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第1話 恋は叶わぬものばかり

暁の桃源郷。

世桜の都。

世桜よさくら大君たいくん殿下の治める恋桜にあふれる悠久の都。


ここでは、女の娘は全員、恋をしている。


恋乃夢桜神社。

本堂内。片想い恋愛相談室。

世桜の都の片想いをする全ての民に開かれた相談室。

ここでは、恋愛の悩みを趣味で聞き入れる。

片想いの守り人。

“修連老人”がいる。


「さて、どんな片想いじゃ?」

「えっと…大君殿下に恋をしているの…」

相談者の町娘は、ほほを赤く染める。

質素な着物の内気な町娘だ。

この娘は、都のお殿様の大君殿下に片想い中だった。

大君殿下は、結婚していない。

その姿は、女の娘に恋させるイケメンお殿様。

大人気のお方だ。

町娘とお殿様。

もちろん、身分の差がありすぎる。

叶わぬ恋心。

でも、好き。大好き。

「そうか。そうか。それは片想いじゃのう」

神社の主。片想いする女の娘の聞き手。

坊主頭のヒゲ老人。修連老人は、何度もうなづく。

最近は、大君殿下への片想いを相談にくる女の娘が多い。


「ふむ。この娘は霊力を持っている。これは、“恋霊こいれい”を生むかもしれぬのう」

修連老人は、考える。

霊力を持つ女の娘の想いがつのるころに恋霊は出現する。

それは、女の娘の想いの強さが生む怨霊。


第1話 恋は叶わぬものばかり


恋乃夢桜神社。本堂前。

金髪の少年は、一人、瞑想めいそうをしていた。

「…」

両手で、印を組む。

「魂封印!」

金色の霊気が、樹の上の小鳥たちに届く。

小鳥たちは、黒い霊気に覆われていた。

金色が、黒を打ち消す。

ぴいぴい。

元気なひな鳥のさえずりが聞こえる。

「悪い霊魂は、封印しましたよ。元気になってください」

少年は、小鳥たちに語りかけた。

黒い霊気は、じめじめすると現れる。

これを、取り除くのが、守り人の修行の一環。

「…守り人の修行もありますけど」

ため息をつく。

木のホウキを手に持つ。

「当番制とはいえ、掃除がラクじゃありませんね」

奥天守おくてんしゅ栄心えいしん。16歳。

金髪の真面目な少年。

修連老人の孫。

金髪は、霊力の強い証。

平和な世桜の都では、守り人としての力。

まだまだ、若い栄心は修行中。

小鳥たちの守り人として、日々を過ごしている。

この神社では、恋愛祈願の参拝者がおとずれる。

祖父の修連老人は、恋愛相談室を開いている。

恋愛相談など、できない若輩者の栄心は、現在、神社敷地内の掃除を当番制でこなしている。


「手伝うよ。栄心」

紺色の髪の可愛い女の娘が声をかけてくる。

央花おうか吹雪ふぶき。16歳。

紺色の長い髪を後ろで結ぶ。

栄心の幼なじみ。

とっても元気な女の娘。

「手伝うから、ワタシと結婚してね!」

栄心の腕にとびつく。

吹雪は、子供の頃から、栄心のことが大好きなのだ。

「こ、困ります。吹雪。離れてください」

腕から、吹雪を振りはらおうとする栄心。

「えー。何でだよー!」

「俺、恋とか、まだよくわからないからですよ」

「えー」

「ひとまず、結婚は断ります。未成年なので」

「えー!何年待てばいいのー!」

幼なじみを続けて幾年月。

奥手な栄心との進展がない、吹雪は不満をつのらせる。

まあ、奥手で、真面目なところが好き。

栄心のことが大好き。

大目に見よう。

吹雪は、栄心から、木のホウキを奪い取る。

「手伝うよ。栄心は休んでていいよ」

「ありがとうございます。吹雪」

栄心は、ひと息ついて、敷地内の座椅子に腰かける。


「二人は、本当に仲いいね〜」

もう一人の幼なじみがきた。

刀守とうしゅ木織きおり。16歳。

銀色の長い髪の男の子。

明るく、やんちゃな性格。

「二人は、いつ結婚するの〜?」

「今日だよー」

「な…」

「結婚式には、呼んでね〜」

「呼ぶー」

木織は、吹雪を助長する。

「や、やめてください…!」

慌てて栄心が止めても、やめない。

結婚。結婚と、言い合っている。

この二人は、恋バナが楽しいのだ。

せっかく、ひと息つこうとしていたのに、邪魔された。

栄心、吹雪、木織は、仲良し三人組だ。


ザワッ…


突然、栄心の背すじが冷たくなる。

ぴいぴい。ぴいぴい。

小鳥たちが、大きくさえずりはじめる。

「んー?」

「どうしたの〜。栄心」

霊力の低い吹雪と木織は気づかない。

栄心だけ、違和感をおぼえた。

気配を追って、見上げると、桃色の霊がいた。

『あの人が好きナノ。大君殿下…』

桃色の霊は、“恋霊”。

片想いの強さを表す怨霊。

それは、女の娘の身体から解き放たれ、想い人の元へと無我夢中で飛んでいく。

この恋霊は、大君殿下を想っていた。

大君殿下は世桜城にいる。

ぴいぴい。ぴいぴい。ぴいぴい。

小鳥たちが、強くさえずる。

『うる…さい!』

恋霊は、小鳥たちにめがけて方向転換する。

「栄心ー!守り人の出番だよー!」

吹雪の声がけに、栄心はうなづく。


たましい封印!」


両手で印を組んだ栄心。

金色の霊気がほとばしる。

霊気は、恋霊をつつみ込み、消し去る。

しばらくすると、神社の本堂から、ふらふらと町娘がやってきた。

「大君殿下の下へ。好きな人の下へ、飛んでいきたい…」

ばたっ。

町娘は、そう言って、倒れた。

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