53 どんな「もしも」があったとしても
「まず、ジェイド様の御父上と御母上が賛成しますかどうか……。また結婚を承認されたとして、彼女は魔女です。ジェイド様の前でだけ人間の姿に戻れているとしても、肝心のお世継ぎができるかどうかは……」
わたしも自分の体のことはよくわかっていない。
なぜジェイド様の前でだけ人間の姿に戻れているかも。
でも急に「子作り」の話にまで話が飛躍して、恥ずかしくなってしまった。
「えっ、お世継ぎ……。そんな……っ」
まだキスしかしたことがないのに。
そんなこと、もっと先の話だと思っていた。
ちらりと見ると、ジェイド様もわたしを見ていることに気づく。二人で、そういうことをする……。想像すると心臓がはちきれそうになった。
ジェイド様もそうだったようで、軽く咳ばらいをされている。
「ああ……ええ、リフューズ、父上と母上のことだが、承認されるかされないかではない。承認させるのだ。それに、世継ぎについては心配していない。俺はエルザとともにいられればなんでもいい。たとえ子ができなくてもよいと思っている。それはこの国のあり方についてもそうだ。なにも……今のかたちでなくてもよいのだ」
「ジェイド様、それは……」
今のかたちでないあり方。
それはどういうものなのだろう。わたしは絶対に国王は世継ぎを作らねばならないと思っていた。でなければ、王家の血筋は途絶えてしまうからだ。
「それは、最悪王家を捨てるということですか?」
「ああ。君主制ではなく、共和制――民たちが代表者をそれぞれ選出してこの国をどうしていくかの議論を行う。そういう国があると、知っている。ネビュラスもそうなってもいいはずだ」
「それは……なんとも壮大なお話ですね」
「ああ、だがこれはお前のためでもあるのだぞ、リフューズ」
「えっ、僕の……ですか」
「ああ」
共和制。その国の統治の仕方は、わたしも「読んだ」ことがある。
まさか、そんなことを考えておられたなんて。
しかもリフューズのためでもあるとは、どういうことなのだろう。リフューズはいぶかしげな表情のまま、ジェイド様の発言のつづきを待っていた。
「リフューズ、お前は初代国王との約束をずっと守っているな」
「はい。この国を永久に守るという……約束です」
「だがそれは、王家が途絶えるならば、解放されていいものだと俺は思う。もし、もろもろのことが片付き、この国に『真の平和』が訪れたのなら、リフューズ、お前は自由だ」
「えっ……」
リフューズはかなり戸惑っているようだった。
自分が自由の身になるなんて、想像してなかったのかもしれない。
初代国王と約束をしたのだとすれば、もう二百年近くもそれを守っていることになる。
どうしてそこまでこの国に――王家に尽くそうとしているのかはわからないが、ジェイド様はそんな彼を解放することまでお考えになっていたようだ。
「ま、待ってください。それってもしも、の話ですよね。フロンスと戦争になるかもしれないし、それに勝てないかもしれないし、もし勝ててもこの魔女と結婚はできないかもしれないし、たとえ結婚できたとしても子も産まれるかもしれない。だったら僕は――」
「そうだな。もしも、の話だ。だが……フロンスとはおそらく戦争になるだろうし、そうだとしてもそれに必ず勝つつもりだ。そして勝ったあかつきには、エルザとどうやっても結婚し、子が産まれようが産まれなかろうが、この国には共和制を導入する。俺はその補佐をする立場になるつもりだ」
「どうして……そこまで……」
「それが俺のつぐないだからだ。俺は今度こそ、エルザのために、民たちのために、よりよい働きをしなければならない。リフューズ、その『民』の中にお前も入っているのだ」
「……!」
リフューズははじかれたように後ずさった。
そして笑いたいのにうまく笑えないような表情で、ジェイド様を見つめる。
「ジェイド様……」
「以前、酒を交わしたときに言っていただろう」
「え?」
「初代国王に多大な恩があると。だからお前は王家に力を貸すのだと。俺もそうだ。リフューズ、お前にはたくさんの恩がある。だから、その恩義に報いたいのだ。だから、お前にも幸福をもたらしたいのだ」
「ジェイド様……。ふふ、やはりあなたは初代国王に似てますよ。こんな気持ちになったのは久しぶりです。わかりました。どんな『もしも』があったとしても、僕もよりよい働きをすると誓いましょう」
「ああ、助かる」
どんな「もしも」があったとしても、よりよい働きをする。
――大事な者のために。
その思いはわたしも同じだった。
ふたりの熱い絆を目の当たりにして、わたしも心を熱くする。
「ジェイド様! わたしも、どこまでもジェイド様についていきます。どんな『もしも』があったとしても……必ずみなさんのためになるように動きます。ですので、今のわたしに、魔女であるわたしに、何ができるのか教えていただけませんか!」
「エルザ……」
ジェイド様はわたしの手をまたとられると、柔らかい笑みを向けられた。
「ありがとう。どんな『もしも』があったとしても……。なら、もし俺と結婚できるならしてくれるのか。あらためてその答えを聞きたい」
「……はい。その機会が巡ってくるのでしたら。そのお役目が巡ってくるのでしたら。謹んでお受けいたします」




