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44 歓迎の宴

 夕日を背に、わたしは村の中央広場へと向かう。

 農道は、道端の柵や木々の影が長く伸びており、どこか物悲しい風景だった。畑にはもう誰の姿もない。

 どこからか軽快な音楽だけが流れてきていた。

 それはどうやら広場の方から聞こえてきているらしかった。

 わたしは家々のあいだの路地を抜け、そうっと広場をのぞく。


「わあ……」


 そこにはたくさんのランタンが掲げられ、幻想的な光景が広がっていた。

 木々や柱に取り付けられているのは、なにもランタンだけではない。色とりどりの花々やガーラントもぶら下げられている。

 わたしは胸がいっぱいになった。

 わたしのためにここまでやってくださったんだ、と。


 軽快な音楽は、村人がヴァイオリンを演奏していたものだった。

 しかし、ふいにその演奏が止まる。


「あれ、魔女様じゃない?」

「ほんとだ。魔女様だ!」

「ようこそ【沼の魔女】様!」


 うっかり姿を見られてしまい、一部の村人たちがざわつきはじめた。そして、わたしはあれよあれよというまに広場の真ん中まで連れ出されてしまう。およそ百人ほどの村人たちに囲まれて、わたしは身を小さく縮めた。


「えっと……お、お招きいただきありがとうございます……」


 はずかしくてつい、下を向いてしまう。

 今はベラのショールがないので、カエルの顔を隠すものが何もないのだ。一度見た村人たちはいいのだが、初対面の者たちはさすがに不思議そうな顔をしていた。


「ようこそおいでくださいました。村長のアルベルトです。あなたが【沼の魔女】様ですか。初めてお会いしますな。この度は村のことをいろいろお救い下さり、誠にありがとうございました」


 豊かな口ヒゲをたくわえた男性が目の前に現れ、深くお辞儀をしてくる。

 村長さんまで!? と、わたしはますます恐縮した。


「いえ……わたしは、じ、自分ができそうなことをしてみただけで。このようなことをされるのは、お、恐れ多いといいますか」

「ははは。なにをおっしゃる。みな、待ち焦がれておりましたぞ。さあさ、さっそく壇上におあがりくださいませ」

「ああ……はい……」


 いそいそと広場の奥にある演台のようなものに上がらせられる。

 そこにはテオ神父がいた。


「テオ神父!」

「ああ、エルザさん。わたくしもここに呼ばれていたんですよ。エルザさんのことをみなに紹介してほしいとね……」

「ええ……」

「わたくしがエルザさんのことを語るなんて、おこがましいとは思ったんですが。神父の口から説明されればみな安心すると……。なにか、申し訳ありません」

「いえ。わたしが自分で言うのもあれなんで、代わりに語っていただけますと助かります」

「そうですか。では、遠慮なく」

「ええ、お願いします」


 村長も演台の上に上がってきて、ざわつく村人たちを手で制す。


「みな、お待たせした! いよいよ本日の主役、【沼の魔女】様がお越しになった! みな拍手!」


 大きな拍手が巻き起こり、わたしは直立不動のままぎこちなく笑うことしかできなかった。

 広場には小さな子供もいれば、憲兵の人たちまでいる。


「【沼の魔女】様のあいさつの前に、まずはテオ神父よりご紹介いただこう。テオ神父、お願いします」

「はい。みなさま、こんばんは。神父のテオです。わたくしが【沼の魔女】様とお会いしたのは、つい昨夜のことでして――」


 さすがだ。普段から教会で教えを説くことに慣れてらっしゃるからか、テオ神父はよどみなく話しつづけている。

 昨夜の出会いから、わたしの生い立ち、この村でどのような活躍をしてきたのか。さらには、魔の者であっても協力関係が結べるなら今後はそれを維持していきたい、などなど今後の方針まで。


 非常にありがたかった。

 村人たちもみなふんふんと納得して聞いている。


「――以上がわたくし、神父としての見解でございます。どうか村のみなさまもご理解のほどをお願いいたします」


 演説が終わり、村人たちが一斉に拍手をする。

 わたしはますますいたたまれなくなったが、どことなく胸があたたかくなっていた。

 村長が号令をかけて、それぞれにグラスが配られる。わたしにもグラスがひとつ渡された。


「では、【沼の魔女】エルザ殿に感謝と、我々との縁を祝福して! 乾杯!」

「乾杯!」


 聞きなれた声がしたので見ると、いつのまにかベラもいる。

 わたしは笑顔でグラスを掲げた。

 

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