第5話 式部ちゃん
恋乃夢桜神社。本堂内。
片想い恋愛相談室。
「さて、どんな片想いじゃ?」
「…あの、大君殿下への片想いを終わらせようと思っています。私には、幼なじみが近くにいる。幼なじみが好きな人なんだって気づいたんです」
町娘は、背すじをピンとのばす。
「それで、いいのかのう」
「はい。同じ片想いですけど、大勢の女の娘に好かれる人って、やっぱり違うと思うんですよね」
「そうか。そうか。片想いは自分次第じゃよ」
修連老人は、あごヒゲをなぞる。
世桜の都でもっとも人気のある大君殿下。
好きになる女の娘は、数しれず。
相手と実際に出会ったワケでもないのに、女の娘は片想いに落ちる。
それが、何人も。何十人も。百人を超えているかもしれない。
この娘たちは、いずれ、失恋する。
男は、いずれ、好きな女の娘を一人に決めてしまうからだ。
「…そもそも、聞きました?一部のウワサなんですけど、大君殿下に好きな人がいるって話題になっているんですよ」
「ほう」
「大人気城主さまなんだから、ずっと好きな人を作らないでほしいですよね。そう思いませんか?」
「そうじゃのう…。可愛い女の娘がいたら、思わず好きになるのが男という生き物じゃよ」
大君殿下も男。
好きな女の娘がいない方がおかしいと、修連老人は言った。
第5話 式部ちゃん
世桜城。離宮。客室。
栄心は、客室の一室で寝泊まりすることになった。
食事や着衣を用意してもらう。
「静かですね…」
外から、聞こえるのは、小鳥たちのさえずりだけ。
この城の小鳥たちを守る人は、いるのだろうか。
いや、じめじめしていない、このお城では、黒い霊気も現れないのだろう。
「恋乃夢桜神社は、よっぽど、じめじめしていたんですね」
お城に来て、初めて知ったことである。
この世桜城では、悪い霊気を感じ取れない。
平和に思える。
“護りびと”は、必要ないのでは。
「うちの神社の小鳥たちは、大丈夫でしょうか…」
父に任せたものの、栄心は不安になっていた。
どたどた。どたどた。
いきなり、廊下から向かってくる足音がする。
「栄心ー!」
室内に入ってきたのは、吹雪だった。
「元気ー?荷物があるって言ったら、飛流さんに通してもらったんだー」
持参した大きな風呂敷をほうり投げる。
その勢いで、栄心に抱きつく。
そのまま、ギュッと抱きしめる手に力を入れる。
「うわっ。何するんですか」
「今日の栄心は、油断してるー?」
「慣れないお城の中で緊張してるんですよ」
「へー」
吹雪は、上目で栄心を見上げる。
どたどた。どたどた。
再び、足音が近づいてくる。
「栄心〜」
室内に、木織が入ってきた。
「大君殿下って恋人いたんでしょ〜。聞いちゃった〜」
飛流さんから、聞いたらしい。
もう、大君殿下の恋人の存在を明かしはじめているのだろう。
準備段階なのだろう。
「式部さまって、どんな女の娘ー?」
「式部さまって、恋人なんだよね~」
「あ、俺も、まだ会っていません」
栄心は、うっかりしていた。
「…ふふふ。護りびとって、あなたですか?」
薄紫色の髪の女の娘が、口元に手を当てて、微笑んでいる。
「おかしな人。女の娘と男の子と交際してるんですか?三角関係って言うんですよね?それ」
紫咲式部。14歳。
薄紫色の整えられた長い髪。
若すぎる、可愛い女の娘だ。
若いというよりも、まだ幼すぎる。
「護りびとさん。自分の恋愛より、わたくしの恋愛を守ってくださいね。ふふふ」
無邪気に笑う姿は、式部さまというより、式部ちゃんだ。
「14歳?何だ〜。式部ちゃんじゃ〜ん」
「本当だー。若いよー。女の娘ー」
「二人とは、交際していません。友達です」
栄心たちは、それぞれ思ったことを言う。
「護りびとさんって、何をしてくれる方なのですか?」
式部ちゃんは、素朴な疑問をぶつけてきた。
護りびと。
誰かを、霊的に守る人。
守れる人。
「俺は、小鳥たちの守り人なんですけど。初めて人間を守る修行をしに来ました」
「小鳥たちを守る人なのですか?」
「はい」
「面白い人。保護活動なのでしょうか?」
「違います。霊的に、じめじめから守ってます」
「へえ…」
くすくす。
よほど、面白いのか。式部ちゃんは、小さく笑う。
「わたくしは、くわしいことはわかりませんが、大君殿下を霊的に守ってくださるとうれしいです」
「大君殿下の恋人って、本当〜?」
「男の人と付き合ってるのー?」
木織と吹雪が疑問を口にする。
「本当ですよ」
うんうんうなづいている。
「わたくし、心から、大君殿下のことが大好きなんです」
式部ちゃんは、幸せそうに微笑む。
この娘の笑顔は、本物だ。
「…修行中の身ですが、お手伝いさせていただきます」
父、全北さんに送り出された栄心。
不安はあるが、出来る限りのことはしたい。
栄心は、この娘を守らなくてはいけない。
護りびととして。




