、人間同士で戦う大会じゃないんだな」


「ああ。魔族側が用意した魔物を相手に、どこまで勝ち進めるかを競うらしい」


「面白そう!」


 アンが目を輝かせる。


 だが、アリスは少し考え込んでいる。


「百年に一度……」


「ああ」


 俺も頷く。


 かつて魔神ヴェルマゴートが倒された後――。


 人類と魔族の間には、ある盟約が結ばれた。


 そして、その盟約を守るために、百年に一度、この交流会が開かれる。


 その大会の優勝賞品が――。


 ルーンストーン。


「……行くしかないな」


 俺がそう言うと、グリフが笑った。


「俺もそう思う」


 アンもすぐに手を上げる。


「もちろん行く!」


 アリスも穏やかに微笑んだ。


「ルーンストーンが手に入る可能性があるなら、私も賛成よ」


「よし……」


 俺は皆を見回した。


 次の目的地は決まった。


 魔族領。


 そして――百年に一度の闘技大会。


 俺の魂に刻まれたルーン。


 その謎を解くための手掛かりが、そこにあるかもしれない。


 俺たちは大会に向けて、少しずつ準備を始めることにした。


話し合いを終えたところで、俺はふと気づいた。


「そうなると――まずは魔族領まで行くための船を手配しないとな」


 魔族領へ向かうには、海を渡る必要がある。


 中型船を一隻手配するとなれば、かなりの費用がかかるだろう。


 すると――。


「あ、それなら大丈夫だよ」


 アンが何でもないことのように言った。


「ネネちゃん、魔族領とも貿易してるから。船も出てるよ」


「……そうなのか?」


 俺とグリフは顔を見合わせた。


「うん。ネネちゃんのお店って、思ってるよりずっと大きいんだよ」


 アンは得意そうに笑った。


 翌日――。


 俺たちは再びネネの店を訪れ、闘技大会のことや魔族領へ向かいたいことを話した。


「なるほど……」


 ネネは話を聞き終えると、少し考えた。


「それなら、もちろんいいですよ!」


 あまりにもあっさりと答えたので、俺たちは少し驚いた。


「本当にいいのか?」


「ええ。ちょうど魔族領へ向かう船もありますし、皆さんを乗せていけばいいだけですから」


 ネネは笑顔を浮かべる。


 そして、少しだけいたずらっぽい表情を見せた。


「それに――王都公認の冒険者様に貸しを作るのは、商人として嬉しい限りです!」


「ははっ……なるほどな」


 ネネらしい答えに、俺は思わず笑った。


「分かった。じゃあ、その恩は必ず返すよ」


「ええ。期待してますからね?」


 ネネも笑顔で返してくる。


 こうして――。


 魔族領へ向かうための船を、ネネの商船に乗せてもらえることになった。


魔族領へ向かう船の手配も無事に決まり――。


 俺たちは出発までの間、冒険者ギルドにも足を運んでいた。


 魔族領へ向かう前に、少しでも情報を集めておきたかったからだ。


 受付で話を聞いていると、職員がふと思い出したように口を開いた。


「そういえば……最近、商人の船を狙っている海賊が出ているんですよ」


「海賊?」


「ああ。ザイル周辺の海域で、商船を襲っているようでして」


 その言葉を聞いた瞬間――。


 俺とグリフは顔を見合わせた。


「……商人を狙う海賊だと……?」


 低い声が、二人の口から同時に漏れた。


「……」


 冒険者ギルドの職員が固まる。


 俺とグリフの間に、なんとも言えない空気が漂っていた。


「商船を襲う……?」


 グリフが拳を握る。


「ネネの船も危ないってことか?」


「……許せないな」


 俺も静かに呟いた。


 すると――。


「ひっ……!」


 職員が一歩後ずさった。


「え?」


 俺が振り返る。


 職員は顔を引きつらせていた。


「い、いえ……その……」


 なぜか、ものすごく怯えている。


 どうやら俺とグリフから放たれている殺気が、想像以上だったらしい。


「それで、その海賊の討伐依頼は?」


 俺が尋ねる。


「え?」


「受ける」


 即答だった。


 グリフも頷く。


「俺もだ」


「……は、はい!」


 職員は慌てて依頼書を取り出した。


 俺とグリフは依頼書を受け取る。


「よし」


「これで安心だな」


 二人で頷く。


 すると職員が、小さな声で呟いた。


「……海賊のほうが可哀想かもしれない……」


「何か言ったか?」


「い、いえ! 何も!」


 こうして――。


 俺たちは、商人の船を襲う海賊の討伐依頼を即答で引き受けることになった。


 ……ネネの船を襲おうとしている。


 その一点だけで、俺たちには十分すぎる理由だった。

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