楓の仕事
翌日、僕は楓に呼び出された。
「仕事ってのは、人助けだよ。これ」
楓が見せてきたのは一枚の紙切れ。
そこには、丸く可愛らしい字で、『兄を助けてください!ここのところ毎日思い悩んでいるようなんです。お金なら払いますから』と書かれていた。
「でも、助けるって、どうやって?」
すると楓は馬鹿にしたように、「会いに行くに決まっているだろ」と言った。
全く、好きにやらせておけば良いのに。
そう思うが口にはしない。
「わかりました。で、その差出人は誰なんですか?」
すると楓は困ったように、「さあ?」とボヤいた。
「も、もしかして、わからないんですか?」
予想的中!嬉しくない、全く全然嬉しくない。
「なんで、そんなの引き受けたんですか!」
怒鳴っても意味が無いことなど解っている、解っているけれども、怒鳴らずにいられるか!
「まあ、まあ、落ち着けって。だからお前がいるんだろう?」
「・・・・?なんで僕が・・・」
「お前、Sの一人、しかも最年少リーダーだろ?ならこれくらいどうってことないさ」
特別有能捜査官、通称S。FBIにも時には呼び出され、協力を要請される。とりあえず凄いらしい。
だが、Sの正体は殆んど明かされていない。なのに、なぜ楓は知っている?
すると、僕の気持ちを読んだのか、「Sってのは、私のような業界には有名なんだ。まあ、リーダーがお前のような若造と知った時は、流石に驚いたよ」と、サラッと流した。
「で、楓さんはなんの仕事を?Sの情報は機密情報ですよ。そんなに簡単に普通の人が知るわけないですよね。もし、これが漏れ出した情報なら、貴女を抹殺しなきゃいけなくなる。だから、どうか、僕にそんな面倒くさいことをやらせないでください」
ポケットのなかに入れてあるSの証であるバッチを強く握りしめながら、声に表情を乗せずに会話を続ける。
本当は殺しなんて面倒くさいこと、したくないし、臆病者のぼくにはきっとできない。
「お願いですから、僕に貴女を殺させないでください。貴女のことはそれなりにきにいっているんですよ」
だから、これは、精一杯の、強がり。
だが、彼女には、総て、お見通しだったらしい。
「心配するな。間違ってもお前には殺されないよ。情報は私の仲間だよ。中田傭兵、知ってるよな」
それは疑問ではなく確認だった。
「ええ、ぞんじていますよ。サイバー攻撃のプロですよね。3年前のあの事件を機に僕等の間じゃ、かなり有名になりましたから」
中田傭兵、Sの捜査力を持ってしても捉えることが出来なかったプロ中のプロ。
だが、結局は一人の高校生の手によって御用となったことは、Sのプライドをヅタヅタに引き裂くことになった。
「で、田中がどうしたんですか?ああ、たしか護送中に脱走されたんでしたっけ」
「そうだ。そいつからの情報だ」
ーそうか。それなら僕のこと知っていて当然だな。
「そうですか。でもそれなら、田中に頼めばいいじゃないですか」
田中なら楽勝に居所くらい割り出せることだろう。
だが、そう簡単にはいかなかった。
「それは考えたんだがな、今は海外旅行を満喫しているらしい。今頃フランスの警察と遊んでいることだろうよ」
「でも、協力は無理です。そちら側に田中がいる限り、僕は貴女の味方はできませんよ。僕が協力したことが暴露たなら、僕自身抹殺されちゃいますからね」
「だから、これは一人の隠れ楓からの依頼だ。私一人の頼みなら何の影響も無いだろ。それとも、困っている人を見捨てるのか?知ってしまった以上、この子がお前の知らないところで苦しむのは無理だ」
ーまったく、どうして、こうなるのか。そうだよ、弱い人見つけたら、助けちゃうんだよ。お人好しなんだ。だからこそ、この依頼は受け取れない。
「無理です。貴女は巻き込めません。だから、この依頼は貴女からじゃない、僕が勝手に見つけて、勝手にあなたの仕事を横取りしただけだ。だから、これは依頼じゃない」
楓はフっと微笑むと、「お前ならそう言ってくれると思ったよ」
そしてー急に鳩尾に振動がきたと思ったら、視界が暗くなった。




