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40 ジェイド様の生まれ変わり

「ジェイド、様……?」


 わたしは、ありえないことを口走った。

 目の前の人物はジェイド様ではないのに。ジェイド様の曾孫の、ジェイド殿下のはずなのに。

 その手の組み方は、まさしくジェイド様のしぐさ「そのもの」だった。

 決して強く組まずに、寄り添うように指を絡められるだけの。わたしの意思を尊重するような、それ。


「ジェイド様、なのですか?」


 涙があとからあとからこぼれてきて、目の前のお姿がにじんでいく。

 そんなわけないのに。

 もうこの世のどこにもおられなくて、二度と会えないはずなのに。

 こんな近くにいた、なんて。


「どうして……。どういうことなのですか? すべてを……思い出されたというのは」

「……『生まれ変わり』だ」

「生まれ変わり?」

「ああ。俺は墓地に埋葬されてから、魔力の流星群が降る年に合わせて『生まれ変わり』を試みていた。そしてそれは二十年前に成功し、自らの曾孫の体で生まれ変わることができたのだ。その記憶を、今すべて思い出した」


 およそ信じられないことを聞かされていた。

 わたしと同じ反応を、リフューズも示している。


「殿下、どういうことですか……。二十年前に成功していた? ジェイド一世の御魂が、公営墓地から消えたのは……殿下に生まれ変わっていたからだというのですか!」

「その通りだ。当時の、大司教だけがこの俺の計画を知り、協力をしていた」

「当時の大司教……」


 思い当たることあるのか、リフューズははっとしたあとに何かを納得したようだった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――。そうか。当時の大司教はその儀式に細工をしていたのか」

「ああ。生まれ変わるべきときが来たら、魂が墓を離れられるようにしてくれていた」


 頭が追いつかない。

 ジェイド殿下はジェイド様だった? 記憶がいままで思い出せないだけで、ずっと魂はジェイド殿下の中にあった? 違う人間ではなく……同じ……。


「どうして。どうして今まで記憶を失っておられたのですか。どうして今……今になって思い出されたのですか」


 知らなければよかった。

 知らなければよかった。

 知らなければいいのに、わたしは質問したい欲求を抑えられなくなっていた。

 あとで絶対、もっと辛くなるのに。


「それは、君に再会してしまったからだ、エルザ」

「わたしと……?」


 どういうことだろう。

 わたしと出会わなければ、ジェイド様はずっと前世の記憶を思い出さずにいられたのだろうか。


「俺は『来るべき日』にすべてを思い出すはずだった。そのように、死者であるあいだに自分に暗示をかけていたからだ。だが、その日が来る前に君と再会してしまった。出会うはずのないこの時代に……」

「来るべき日、というのがいつかは存じませんが……わたしは意図せず、あなた様の計画の妨害をしてしまっていたのですね。大変申し訳ありませんでした」


 手を放し、その場で深く頭を下げると、横になっていたジェイド殿下――いや、ジェイド様がむくりと体を起こされた。


「君が謝る必要はない……。俺が、俺の体がまた君に恋をしてしまったのが悪い。こんなはずではなかった。なぜなら俺が亡くなって六十年もの時が経っていたし、この国の平均寿命で考えたら、君もとっくにこの世にいないはずだったからだ。だから、このような形で記憶が戻ったのは、まったく奇跡的な事故だったとしか言いようがない」

「奇跡的な事故……。そうですね」


 魔力の流星群が沼に落ちてこなければ、わたしが魔女としてよみがえらなければ、ジェイド様の魂が入ったジェイド殿下にお会いしなければ、こういうことにはならなかった。

 それはたしかに「奇跡的」だった。

 因果なめぐり合わせが重なって、今わたしたちはこうなっている。


「しかし、記憶が戻るというのなら、王城で再会したあの日にそうなっていてもおかしくなかったのに……どうして今になって急に戻られたんでしょうか」

「頭痛だ」

「頭痛?」

「ああ、あれは警告だった。まだ思い出してはならないという、体からのサインだった。だが、俺の体はその警告を上回ってしまった。胸の痛みだ」

「胸の、痛み……」


 ジェイド様は、言いづらそうに一度うつむかれたが、またわたしの顔をまっすぐに見つめられた。


「君の姿を見てしまったら、声を聞いてしまったら、こうなるのは避けられなかった。きっと俺は、何度も君に恋をするようにできてしまっているのだろう。何度も会ううちに、その思いが止められなくなってしまった。ああ、こんなにもまた……君を求めてしまっている」

「ジェイド、様……」


 熱い言葉をいただいて、わたしは居てもたってもいられなくなってしまった。

 今すぐジェイド様の胸に飛び込みたい。

 でも、とわたしは自分の体を押さえた。


「エルザ?」

「は、はい……」

「俺の記憶の封印は、君への恋心によって解けてしまった……。このことが、これからどのようなことを引き起こすかわかるか」

「わかりません。どうなるのですか?」

「俺は『来るべき日』に、自分からまい進せねばならなくなった。待っているだけのつもりが、こちらから仕掛けねばならなくなった」

「来るべき日――。殿下、それは!」


 リフューズの重々しい声が背後から響く。

 振り返ると、リフューズがひどく緊張した面持ちでいた。

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