45 それいけ、僕らの【沼の魔女】様
翌朝、わたしはめずらしく遅く起きた。
「うーん……なんだか頭が痛い、です」
いつもは睡眠を必要としないのに、このときまで意識を失っていた。
妙なこともあるものだと思いながら小屋を出ると、カエルたちが四方八方から飛び出してきてわたしを取り囲んだ。
「おい、エルザ! 昨日はどこに行ってたケロ!」
「我々とあのオオカミを放置して一日留守にするとは、いい度胸ケロ!」
「夜になってからふらふらになって帰ってきたけど、大丈夫ケロ?」
「そういえば昨夜は不思議といい気持ちになったケロ~。あれは何だったんだケロ?」
カエルたちは口々に不満や疑問をぶつけてくる。
わたしはひとつひとつ思い出しながら、彼らに説明した。
「昨日は……わたしの知り合いが来まして、村までお見送りしにいったんです。そのついでに王都の方も見にいきまして、鳥の魔物が出たのを確認しました。それからまた村に戻ってきて、調べ物をしたり……夕方からは村の人たちが催す歓迎の宴に出席しました。そこでお酒を少々いただいたのですが、わたしは生前人間だったころ、とてもお酒に弱かったものですから、酔っぱらってしまったのかもしれません。あ、もしかして、わたしが飲んだお酒が沼にも……? それでカエルさんたちにもお酒がまわってしまったのでしょうか」
そんなに大した量を飲んだわけではなかったが、わたしの体調がなにかしら沼と連動し、カエルたちにも影響が出たのかもしれない。
「だとしたら、大変申し訳ありませんでした。飲食はもう必要ない体なのですが、今後ももしすることがあったら気を付けようと思います」
「人間ってのは厄介な生き物ケロね~」
「でも、お酒は面白いものだったケロ」
「そうケロ。できたらまたあのいい気持ちになってみたいケロ~」
一匹だけお酒に魅了されたらしいカエルがいたが、その機会は今後めったにないだろうと思った。ぐるりと沼の周りを見回す。そういえば、オオカミの魔物――デルマの姿が見当たらない。
「そういえばデルマさんは?」
「今朝も任意のカエルと追いかけっこしてるケロ」
そう言ってる合間に、ダダッダダッと大きな足音が近づいてくる。
「ギャアア――ッ! おたすけぇ――ッ!」
悲鳴が聞こえたかと思うと、大きく放物線を描いて、カエルの魔物が沼の真ん中に飛び込んできた。
遅れて、沼のほとりにオオカミの魔物が到着する。わたしはその姿に声をかけた。
「デルマさん!」
「グアアアウ!」
わたしはすぐにデルマの元へと向かう。
「おはようございます。今朝も元気いっぱいみたいですね」
「グアアアウ!」
笑顔であいさつすると、デルマは真っ白な尻尾をぶんぶんと振って嬉しそうに反応してくれた。
「昨日は留守にしていてごめんなさい。そうだ、今日は一緒に散歩に行くってのはどうですか?」
「ガウ?」
「ええと、カエルの魔物さんやあなたみたいに流星群のせいで他にも魔物になった生き物がいるかもしれなくて。それを探しに行こうかなって思ってるんです。わたしひとりで行ってもいいんですが、デルマさんもどうかな、と」
「グアアアウ!」
「よろしいんですか? ではさっそく出発しましょう!」
そうして、わたしたちは探索の旅に出ることした。
カエルたちに別れを告げて、沼を出発する。まずは村のそばの川をさかのぼってみることにした。
ネビュラスは北に雄大な山々があり、そこから王都を中心として国全体を取り囲むようにして二本の川が流れている。東にあるのがアナトレー川、西にあるのがデュシス川だ。
それぞれ南にある、隣国のフロンスに流れている。
西の村のそばを流れているのは、このデュシス川の方だった。
わたしたちは森を出ると、このデュシス川の上流を目指した。
途中、畑にいる村人たちに見つかり声を掛けられる。
「あ、あれは【沼の魔女】様じゃないか?」
「でかいオオカミもいるぞ。あれがこの前出たっていう魔物か?」
「【沼の魔女】様~! どこに行かれるんですか~?」
恥ずかしかったが、昨日もてなしてもらった手前、きちんと返事をする。
「ちょ、ちょっと他にも魔物がいないか見回りに行ってきます! あとついでに他の村の畑も汚染されてたら浄化してこようかな、と」
「なんと! さすが我らの【沼の魔女】様だ!」
「頑張ってください、【沼の魔女】様~!」
大きく手を振られ、応援の声までいただく。
恥ずかしい……。
子供たちなど、わたしを英雄かなにかを見るような目で見上げていた。
「それいけー! 僕らの【沼の魔女】様ー!」
「たくさんの魔物を従えて! 目指せネビュラスの救世主~!」
なんなんだろう。本当に。
救世主……になるつもりはないのだが、いつのまにかそんな期待もされてしまっているらしい。
「い、行きましょうか、デルマさん」
「グアウ!」
「……わたしは別に、あなたを従えてるとか思ってないですからね。お友達ですよ、お友達」
デルマは気にするな、というようにまた尻尾をぶんぶんと振ってくれた。




