43 巡回と、図書館での調査
となりの村々や近くの森、川の周囲を探してみたが、どこにも魔物はいなかった。
ひとまず胸をなでおろす。
川上にある鉱山や、川下の国境付近はかなり遠方にあるため、今度ゆっくり見に行くことにした。まだ夕方まで時間があるので、わたしは村の図書館に戻る。
「こんにちは……」
「うわっ! カ、カエル!?」
さきほどはジェイド様たちと一緒にいたので人間の顔でいられたが、今はひとりなのでカエルの顔に戻ってしまっていた。
当然のことながら、この姿だと周りをびっくりさせてしまう。
受付にいたおさげ髪の若い女性は、カウンターの奥で椅子から転げ落ちていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ痛たたた……。ん? カエルの顔……ってことは、もしかしてあなた、【沼の魔女】様ですか?」
「はい。そうです」
「朝に来られましたよね。たしか……エルザ・トードストーンと。あったあった」
女性は台帳をめくって、午前中に書かれた名前を探し出していた。
「すみません。驚かせてしまって。普段の顔がカエルなんです。さきほどは同行者がいたために、たまたま人間の顔になっていまして……」
「はあ、それは不思議ですね……。ええと、今は? 同行者の方は」
「お帰りになりました。さきほどはそのせいでゆっくりできなかったので、あらためて来てみたのです」
「そうでしたか。ではお手数ですがまたこちらに。あ、住所はもうけっこうですよ」
わたしはまた、かつての名前を台帳に書いた。
ふと、気になったので聞く。
「あの、こちらの図書館の本って借りられるんでしょうか?」
「えっと……はい。村の人限定ですが。あと、図書館になってから入荷された本のみですね。それ以外は貴重なので、館内だけで閲覧してもらうことになってます。エルザ様は……ここの村の人という扱いなので、たぶん大丈夫だと思いますよ」
「そうですか。読みたい本があったのですが、となるとそれはここで読んでいくしかなさそうですね」
ぽつりとつぶやくと、受付の女性は何か考え込むように首をかしげた。
「もともとあった本――の方ですか」
「えっ、はい」
「ということはエルザ様が所有されていた本、ということになりますね。本来はエルザ様のものなのに……規則でして、申し訳ありません」
「いえ。いいんです。保存していただいてるだけでもありがたいんですから」
女性は本当に心苦しいという表情をしていた。
この方もとても本が好きなのだろう。自分が集めていたり、大事にしている本と離れることがどれほど辛いことがよく分かっている。だからこそ、ここまでわたしに寄り添ってくれてるのだろう。
「あ、名乗っておりませんでした。私、ビィビィリオと申します。どうぞビィビィとお呼びください」
「ビィビィさん。わたしも様づけは結構です」
「そうですか? ではエルザさん。私はいつでもここにおりますので、質問などありましたらいつでもお呼びください」
「ありがとうございます」
わたしは会釈をすると、受付を離れて二階へと向かった。
わたしの集めていた本が収められている書庫に入ると、そこは生前よりもしっかりとした本棚が並んでいた。きっと古くなったので新しくしたのだろう。
本たちも綺麗に整頓され、並べられていた。
自分が並べていたやり方とは違っていたので、探すのに少し手間取った。
「あった。『生き物辞典』……」
これは辞典で普通の本より大きいからすぐ見つかった。
さっそく、窓際の机の上に持っていく。
「黒い鳥、黒い鳥……」
立ったままページを忙しなくめくっていくと、やがて探していた情報に行き当たった。
あの鳥は「オオカササギ」というらしい。
普通のカササギは白や青の羽があるが、オオカササギは全身真っ黒なのだとか。
「オオカササギはカラスのように群れで行動することはせず、つがいか、ヒナと家族単位で行動する……」
もし、あの鳥の魔物がオオカササギの魔物であったなら、あれらはもともと家族だったのではないだろうか。
子育て中に魔力の流星群に当たり、魔物化し、以前の巣は使えなくなった。だとすれば――。
「新しい巣を作ろうとしていたのかも……」
しかも子育て中は警戒心が強くなり、人を襲うこともあるらしい。
わたしは目を閉じた。
「流星で魔物にさえならなければ……」
幸せに暮らしていられたかもしれない。
もしもの世界を想像して、わたしはたまらなくなった。
しばらく、わたしは窓際の席で『生き物辞典』をめくっていた。今後も他の魔物に会うかもしれない。そのとき、どうしてそんな行動をとるのか、知っておきたい。そうすれば、悲しいことにはならずにすむかもしれないから。
やがて、少しずつ日が暮れてきた。
そろそろ行かないと。
わたしは辞典を本棚に戻すと、書庫をあとにした。




