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9話

 ガラスの向こうで形をとらえることが出来ない速さで景色が流れていくのをぼんやりと見る。

 隣で運転しているのは智哉。


 こうして智哉の車に乗っている自分が不思議だ。


 あれから智哉は携帯を切ると、いきなり私に一緒に来るように言ってさっさと歩き出した。

 私の返事なんて聞きもしないで…。


 過去の思い出のせいで足が動かない。

 後ろから着いて来ない私に気づいた智哉が少し先で立ち止まりふり返る。


「茉莉? こっちだ」


 智哉と付き合っている時、めったにあることじゃなかったけれど、勝手に決めた事を理由も言わずに私を従わせようとした。

 そんな自分勝手な行動に腹を立てたが、智哉を好きだった私はそれにおとなしく従っていた。


 でも今は理由もわからず従ったりはしない。

 私はもう昔の私ではないのだ。


「智哉は私がどうしてここにいたのか、この後の予定がどうなのか、そういうのも考えてくれた? 理由もわからず行き先も聞かされないままどこかへ一緒になんて行けるわけないでしょ!」

「茉莉…」


 私の言葉に智哉は驚いたような表情を浮かべている。

 智哉と付き合っていた頃、就職活動でピリピリしていた智哉をわずらわせたくなくて、私は色々と我慢し、おとなしくしていた。

 いつもにっこり笑って、出来るだけ智哉の言うことを聞いていた過去の私。


 今の智哉は就職していて、私達はもう恋人同士でもない。

 智哉の言葉をおとなしく聞く必要もないはずだ。

 そう思っても、なぜか罪悪感を感じてしまう。

 

 我慢せずに言いたいことを言ってしまうと、次の瞬間すーっと冷静になった。

 そのせいで智哉の様子をきちんと見ることが出来る。


 智哉は少し寂しそうな表情を少し長い前髪で隠す。


「…ごめん。そうだな」


 つい感情的に言葉を吐き出した私に智哉はすぐに謝ってくれた。

 穏やかで優しげに笑って私の所へと戻ってくる。


「信じられないだろうけど、俺、少しだけ霊感みたいなものがあって、オレには茉莉の周りに黒い煙のようなものが見えるんだ。黒い煙は多分呪いだ。かけられている呪いを解かないとこれから良くないことが起きて命に関わる。今は信じるフリでもいいから、それを解く手伝いをさせてほしい…」


 そう言う智哉はさっきまでの親しさから雰囲気が変わる。

 少しだけ距離感の感じる雰囲気。

 それを感じて言うんじゃなかったと後悔してしまう。


「解くって、…そんなこと出来るの?」

「ああ、まだ茉莉の姿がハッキリ見える。解くのは俺じゃないけど、これならすぐに解けるよ」


 智哉は呪われていると感じる私を救おうとしてくれたのだ。

 それなのに私はあんな言い方…。


「…実は最近変なことがあったの。呪いが本当にかかっているのかわからないけど連れて行ってもらっていい…かな?」

「連絡したからすぐに行こう」


 そう言って智哉の後を着いて来たのだ。


 着いて行った先はコインパーキング。

 免許を持っているのは知っていたけれど、まさか、車を持っているとは…。

 多分、別れてから買ったんだろうけど。

 車は黒のCRV。

 なんとなく、その車は智哉のイメージに合っていた。


 車に乗ってずいぶん経つが、会話らしいものはない。

 唯一の会話は私の話した変な出来事について聞かれ、その話しだけだ。


 聞きたいことはいっぱいあった。

 でも知らないほうがいいと思った私は聞かないことを選択した。

 智哉のことも、呪いのことも。

 

 智哉が車を停めたのは『九頭龍神社』の前。

 閑静な住宅の中に隠れるようにある小さな神社だった。


「茉莉は今穢れて境内には入れないから、こっちに呼び出す。ちょっと待って」


 それだけ言うと智哉は携帯を取り出し、どこかに電話をかけた。


 私が穢れているということがどういうことなのか。

 呼び出すというのが何のことなのか。

 他にも聞きたい事だらけだ。


 智哉の電話が終わるのを待って聞きたいと思ってたをいくつか智哉に聞く。


「ね、呪われてることを穢れって言うの?」

「ああ、違うよ。最近、茉莉の身内で誰か不幸があっただろ? 死を悲しむことは気枯れる、つまり「けがれ」と言うんだ。神社の神は穢れを厭う。だから茉莉は境内には入れないんだよ」


 私は智哉の説明に驚いていた。


 母が亡くなったことを智哉には話していない。

 それなのに智哉は私の身内に不幸があったと言っている。


 智哉は自分には霊感があってそういうのが見えると言っていた。

 そういうのもわかるものなのだろうか?


 私は幽霊だとかいうものは一切見たことがない。

 けれど、自分が見たことがないからと、幽霊を否定する事はない。

 今の世の中では幽霊がいることを証明できなければ、いないことも証明できないから。


 ただ、智哉は付き合っている間、一度も嘘をつかなかった。

 だからこそ智哉が霊感があるというなら、あるのかもしれないと思ってしまう。

 それに身内の不幸を言い当てたこともある。


 それにここ最近の出来事を思い出す。

 あんな怖い思いをするのは嫌だった。

 お払いだけであんな奇怪な出来事が起こらなくなるなら、お払いしてもらえると安心出来る。

 

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