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異世界のハズレ勇者とダークエルフの第二の人生2

そして今日、結城葵は召喚された。

下校途中、最寄り駅の電車から降りてたったの五分、家まで半分というタイミングで。

制服に肩掛け鞄という姿で、何の心構えもなく、ポンと別の世界に飛ばされた。

そして女神に「帰れない」と告げられた。

葵は混乱していた。

ちょっとばかり勉強ができるだけの中学3年生でしかなかったのだ。

混乱したままの葵はそのまま、神官や王族に説明を受け、金をもらって宿の一室に入れられた。

「これから貴女は世界を救う一人となるのです」

「勇者パス」があればどこの宿でも無料で泊まれるらしいが、ワーイと喜ぶほど葵は単純ではない。

家に帰れないのが全てに優先する苦痛であった。

まばたきの間に瞬時に周りの全てが別の物になってしまった恐怖が続いていた。

眠れば全部夢であってほしかったが、ごわごわの布団ではすぐに目が冷めてしまう。薄い壁ごしに聞こえる声も安眠を妨げてしまう。

「…どうして言葉通じるんだろう」

布団もシーツも妙な生臭さがあり、そのうえモゾモゾ何かが動いているような気がして気持ちが悪い。

誰かもわからぬ声から耳をふさぎたかったが、布団を頭からかぶるのには抵抗があった。

タイツを履いていても制服のままの足では寒すぎる。

「…朝になれ、朝になれ」

眠気はあったが、脳みそが眠りたいのを我慢する。空腹も足の疲れもまぜこぜになって、体をひっぱりあいっこしているようだ。



朝食付きホテルといえば聞こえはいいが、葵の口に合うものではなかった。ビュッフェじゃないのはさておき、味見に失敗したシチューのようなスープ、焼く前の段階で何か間違えたようなガリガリのパンしかなかった。

周りの客の真似をして、パンをスープにひたして食べてはみても、スープの魚の骨が口内炎を抉って血みどろの味がした。しょっぱい塩味のスープが染み、パンが張り付いて、もう最終的には味よりも痛みが勝った。

美味しくないのに、痛いのに、全部食べてしまった。

「量、多かった…」

パンがふくれて内蔵を押し上げている気がする。苦しい腹を撫でていると、宿のおかみさんが笑いかけてきた。

「勇者さん、ありがと。また来てちょうだいね」

いやです、と言えなかった。


葵が受け取ったお金は500ゴールド。宿や食事は「勇者パス」でなんとかなるとして、あとは旅をするための準備にあてるように神官に言われた。

したくないの準備に何をすればいいのかわからないが、金を大事にしなければならない。

「あと神官の人なんて言ってたっけ…。武器、防具??」

現代日本では武器も防具も売ってないのでいくらぐらいかかるだろうか。

「足りなかったらどうしよう…」

そもそも1ゴールドは日本円にしていくらくらいなのかという疑問もある。

「ひと通り何円かかるか調べておかないと。でも何も買わないで店出たらマズいかなあ…」

宿のある城下町、その大通りには色々店があるようだった。大金持ちだったなら、あの果物のおいしそうなところを1つ買って食べ、あちらの木彫の像を見て……なんてするのだろうか。

葵はかばんに入れたサイフを思い出した。もらった500ゴールド、元々持っていたのは1500円、電車の電子マネー、それぐらいしかない。

「安いよ安いよー!ボロッコ地方の鋼で鍛えた剣がたったの4500ゴールド!これなら獣もイチコロってわけさ!」

いかにも荒々しいという外見の男性が、テントの中から大声を出した。

「よん、せっ…!」

4500ゴールド!たっ、高い!

「4500ゴールド?バカ言えよ、それじゃあ高くって買えやしねえって」

店の前に立った青年が野次を飛ばした。ハタチ前後だろうか、胸だけの鎧に剣という格好だ。

「そーかよしょうがねえなあ。じゃあ3800ゴールドだ!」

「うおおおお!」

「買うぞ!1つくれ!」

「オレもだ!」

「あいよ!礼は勇者のサトウに言っとけよ!」

「ワー!」

「ワー!」

ごそっと人が現れて、剣を買っていく。チャリンチャリンと金貨の音ばかりがした。葵が眺めて五分、やっと売り切れて客が去っていく。

店主の男性と話していた青年が、ふとこちらを見た。

「それって学校の制服……もしかして勇者か?」

「はっ、はい!」

別世界の青年が、いきなり葵を舞台に引き上げた。

「お嬢ちゃん勇者か。神官さまにお金は貰ったかい?何か役立つもんがあったら言ってくれよ」

コワモテに見える武器屋店主が笑いかけた。第一印象よりも、ずっと人好きのしそうな笑みで、少し安心する。

「ああ、はい、でも何買っていいのかわからないし、そんなにいっぱい持ってるわけじゃあないんです」

青年、サトウは腕を組んで頷いた。

「オレだってそうだったぜ。たった250ゴールドじゃあ一番安い剣を買えばなくなっちまう。後はここの店の手伝いをして稼いだもんさ」

「そうだ嬢ちゃん、いきなりデカい剣を買わせるなんて武器屋としてしちゃあならねえことだ。客に合う武器を探すのが武器屋のつとめ、やりがいだ」

「は、はい。なるほど…」

「客に合うってえのは、体格や身体能力はもちろん、懐具合のことも考えた上ってことだぜ。どっかの誰かさんみたいに、あの大きな剣がほしいから頑張る、っていうのも分かるがよお、最初は自分に合った装備から始めるもんだ」

「オヤジ、いつまでそれ言うつもりだよ!いいから隣のオバサンにも声かけようぜ。防具ならあのオバサンくわしいだろ?女の子の服なら女の人の方が詳しいだろうしさ!」

サトウは店主とともに武器の入った箱を開けながら、一つ一つ葵に見せ、持たせてくれた。

(サトウさん、ごめんなさい。私は500ゴールドもらいました…!)


E:べんりなナイフ

E:じょうぶなふく

E:つうがくカバン

E:くろいタイツ

E:むらびとのブーツ

「べんりなナイフ」は武器というよりは旅に必要なもので、紐を切ったり枝を切ったりするものらしい。

「むらびとのブーツ」も同様、国の人々が日常的に使う簡易的なものだと説明を受けた。

「じょうぶなふく」は防具屋のおばさんが倉庫から引っ張りだしたもので、何年も前のものらしい。デザインこそ古いものの、劣化は少なく、安く提供できたとのことだ。

350ゴールドにどれほどの価値があるのかは分からなかったが、武器屋の店主、防具屋のおばさんが一生懸命みつくろってくれていたので、きっと本当はもっと高い装備なのだろうと思う。

サトウにも、勇者制度について色々と話を聞くことができた。サトウは武器屋の手伝いをしながら金を稼ぎ、さらに強い武器を揃えて「モンスター」と戦ったという。

そこで役に立ったのが「ギルド」だ。

商人ギルド、魔術師ギルド、傭兵ギルド、様々な専門家が登録して仕事をするのがギルドだ。

「勇者」のギルドもあるのだとサトウは言った。

異世界に招かれ帰れない勇者たちが孤立しないように、勤めを果たせるように、勇者同士が交流し情報を共有できる場として作られた。

そこに行けば、「モンスター」退治の依頼を受けて金を稼ぐことができる。

サトウは依頼をこなして、勇者として名を上げていったのだという。

(私もそういう風になれるのかな)

武器屋の店主、防具屋のおばさん、勇者サトウ(東北の出身らしい)たちの世話になっておいて、何もできないままでいるのは、なんかイヤだ。

「モンスター」と戦えるとは思わない、が、他にも何か、呼ばれたなりの仕事をしておきたい。しないままでは落ち着かない。

「こ、こんにちはーっ!」

勇者ギルドのドアを開く。

西部劇のバーのような内装が葵を出迎えた。

一斉に向けられる、視線。

息を呑んで一歩踏み入れる。

すると、

「貴様が勇者なのか」

褐色肌の美しい女性がヒラリと現れた。

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