3 月読峠の古書店へ
スマホのマップを見ながら、僕は古書店に向かう。
ガイドを見ると、そこまでは約二キロだ。デイパック一つ抱えて、僕は歩き出した。
灰色のシャッターの降りた店が目立つ。
寂れた地方都市の風景を眺めながら歩いていると、やはり先日のニュースで増えたのだろう、古地図を持った観光客が多数目についた。
みんな、非日常の冒険に目をキラキラさせながら歩き回っていた。
これ、あっちかな? とかおしゃべりしている二、三人のグループが多いが、その中で一人で地図を見ながら歩いている大学生くらいの男がいた。
背は高いが猫背気味にトボトボと歩いていた。
ちょっと声をかけてみることにした。
「こんにちは。オタクの地図はどんなの?」
いきなり声をかけられた彼は、少し戸惑った顔をしたが、にこやかに返事をしてくれた。
「やあ。君も宝探しなのかな? 僕の地図見てみる?」
彼は僕に見えるように地図を傾けた。
横に並んで地図を覗いてみる。
彼の地図は普通の地図だ。目印になるのは、やはり湖かな。
それから、山の形でおおよその場所はわかる。
彼の地図に記された目印は温泉マークだ。
ここに温泉が湧いているということなのだろうか。
「この地図はどうしたんですか?」
僕のは拾ったものだけど、と思いながら聞いてみた。
「これは通販で買ったんだ。この町の古書店からね」
通販で、こんなものまで売っているのか。ちょっと驚いた。
「でも、これじゃあ詳細な場所はわかりにくいですね」
僕と同様の思いを彼も持っていたのだろう。
「そうなんだ。だから今から、その古書店に行って見てもらおうと思ったんだよ。この町の人ならわかるかと思ってさ」
「それなら一緒に行きましょうか。僕の地図も見てもらいたいから」
僕の言葉に、にこやかだった彼の表情が少し変わる。
少しだけ眉を寄せて怪訝な表情を見せたのだ。
でも、僕にとってはそれは見慣れた反応だった。
気にせずにスマホのマップを確認して歩き出す。
街路樹の日陰に入ったり出たりしながら、ゆるい坂道を登っていく。
「ねえ。ところでさ。僕は村先真司っていうんだけど、君のお名前聞いてもいいかな?」
すこし遅れてついてきた彼が僕の耳元に顔を近づけてきた。
なんだか馴れ馴れしくなってないか?
駄目と答えたかったが、もしかしたらこれからの事で彼がなにかの役に立ってくれることもあるかもしれない。
ボーイミーツガールと言う単語が浮かんだが、首を振ってそれを打ち消した。
「僕の名前は、泉川由紀。身体は女だけど、心は男だから、あんたは対象外だからね」
とりあえず一本、釘を刺した。




