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第7話 燃える霊

恋乃夢桜神社。本堂内。

片想い恋愛相談室。

「さて、どんな片想いじゃ?」

「…とうとう、大君殿下に熱愛が発覚してしまいました。とても、衝撃的でした」

町娘は、両手に力が入る。

しかし、表情は、落ち着いている。

「都中の町娘が、一斉に大好きだったんですけど。殿方の心を射止める女の娘は一人ですよね」

「そうじゃ」

大君殿下の熱愛が発覚しても、恋霊は現れなかった。

恋霊を呼ぶほどの霊力の持ち主は、そうそうといない。

恋霊騒ぎにはならないだろうと、修連老人は思う。

一、二度起きただけでも、多すぎるほど、恋霊は、簡単には引き出せない。

女の娘は、とにかく想いを心の中で。

頭の中でかかえ込むしかない。

これをきっかけに、新しい恋を探すべきだろう。

一人を大勢で片想いしないでいい。

それぞれの、恋に立ち戻るのだ。

きっと、神様がくれたきっかけだ。

恋に多様性を。

しかし。

「“燃える霊”が厄介かもしれぬのう」

「燃える霊…ですか?」

町娘は、聞き返す。

「そう、集団失恋が呼び出す。霊魂の暴走じゃ」


第7話 燃える霊


世桜城。

湖に囲まれ、恋桜に囲まれた白く美しい城。

現在、城主・大君殿下が熱病にうなされている。

限られた家臣と医師団。

式部ちゃんがそばで見守っている。

城内は、殿下の身を案じる状態だった。


しかし。

恋桜の樹に異変が起きていた。

「恋桜の樹が、赤く染め上げられている…」

「どういうことだ…」

戸惑うお城の警備団たち。

お城を取り囲む恋桜の樹が、全て赤く、燃え上がるような色に染まっていた。


「熱い…」

何者かが、塗ったのか?

いや、気配がする。

人の強い想いの気配がする。

栄心は、樹の一つに触れた。

人肌の温度のようで、燃え上がる炎のようで。

樹は、熱かった。

これは、何なのか。

ぴいちく。ぴいちく。

お城の小鳥たちは、赤い色の異様な恋桜に平然と止まっている。

自然は、変わりないのだ。

人に変わりがあった。起こった。


「栄心ー!」

吹雪が、後ろから抱きついた。

「大君殿下が、熱が下がらないんだってさー」

「いきなり、抱きつかないでください」

「えー。いいじゃーん」

栄心から離れない、吹雪。

「何か、この恋桜の樹、色がおかしいよー」

「そうですね」

「何が起こってるのかなー」

「少し…、危ないです」

「えー?」

驚きながらも、吹雪は栄心から離れない。

現在、高熱を出した大君殿下が、寝込んでいる。

原因不明。

ただ、高い熱がある。

大君殿下のもとには、一部の家臣しか近づけない。

紫咲大臣の娘、式部ちゃんは、そばにいる。

熱…。

熱の霊。


「栄心〜」

「栄心くん」

木織と紫咲一門の側近の飛流さんがやって来た。

「大君殿下の熱が下がらないのよ。この恋桜の樹も異常なまでの赤い色に染められているし、何が起こっているのか、わかるかしら?」

飛流さんは、まっすぐに栄心の瞳を見つめる。

「わかる…かもしれません」

栄心には、心辺りがあった。

熱の霊。

「恋による衝撃的なことがあると、悲しみが形になると、修連じいさまに教わったことがあります」

恋による衝撃的なこと。

失恋。

それは、小さな悲しみを生む。

一つは小さいが、大勢の失恋によって悲しみが形になることがある。

「んー?よくわからないよー」

「どういうことさ〜」

「私もわからないわ。どういうことなの?」

「失恋の悲しみです。悲しみが形になって、炎の霊魂が形成されてしまうことがあります」

失恋した衝撃。

女の娘は、燃える霊を呼ぶ。


「うわっ。何者だ…」

「熱い…」

お城の警備団が、慌てふためく声がする。

目をやると、一つの恋桜の樹が異常なまでに燃え上がっている。

火事か。

樹の上には、炎のような着物をまとった子供がいる。


『我、ホムラ。悲しみに宿りし霊魂なり』


ホムラと名乗った子供は、空中に浮かんでいる。

燃える霊だ。

「何?あの子供〜」

呆気に取られた木織がつぶやく。

「あれ、何だよー」

「あれが、燃える霊…?」

吹雪と飛流さんが、身構える。


『我を呼ぶ。女の娘の悲しみ。思い応えない者に熱を伝える者なり』

燃える霊“ホムラ”は、身体中から炎を立ちのぼらせる。

失恋した女の娘たちの生み出した怪しい子供は、尊大な態度をとる。

『大君殿下という男を悲しみの熱で焦がすなり』


「大君殿下の熱病の原因は、この子供なの?」

飛流さんは、聞いてくる。

たぶん、そうだろう。

初めて見る霊魂だが、栄心はうなづいた。

封印しなければ。

封印できるだろうか?

考えるな。動け。

人を守る力は、使わなければいけない。

「…一体ならば、封印できます」

栄心は、前に出る。


「魂封印!」


両手で印を組む。

金色の霊力がほとばしる。それは、燃える霊・ホムラをつつみ込む。

燃える霊は、消え去る。

「さすが、栄心くん。立派な護りびとだわ」

「やったね〜。栄心」

「栄心ー。カッコいいよー」

吹雪は、栄心に再び抱きついた。

この場にいた全員が、栄心を称賛する。

栄心は何も言わず、肩で息をする。

霊力を消費したのだ。

しかし、封印には成功した。

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