表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/65

59 シノロ平原の戦い(5)

 正午頃になると、シノロ平原には静寂が訪れつつあった。

 鬨の声は響かなくなり、負傷者たちのかすれたうめき声が聞こえる程度になる。

 

「ううう……。こんなことになるなんて……」


 ネルブスは自分の魔法が起こした結果に、まだぶるぶると震えていた。

 ネビュラス側の兵の損害はほぼ無し。代わりにフロンス兵が三千人ほど死亡していた。大地はフロンス兵やドラゴンたちの血に染まっている。


「ネルブス、ここまでの君の健闘に感謝する。君がいなければこれほどの戦果は得られなかった。今は精神的な負担が大きいだろうが……まだ戦は終わっていない。耐えてくれ」

「……はい」


 そう。

 ジェイド様がおっしゃるように、まだ戦闘は継続中だった。

 フロンスの本陣はまだ白旗を上げていない。そのほとんどの兵が失われているというのに。終了のラッパの音はまだ鳴っていなかった。


「なんだか気味が悪いね~。まるで隠し玉でも取ってあるような……」


 リフューズが隣国の動向を警戒していると、ふいに光の矢がフロンスの本陣から飛んできた。

 それは圧倒的な速度で、わたしたちに迫る。


「危ない!」


 リフューズがすぐに【拒絶の結界】を展開したが、その「光の矢」は二重三重に張られた結界をいともたやすく貫通してきた。

 わたしの目の前にいたジェイド様もとっさに剣を構えられた。

 しかし、その矢ははじかれることなく、ジェイド様の左肩を射抜き――その後ろにいたわたしの胴体をも突き抜けていった。


「がっ……あああっ!」

「……!」


 わたしの体は痛みもなくすぐに再生した。

 けれど……生身の、ジェイド様の体は修復不能だった。


 ジェイド様の左肩が大きくえぐれている。


 いや、えぐれているなんてものじゃない。左肩を中心に、その周辺の肉体がはじけ飛んでいた。当然左腕も吹き飛び、かなり離れた場所に落下している。

 大量の血を噴き出しながら、ジェイド様はその場に膝をついた。


「ジェ、ジェイド様……ジェイド様!!」

「エルザ……良かった。君は……無事、なのだな……」


 思わず駆け寄ると、ジェイド様はわたしを見て苦笑された。

 その顔色はどんどん悪くなっている。


「と、当然です。わたしは魔女ですから。こんなことでは死にません。なのに……どうして……」

「あのオオカミの魔物の少女に……言われたからな。もっと本気で守れ、と」

「ああ、そんな……」

「はは……守れた、ことにはならんな。これでは」

「いいえ。いいえ!」


 涙で目の前がぼやける。嫌だ。ジェイド様が死ぬ、なんて。

 こんなこと。あってはならない。


「これからじゃないですか。この戦に勝って、ジェイド様はわたしとっ……」

「そう、だな……まだ、負けるわけには、いかない……。リフューズ!」

「はい……ジェイド様……」


 リフューズも体を撃ち抜かれていた。

 よく見ると複数の「光の矢」が放たれていたようで、他の者たちも負傷している。しかし、わたしたち魔女や魔法使い、魔物の面々は怪我をしても回復しつつあった。前線にいたネビュラスの騎士団たちはダメだったようだが。


「俺に、()()を渡せ」

()()、ですか」

「そうだ。まだ持っているだろう」

「……まあ、そうですね。こうなることも予想はしていましたが……わかりました」


 ジェイド様とリフューズは何事かの確認をしあうと、わたしたちに向かって指示を出してきた。


「エルザ、デルマ、セーミア、ネルブス。みな次の攻撃に備えろ。あれは……おそらく【光魔法】だ。魔法の中で……最速の。うかうかしているとまた攻撃を食らうぞ」

「あのね、みんな。これからジェイド様の()()()をしようと思うんだ。だから君たちは――全力で僕らを守って」


 手当て。そんなことできるわけがない。

 リフューズは【癒しの魔法使い】ではない。なのに……なぜそんなことを言うのか。


 でも、今は二人のことを信じるしかなかった。

 ジェイド様が死んでしまうかもしれない恐怖をこらえて、わたしは戦場を振り返った。


「なんとも無様だな。ジェイド王太子」


 そこにはフロンスの本陣から歩いてくる、金髪の男性がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 さすがにフロンス側もやられっぱなしじゃないか。  しかしジェイドが危ないですね。エルザたちはどう対処するのでしょうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ