異世界のハズレ勇者とダークエルフの第二の人生1
「貴女は帰れませんよ」
にっこりと、笑った。華が咲くかのような笑みだった。
女の豊かな金髪が、どこからか吹いた風によって揺れる。絵画のワンシーン、女神が地上に降りて微笑む美術品のようだった。
けれどそれは、ひとりの女子中学生にとっては死刑宣告だった。
「えーっ!」
「だって、そういうものなんですもの」
紺のブレザーの中学生は、口を大きく開けたまま、女神を見ていた。視界に納めていれば、きっと答えが変わると思っているかのように。
「貴女はずーっと、この地から帰れません」
やっぱり、答えは、変わらなかった。
世界がひとつ、暗い時空の海の中にあった。
ぽつんと転がったそれには、人間など様々な生物が存在していた。それぞれに文明があり、生き物たちは共生することもあれば種族ごとに争い合うこともあった。
なかでも大きな勢力は「人間」「魔族」。世界の覇権を争って何度も戦争を繰り返していた。
闇の力を操る魔族に対抗して、一部の人間は光の力を求め、手に入れた力によって魔族の王「魔王」を打ち倒した。
小競り合い、白兵戦、奇襲、暗殺、洗脳、何度も戦いがあった。
そんなことを繰り返していたある日、世界に変化が起きた。
綻びが発生したのだ。
草原の中に現れた海、どこにも繋がらない扉、カシの木から生えたヤシの実。
神々はそれを「バグ」と呼んだ。
やがて闇の生き物とも違う異形の生物が現れ、街を襲った。人間の里も、魔族の谷も、蝶が暮らす花園も、荒らして潰して「バグ」を生み出してゆく。
異形の生物「モンスター」を退治するべく兵をいくら派遣してもキリはなかった。延々と増え続ける「モンスター」に、いくら歴史書をめくっても解決策は見つからなかった。
困り果てた人間の神官たちは、太陽と月が重なる神秘の夜に祭壇に登って神に問うた。どうすれば世界は救われるのかと。
太陽の神は「神でさえもモンスターを打ち倒すことはできない」と言い、月の神は「この世界にバグを治す術はない」と嘆いた。
「ただ一つだけ、方法があります」
そう口にしたのは扉の女神。
「異世界とこの世界を結び、治療する者を呼び出すことです」
美しい金髪の女神の言葉に、他の神も神官も感動し、打ち震えたのだった。
扉の女神の先導のもと、異世界から治療者を呼び出す結界が張られた。優秀な神官、魔術師、学者、王族が集まり、祈りを捧げた。
失敗はほんの数回、異世界の民はこの世に現れた。
年端の行かない少年少女、けれど失望することはなかった。
今まで人間の国を救った勇者はみな、若く情熱を持った青年だったのだから。
異世界から来た「勇者」は、武術や魔術の心得こそなかったものの、「バグ」に対して有利だった。
彼らが使えば、ただの剣も「モンスター」に通じる聖剣となった。
少しずつではあるが、「バグ」は修復されていった。
が、今すぐ全ての「バグ」がなくなりはしなかった。「モンスター」に襲われた百年間、「勇者」が現れてからの十五年間。遠い目で見て百年、二百年かければ世界から「バグ」も「モンスター」も消えるだろう。
だから「勇者」を召喚し続けた。




