46 魔物の見回りと人助け
しばらく川をさかのぼっていくと、王都から見て北西の村のあたりにやってきた。
この辺りの畑も、西の村と同じようなありさまだった。
わたしは農民らしき人たちに、根気よく声掛けをしていく。
「ごきげんよう。わたし、【沼の魔女】エルザと申します」
「うわああ! か、カエル!? それにオオカミまで!」
わたしはこんな顔をしていたし、オオカミの魔物であるデルマも連れていたので、かなり驚かれてしまった。
でも、人々が逃げ回るあいだ、わたしはかまわず浄化を始めた。
しばらくすると、また人が集まってきた。中には西の村のことを知っている者もいて、わたしのやっていることを代わりに話してくれたりもした。
「よし、これでいいですかね……」
あらかた浄化し終わると、わたしは毒を吸い出す水門を用水路の入り口に作成し、軽い説明だけするとその場を去った。
そういうことをあと三か所ほどの村でやった。
西のデュシス川沿いはとりあえず、ひととおり回ったと思う。
「はあ、結構疲れましたね……デルマさん大丈夫ですか?」
「グアアアウ!」
デルマはまだまだ元気いっぱいのようだ。
畑や用水路の浄化と並行して、魔物も探していたのだが、ついに一匹も見つからなかった。いないのはいいことだったが、デルマを連れてきた手前なんとなく消化不良だった。
「うーん。この辺にはもういないんですかね……おや?」
かなり上流に来ていたが、大きな橋の先で人々が集まっているのが見えた。
ここは山越えのための街道があるはずだったが、ずいぶんたくさんの人が一か所に集まっている。
「どうされたんですか?」
「うわあ! か、カエルの魔物!? オオカミの魔物までいるぞ!」
「ええと……」
いちいち驚かれて話にならない。
何人かはわたしを追い払おうとするために、戦うそぶりを見せてきたが、その他はクモの子を散らすように逃げて行った。
「あのー。危害を加えるつもりはありません。なにがあったのかお聞きしてもいいですか?」
「なんだと? お、お前たち魔物の仕業だろう、あれは!」
「ん? 何がですか?」
「あれだよあれ! 街道があれでふさがっちまってるんだよ、数日前から。これじゃ山向こうのヒオニ国に行けやしない!」
山越えをすると北の隣国、ヒオニの町があった。ここはその唯一の街道だった。
しかし、巨大ないばらのつるが周囲にはびこっており、行く手が完全にふさがれてしまっている。
「なるほど。ではちょっと様子を見に行ってきます。それと、できたら道が通れるようにしておきますね」
「なっ、いったいなんなんだお前は……」
「わたしは【沼の魔女】エルザと申します。この国のためにできることをしている者です」
さっそくいばらの茂みに近づき、濃緑色のドレスのすそを伸ばす。
すると、わたしの毒でいばらはみるみる枯れていき、道の一部が開通した。でもまだそこら中にあるので、奥まで行くのはむずかしそうだった。わたしは人々に振り返って言った。
「これからこのいばらの発生源を探してきます。それまでここから動かないでください」
「わ、わかった」
わたしとデルマはいばらを枯らしながら先へと進んだ。
しばらく行くと、様々なバラの咲き乱れる庭園のような場所へとやってきた。バラ以外にも様々な花が植わっている。手入れが行き届いているので、まるで誰かが丹念に世話しているかのようだ。しかし、この庭園の周囲は大量のいばらで覆われていた。
「なんでしょうかここ……」
以前はこの街道にこんな場所はなかった気がする。そもそも山裾の、寒暖差が激しいところなので花の育成には適していないはずだ。
それなのに、あたりは花の香りであふれている。
鼻の良いデルマは顔をしかめていた。
「あら? 誰かしら。わたくしの庭園に入ってきたのは」
声がした方向を見ると、庭園の中央にひときわ大きな青いバラが咲いていた。
まるでバラの怪物だった。その花弁の中心に、人のような姿がある。
「カエルさんとオオカミさん? ふふっ。変わったお客さんだこと。でもここはわたくしだけの秘密の花園なの。速やかにお帰りになって?」
振り返ったのは質素な園芸用のエプロンを着た、青い髪の女性だった。




