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第9話 片想いの舞い

恋乃夢桜神社。本堂内。

片想い恋愛相談室。

「さて…」

修連老人は、ふすまを閉める。

今日は、大君殿下の結婚の宴の日。

世桜の都の民は、全員仕事を休んで祝福する。

町娘も全員お祝いに参加するのだ。

片想い恋愛相談室も、本日休業日だ。

「修連じいさま。栄心のところに行きましょうかねえ」

全北さんが、お出かけの準備をする。

全北さんの息子。修連老人の孫の栄心。

今は、世桜城で、護りびとをする修行中だ。

どんな成長をしているか、楽しみである。

「行くかのう。全北よ」

「行きましょうねえ」

二人は、ゆっくりと世桜城へ向かった。


第9話 片想いの舞い


世桜城。野外の宴の広場。

結婚の宴当日。

「今日は、栄心くんたちにも新しい着物をあげるわね」

飛流さんに言われて、栄心、吹雪、木織は着替えた。

整えられた綺麗な着物である。

「ワタシ、この着物で、栄心を恋させちゃうかもー」

「それは、ないです」

「オレは、宴会場でモテモテになるかも〜」

「知りません」

栄心は、ため息をつく。

木織を少しにらむ。

不用意な木織の発言で、式部ちゃんの姉・百式さまが、悪い霊を呼べると大騒ぎしたのである。

黒い霊気を呼ぶ、と。

じめじめしていると、黒い霊気が生まれる。

それは、小鳥たちの守り人である、栄心が修行のため封印し続けている悪い霊だ。

カラッとしている、お城の中では、じめじめはない。

百式さまは、警備団に止められた。

そのため、黒い霊気が呼ばれることはなかった。


結婚の宴、開催。

「おめでとうございます。大君殿下」

世桜城の家臣たちが、土下座して、頭を下げる。

参加した都中の民も、同様だ。

栄心たちも、頭を下げる。

「ありがとう。本日は、皆、楽しんでほしい」

大君殿下と式部ちゃんは、豪華な身なりで、二人ならんでいる。

幸せそうな二人だ。


結婚の宴、最中。

「栄心。修行は、上手くできましたかねえ」

全北さんが、息子・栄心に語りかける。

「は、はい。出来る限りのことはしています」

「そうですかあ」

「それは、良いことじゃのう」

修連老人が、あごに手をやる。

久しぶりの男三人家庭の集合である。

「父さま。小鳥たちは、元気でしょうか?」

本来、小鳥たちの守り人の栄心。

恋乃夢桜神社の小鳥たちのことが気になっている。

「大丈夫ですよお」

何事もなく、元気にさえずっているらしい。

父の全北さんの方が、霊力が上なワケだから、元気に安全に過ごせているのだろう。

栄心は、安心した。


「栄心ー。何か、大君殿下に片想いしてた町娘が集まってるみたいー」

「え?」

吹雪に教えられて、目線を追うと、質素な着物姿の町娘たちが一カ所に集まっていた。

手には、全員、カサを持っている。


ざわざわ…。

お城の家臣たちが、どよめいている。

「私、町娘代表の二重ふたえでございます」

何事かと見守る中で、町娘たちの代表が言った。

集まった町娘は、全員が大君殿下に片想いしていたこと。

心不安定で過ごしてきたこと。

たくさんの想いがあったこと。

多くを語った。

「何が言いたいのだ。宴を止める気か」

「いいえ」

警戒する警備団にためらうこともなく、町娘たちは、持っていたカサを広げる。

「お祝いの舞いを披露したいのでございます」

町娘たちは、カサを使った舞いを踊りはじめた。

練習したのであろう。

たどたどしい町娘もいるが、全員、心を込めて舞っている。

大君殿下への想い。

祝福の気持ち。

やはり、消せない失恋の心。

燃える霊。

多くの失恋の想いが、大君殿下を熱病にしてしまった。

恋霊。

霊力の高い町娘が解き放った。

大好きになったこと。

女の娘の暴走。

すみませんでした。ごめんなさい。

片想いの終焉に、舞い踊る町娘たち。

それは、感動を呼んだ。


「美しい舞いだったね。式部ちゃん」

「はい。美しい舞いでしたね」

結婚の宴の主役の二人は、微笑み合う。

大盛況の中、宴は終わった。

これからは、大君殿下と式部ちゃんの幸せな暮らしがはじまる。

「式部…。せいぜい幸せになりなさい」

姉の百式さまも、可愛い妹の幸せを願った。


世桜城。離宮。紫咲大臣の居間。

「…結婚の宴が、無事終わった。娘の百式のことは、迷惑をかけてしまったな」

紫咲大臣が、頭を下げる。

姉の百式さまは、大君殿下の婚約者だったが、妹の式部ちゃんに取られるかたちになってしまった。

憎む気持ちもあるのかもしれない。

しかし、元々、仲の良い姉妹であったから、姉妹関係の回復に時間はかからないだろう。

「大君殿下と式部は、結婚した。護りびとの役目ご苦労であった」

「ありがとう。栄心くん」

大臣と飛流さんが、お礼を言う。

「はい。微力ながら、お役に立てたならうれしいです」

栄心は、少なくない謝礼金を受け取った。

こんなにお金をもらえるとは思っていなかったので、かなり慌てた。

「これからの暮らしで、自由に使ってね」

「は、はい…」

飛流さんが微笑む。お別れだ。

その後、栄心は、お城を後にした。

護りびととして。

自分は何ができたのだろうか。

わからない。

まだまだ、修行が必要なのだろうとは思えた。

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