表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/65

38 宴の意味

 村へとつづく農道を浮遊しながら進む。


「はあ……」


 出てくるのは重いため息。

 今日も朝から驚きの連続だった。


 ジェイド殿下とリフューズが、なぜか沼まで来るし。

 オオカミの魔物のデルマは獣人に変化するようになったし。

 昔ジェイド様にさしあげたしおりをまた目にすることになったし。

 王都に鳥の魔物が出現したようだし。

 そして村では――わたしの歓迎の宴が開かれることになったみたいだし。


 昨日今日と、立て続けにいろいろなことが起こりすぎている。

 わたしはジェイド様に婚約破棄されて、悲しくて、自ら命を絶った。でも、よみがえってからはそんな過去を思い返す暇もないくらい忙しくなった。


「第二の人生は、のんびり過ごしたいんですけどね……」


 でも、ひとつだけわかったことがある。

 それはさきほどジェイド殿下に言われて気づいたことだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 もう二度と会えないのに。またこんなにも会いたくなっている。


「ねえ、ジェイド様? 七十年後はこんな世界になっているんですよ……」


 この景色をあなたと見たかった。

 いろいろなことについてまた深く語り合いたかった。

 そして――またあなたに触れたかった。


 もういない愛しい人を想う。

 ジェイド殿下には悪いけれど、わたしは今でも「ジェイド様」だけを愛している。あの方以外を好きになれる気がしない。

 ジェイド様はわたしに別の幸せをと望まれたけれど……わたしの幸せはやはり、ジェイド様無しにはありえないのだった。



 ベラの家の近くまできた。

 畑にはせっせと鍬をふるうベラの姿がある。


「ベラさん」


 呼びかけると、ベラが笑顔で片手を上げてきた。


「エルザじゃないか! どうしたんだ?」

「いえ、ちょっと……さきほど憲兵の方から妙な伝言をいただきまして」

「妙な伝言?」

「はい。なんでも村の中央広場で、わたしの歓迎の宴が開かれることになったそうで。夕方から来るように、と……」

「ああ、昨日、村のみんなが言ってたやつか。まさか本当にやるなんてな」

「わたし、もう人間ではないですし……食事とかいただいても食べられないのですが」

「うーん。そこまでみんなエルザの事情を知らないんだろう。アタシはお金がないから手伝えないって言ってあるんだけど……結局どういう趣向でいくことになったんだろうな?」

「あの……やっぱりわたし出ないとダメですか?」


 本当にこういうのすごく苦手なんですよ、と言うと、ベラは両手を鍬の柄の上に乗せて言った。


「エルザが、どうしても出たくないっていうんなら出なくていいよ。料理が食べられないなら食べなくたっていい。ただ……みんなアンタにお礼を言いたいだけなんだよ。お礼を言う場が欲しくて、こういうこと思いついたんだろうからさ」

「あっ……」


 そうか。ひとりひとり沼まで行って、「ありがとう」と言うのも言われるのも、骨が折れる。

 だったらまとめてやる。

 それは、たしかに合理的だ。


「なるほど……。考えを改めました。別にお礼を言われたいからいろいろしたわけではなかったのです。だから、宴を開かれても困ってしまっていました。でもそういうことでしたら、顔を出すだけ出してみようと思います。わたしのことを、いろいろ知っていただくいい機会になるかもですし」

「うん。まあ、半分はみんなお酒を飲みたいだけかもしれないけどね!」

「なっ……」

「とにかく、場が白けてもかわいそうだから、できるだけ出てもらえると助かるかな」

「ふふっ。はい。わかりました」

「あ、そうだ。まだまだ完成は先になるんだけどさ、エルザにあげるショール、希望の色や刺繍の模様を聞いておきたいんだけどいいかい?」


 わたしは強く遠慮したが、何度も食い下がられて結局しぶしぶ伝えることになった。


「うん。ありがとう。じゃあ素敵なショールになるよう頑張るよ。ええと……一応気長に待っててくれると助かる」


 頬をかきながら、ベラが苦笑する。

 どうやら裁縫が苦手らしい。それでも、わたしのために作ろうと思ってくれたことが嬉しくて、わたしは胸があたたかくなった。


「はい。楽しみにお待ちしています」



 夕方までまだ時間があるので、ベラと別れたあとは村の様子をこっそり見にいってみた。

 どう頑張っても目立ってしまうので、空の高いところから眺めるだけだったが。

 中央広場は、まるで村祭りのようになっていた。


 街路樹にリボンが結ばれ、街頭に花が飾られ、一段高いところに舞台のようなものが組まれていた。

 広場の真ん中は何も置かれていなかったが、周囲にはたくさんのテーブルと椅子が並べられている。形がさまざまなところを見ると、各家庭から引っ張り出されてきたものらしかった。


「うう……なんかすごいことになってますね」


 恐縮すぎて、いたたまれなくなってきた。

 思わず視線をそらす。すると、どこか遠くから大きな音が聞こえてきた。どぉん、という物と物が強くぶつかり合うような音。

 それは、どうやら王都の方角から聞こえてきているようだった。


「そういえば、鳥の魔物が出たとか言ってましたね」


 ジェイド殿下やリフューズは大丈夫だろうか。気になってきたので、わたしは王都へと向かってみた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ