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第4話 紫咲大臣

恋乃夢桜神社。本堂内。

片想い恋愛相談室。

「さて、どんな片想いじゃ?」

「…醤油屋の若い主人に片思い中なのでございます」

「それは。それは。良い感じじゃ」

「目線を合わせたら、お互いに照れてしまうのです」

「脈がありそうじゃ。良かったのう」

「はい…!」

町娘は、興奮して声が大きくなってしまう。

「あ、大きな声を出して、申し訳ありません…」

「大丈夫じゃ。うちの孫は、しばらく、おらんから気にしないで良いぞ」

修連老人は、自分で用意したお茶を飲む。

「お孫さん、ご結婚なさるんですか?」

「違う。違う。お城の偉い大臣のところに修行に出したのじゃ」

偉い大臣とは、紫咲むらさき大臣。

世桜の都の自然を守る環境大臣だ。

孫の栄心は、その紫咲大臣の娘・式部さまを守れる人になりに行ったのだ。

小鳥たちの守り人をしていた栄心。

じめじめから守ることばかり考えていた栄心。

やっと、人間を守ることを学びに行った。

誰かを守る修行をはじめた。

それは、とても大事な心の成長となるだろう。

修連老人は、全北さんと共に、栄心を見送った。

「うちの孫は、“護りびと”になりに行ったのじゃ」

「護りびと…ですか?」

町娘は、聞き慣れない言葉に、首をかしげた。


第4話 紫咲大臣


世桜城。

青い湖に囲まれた白く美しい城。

小鳥たちがさえずる恋桜が、城の敷地内に咲き誇る。

幽玄の場所。

恋桜は、恋する女の娘のほほのように赤い。


離宮。

環境大臣である、紫咲大臣たちが普段過ごす建物。

豪華なツボが連なる廊下を進んで、紫咲大臣の居間がある。

栄心は、飛流さんに連れられ、その廊下を歩いていた。

「お城にも、小鳥たちがいるんですね」

小鳥たちのさえずりが聞こえる。

歩く廊下は、すぐ隣が、庭園となっている。

お城の小鳥たちは、じめじめしていないだろうか。

じめじめしていると黒い霊気が発生する。

栄心は、じめじめしていないか、観察する。

世桜城は、じめじめしていない。

あえて言うなら、カラッとしている。

じめじめしていない。

さすがは、上流階級の住まう場所だ。

「そろそろ着くわよ」

飛流さんは、礼儀正しくしてほしいと言う。


「…入って、良し」

高らかな声がする。紫咲大臣、ご本人のお声である。

豪華なふすまが横に開き、居間が見える。

進み出て、すぐに頭を下げる。

飛流さんと栄心は、用意された座布団の上に正座する。

再び、頭を下げる。

「金髪の霊力者を連れてきました」

「良し。よくやった、飛流」

紫咲大臣は、壮年の人物。

整えられた黒髪。凛々しい眼差し。

立派な身なりだ。

大臣は、栄心に名前をたずねた。

「奥天守栄心です」

頭を下げたままの栄心。

「栄心か。頭を上げよ」

「はい」

頭を上げた栄心は、紫咲大臣と目線が合う。

緊張する。

「栄心くんは、式部さまの“護りびと”となる霊力者です」

「護りびとになってくれる、若者か。飛流」

「はい。紫咲大臣」

「わたしは、娘の護りびとを望んでいたのだ」

紫咲大臣は、うれしそうに手に持つ扇子を広げる。

「飛流。護りびとは、もう“知っている”のか?」

「いいえ。まだ話していません」

「すぐに言え。飛流」

「はい。紫咲大臣」

頭を下げた飛流さんは、栄心に言う。


「式部さまは、“大君殿下の恋人”です」


「…え」

栄心は、呆気にとられた。

恋人?

都の町娘に大人気の大君殿下の、恋人?

ありえない話ではない。

世桜城の城主。

大君殿下。

悠久の世桜の都を治める人物。

イケメンお殿様に、恋人がいない方が不自然だ。

「大君殿下は、式部さまと恋仲なのです」

飛流さんが仕える紫咲一門。

その娘・式部さまは、大君殿下の秘密の恋人。

「栄心よ。恋霊について聞きたい。娘は、恋霊を生む可能性があるのか?答えよ」

紫咲大臣は、広げた扇子を栄心に向ける。

恋霊は、強い片想いの気持ちが生む怨霊である。

霊力を持つ女の娘が想いがつのらせると現れる。

それは、一度解き放たれると想い人の元に飛んでいく。

式部さまに霊力はあるのだろうか。

「…恋霊は、霊力のある女の娘だけ生み出します」

栄心は正直に答えた。

「そうか。…娘の式部は霊力を持っていない。霊的被害に警戒するべきなのだな」

大君殿下も、正直に言った。

殿下は、栄心に、式部さまの身の安全を守らせるため、離宮の滞在を命じる。

「近く、都の者たちに、大君殿下と式部が恋仲であることを公言する準備を進めている。その時、護りびととして、式部を守ってくれ」

「…それは、大混乱になりますよ」

「わかる。しかし、真実だ。公言する」

大君殿下の真実。

恋人が、すでにいること。

「実際の騒ぎは、城の警備団で何とかするつもりだった。しかし、恋霊など、初耳だ」

恋霊という“桃色の霊”、その影響は、どれほどなのか。

「霊力者よ。恋霊から、娘を守ってくれ」

「はい…。修行中の身ですが、努力します」

金髪の霊力者。

真面目な恋乃夢桜神社の少年。

栄心。

この少年なら、護りびとになってくれる。

紫咲大臣は、満足げにうなづいた。

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