49 この体で生まれ変わった意味
あれから数日が経った。
セーミアは沼のそばの森をたいそう気に入ってくれ、そこに新しい庭園を作った。
毎日思う存分手入れをして楽しんでいるようだったが、ひとつだけ、「しょっちゅうデルマとカエルたちが近くを走り回るのでそこだけが気に入らない」と文句を言っていた。
わたしはというと、相変わらずネビュラスの各地を見回りに行っていた。
西のデュシス川周辺はあらかた安全になったので、今度は東のアナトレー川周辺に足を延ばしている。
デルマやセーミアを連れて行くこともあった。
わたしも東側はあまり行ったことのない地域だったので、見るものすべてが新鮮だった。
土地を浄化しつつ、魔物を探す。
その途中で見つかったのは、元が魚だったり岩だったりと、あまりコミュニケーションの取れない魔物たちだった。沼のカエルたちを介しても話にはならず、結局、やむなく倒すことになってしまった。
魔物は、わたしたちが来る前に国の騎士団や憲兵たちに倒されていることもあった。
もう流星群があった夜から二週間ほどが経過している。
王都でも、周辺の村でも、駆逐されきったのか魔物はほとんどいなくなっていた。現れるとしたら、そのさらに周囲の山林からやってくる場合だけだ。
国はそれらの魔物を倒すために、冒険者たちに討伐の依頼を発注したようだった。
幸い、西の村の底なし沼周辺だけは免除されてるようだったが、たまに報奨金狙いのよくわかっていない冒険者たちがやってきて、わたしはその対応に追われた。
「あのー、わたしは人間に危害を加えないどころか、ネビュラスの環境を改善するために活動してるんですけどー」
言っても、お金に目のくらんだ冒険者たちには通じなかった。
しかたなく、カエルやデルマたちを守るために魔法で追い返す。そういうことが続いた。
「はあ。そろそろ面倒くさくなってきましたね……」
どうしようと頭を悩ませていると、沼の小屋に遊びにきたセーミアが助言してくれた。
「例の、ジェイド様とやらに会いに行ったらいかが?」
「えっ? 会いに行って……どうするんですか。今度こそ張り手をしてこいと?」
「それは、やれる機会があったらしてもいいけれど。そうじゃなくて、愛しのエルザがこうして困ってるのよ。本当に愛してるのなら、どうにかするのが恋人ってものじゃないかしら」
「はあ……」
「相手の愛情を測るのも、恋人のつとめよ」
セーミアはいままでどんな恋愛をしてきたのだろう。
納得できるような、できないような……。
とにかく会ってこいということなので、わたしは思い切って王城へと向かった。
ふよふよと、いつものように空の高いところを飛んで東を目指す。
それにしても……あれからわたしたちはまともに会っていなかった。またいつでも来ていい、とは言われたけれど。
「近いうちに会いに行くって、ジェイド様もおっしゃられていたのに……」
なにかお忙しいことが続いているのかもしれない。
わたしも、こんなに国内の見回りに精を出すとは思っていなかった。あの方もまた、記憶を取り戻してからやるべきことをいろいろと思いついたのかもしれない。
「ああ、ジェイド様……」
あの方のことを想うと、今でも胸が高鳴ってしまう。
生まれ変わりをされていたジェイド様。わたしと再会したために、予定より早く記憶を取り戻してしまわれたジェイド様。
あの方は、またわたしに恋をしてしまった、と言っていた。
また会いたいとも言ってくださった。
でも、その先は?
前世では婚約をしていた。結婚をしたあとは、ジェイド様は国王となり、わたしはその妃となるはずだった。
今世では……どうなるのだろう。
「わたしは所詮カエル顔の魔女……。妃になど、なれないのでは……?」
そうだ。
どんなに愛し合っていたとしても、この姿では……。
せめてジェイド様のように人間として生まれ変わっていたら、良かったのに。
「七十年前のことを、悲しかったことを、どんなに責めようが許そうが、この事実は変わらない……。また、恋をしたって、会いに行きたくなったって、結局最後には辛くなるだけなのかもしれませんね……」
もしそうなら。
わたしはどうすればいいのだろう。
たとえ、この先にまた悲しい別れが待っていたとしても、それでもこの気持ちは抑えられない。ならば、せめて――できる限り恋をしていよう。
また運命に引き裂かれたとしても、わたしは最後まであきらめない。
また自分から死を選ぶことはしない。
最後の最後まで、笑って、あの方を愛することにする。
この国のために生きることにする。
「それがきっと、わたしがこの体で生まれ変わった意味……なのでしょうね」
あらためて覚悟を決めた。
二度目はもっと真剣に生きなくては。
どうして今はそんな風に思えるのだろう。
やっぱり魔女としての力を手に入れたからだろうか。いや……たぶん違う。きっと前世よりいろんな人と出会ったからだ。
前世でわたしは、かなり狭い範囲の人としか交流してこなかった。
でも、魔女として生まれ変わってからは……ベラに始まり、西の村の人たち、リフューズ、ネルブス、デルマに、セーミア、その他いろんな人たちと出会ってきた。
彼らの笑顔を思うと、前世のように「いますぐすべてを投げ出す」なんてとてもできない。
わたしは、彼らの力になるの同時に、彼らからも力をもらっていたのだ。
わたしは強くなった。
体や魔力だけでなく、心も――。
ならば、行けるところまで行こう。
やれることをやり続けて、あの方に、最後の最後まで好きだと伝えよう。
「さあ、会いに行かなくちゃ」
わたしは飛ぶ速度を速めて、王都へと急いだ。




