隠れ楓と僕(続)
入学式の帰り道。
僕はとても美しい鳥を見た。ー白く綺麗な、不気味な程に綺麗な、鳥を。引き込まれそうな白い純白な、ここまで白い鳥を僕は初めて見た。
その美しい堂々とした鳥は、どこか彼女に似ていた。そして、鳥は死んだ。
僕の目の前に、純白の羽根を散らしながら、墜落した。
ーああ、やっぱり、生き物は儚い。だから慈しむのか。
暫く僕はその鳥をただ観察していた。ーいな、鳥だった物を、どこまでも唯々見ていた。
「死んじゃったんだね」
彼女はとても悲しそうに言う。自分のことのように。
ーだから他人とは関わりたくない。だってーもし自分のせいで死んじゃうなんて嫌じゃないか。死ぬならかってに死んでくれ。僕の関わりの全くない所で。
今日、学食でたまたま会った彼女、名前を楓と名乗った。
彼女の雰囲気にあわないな、とも思った。
ーあわないじゃなくて、合わせようとしないのか。でも彼女程に合っている人もまたいないだろ。なぜなら彼女程に儚い人もまた知らない。
彼女は死んだ鳥を自分のことのように悲しんだ。ーその姿は、昨日の堂々とした強い姿とは比べ物にならないくらい悲しそうだった。
ー僕は知らない。ここまで他人の、ましてや自分が見たこともない鳥にここまで共感する人を。本当に嫌だ。嫌いだ。
「なんでそんなに悲しそうに言うのですか?」
他人のエゴは、同情はとても気持ち悪い。
だが、残念ながら、この世界のほとんどの人はそれだ。そしてそれをエゴや同情では無いと言う。だから嫌いなんだ。
でも彼女はー
「悲しいよ。だってお前が、感情が無いから。でも私は何も出来ない。お前がどうしたら笑えるようになるのか」
「それはー同情ですか?」
「違う!エゴだよ。同情なんて綺麗な物なんかじゃ、だって、お前、気持ち悪い。機械みたいなんだ。私は、ここまで感情を殺した人間を見たことが無い!」
面白い。僕のことをそんな風に真っ直ぐ見てくる人を初めて、見た。
さらに彼女は言う。
「だからお前は引き籠もりなんだ!生きている価値が無い!感情が引き籠もりなんだ!そんなんで生きているか!」
知っているつもりだった。僕なんかが何の価値も無い事を。
「だから言ったじゃないですか。僕なんかと関わる価値なんか無いと」
「それも違う。生きている価値が無いのと、私にとって価値が無いのとでは全然意味合いが違う。はっきり言って私はお前を利用する。私の仕事の手伝いをすれば、お前の存在意義もあるだろ」
ー仕事か。それでもいい。僕に存在意義を見つけ出してくれる人なら、何だっていいんだ。
「ありがとう。僕の存在意義を見つけてくれて」
「なに、いいさ。当然だ」
そして彼女は食べかけていたラーメンを、スープ一滴も残さないで食べ終え去って行った。
この時、彼女がとても輝いているように見えた。だが、この後僕は仕事の手伝いを認めてしまった事を後悔した。




