表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/69

29 底なし沼への来訪者

「ぎゃあああああああ!!! やっぱり怖いケロ!! 手加減するケロ~~~!!」

「グアアアゥ!」


 底なし沼のまわりを、カエルの魔物とオオカミの魔物がぐるぐると回っている。

 正確には、「カエルの魔物をオオカミの魔物が追っかけている」のだが。

 別にオオカミはカエルを食べようとはしていない。ただ、捕まえたいだけだ。追いかけて捕まえる、そのことだけを無上の喜びとしている。


 あのあと――。

 オオカミの魔物をこの森に連れてきたまでは良かったのだが、やはり沼の周囲にはろくな獲物はおらず、しかたなくオオカミは沼のカエルたちを追いかけることにしたようだった。

 カエルたちは戦々恐々としたが、どうしても嫌だったら沼に飛び込めばいいとわかり、そこまで拒否反応はなかった。

 唯一、通訳で呼び出したカエルだけが、ここの森を薦めた張本人してオオカミとの「追いかけっこ」に応じていた。


「結局いい獲物はいませんでしたじゃ、この森を提案した者としてさすがに責任を感じるケロ……。でも、たしかに()まではウサギやキツネがいたんだケロぉぉぉ!!」

「前、って……いったいいつの話ですかね……」


 月明かりの中、絶叫しつつ遠のいていくカエルに、わたしはそう疑問を口にした。

 もしかしたら結構前から周囲の生き物はいなくなっていたのかもしれない。そういえば、沼の中に魚や虫もあまりいない気がする。いつのまにか毒性がかなり高くなっていて、普通の生き物は棲めない環境になってしまっているのだろうか。


 わたしは沼の中央の小屋に入って、ベッドに横になった。

 睡眠は必要ないが、さすがにいろいろあったのでしばらく休む。



 翌日――。

 朝日が底なし沼へと差し込んできた。

 美しい水面、池のほとりの細い草たち、その周りを囲む背の高い木々。窓から外を眺めると、すべてがきらきらと輝いて見える。すごく平和だ。

 わたしは小屋の外に出ると、両腕をひろげて大きく伸びをした。


「はあー、昨日は本当にいろいろありましたね……」


 急に人助けをすることになったり。

 実家や村がどうなってるか見に行くことになったり。

 ジェイド様そっくりの王太子様に会う、なんて驚くようなこともあった。

 宮廷魔法使いや、他の魔物と会うことも――。


 いろいろありすぎて、心の整理がまだついていない。

 一晩経っても結局冷静になれなかった。

 こうしてカエル顔の魔女として生まれ変わったのも、つい最近のことなのだ。すべてを理解するなんて無理に決まっている。


 そもそもわたしは一度、この沼で死んだのだ。

 この世界から逃げたくて、消えたくて、死んだはずだった。なのに、もう一度よみがえってしまった。

 魔力を持つ者として。どうしようもなかった世界を、少しだけ変えられる力を持って。よみがえってしまった。


 もう、以前のわたしではない。

 この力は、わたしをどこに連れて行くのだろう。


「【沼の魔女】か……」


 あのあと、池に帰ってくるとわたしはすぐにカエルの顔に戻ってしまっていた。

 人間の顔になっていたのは、結局あのブローチが光っていた間だけだった。


 体の中に流れる魔力を感じる。そうすると、この沼と一体化しているのを感じる。

 この沼は、見ただけではただの美しい沼だ。

 けれどもその実態は、長年この土地の毒を貯めている毒の沼だった。また、流星の魔力も貯めている不思議な沼でもあった。


「オオカミ、もうそろそろいいケロ!? もう一晩付き合ったケロ! そろそろ休みたいケロ~~~~!!」


 遠くから、魔物のカエルが跳ねてくる。

 そのすぐ後ろを真っ白な毛でおおわれた巨大なオオカミの魔物が走ってついてくる。まさか一晩中追いかけっこをしていたのだろうか。

 さすが魔物というべきか、オオカミの魔物の体についた傷はすっかり治っていた。異様な回復速度だ。その姿で、あと一歩で沼に飛び込めるといった状態のカエルをパクリとする。


「ぎえええええええっ!」


 軽く咥えられただけなのに、カエルは失神してしまった。オオカミの魔物は満足した様子で、そのカエルを沼へと落とす。カエルは沼の中に静かに沈んでいった……。

 わたしはオオカミの魔物のところまで飛んでいく。


「心ゆくまで追いかけっこできましたか? 今度は、わたしがお相手いたしますね」

「グアアアウ!」


 嬉しそうに、オオカミの魔物は尻尾をぶんぶんと振る。

 こうしてみると、ただの大きな犬のようだった。でも、毒のカエルを一瞬でも咥えたせいで口がただれてしまっている。


「あの……わたしたちは毒を持っていますので、気を付けてくださいませ。魔物だからすぐに回復するとしても」

「グアアアゥ?」


 オオカミはあまり気にしていない様子だった。

 そんな姿に、わたしは愚かに思うと同時に少しだけ癒された。わたしがどんな姿でも、この子には関係ないのだ。

 しばらくオオカミと戯れていたが、急にさっきのとは違うカエルが足元にやってきた。


「エルザ、エルザ! 妙なやつらがやってきたケロ!」

「妙なやつら?」


 見ると、村のある方角からけもの道を通って、数頭の馬に乗った人間たちが現れた。

 その姿には二人だけ見覚えがあった。


「ジェイド殿下? それに……リフューズさん!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ