第3話 護りびと
恋乃夢桜神社。本堂内。
片想い恋愛相談室。
「さて、どんな片想いじゃ?」
「…私、お鍋屋の息子さんに片思い中なのです」
町娘は、はじらう。
お鍋屋の息子からは、お客さまとしか見られていないが、片想い街道はまっしぐらに続いている。
甘くてせつない、一方的な片想いをしている。
「ほうほう。良き片想いじゃなあ」
修連老人は、一途な想いに感心する。
「…ところで、都では、片想いすると恋霊というお化けを生み出してしまうと聞きました。私も、片想いをしていて危ないのでしょうか?」
「いやいや、霊力のある女の娘にしか、関係ないのじゃ」
都で、強く大君殿下に片想いしていた町娘の三姉妹がいた。
三姉妹は、霊力を持っていた。
新聞で恋霊の存在を知り、想いを押さえた。
想いは、はね返った。
三姉妹は、想いが共鳴し合って、恋霊となった。
霊力の強い町娘は、数少ない。
もう、騒ぎはおさまるだろう。
「霊力なんて、私にはありません」
「普通は、そうじゃ。気にするでないぞ」
「はい。わかりました」
町娘は、コクリとうなづいた。
第3話 護りびと
世桜の都。
世桜城の前には、町娘たちで人だかりができていた。
「お会いできないの…?」
「大君殿下は…?」
「教えて…」
口々に城門に詰め寄る町娘たち。
皆んな、大君殿下のことで頭がいっぱいだ。
大人気の大君殿下に会いたい女の娘は、たくさんいる。
「…」
その様子を、一人の三つ編みの女性が見ていた。
「式部さまが危ないわ…」
女性は、足早に立ち去った。
恋乃夢桜神社。敷地内。
「何事もなければいいのですが…」
小鳥たちの守り人の栄心は、樹の周りの気配を探る。
今日は、じめじめしていない。
ぴいぴい。
小鳥たちは、元気にさえずっている。
「今日は、じめじめしていませんね。良かった」
ホッと胸をなで下ろす。
気を取り直して、木のホウキを手にする。
掃除の当番をこなすためだ。
すたすた。すたすた。
「手伝うよー」
吹雪が両手を広げて、抱きつかんとする。
「結構です」
抱きつこうとした吹雪を、栄心がかわす。
吹雪は、抱きつきに失敗しても気にしない。
「修行してるのー?」
「そうですよ」
「結婚してくれるなら、手伝うよー」
「修行はします。結婚はしません」
真面目な栄心は、敷地内の細かいところもホウキではく。
「栄心〜。お客さま連れて来たよ〜」
今度は、木織だ。
後ろに見慣れない女性がいる。
「…ちょっと、いいかしら」
灰色の三つ編みの女性が声をかけてくる。
名を、飛流と名乗る。
片想い恋愛相談室のお客さまだろうか。
「現在、修連じいさまは、恋愛相談中です。お待ちしていただくことになりますが…」
「霊力の高い金色の髪…」
飛流さんは、栄心の金色の髪に手をかける。
これに、吹雪が反応した。
「栄心は、ワタシの結婚相手だよー!」
三つ編みの飛流さんから、栄心を引きはがす。
栄心は、少年だ。
女の娘の耐性がほとんどない。
真面目さが取り柄の少年だ。
「いきなり、色仕掛けしないでよー!」
「え…?」
首をかしげる飛流さん。
その後、首を横に振る。お願いごとがあるという。
世桜城の環境大臣。
紫咲大臣。
その娘。紫咲式部さま。
お城の離宮で暮らす。年頃のお嬢さま。
飛流さんは、その側近。
式部お嬢さまを守る人を探しているという。
「お嬢さまを守る人ですか…?」
栄心は、首をかしげる。
修連じいさま?
父さま?
知る限りの守り人は、この二人。
「あなたに、式部さまの“護りびと”になってほしいの」
飛流さんは、片ひざを立てて、ひざまづいた。
「え?」
戸惑う栄心。
吹雪と木織も顔を見合わせる。
護りびと。
誰かを霊的に守る人のこと。
誰かを霊的に守れる人のこと。
栄心は、小鳥たちの霊的な守り人である。
「俺に、人間の護りびとはできません。俺は、小鳥たちの守り人ですから」
「いいえ。新聞の情報を見て、あなたの霊力を紫咲大臣が信じたいと言われたのよ」
飛流さんは、栄心を探していた。
「あなたに、式部さまを守ってほしいの」
深々と頭を下げる。
「お受けいたしましょうねえ」
栄心の父。
全北さんが、やってきて代わりに承諾する。
「父さま…?」
「栄心。修行の一貫ですよお。いってらっしゃいねえ」
「修行…ですか?」
「そうそう。…息子が行きますよお」
息子の行き先を決める全北さん。
「お受けしてもらえるのね」
飛流さんは、喜んで立ち上がる。
そして、栄心に世桜城への滞在を依頼する。
世桜城への滞在…。
栄心は、不安をおぼえる。
「…でも、俺は、恋乃夢桜神社の小鳥たちの守り人です。小鳥たちをほうって行けませんよ」
「小鳥たちは、父がじめじめから守っておくから、安心して行きなさいねえ」
心配症の栄心を、冒険させようとする全北さん。
とにかく、修行の一貫として、行けと言う。
「…はい。修行なら行きます」
栄心が折れた。
「よろしく頼むわね。栄心くん」
満面の笑顔で、飛流さんは言った。




