↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こもれびと、おぼろ月  作者: 日旅こつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/69

昼はこもれび、夜はおぼろ月

 夕暮れが、山の端へゆっくり沈んでいく。

 十一月も下旬に入り、日が落ちるのはすっかり早くなった。

 北海道の道北。

 旭川から少し離れた、山の近い小さな街。

 その外れ、人の暮らす場所と深い森との境目みたいなところに、その店はある。

 昼のあいだ軒先に出していた『喫茶 こもれび』の看板を外していると、頬に冷たいものが触れた。

 見上げれば、薄暗い空から白い雪がひとひら、またひとひらと落ちてくる。

 積もるほどではない。

 けれど、冬がもうそこまで来ていることを知らせるには十分だった。

 代わりに少し小ぶりな木の看板を掛ける。

 ――小料理屋 おぼろ月。

 軒下の灯りを点けると、白い文字がぼんやりと浮かび上がった。

戸の脇の小さな木札も、『OPEN』へ裏返す。

 最後に暖簾を掛けて、少し離れたところから眺める。

「よし」

 今日も、いつも通り。

 そう思ったところで、背後から声が飛んできた。

「ほら美月《みづき》。いつまで看板眺めてる。冷えるぞ」

「うん。今行く」

 振り返ると、開け放した戸の向こうに、おじいちゃんの姿が見えた。

 店の中からは出汁の匂いが流れてくる。

 昼間は珈琲の香りが染みついている店も、夕方を過ぎるとすっかり別の顔になる。

 カウンターには、かぼちゃの煮物やきんぴらごぼう、鮭の南蛮漬けが入った大鉢が並んでいる。

 端には、艶よく煮付けられたにしん。

 その横には、行者にんにくの醤油漬けが入った小さな器。

 奥の鍋では、今日のお通しのふろふき大根が、ことことと音を立てていた。

 私は暖簾を一度だけ整えて、店の中へ戻った。

「予約は?」

「予約なんて取ってないだろ」

「あ、そうだった。じゃあ、暇かな」

「そう言った日に限って来る」

 おじいちゃんはそう言いながら、小鉢を並べていく。

「誰が?」

「客だ」

「それは分かってる」

 言った途端。

 からん、と入口のベルが鳴った。

「ほらな」

 おじいちゃんが言う。

 早い。

 まだ暖簾を出して、一分も経っていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。