4 やっぱり僕って運がいいかも
古書店と言うより倉庫と表現したほうが似合う店の引き戸を開けると、薄暗い奥の方で作業をしている店員が一人いた。
彼が顔を上げて、いらっしゃいとひとこと言った。
若いな。高校生のバイトかな。そう思いながら店に入る。
高い位置にある明り取りの斜めから射した陽の光に、ホコリが舞っているのが見えた。湿気とホコリ、大きく息を吸い込むのはためらわれる室内だった。
村先と名乗った大学生も僕の後から入ってきた。
「あの、古地図のことで少し聞きたいんだけど」
僕が言うと、店員の彼は少しだけうんざりした表情を見せる。
あのニュースのあとで、こういう問い合わせはたくさん来ているだろうから、彼の気持ちは良くわかった。
「僕が先にいいかな?」
村先が言って僕の前に出た。まあいいか。別に急がないし。
受付の台の奥に回った店員の前に、村先が古地図を広げる。
「ここの場所わかりませんか? こっちのマップで言うとどのへんになりますかね」
スマホの画面を横に置く。
店員が地図を覗き込んで少し考えている。ええと、この山があそこで、この川があれだから、ぶつぶつと言ったあと、これって温泉なのかなと呟いた。
「温泉だといいよね。この町の産業が一つ増えることになるんじゃないかな」
いろいろ考えていたのだろう、村先が被せるように言う。
「多分このあたりだと思います」
店員はスマホのマップの中の位置を指さした。
すかさず村先がその地点にマーキングを施した。
場所がわかったら、村先はすぐ行くのかと思ったら、ウズウズしながらも僕の様子をうかがっている。
このまますんなり別れるのももったいないかな、そんな気持ちが覗いて見えた。
「僕になにか期待しても無駄ですからね」
そう言ってやると、やっと彼は意を決したように、じゃあねと言って店を出ていった。
さてと、古地図の話からするか、それとも辻文七巳の事にするか。
すこし迷ったけど、先に地図の件を片付けるかと広げかけたときに、入口の引き戸が開いて、また客が入ってきた。
どうせ古地図を持ってきたんだろうな。
自分のことは棚に上げて鬱陶しく思う。
「ああ、辻文、昨日はお疲れだったな」
店員がその客に向かってそう言った。
なに? 辻文?
振り返ると、僕がこの二ヶ月間探し求めていた終生のライバルで、大好きなあの子が立っていたのだった。あの時と違って、私服の彼女もやっぱり素敵。
髪の毛は少し短くなっているかな。肩にかからないくらいにカットしている。
ぴったり目のブルージーンズにワインカラーのダウンジャケットを羽織っていた。
僕のは紺色だけど、大手メーカーの色違いみたいに思えた。
こんな店で偶然出会えるなんて、やっぱり、僕って運がいいのかな?




