第四十二話 気楽な討伐のお誘い①
向かい合った両者を、あれ、とテリーゼが見比べた。
「もしかして、お知り合いだったの?」
「うん。とっても知り合い。昨日初めて会ったんだ」
きょとんとするテリーゼに構わず、弾むステップでフルガラは進み出た。
「クシャナぁ、おっはよう。朝から金物屋さんに何の用だったの? 刃物の手入れとか? この村の工房でわざわざ? 気になっちゃうなぁー……」
慣れ親しみある声音と態度のなか、つー、と碧眼が妖しく細められる。と。
「別にいいでしょーが! あんたに答える義理はないっ」
ずい、とクシャナへの接近を阻むようにナタリーが前に出た。
油断なく身構えるその姿に、フルガラは目を丸くした。
「あっれぇ、ナタリーじゃん。どしたのこんな所を出歩いて。もう動けるなんて意外じゃん」
「おかげさまでね!」
すっとぼけるフルガラを一喝するナタリー。
「朝っぱらから見たくないやつのツラを拝むなんて気分悪いんやが! あーあ、お腹痛くなりそう!」
ナタリーなりの皮肉のようだが、フルガラはにんまりして片脚を無造作に持ち上げてみせる。
「へえ、ほんとお? じゃあショック療法試してみるぅ?」
「なんだとうっ、やってみゃ──? ぅわわわわ⁉」
「やめなさいて」
あまりにも全力で相手の挑発に乗っかるナタリーの首根っこを、クシャナが掴んで持ち上げた。小さな身体が一瞬だけ宙に浮く。
「ふんがっ、ちょ、なんで止めるの師匠⁉」
「止めないわけにはいかないでしょ」
──このやりとり、ちょっと前にもやったなあと既視感を噛みしめつつ、クシャナはナタリーの首を離さなかった。
「お店の中で暴れるつもりかね?」
「じゃあ、表で勝負だっ」
「お店の外もだめだって」
「えー、フルガラはいつでもどこでもいいけどなぁ?」
「きみもいらん挑発をするんじゃないよ……」
持ち上げた片脚を誘うようにくいっと動かし「蹴る気マンマン」とアピールしてくるフルガラに、クシャナは半眼を向けた。
──こりゃあ場所を変えないと。
「テリーゼ、ちょっと用事があって俺たちは出るよ。ガルダンさんにもよろしく」
「あ、はい。あれでも──」
鋳物師である父のガルダンに訊いてみたいことがあったのでは? とテリーゼは気遣うようにクシャナと工房とを見比べている。
「また遊びにくるんで。ガルダンさんが嫌でなければ」
「そんなことないですよ。また来てくださいね」
テリーゼは察しよくそれ以上は問わず、にっこりと笑みを返す。
「──ほら、行くぞきみたち。大きな声だしてお店に迷惑をかけないの」
さあさあ、とクシャナが店の外へ促すと、フルガラは一通り店内を見回してから扉へ向かう。
「はーいっ。フルガラは素直に去るよ」
「なんで急に聞き分けよくなるん……?」
憤慨していたナタリーだけが肩透かしを喰らったようになる。
とにかくあの場所で、フルガラに余計な詮索はされずに済んだ──と思いたい。
場所を変える提案に、先を歩いていたフルガラが向かったのは村唯一の出入口である門の前だった。
少し先に昨日大騒ぎの現場となった資材倉庫がある。
ぐぬ、と嫌なことを思い出して呻くナタリーに対し、フルガラはどこ吹く風だった。
「そうそう。実はこの村でのお仕事、追加で頼まれたことがあったの思い出したんだ。
ナタリー、手伝ってくれない?」
「……はあ?」
怪訝な反応に、フルガラはくるりと振り返ると頬に指を添え甘えるように唇をすぼめて見せる。
「だからぁ、お手伝い。きみを見込んでフルガラはお頼みしてるんだよ?」
「……あんた、昨日あたしのこと弱いとか言ってたでしょーが」
「うん。あはは、まあまあそこはさておき。人手があった方がいいからさ」
「まず『弱い』ってとこ訂正しろーっ!」
「お仕事ってのは具体的にどんなものなんだね?」
結局場所を変えてもナタリーが点火するので、クシャナはやんわりと話を進行させることにした。
──フルガラからの申し出、というのも気になる。
「討伐だよ。一般的な剣客としてごくごく普通の、カンタンなお仕事」




