28 新しい住処
「ということは……いままで仲間と暮らしてたのに、魔物になったせいで群れを追い出されちゃった、ってことですか」
「グルルル……」
どうやらそうらしい。
カエルがオオカミから聞き出したのは、そのような内容だった。
「うーん。たしかに体の大きさも、見た目も、いろいろ変わりすぎてますしね……。でも、新しい住処なんてそうそう見つからないですよね? その間、あなたはどうしていたんですか。人間の村に来たのは、なんでなんですか?」
腕の中のカエルはまたオオカミから聞き出す。
「ふむふむ。なるほどケロ……。エルザ、こいつは魔物になってから、ウサギとかキツネとかいままでのような獲物を食べる必要がなくなったみたいケロ。でも、かつてと同じことをすると癒されることに気づいたケロ。なにかの獲物を追って捕まえる、それをフリでも繰り返してしてるうちに人間にも興味を持ったみたいケロ」
「えっ、人間も追いかけて捕まえたくなったってことですか?」
「そうみたいケロ。我々も虫は食べなくても生きていけるケロ、でも見つけるとつい舌を伸ばしてパクッとやってしまうケロ。そうすると楽しいケロ~」
「なるほど……」
わたしはテオ神父にも聞いてみた。
「テオ神父。いまのところこのオオカミの魔物が人間を襲ったって報告はあるんですか?」
「ええと……オオカミの魔物が出た、って話は聞きましたが、誰かが殺されたって報告は聞いてないですね。軽い怪我をしたり、建物が一部壊れたというのは聞きましたが」
「それも……夢中で追いかけてる間に相手を転倒させたり、建物に当たって壊しちゃったりってことだったのでは……?」
「エルザさん?」
「あ、いえ。わたしはうちの沼にいるカエルの魔物の声は聞こえるんですが、オオカミの魔物の声は聞けなくて……今そのカエルさんに通訳をしてもらってたんです。それによると、このオオカミの魔物はたんに人間を追いかけて捕まえたいだけだったみたいで……」
「ええっ!」
テオ神父は正三角形のロザリオから手を離すと、わたしと魔物たちをそれぞれ見比べた。
「そう……であれば、説得も可能かもしれませんね」
「説得、ですか」
「はい。本来ならば、わたくしは神父として魔の者を倒さなくてはなりません。それは人間になんらかの害が及ぶことを防ぐためです。でも……二度と人間に手出しをしないのであれば、殺さなくて済むかもしれません」
「神父様……」
「神父として、甘い考えかもしれません。でも、できるだけ殺生はしたくないのです。どうにかそのように説得することはできないでしょうか?」
「わかりました。やってみます」
「ありがとうございます、エルザさん」
テオ神父はそう言って、どこかほっとしたように微笑んだ。
対話し、説得を試みる。そうすることで、この魔物の命は救われるかもしれない。わたしは腕の中のカエルをぎゅっと抱きしめると、また通訳をお願いした。
「……ふむふむ。エルザの希望を話したら、もう人間にはかかわらないようにすると言ってるケロ。でもその代わり、新しい住処を紹介してくれと言ってるケロ」
「あ、新しい住処……ですか」
「そんなところあるケロ? こんなでかい魔物、安全に住まわせられる土地なんて……」
「じゃあ、とりあえずうちの沼に来てもらいますか?」
「はっ? 正気かケロ!?」
カエルの魔物は首をぶんぶん振って、かたくなにその申し出をしたがらなくなった。別にこのオオカミとカエルの魔物同士なら、食う・食われるの関係にはならそうだと思ったのだが。
「あっ! でも……わたしたち毒の性質がありますし、沼も毒沼と化しているでしょうから、オオカミの魔物さん的には住みにくいところかもしれませんね。他の動物もあんまりいませんし……追いかけっこのしがいもあんまりないかもしれません……」
「なら、沼からちょっと離れた森ならいいんじゃないかケロ? そこなら他の動物もいた気がするケロ」
「いいですね。ではそこをおすすめしてもらえますか?」
ということで、カエルの魔物はしぶしぶ話を再開してくれた。しばらくするとオオカミの魔物はぶんぶんと尻尾を振って、嬉しそうにわたしたちを見る。
「なんとか了承してくれたみたいですね」
「まあ、これで妥協するケロ……」
「カエルさん、ありがとうございました!」
わたしはカエルの魔物をまたドレスの中に入れると、沼に送り返した。
オオカミの魔物はわたしの後を嬉しそうについてくる。
「グルルル……!」
この子はさすがにドレスの中に入れて、沼に送ることはできなさそうだった。このオオカミにとって、わたしの体や沼は毒だ。実際、さきほどの戦闘で触れてしまった箇所は、痛々しいほどただれてしまっている。結局、歩いて連れていくしかなさそうだ。
「エルザさん、無事に説得できたみたいですね!」
「はい」
テオ神父に対して、わたしはオオカミの魔物と交渉した内容をくわしく説明する。そうしていると、墓地にベラや憲兵たちも到着した。
わたしは彼女たちにも成り行きを説明し、森で一時的に住まわせることになったと伝える。
「そっか。そういうことなら、あとはエルザに任せておくしかないかな」
「ありがとうございます。あの子の様子は、定期的に村のみなさまにご報告に参りますので。どうかご安心ください」
村の憲兵たちはわたしが王城で脱走したことをまだ知らない様子だった。
確認されて、面倒くさいことになる前に帰ることにする。
「エルザ、今度来るときまでに、ショールのデザインを考えておいてくれよ。とっておきの作ってあげるからさ!」
「わかりました。ではベラ、みなさま、」
ごきげんよう、とカーテシーをして、わたしは森へと帰ったのだった。




