第2話 恋霊
恋乃夢桜神社。本堂内。
片想い恋愛相談室。
「さて、どんな片想いじゃ?」
「…この前、騒ぎがあったの本当ですか?」
恋愛相談に来た町娘が問いかける。
「ああ、それか。“恋霊”が出てしまったようじゃな」
「恋霊とはなんですか?」
「女の娘の恋心の暴走じゃ」
奥天守修連。60歳。
坊主頭のヒゲ老人。片想いの守り人。
片想い恋愛相談の聞き手を趣味とする。
栄心の祖父。
この前、片想い恋愛相談室にやってきた町娘は、内気ながらも、激しい恋心を持っていた。
そのため、恋霊を生み、倒れた。
恋霊は、“小鳥たちの守り人”。孫の栄心が封印した。
倒れた町娘は、現在、都の診療所で安静にしている。
その身を案じる修連老人は、お見舞いにも行った。
片想いに悩む女の娘をほうっておけないのだ。
「私も、危ないのでしょうか?」
「大丈夫。大丈夫。誰でも、ではないのじゃ」
恋霊は、それなりに霊力を持つ女の娘にだけ起こる現象だ。
万人に起こるワケではない。
「…では、私の片想いについて、相談してもいいでしょうか?」
町娘は、自分の片想い話を語りはじめた。
第2話 恋霊
恋乃夢桜神社。本堂前。
「…」
栄心は、印を両手で組んだまま止まっている。
頭の中で、じめじめした気配を感じる。
湿気だ。
じめじめは、黒い霊気を生む。
黒い霊気は小鳥たちの巣に向かっていく。
小鳥たちの巣へは、行かせない。
止めてみせる。
「魂封印!」
金色の霊気がほとばしる。
それは、黒い霊気を打ち消す。
小鳥たちの巣に危害を与える前に止められた。
「やりました…!」
心から安堵する栄心。
小鳥たちの守り人として、実力を発揮できたのだ。
「…見事ですねえ。栄心」
「父さま」
「小鳥たちの守り人として、上達していますねえ」
「はい。ありがとうございます」
栄心は、父に頭を下げる。
「今日の掃除は、私に任せてくださいねえ」
「はい。父さま」
父に、再び頭を下げた。
奥天守全北。35歳。
金髪の穏やかな男性。神社の守り人。
栄心の父。
栄心の金髪は、父ゆずりだ。
家は、祖父と父と栄心の三人暮らし。
祖父も父も、二人して離婚している。
男家庭で育った栄心。
家事は、男三人でこなしている。当番制だ。
「あ、栄心と全北さん」
吹雪がきた。
すたすたと歩いて、栄心の腕をつかまえる。
「全北さん、息子さんを栄心を、ワタシにちょうだい」
きらきら。
瞳を輝かせる。
「いいですよお」
全北さんは、笑顔でうなづいた。
「やったねー!栄心と結婚できるよー!」
大喜びの吹雪。
「な…!」
言葉も出ない栄心。
吹雪は、いつも積極的な女の娘なのである。
正直、栄心も幼なじみの吹雪は好きだ。
幼なじみとして。友達として。
でも、結婚は、よく考えるべき。
栄心の祖父と父は、結婚に失敗した。
性格不一致で、離婚した大人たち。
バツイチたちだ。
この血を引いている自分は、結婚を慎重に考えたい。
軽はずみに結婚は決めない。
幼なじみの吹雪は、簡単に結婚の話をする。
困る。
「栄心〜。吹雪〜」
木織がきた。
新聞を片手に持っている。
「この前の恋霊のこと、新聞にのってるよ〜」
手渡された新聞には、恋霊の話題が、色々書かれている。
封印したのは、恋乃夢桜神社の守り人とある。
栄心のことだろうか。
「栄心。新聞にのるなんて初めてだよね~。浮かれてる〜?」
「俺は、まだまだ修行中です。浮かれませんよ」
「真面目だね〜」
「真面目さが、栄心の良さだよー」
吹雪と木織は、「ね?」と言い合う。
真面目。真面目。
と、くり返す二人。
楽しそうだ。
「…何が、楽しいんですか?」
栄心は、いつも通りの二人を見ている。
その時。
「私の大君殿下ーーーっ…」
遠くで、大声がした。
女性の叫び声だ。
大空を見上げると、桃色の霊が浮かんでいた。
恋する乙女の怨霊。
恋霊だ。
二つ、三ついる。
『大君殿下が愛しい…』
桃色の霊がふらふらと、どこかを目指す。
目線で追う。世桜城に向かっているようだ。
「栄心、危ないよー」
「お城に向かってるよ〜」
「俺は、一体以上の封印は難しいです…」
栄心は、まだ修行中の身だ。
一度に複数の封印はできない。見ているだけだ。
「…では、私の出番ですかねえ」
黙って見ていた全北さんが、進み出る。
「…魂封印!」
両手で印を組み、まばゆい金色の霊気をほとばしらせる全北さん。
金色の霊気は、恋霊たちを次々と消し去る。
さすがは、栄心の父。
霊力が磨き上げられている。
「大君殿下へ…。大君殿下へ…」
倒れた女性が苦しんでいる。
「大君殿下…」
女性は、一筋の涙を流した。




